アルレオンの領主様
────アルレオン軍学校・校長室────
校長代理キノム・シモンが机にある自分の荷物を片付けている。
秘書のリン・オノス曹長はその様子を目にして、
校長代理へ声をかける。
「どうされたんですか、荷物の整理をご自分からされるなんて。」
ちょび髭の校長代理は、
「ようやく、正式な校長が決まったと、
編入生の通達と一緒に、こちらも届いたんですよ。」
通達用紙を掲げながら、答えた。
「そうでしたか…私はシモン大佐が、
そのまま校長になられるものと思っておりました。」
「まぁ、そうはいかないのですよ、
ここだけの話ですが、
こちらの校長職は、中央本部の将軍経験者がなるもの、と暗黙のルールが存在しましてね…、
私のような地方の基地出身者には、
その資格がないんです。」
シモンは自虐的に笑った。
「…次の校長はいったいどのような方が?」
ちょび髭の校長は秘書の質問に、
やや間をあけた。
「……通常慣例によりますと、
軍を退官間際の方が赴任されるのですが…、
新しい校長の名前を見て驚きました。」
校長代理はもったいつけて、その名を秘書に告げた。
────マルティーノ広場・リゼルとミルファ────
オレはミルファ少佐の魔法で空中へ飛ばされ、
落下して地面に落ちる際、
派手にしりもちをついた。
「い、いててて…て…。」
「ごめんごめん!!」
彼女は、舌をペロッと出しながら、
頭をかいた。
「着地失敗しちゃった。」
オレは、
「だ、大丈夫です、
頼んだのオレですし。」
涙目になりながら、やせ我慢をした。
「普段こんな風に魔法を使う事なんてないから、
慣れてなくってさ…。」
ミルファ少佐は少し気まずそうに言い訳をした。
オレは何ともないないことをアピールしたくて、
飛び起きようとした。
「よっと!!」
しかし、足をすべらせて、
ドデン!!
カッコ悪くコケた。
「……」
「……」
「…あはは…」
「…あはははは」
「「あはははははは」」
気が付けば、
二人で自然と笑いあった。
しばらく笑ったあとで、
ミルファはオレに手を差し伸べ、
起こしてくれた。
すると、彼女は真顔でオレに質問する。
「君、パイロット目指してるんだよね?」
「は…はい。」
「君のその目………?」
「あっ…、左目のことですか。」
「ごめんね、答えたくなかったら、
答えなくてもいいんだけど、
やっぱり気になっちゃってさ。」
「半年ぐらい前に、
けっこう大きな事故に巻き込まれちゃって、
それでこうなっちゃいました。」
オレは努めて明るく答えた。
「そっか……、
なかなかのハンデだと思うけど、
パイロットの夢あきらめちゃダメだよ。」
ミルファの笑顔がまぶしかった。
「はい…。」
(あきらめるわけにはいきませんよ、
あきらめたら、オレ死刑なんですから。)
オレは自分に課せられた、
厳しい現実を再認識させられた。
オレの試練を知らないミルファは、
そのまま話を続けた。
「ボクはね、魔導技術士の最高位、
ルーツ・オブ・ライデンシャフト《べレシート》の、
魔導技術士になるのが夢なんだ。」
(ル、ルーツオブ…に…べレシート…?
また知らない専門用語だ……、
こういう時、リゼルがいてくれたらなぁ。)
オレはリゼルの不在を嘆かずにはいられなかった。
そして、今度は正直に、
「べレシートとは…何でしょうか?」
知らない単語について質問をした。
「べレシート、知らないの?」
「…は…はい…。」
知らないことを、知らないと言える、
すごく気分が楽になった。
「そっか、べレシートも知らないか。」
今度はミルファもあまり驚かなかった。
「少年よ、
リンドブルムに入りたいんなら、
もうちょっと勉強しないと。」
ミルファの口調が説教ぽくなる。
「は、はぁ…。」
オレは言われるがままだ。
「この際だからちゃんと覚えなよ。」
と言いつつも、
ミルファはどこか嬉しそうだ。
「”べレシート”ってのは、
このシルドビス大陸で初めて見つかった《ライデンシャフト》。
識別名は”END-1・ワルキューレ・オブ・ルージュレイン”
またの名を、ルーツ・オブ・ライデンシャフト、
その通称が《べレシート》!!」。
彼女の話は続く。
「現在まで運用されてる全てのライデンシャフトは、
この”べレシート”を元にして造られてる、
だから、ルーツ・オブ・ライデンシャフト。」
「なるほど…。」
「それで、この”べレシート”には、
古くからの言い伝えがあってさ…、
<彼目覚めしは、大地が震え、
その歩みは、雷鳴の轟き、
その一振りは、森を薙ぎ、
その炎は、大気を燃やす。
その姿……”万物を破壊せし神の如し”。>
どお、すごいよね。」
(どお、すごいって……、
凄すぎるだろ!!
もうそんなの絶対ラスボスじゃん。)
オレは、頭に浮かんだ考えを、
そのままミルファに言ってみる。
「あ……あの…、
そんなにすごい兵器があるなら、
さっさと帝国をやっつけちゃえば、
いいんじゃないでしょうか…。」
「……少年、身もふたもない意見ありがとう。」
ミルファは冗談めいた口調とは裏腹に、
真面目な顔つきに変わった。
「もちろん、それが出来ればとっくにやってるよ。
一番の問題は、帝国にも<べレシート>に匹敵する、
特別なライデンシャフトが存在するってこと。
他にもこの<べレシート>には、
いろんな制約があるんだけど、
それは今日の宿題にしよう、
あとは自分でちゃんと調べるように。」
(えー、全部教えてくれないの、
まっ、リゼルに聞くか。)
「はい。」
そんな中、
広場の入り口が騒がしくなった。
「いたぞ!」「おーい、…-ニア君」
「───いたいた、ティターニア君、
なんだ先に着いていたのか、探したよ!」
声の主は、はぐれた軍学校の大人達だ。
彼らはこっちに駆け寄ってくると、
「これはこれは!
ご当主様もご一緒でしたか!!」
ミルファに対して、
全員姿勢正しく頭を下げた。
「ティターニア君、
こちらが、この街の領主ダリオン家の現ご当主、
”ミルファ・ダリオン”様だ。」
軍学校のスタッフが、
丁寧な口ぶりでオレへ教えてくれた。
「ティターニア…?」「ご当主…?」
「…?」
ミルファとオレは互いに見つめあった。
「あ────────────っ!!!」「え────────────っ!!!」
二人で一斉に大きな声を出す。
ミルファは驚きの表情で、
「君が、リゼル・ティターニア?」
オレに尋ねる。
「は……い。」
「ホントに…、
パイロット候補生だったんだ。」
「ええ…。」
「だったら、もっと早く言ってくれればよかったのに。」
「すみません、言うタイミングが…、
わからなくて。」
「じゃあ、これからよろしく!!」
「新しい保護観察官って…?」
「あらためまして、今日からボクが君の保護観察官を務める、
ミルファ・ダリオン魔導少佐です。」
言い終わると、背中から、
さっきの翼猫がぴょこっと姿を現した。
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