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王家1

 ────王都・中央時計台広場────


 鮮やかな新緑に彩られた王都は、

 湖畔から吹く穏やかな南風と、

 柔らかな日差しに包まれ、

 心地の良い春の一日だった。


 王都の中心部に、

 王都建国200周年を記念して造られた時計台が建つ。


 その後、時計台を囲むように広場が整備された。


 広場の目玉として造られた大噴水は、

 荘厳な彫刻が施され、訪れるものの目を楽しませる。


 中央時計台広場は王都民にとって絶好の憩いの場となった。


 広場にある石テーブルでは、

 向かい合った中年の男二人が、ボードゲームを楽しんでいる。


「…今度の王子さま、

 うまくいくかね…。」


「うーん、難しいんじゃねぇか…、

 …よっと。」


「ふむふむ……そうきたか、

 よし、チェックだ。」


「あっ、その手があったか……、

 まぁ、そんなこたぁよ、おれたち小市民が心配したって、

 どうしようもねえよ…、っと。」


「そりゃそうなんだが…、

 気になるじゃねえか…、

 もういっちょ、チェックと。」


「あ、…こりゃまいったな……、

 そうだなぁ、今までの王子さまに比べると、

 ちょっと雰囲気ちがうよな、

 ジュリアス王子さまは…。

 ずいぶんとお優しそうな方で…えいっ、と。」


「はっはっはっ、かかったな…お優しいというか、

 頼りないというか…

 そりゃ母親の第三王妃のせいだろうな、

 乳母に頼らずご自分で育てたんだろ…

 可愛がりすぎなんじゃないかと、

 おれは思うぜ。ほら、こいつでチェックメイトだ。」


「あっ!…………まった。」


「だめだ、これで今日何回目だ。」


「…そこをなんとか」


「そこをなんとかって、まったくしょーがねーな…」


「へへへ、そうこなくっちゃ。」




 ────王都・紫鷲王宮────


 正午・王都グレミア・紫鷲王宮・琥珀の間


 王宮の広間では、

 これから昼食会が始まろうとしていた。


 この昼食会は、毎月1,2度、

 王族に所属する者が、

 互いの近況を報告する会として催されている。

 

 広間の中心には、

 国木”ジグバ”の木で造られた大きなテーブルが置かれ、

 このテーブルを囲むようにして、

 国王ファミリーが席に着く。


 まず最初に広間へ姿を現したのは、第三王妃ルナと、

 息子の第八王子ジュリアスだった。


 王妃ルナは、大きな目が印象的な華やかな顔立ちで、

 年齢よりもずいぶん若く見える。


 王子ジュリアスは母親似の眼元が印象的なスラっとした好青年、

 絵に描いたような王子様だ。


挿絵(By みてみん)


 この親子のことを知らなければ、

 その仲睦まじい様子から、

 少し年の離れた姉弟、

 もしくは恋人同士に見えたとしても不思議ではない。


 この二人の親密さは、王妃ルナの溺愛と、

 国王オークの放任によるものだった。


 年老いた国王は、孫のような年齢のジュリアスに、

 未来の君主としての威厳や品格を厳しくしつけなかった。


 国王の務めよりも、一人の親として、

 年の離れた息子がかわいかったのである。



 二人に続き、第一王女サラ、


挿絵(By みてみん)


 そして国王オークが執事や従者を連れて広間へ姿を現した。


挿絵(By みてみん)


 サラは広間へ入るなり、


「アリエスの姿が見えませんが、どういたしました。」


 と、周りの者へ確認をする。


「サラ様、ご心配なく。

 間もなく、ご到着でございます。」


 答えたのは、警護担当の責任者だ。


 それから間を置かず、

 王家親衛隊”バーミリオン”隊長・第二王女アリエスが姿を現した。


挿絵(By みてみん)


「遅れまして、大変申し訳ございません。」


 アリエスは広間の入り口でひざまずく。


 その様子を見た国王は、


「まあよい、早く席に着け。

 この会は身内だけの集まりだ、そうかしこまるな。」


 アリエスへ穏やかに告げる。


 アリエスは、国王に先日の一件を報告しなければならないと思うと、

 気が重かった。

 

 全員が揃ったところで、王女サラが給仕長に軽く手を上げ合図を出す。

 その合図を皮切りに、給仕たちは配膳を始める。


 最初は水やワインといった飲み物類、

 次に、地鶏や豚肉の薫製、旬のチーズ、

 野菜の酢漬けなどの前菜が、

 流れるような手際で運ばれる。

 

 一通り配膳が済むと、オークは着席したままグラスを持ち、

 乾杯の音頭を取る。


「フィレリアの繁栄と発展に、

 そして我々に神の加護があらんことを、乾杯。」


「「「乾杯!!」」」


 食事会が始まった。

 

 最近の食事会の主役は、

 専ら第八王子ジュリアスだった。


 この青年王子の屈託のない話し方や仕草は、

 接する者を引き付けた。


 これは天性のものであった。


「この野鳥の薫製、美味しいですね。」

「ジュリアス、もっと野菜を食べなさい。」


「私は、この春先の山羊のチーズが大好物ですよ。」

「うむ、このチーズを食べると、

 季節を感じるな。」

「このワイン、実にいい香りです、

 産地はどちらでしょうか。」


 など、とりとめのない会話が続いたところで、

 王妃ルナはジュリアスに話を向ける。


「ほらジュリアスさん、

 陛下に先日のこと、お話したら。」


「はい母上。」


 ジュリアスは食事の手を止め、話を始める。


「父上、先日、剣技の修練におきまして、

 初めて”ブルソー”から勝利いたしました。」


 話すジュリアスのほほは紅潮する。


 オークはジュリアスの話を聞き、

 驚きと喜びを表した。

 と同時にアリエスも驚きを隠せなかった。


 オークは、


「それは、嬉しい報告だ。

 あの”ブルソー”を負かしたか、はっはっはっ。」


 大変満足した様子だった。



 ────────────────────────────────

 フィレリア王国・親衛隊”バーミリオン”副長ブルソー・アーレント(51)


挿絵(By みてみん)


 彼は半世紀ほどの人生、その大半を王家に捧げた。


 親衛隊隊員は在任中の妻帯を許されず、

 家庭を持つことが出来るのは、

 名誉除隊後と厳格に決められていた。


 そのため多くの隊員が30代で退いた。


 その中にあって、

 彼は50を過ぎてもなお隊に身を置き続けている、

 親衛隊最古参の隊員だ。


 隊長不在時には隊長代理を務めたこともあり、

 国王オークからの信頼も厚かった。


 ブルソーは剣術、武術において、

 王国一の腕前を誇り、

 ”ブルソーに並ぶものなし”と評されたほどであった。


 年齢を重ね、若い頃は豹に例えられたしなやかな動きに陰りも見られたが、

 その点は、豊富な経験で補った。


 性格は実直そのもの、

 ブルソーが手加減をするような男でないことは、

 この場にいる誰もが知っている。


 さすがに、最近の彼は隊員たちとの剣術稽古において、

 昔のように連戦連勝とはいかなかったが、

 そうやすやすと勝ちを譲るような真似はしなかった。


 ジュリアスの報告を聞き、

 アリエスはこみ上げる悔しさを隠した。


 彼女はいまだかつて、

 剣技や様々な武術においてブルソーに勝ったことがなかったのだ。

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