最終試験5
────その頃、シングウェルたちは、丸腰で所属不明機と戦っていた。
シングウェルたちは巧みなコンビネーションで、
所属不明機との間合いを詰め、格闘戦に持ち込む。
その間、イアニスは相手の魔導砲で機体の左腕を失っていた。
所属不明機は、格闘戦になると、
魔導砲からハイヒートグラディウスへ装備を変えた。
接近戦、所属不明機の打ち込みは鋭く、
シングウェル、イアニスはかわすので精一杯だ。
休むことなく打ち込まれる斬撃は、
周囲のジグバの巨木を次々と切り倒していく。
「しまった!!」
シングウェルが敵の企みに気づいた時には、
すでに周りのジグバの巨木は1本残らず切り倒されていた。
「これが、狙いだったのか!!」
敵は、真っ先に手負いのイアニス機へ向かった。
「くっ!!」
イアニスは終始、ジグバの巨木を利用して立ち回ってきた。
巨木の盾を失ったイアニス機は、所属不明機に追い詰められ、
イアニス機は徐々に不利な体勢を強いられた。
「ここまでか…。」
イアニスは観念した。
もうよけきれないと思った時、
敵のハイヒートグラディウスは、
頭上からとびかかってきた隊長シングウェル機の腹を貫いた。
「隊長──────────!!!!」
オレたちの目の前で、
シングウェルの乗ったライデンシャフトが爆発した。
(あわわわ…戻ってこなきゃよかったかな…。)
急にオレは弱気になった。
<何言ってんの!!
ここまで来たらやるしかないでしょ!!>
(そ、そうだった。やるしかないよな!!
あいつを倒せば、合格間違いなしだよな!!)
オレは自分を奮い立たせた。
(リゼル、何か武器ないか?)
<え!?武器!?
えーと、武器、武器、武器……。>
オレはあたりを見渡すが、
都合よく武器が落ちているわけがない。
<そうだ!!>
リゼルが叫んだ。
(何かあるのか!!)
オレは期待を込めて、
リゼルの返事を待つ。
<枝だよ! ジグバの枝!!>
「え、枝!?」
リゼルからの答えは期待外れだった。
<早くっ!!>
(枝なんて……、
そんなんで戦えるわけ……。)
<大丈夫!!
ジグバの枝は金属並みに堅いんだから。>
(いくら堅いっていったって、
枝なんかじゃ…。)
<早く取れ!!!!!>
(は、はい…。)
オレはリゼルに言われるがまま、
切り倒されたジグバの巨木から、
ちょうどいい枝をもぎ取った。
「敵は剣で、こっちは枝か…、
くっそーやってやる!」
オレは、イアニス機にとどめを刺そうとする正体不明機へ、
フル出力で突進する。
「……ぐううう……!!!」
とてつもないGが襲い掛かかる。
(…もっと、もっといける…!)
オレはさらに出力ラダーペダルを強く踏み込んだ。
ライデンシャフトの装甲板と装甲板の狭間から、
光があふれ出す。
<えっ、えー!!!?>
「――速い!!!」
近づくティターニア機に、イアニスも驚きの声を上げる。
「あれが…EINSの動き…!?」
所属不明機はオレたちに気が付くと、
ハイヒート・グラディウスを振るう。
オレは敵より早くジグバの枝で敵機の横っ腹をぶん殴った。
ガゴンッ!!!!!
所属不明機は吹っ飛んだ。
「このヤロー!!」
オレは、敵が機体を起こす前に、襲い掛かる。
オレは敵機めがけて、ジグバの枝を振り下ろすが、
敵も身をひるがえしてかわす。
そして、すぐさま態勢を整えてこちらに斬りかかってくる。
───ドクンッ…!!
その時、オレの左目が鼓動する。
オレは包帯をはずした。
(見える!!はっきり見えるぞー!!)
左目が覚醒する。
オレは左目に表示されるポイントめがけ打撃を打ち込む。
ポイントは、胴、肩、小手、足、様々だ。
今回はポイントだけでなく、
こちらの姿勢制御予測も合わせて表示された。
オレはその表示に合せ機体を操縦すると、
相手の攻撃は空を切り、こちらの攻撃は面白いように決まった。
(はぁ、はぁ、はぁ)
(この枝…、すげー。)
<タツヤ、!!>
(だけどリゼル、
いつまでも枝でぶっ叩くだけじゃ、
倒せないよ…。)
すると、
敵は急に後ずさりを始めた。
そしてこちらに背を向け、
爆発の衝撃で動けなくなったイアニス機へ向かった。
(あ────っ!!!!)
<あ────っ!!!!>
オレは出力ラダーペダルを持てる力の限り踏み込んだ。
(合格合格合格合格、ごうか──────く!!!)
<やっぱりだ……!!! 計器が全部振り切れてる…>
オレたちのライデンシャフトは出力限界をこえて爆進する。
みるみるうちに敵機との距離が縮む。
<タツヤ──────────────────!!!>
(間に合え─────────────────!!!)
オレはジグバの枝を脇下に構え、突っ込んだ。
『はははははは、こうも簡単に引っかかるとはな!』
敵はこちらが猛スピードで追撃するのを確かめると、
急速反転し、ハイヒートグラディウスを構える。
<嘘──────!!>
(もう止まんないぞ──────!!)
機体スピードはすでに限界を超えている、止められない。
オレはそのまま突っ込んだ。
(うりゃあああああああ───────!!!!!)
交錯する、2機のライデンシャフトEINSと所属不明機。
所属不明機のハイヒートグラディウスはEINSの頭部を払い落とす。
EINSの武器<ジグバの枝>は敵機の装甲を突き破り、胸部へ突き刺さった。
<……>
(え…枝が…装甲を突き破った!?…)
その瞬間、あたりは白い煙に包まれた。
<煙幕だ…!!>
(…何も見えねーよ!!)
<タツヤ、敵に逃げられちゃうよ!!>
(そんなこと言われたって、
この煙じゃあ何も見えないんだよ…!!)
<そうだ! 左目は…!! 左目なら見えるんじゃない?>
(左目……!?)
リゼルに言われ、
左目で煙の中を見るが、
オレの左側の視野は、
いつものようになくなっていた。
(…また…見えなくなった…。)
──────中央基地本部庁舎内・第3会議室──────
「…………………。」
指令室は重い空気が充満していた。
モニターを見ていた、
多くの将校たちは言葉を失った。
あの少年は何者なのだ、
少なからず幾人かの将校は、
心の中でそう反芻せずにはいられなかった。
「……バ…バケモノ…だ…、
あの少年は…隻眼の怪物…だ…」
とある将校の口から出た言葉は、
怯えの色に染まっていた。
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