脱出
───ジグバ演習林・親衛隊”バーミリオン”───
真夜中の王都郊外、
ジグバの森では、
激しい雨が降り続いていた。
大雨が降りしきる森の中で、
煌々と灯りが焚かれている場所があった。
リゼル・ティターニア特別試験・襲撃事件現場である。
そこに、屈強な男たちへ指示を出す、
一人の小さな女性の姿があった。
フィレリア王国・第二王女、
王家直属親衛隊”ヴァーミリオン”
隊長アリエス・フィズ・フィレリア(32)である。
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彼女の小柄で愛くるしい外見は、
絵に描いたような、おとぎ話のお姫様だった。
しかし、その外見が、
彼女にとってコンプレックスとなった。
お姫様として申し分のない容姿が、
国王及び王宮を警護する、
親衛隊隊長の役職と不釣り合いだと、
本人は考えたからだ。
アリエスは、幼くして隊長就任が決まると、
剣術、馬術、算術、兵法術、ライデンシャフトの操縦、
あらゆることにおいて、人一倍努力をした。
伝統的に、王家に連なる者が親衛隊隊長を務めてきたが、
そのほとんどが形式だけのお飾り隊長だった、
ましてや王女の隊長就任は前例がなかった。
しかし、生来負けん気の強かったアリエスは、
飾り物になる気は微塵もなかったのである。
そんなアリエスだからこそ、
隊員たちからの信頼は厚かった。
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昨晩から続く現場検証は、
未明から降り始めた激しい雨により、
一旦切り上げられることとなった。
アリエスは、迷彩柄の雨合羽に身を包み、
天を仰いだ。
「まったく、忌々しい雨め!!」
そこへ、若い隊員が、
開いた傘を手に持ち駆けてくる。
「閣下、どうぞお入りください。」
すぐさま、隊員は手に持った傘を、
アリエスの頭上に掲げる。
「気遣いは無用だ。」
アリエスは傘を拒むと、
厳しい表情のまま、演習林を見回した。
「この雨では、
逃亡したパイロットの足跡など、
重要な手掛かりは失われるか…。」
「はい、現場の保全は難しいかと…。」
「つくづく迷惑な雨だ。」
「はい。」
兵士は真剣な表情で答えた。
「で、殺害された兵士の身元は?」
「現在確認中であります。」
「…そうか。」
アリエスは腕を組み、
この事件について考えをめぐらした。
一体誰が、何の目的で、
このような大がかりな事件を引き起こしたのか、
アリエスには理解しがたかった。
「…では、わしは一旦本部へ戻り、
もう一度映像を確認する。」
「このままですか?
一度お休みになられた方が…」
「先ほども言ったであろう、
気遣いは無用だと。」
アリエスは隊員へ厳しい口調で告げると、
足早に演習林を後にした。
─────────王都・中央軍基地外れ─────────
激しい雨が降り続く真夜中、
オレたちを乗せた馬車は、
猛スピードで幾つもの小さな門をくぐり、
王国軍・中央基地を出た。
オレは全く事態が飲み込めないまま、
ただただアーノルド軍曹と、
若い小柄な馭者の指示に従った。
(い、いったいどうなってんだよ!?
軍曹の部屋は燃えるし、
今も追われてるみたいだし、
それよりも、リゼルの日記が…。)
オレはとにかく不安だった。
オレたち一行はその後、
人気のない場所で、
2度馬車を乗り換えた。
馬車は2度の乗り換えを済ませた後、
速度を緩めた。
馬車が落ち着いた速度になると、
軍曹は馬車の中のランプに火を灯した。
馬車の中が明るくなった。
オレは軍曹へ、
「あ、あの…軍曹、
いったい何が起きてるんでしょうか?」
疑問をぶつけずにはいられなかった。
「………」
軍曹は困った表情でオレを見つめた。
「ティターニア…、その前にこれを。」
軍曹は上着の内ポケットから綺麗な封筒を、
ズボンの後ろウエストに挟んだ、
本を取り出し、オレに差し出す。
「に…、日記!!!」
軍曹の手に握られていたのは、
部屋と一緒に燃えたと思っていた、
リゼルの日記だった。
「お前を連れ戻す際、
ベッドの隙間で見つけたのだ。」
「うわ─────!!」
オレは日記に飛びついた。
リゼルの日記は、
ところどころススが付いてはいたものの、
とにかく無事だった。
日記に触れると、
<タツヤここは?>
さっそくリゼルがオレに話しかけてきた。
(…よかった!!
無事だったんだ!!!)
オレは心の底から安堵した。
<無事!?
何かあったの?
ここは……馬車の中!?。>
(そ、そうなんだよ、
ホント、大変だったんだ、
あれから軍曹の部屋が燃えちゃってさ、
それと、なんかオレたち追われてるみたい。)
<えーっ!?>
リゼルが驚いていると、
「ティターニア、
こちらも受け取って欲しいのだが…。」
リゼルとの再会で頭がいっぱいのオレへ、
軍曹はもう一度、
一通の封筒をオレに突き出した。
「………。」
オレは、いったん日記を脇へ置き、
アーノルド軍曹から、受け取った、
封筒の中身に目を通した。
高級そうな紙に、
ゴテゴテした紋章、
そこに、オレの名前と、
試験に合格したことが、
整った筆記体で書かれてあった。
「え…、あ…、
ご、合格……!?
合格だ─────!!!」
オレは思わず声をあげた。
「そういうわけで、
これから我々は、
急ぎアルレオン軍学校へ向かう。」
雨が降る、薄暗い明け方の街道、
オレたちを乗せた馬車は、
目的地”アルレオン”を目指し進んだ。
読んでいただき本当にありがとうございます。
第3章はここまでとなります。
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この上ないモチベーションになります。
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次からは、第4章「アルレオン軍学校編」です。
引き続きお楽しみください♪




