動き出す思惑2
───王都・ギル・ドレの屋敷───
王都・ギル・ドレの屋敷では、
公爵将軍ギル・ドレが遅めの朝食を取っていた。
コンコンコンコン
「で、殿下よろしいでしょうか…。」
慌てた様子のリトマイケが部下も連れず、
ギル・ドレの屋敷に姿を現した。
ギル・ドレはリトマイケを見ることなく、
一瞬、食事の手を止める。
「なんだ、食事中に騒々しい、
そもそも、貴公を呼んだ覚えはないのだが…。」
ギル・ドレは険しい視線をゆっくりとリトマイケへ送る。
「まぁよい、あの小僧の始末、どうなった。」
リトマイケはギル・ドレを前に、青い顔をしたまま、
返答に困っている。
「まさか、試験があのようなことになるとはな…。」
ギル・ドレは、リトマイケを気にすることなく、
食事を続ける。
ギル・ドレは好物のブルーチーズを、
焼きたてのブレッドに乗せ、
口に運んだ。
「さっさと処刑をせんからだぞ。
まったく、何が王室預かりだ。
あの時点で処刑をしていれば、
今回のような失態を起こさんで済んだものを…。
目障りこの上ないあの小僧には、
さっさと消えてもらう他あるまい。」
昨日の一件でギル・ドレは気が立っていた。
リトマイケは恐る恐る口を開く。
「そ、その…、問題の少年でありますが…。」
「理由など、後からどのようにでもいたす。
なんなら、王家にはわし直々に説明してやるわ。
これで文句なかろう。」
「……すでに、王都を出たもようです。」
「…………」
ギル・ドレの手が止まった。
ドン!!!
ガシャアアン!!!!
ギル・ドレは怒りのあまり、
こぶしをテーブルに叩きつけると、
テーブルに並べられた朝食を勢いよく払い落した。
「で、殿下…!!!」
リトマイケの額から汗が滝のように流れ落ちる。
「まだおるのか!!
さっさっとあの小僧を始末してまいれ!!!」
ギル・ドレはリトマイケをにらみつけた。
「ま、まだ…他にも…知らせがございまして…。」
リトマイケは怯えながら、
自身がいち早く掴んだ、
軍上層部の懲罰情報をギルドレへ伝えた。
「…………。」
リトマイケのさらなる報告を聞き、
ギル・ドレは言葉を失った。
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強くなった日差しが顔全体に当たり、
オレは目を覚ました。
(はぁぁ~ぁあぁぁ、
よく寝たよく寝た。)
移動する馬車の中で、
オレはこわばった全身を、
勢いよく伸ばす。
そして、外の景色に目を向けると、
そこはのどかな風景が広がっていた。
オレの目の前に、、
転生前の都会生活では見ることのなかった、
緑豊かな草原や小川、
牛や羊、馬たちの姿がある。
オレはさらにあたりを見回す、
ポツンポツンと家らしき建物は見えるけど、
街らしきものは見えなかった。
オレは脇に置いた、
リゼルの日記を手に取った。
<…………。>
リゼルは何も言ってこなかった。
きっと怒ってるんだろう。
オレはそんなリゼルに、
(い、いいじゃん、
ちょっとぐらいならさ……。)
恐る恐る話しかけた。
<………はぁ、こんなんじゃ、
先が思いやられる。>
リゼルはぶっきらぼうに絡んできた。
オレはケンカになりそうな気配を察知し、
(そ、そういえばさ…。)
平和的に話題を変えた。
(いつになったらその”アルレオン”
って所につくんだろう?)
<…いつになったらって言われても…、
僕だって行ったことないんだから、
わかりません!>
リゼルの返事は切れ気味だった。
(そ…そうですか…、
ごめんなさい。)
オレはとりあえず謝った。
そういうわけで、
オレは、仕方なく隣に座る仏頂面の人物に、
「あ、あのー、軍曹、
目的地のアルレオン軍学校へは、
いつ頃着くんでしょうか?」
たずねた。
「到着は明後日の朝を予定している。」
軍曹はいかにも当たり前だという顔で答えた。
「そ、そんなにかかるんですか!?」
「かかる。」
軍曹は力強く断言した。
オレは想像以上の移動時間に、
驚きを隠せなかった。
(………あっ!!
まてよ……、
そういうことなら、もう少し…。)
<ふーん、そうやって、
また昼寝するんだ。>
オレの企みに気づいたリゼルが、
割り込んできた。
(え、いや、その、
そ、そういうわけじゃなくて…、
色々と考え事とか…。)
<こういう移動に、
ライデンシャフト使えたらな~。>
リゼルはオレの言い訳を完全に無視して、
つぶやいた。
(使えないの?)
オレは話しを合わせた。
<使えたら、馬車なんかで移動してないと思う。>
(馬車なんか…か…、
ま、確かにリゼルの言う通りかも。)
そうこうしていると、
馬車が止まった。
なんでも馬を休ませるため、
休憩をとるんだそうだ。
オレたちは小高い丘の上で馬車から降りた。
そこで、若く小柄な男性の馭者が、
手際よく簡単な食事やお茶を用意してくれた。
お茶の準備が一段落すると、
アーノルド軍曹は、
馭者の青年をオレの前に連れてきた。
「紹介が遅れた、
馭者のビム・ジーン伍長だ。」
「第11騎馬科連隊所属・伍長ビム・ジーンです。
よろしく。」
伍長は気さくに握手の手を伸ばす。
「リ、リゼル・ティターニアです。」
オレもあいさつを返し、
伍長と握手を交わした。
(おぉ、見た目と違って、
ゴツイ手だ。)
「では、私は馬の様子を見てまいりますので、
少しこちらでお休みください。」
ビム伍長はすぐに馬の元へ向かった。
オレたちはその間、
伍長の用意してくれた、
バゲット型のサンドウィッチをほおばり、
温かい紅茶を飲んだ。
(そういえばさリゼル、
アルレオンって、
どんな所なの?)
オレはサンドウィッチを食べながら、
頭の中でリゼルに聞いた。
<アルレオンか…、
僕が知ってるのは、
すごく大きな街で、
基地付属の学校は名門で、
入学が難しい、ってことぐらいかな。>
(ふーん、そっか…、
ま、詳しいことは、
行けばわかるか。)
そういうわけで、
オレは、一旦アルレオンについて、
考えるのを止め、
口の中のサンドイッチを、
温かい紅茶で、
一気に胃袋へと流し込んだ。
しばらくして、
ビム伍長が走りながら戻ってきた。
「軍曹!!!
追手です!!!」




