表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

73/123

アルレオンの領主様

挿絵(By みてみん)



 ────アルレオン軍学校・校長室────


 校長代理キノム・シモンが机にある自分の荷物を片付けている。

 

 秘書のリン・オノス曹長はその様子を目にして、

 校長代理へ声をかける。


「どうされたんですか、荷物の整理をご自分からされるなんて。」


 ちょび髭の校長代理は、


「ようやく、正式な校長が決まったと、

 編入生の通達と一緒に、こちらも届いたんですよ。」


 通達用紙を掲げながら、答えた。


「そうでしたか…私はシモン大佐が、

 そのまま校長になられるものと思っておりました。」


「まぁ、そうはいかないのですよ、

 ここだけの話ですが、

 こちらの校長職は、中央本部の将軍経験者がなるもの、と暗黙のルールが存在しましてね…、

 私のような地方の基地出身者には、

 その資格がないんです。」


 シモンは自虐的に笑った。


「…次の校長はいったいどのような方が?」


 ちょび髭の校長は秘書の質問に、

 やや間をあけた。


「……通常慣例によりますと、

 軍を退官間際の方が赴任されるのですが…、

 新しい校長の名前を見て驚きました。」


 校長代理はもったいつけて、その名を秘書に告げた。




 ────マルティーノ広場・リゼルとミルファ────


 オレはミルファ少佐の魔法で空中へ飛ばされ、

 落下して地面に落ちる際、

 派手にしりもちをついた。


「い、いててて…て…。」


「ごめんごめん!!」


 彼女は、舌をペロッと出しながら、

 頭をかいた。


「着地失敗しちゃった。」


 オレは、


「だ、大丈夫です、

 頼んだのオレですし。」


 涙目になりながら、やせ我慢をした。


「普段こんな風に魔法を使う事なんてないから、

 慣れてなくってさ…。」


 ミルファ少佐は少し気まずそうに言い訳をした。


 オレは何ともないないことをアピールしたくて、

 飛び起きようとした。


「よっと!!」


 しかし、足をすべらせて、


ドデン!!


 カッコ悪くコケた。


「……」

「……」


「…あはは…」

「…あはははは」


「「あはははははは」」


 気が付けば、

 二人で自然と笑いあった。


 しばらく笑ったあとで、

 ミルファはオレに手を差し伸べ、

 起こしてくれた。


 すると、彼女は真顔でオレに質問する。


「君、パイロット目指してるんだよね?」


「は…はい。」


「君のその目………?」


「あっ…、左目のことですか。」


「ごめんね、答えたくなかったら、

 答えなくてもいいんだけど、

 やっぱり気になっちゃってさ。」


「半年ぐらい前に、

 けっこう大きな事故に巻き込まれちゃって、

 それでこうなっちゃいました。」


 オレは努めて明るく答えた。


「そっか……、

 なかなかのハンデだと思うけど、

 パイロットの夢あきらめちゃダメだよ。」


 ミルファの笑顔がまぶしかった。


「はい…。」


(あきらめるわけにはいきませんよ、

 あきらめたら、オレ死刑なんですから。)


 オレは自分に課せられた、

 厳しい現実を再認識させられた。


 オレの試練を知らないミルファは、

 そのまま話を続けた。


「ボクはね、魔導技術士ウィズニックの最高位、

 ルーツ・オブ・ライデンシャフト《べレシート》の、

 魔導技術士ウィズニックになるのが夢なんだ。」


(ル、ルーツオブ…に…べレシート…?

 また知らない専門用語だ……、

 こういう時、リゼルがいてくれたらなぁ。)


 オレはリゼルの不在を嘆かずにはいられなかった。


 そして、今度は正直に、


「べレシートとは…何でしょうか?」


 知らない単語について質問をした。


「べレシート、知らないの?」


「…は…はい…。」


 知らないことを、知らないと言える、

 すごく気分が楽になった。


「そっか、べレシートも知らないか。」


 今度はミルファもあまり驚かなかった。


「少年よ、

 リンドブルムに入りたいんなら、

 もうちょっと勉強しないと。」


 ミルファの口調が説教ぽくなる。


「は、はぁ…。」


 オレは言われるがままだ。


「この際だからちゃんと覚えなよ。」


 と言いつつも、

 ミルファはどこか嬉しそうだ。


「”べレシート”ってのは、

 このシルドビス大陸で初めて見つかった《ライデンシャフト》。

 識別名は”END-1・ワルキューレ・オブ・ルージュレイン”

 またの名を、ルーツ・オブ・ライデンシャフト、

 その通称が《べレシート》!!」。

 

 彼女の話は続く。


「現在まで運用されてる全てのライデンシャフトは、

 この”べレシート”を元にして造られてる、

 だから、ルーツ・オブ・ライデンシャフト。」


「なるほど…。」


「それで、この”べレシート”には、

 古くからの言い伝えがあってさ…、


<彼目覚めしは、大地が震え、

 その歩みは、雷鳴の轟き、

 その一振りは、森を薙ぎ、

 その炎は、大気を燃やす。

 その姿……”万物を破壊せし神の如し”。>


  どお、すごいよね。」


(どお、すごいって……、

 凄すぎるだろ!!

 もうそんなの絶対ラスボスじゃん。)


 オレは、頭に浮かんだ考えを、

 そのままミルファに言ってみる。


「あ……あの…、

 そんなにすごい兵器があるなら、

 さっさと帝国をやっつけちゃえば、

 いいんじゃないでしょうか…。」


「……少年、身もふたもない意見ありがとう。」


 ミルファは冗談めいた口調とは裏腹に、

 真面目な顔つきに変わった。


「もちろん、それが出来ればとっくにやってるよ。

 一番の問題は、帝国にも<べレシート>に匹敵する、

 特別なライデンシャフトが存在するってこと。


 他にもこの<べレシート>には、

 いろんな制約があるんだけど、

 それは今日の宿題にしよう、

 あとは自分でちゃんと調べるように。」


(えー、全部教えてくれないの、

 まっ、リゼルに聞くか。)


「はい。」


 そんな中、

 広場の入り口が騒がしくなった。


「いたぞ!」「おーい、…-ニア君」


「───いたいた、ティターニア君、

 なんだ先に着いていたのか、探したよ!」


 声の主は、はぐれた軍学校の大人達だ。


 彼らはこっちに駆け寄ってくると、


「これはこれは!

 ご当主様もご一緒でしたか!!」


 ミルファに対して、

 全員姿勢正しく頭を下げた。

 

「ティターニア君、

 こちらが、この街の領主ダリオン家の現ご当主、

 ”ミルファ・ダリオン”様だ。」


 軍学校のスタッフが、

 丁寧な口ぶりでオレへ教えてくれた。


「ティターニア…?」「ご当主…?」


「…?」

 ミルファとオレは互いに見つめあった。


「あ────────────っ!!!」「え────────────っ!!!」


 二人で一斉に大きな声を出す。


 ミルファは驚きの表情で、


「君が、リゼル・ティターニア?」


 オレに尋ねる。


「は……い。」


「ホントに…、

 パイロット候補生だったんだ。」


「ええ…。」


「だったら、もっと早く言ってくれればよかったのに。」


「すみません、言うタイミングが…、

 わからなくて。」


「じゃあ、これからよろしく!!」


「新しい保護観察官って…?」


「あらためまして、今日からボクが君の保護観察官を務める、

 ミルファ・ダリオン魔導少佐です。」


 言い終わると、背中から、

 さっきの翼猫ラムケットがぴょこっと姿を現した。






お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価していただき誠にありがとうございます(*'ω'*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ