到着アルレオン
───王国領・中南部・城塞都市アルレオン───
スカッと晴れた春の朝、
オレたち一行は目的地、
城塞都市アルレオンへ到着した。
どしゃ降りの真夜中に、
王都を脱出してから3日、
ここでも、数々の試練が、
オレたちを待ち受けているのだった。
「軍曹!!!」
馭者ビムの叫び声が、
アルレオンの門前に響き渡った。
馬車から降りたばかりのアーノルド軍曹とオレ。
そのオレたちの目の前に立つ、
鬼瓦のような顔をした衛兵が、
いきなり襲いかかってきた。
鬼瓦は腰に差した剣を素早く抜くと、
ものすごい勢いで振りあげた。
「うわぁああああ!!」
オレは思わず目をそむけ、
声をあげた。
ガキィィィン!!!
「……………。」
オレが恐る恐る目を開けると、
アーノルド軍曹の構える剣が、
鬼瓦の剣を受け止めていた。
キィィン!!ガキィィン!!
その後も、立て続けに衛兵は斬りつけてくる。
ガキィィン!!キィィィン!!
鬼瓦の連続攻撃を、
アーノルド軍曹は、
見事な剣さばきで防いでいく。
オレたちは軍曹の後ろに隠れ、
ジッとしているしかなかった。
(リゼル…、
どうなってんの…これ!?)
<ぼくのほうこそ、
なんでこうなってるのか聞きたいよ!!>
ガキィィィン!! ガキィィン!!
剣同士が何度も何度も激しくぶつかる。
「おいおいどうしたぁ!?
受けてばかりではないか!!」
鬼瓦は突然、大声で軍曹へ問いかけてきた。
「あいにく、こちらにはあなた方を、
斬りつける理由がありませんので。」
軍曹は、顔色一つ変えず平然と答えた。
すると、鬼瓦はいきなり攻撃の手を止め、
カチィ…ン
剣をさやに収めた。
(ど、どうなってんの!?)
<わかんない…。>
鬼瓦顔の衛兵はオレたちをじっくり見定め、
「私は、第六王国軍・衛兵部隊、
隊長・ザイエル・ククス大尉だ。」
大声で名乗った。
オレたちは何が起きたのかよくわからず、
呆気にとられた。
「いきなりの無礼、失礼した。」
鬼瓦は一方的に話をつづけた。
「実はな…、我々の元に、
2通の伝書が幻鳥便で届いている。」
(げん…ちょうびん?)
<手紙を魔法で鳥にして届けるんだよ。>
(へ…へぇ~。)
鬼瓦は鎧の中から、
2通の手紙を取り出した。
「その中身というのが…、
問題でな。」
「問題とは?」
アーノルド軍曹が尋ねた。
「こちらの伝書には、
近日中、馬車でアルレオンを訪れる軍人2名と少年、
計3名をその場で処刑しろと記されている。
人相書き付きだ。」
鬼瓦大尉はその伝書をオレたちへ見せた。
(オレたちだ…。)
「もう一つはその逆だ、
訪れる3名を保護しろと記されている。」
アーノルド軍曹とビム伍長が顔を見合わせた。
「まぁ、どちらにも、
正式な王族の法印がない、
非公式の命令書、
従う義務はないのだが…。」
そう言うと、鬼瓦大尉は、
もう一度オレたちの顔をじっくりと見た。
「我々もどうすればよいか思案してな、
なので、このような形で、
貴公らを試したというわけだ。」
「…そうでしたか。」
軍曹はつとめて冷静に対応した。
(な、何がそうでしたか…だよ!!
そんな理由で普通切りつけてくる!?)
<タ、タツヤ…落ち着いて。>
(絶対、他にも確かめる方法、
あったと思う…。)
オレは興奮したまま、
一人でブツブツつぶやいた。
オレの怒りが収まらない中、
鬼瓦の話は続いた。
「剣を交えて確信した。
貴公らは、
我々アルレオン市民を、
害する者ではない、とな。」
「ありがとうございます。」
軍曹はオレとは正反対で、
一切感情を見せることなく、
頭を下げた。
「では、あらためて、
所属と名を聞こうか。」
大尉からの問いかけに、
「私は中央軍・第11歩兵科連隊所属・軍曹”アーノルド・ロンド”、
それから、この少年はアルレオン軍学校編入者”リゼル・ティターニア”
それと、あちらの馭者は中央軍第11騎馬科連隊所属・伍長”ビム・ジーン”
以上3名。
こちらが所持する公の証明書は、
私どもの軍籍証とこの少年の軍学校合格通知であります。」
軍曹は落ち着いて返答した。
軍曹は自分と馭者の軍籍証を大尉へ見せ、
次に、オレの軍学校の合格通知を大尉へ渡した。
大尉は手渡された書類を、
後方に控えたこの場に不釣り合いな、
非武装の老人へ渡す。
老人は手紙に手をかざすと、
「どれも本物ですな。」
簡潔に告げた。
それを聞いた鬼瓦大尉は、
「ふむ、それぞれ正式な証明書ということで、
間違いないようだ。」
そう言うと、
難しい表情を浮かべ、
頭を振った。
「しかしだ…、
肝心の通行を証明する書類がないのであれば、
悪いがここを通すわけにはいかん。」
(え…?
どういうこと、
結局、通してもらないの!?)
<……そうみたい。>
「アーノルド軍曹と連れの者、
しばらく身柄を拘束させていただく。」
(また捕まるのかよ…。)<なんでこうなっちゃうの…。>
「それから、携行武器一切とすべての所持品、
一度こちらで預からせていただく。」
この大尉の要求に、軍曹はためらいを見せた。
「軍曹!気持ちはわかるが、
これが我々の任務なのだ。
さぁ、渡してもらおう。」
鬼瓦ククス大尉は強く迫った。
(武器全部渡すのはまずいって!
何かあった時丸腰じゃん!!)
<そうだよね。>
珍しくリゼルと意見が一致した。
軍曹は不服の表情を押し殺し、
剣や足首に隠すナイフを衛兵たちへ渡した。
(あ”ー……!?)<…渡しちゃった。>
馬車では、馭者のビム伍長が、
オレたちの荷物を降ろし他の衛兵に渡している。
(あっちも……、
渡しちゃってる。)
次に、鬼瓦大尉の視線はオレたちへ向けられる。
「少年!!
君の持っている、
その本も、渡しなさい。」
<き、きちゃったよ!!
どうするのタツヤ?>
(ど、どうするって…、
こんな状況じゃ、渡すしかないだろ。)
<そんなー!!
タツヤの薄情者!!>
(はいはい…、わかりました。
やればいいんでしょやれば。)
オレはダメ元で、
大尉に向かって、
中をパラパラとめくって見せた。
「こ、これ、ただの日記なんです!
なので持っていてもよろしいでしょうか?」
オレは渾身の笑顔を作って答えた。
「ダメだ。」
しかし、鬼瓦はオレの提案を、
軽く一蹴した。
(…やっぱりダメでした。)
<タツヤ!!
ちゃんと取り戻してよ!!>
(う…うん。
ま…任せとけって…。)
オレは言葉とは裏腹に、
力のない返事をしながら、
日記を大尉に手渡した。
それから、オレたちは城門詰め所の一室へ連れていかれ、
さらに身体検査を受けた。
それが済むと、城壁の側面に造られた、
簡素な留置場のようなところへ入れられた。
こっちの世界に来てからというもの、
殺風景な場所に度々閉じ込められる、
とんだ異世界ライフだ。
部屋を見渡すと、
壁の至る所に、
手枷足枷のつきの鎖が繋がれている。
(これをつけられないだけ、
まだましか…。)
オレは留置場内で特にすることもなく、
石造りのベンチの上で横になって、
ただゴロゴロしてヒマを潰した。
(はぁあぁぁ…、
今度はオレ、どうなっちゃうんだか…。)
特にすることが思い付かないオレは、
とりあえず眠ることにしたのだった。




