最終試験4
──────ジグバ巨大密林演習場・非戦闘区域──────
ドゴオオオオオオ!!!!
ジグバの森が揺れた。
大きな衝撃が森を襲うと、
黒煙が上がった。
「爆発!!!?
それに、さっきのは…魔導砲か…?」
マズローは苦笑いを浮かべた。
(おいおい、ただの試験戦闘じゃないのか、
いったい何が起こってんだ…。)
マズローは急いだ。
「─────!?」
少し進んだところで
マズローは立ち止まった。
前方の茂みが、
不自然に沈みこみ、
かすかだがハッキリと、
血の匂いが漂っていた。
マズローは、注意深く、
気配を消して近づいた。
「こ、これは…。」
マズローは、茂みの中に、
二人の兵士が倒れているのを見つけた。
兵士たちのそばには、
対ライデンシャフト用の、
重火器ペイント弾が落ちていた。
マズローは倒れた兵士たちに近づき、
あらためて、しっかりと兵士の全身を、
観察した。
二人の兵士ともに、
喉を鋭く切り裂かれていた。
「…見事な仕事ぶりだ、
しかし、一体誰が…。」
マズローは新たな謎を抱え、
深い森を、慎重に進んだ。
そして、最初に人間を感知した地点に近づいた
そこは少し開けた場所だった。
開けた場所の中心に人影がある。
(…何者だ?
こんなところで…一体何を…?)
よく見ると、
人影の足元には、魔法陣が展開されている。
(くそっ!!
今の状況じゃ、
様子をうかがっている時間はなさそうだ…、
こうなったら
考えるより、動け、だな!!)
マズローは、正面から突っ込んだ。
魔法陣の人影はピクリとも動かない。
マズローはあっさりと相手を組み伏せ、
怪しい人物の喉元にナイフを押し当てる。
(女か…それにしても、
手応えが無さすぎるな…。)
女はフードのついたローブを身にまとっている。
顔ははっきりと見えなかった。
マズローはいつもより低い声で詰問する。
「何者だ。」
「……」
女は黙っている。
「答えなくともよい、
私といっしょに来てもらおうか…!」
マズローはナイフを女の喉元に食い込ませる。
「…ふふふふふ。」
女は、不敵に笑う。
「何!?」
「…残念ね、ここまでよ…」
「…?」
マズローは女のフードを取る、すると女の体が消えた。
「魔術…!!いや、
これは……幻術か…。」
マズローは辺りを見回したが、
何の気配も感じなかった。
急ぎジグバの木に手を当て、あたりを感知する。
遠く離れた場所で、走る女の後ろ姿が映った。
「ちっ…、距離を考えると、
…間に合わないか…。」
マズローは女を追うのをあきらめ、
女が残したローブと、
ジグバの枝を拾い上げた。
──────中央基地本部庁舎内・第3会議室──────
ジ…ジジジジ…
会議室、モニターの一部が復旧した。
「…おお、やっと映ったぞ!」
「ふむ、試験はまだ続いとる、3対1のままか」
「なんだ、あの煙は…」
「先ほどの爆発音と関係があるのでは…。」
「…なぜ、モニターは全部映らんのだ!」
「ちょっとまて…あの機体…」
「魔導砲をつかっているぞ…!!」
「実弾だと!!」
「そうだ!! あれは実戦ではないか!!」
「──────!!」
一同に緊張が走った。
ギル・ドレはリトマイケの横に立ち、小声で話す。
「どうなっておる…?」
リトマイケの表情はみるみる青ざめていく。
「わ、私もわけがわかりません…。」
ギル・ドレはリトマイケの肩に手を置く。
「取り乱すでない…普通にしておれ。」
ギル・ドレはフォックスに視線を送った。
フォックスは小さく首を横に振った。
「あの機体はどこの所属だ!?」
その場にいる将校から大声で質問が飛ぶ
「え、あ、あれは…ちょっとお待ちを…」
「すぐに、確認…いたします。」
いきなり尋ねられた下士官たちは、動揺を隠せない。
「あれは…、訓練用の予備機体ですな、
格納庫にあるはずですが…。」
答えられない下士官に代わり、
答えたのは<ベルディア公>サンダース・ヒル中将だった。
「予備機体がいったいなぜ実弾を使用しておる!?」
別の将校から、ヤジめいた質問が飛ぶ。
「あの機体の性能はどうなのだ!?」
それまで、じっとモニターを見つめていたアーツライトが、
口を開いた
今度は、サンダースの秘書官が答える
「開発コード・”デスピア”の試作機であります。
機体制御などに難があり、使いこなせるものが
ほとんどいなかったため開発中止。
制式採用とはならなかったのですが、残った試作機は
訓練用と称して格納庫に置いておりました。」
「回りくどい説明はいらぬ!!
実際どうなのじゃ!あの機体は?」
いつも温厚なアーツライトだが、
言葉に苛立ちがにじんだ。
サンダースは秘書官を制し、落ち着いて答える。
「オリジナルを除けば…、
現在、わが軍最強クラスの機体であります…」
その額には汗が浮かんでいた。
「………」
その場にいる一同は、言葉を失った。
──────演習林・戦闘地域──────
「こちらイアニス、こちらイアニス、
誰でも構わない、応答願う!!」
「こちらイアニス…」
イアニス・シドーは、所属不明機と交戦中も、
無線に呼びかけ続けた。
所属不明のライデンシャフトは、
ティターニア機に狙いを定め魔導砲を放ちながら、
急速に距離を縮める。
ドシュン!!!
(ど、どうなってんだよ!?これも試験なの?)
<わー!タツヤよけて――!!>
ドシュン!!!ドシュン!!!
オレはこの状況を理解できないまま、魔導砲をかわす。
その時だった。
「…ちら、イアニス、こち…」
解放無線から声が聞こえた。
「こちら、リゼル・ティターニアです!」
「こちら、イアニス少尉」
すぐに、違う声の無線も入る。
「こちら、シングウェル!!
イアニス、受験生聞こえるか!!」
「はい!!」「隊長!!」
「受験生!!
君は直ちにこの場を離脱しなさい!!」
「え!?」
オレはいきなりのことで言葉が出なかった。
「いいか、これは試験ではない!
離脱は命令だ!!」
シングウェルは素早く指示を出した。
『…ら…演習……制!!
こち…ら…演習場管制!!
”中佐”一体何が起きているのです!?』
シングウェルのコックピットに、
演習場管制官から通信が入った。
「こちらシングウェル中佐!
現在、所属不明機と交戦中!!」
『こ…交戦中!?』
管制官は、シングウェルの発言に、
驚きを隠せなかった。
「至急応援を要請する!!」
『りょ、了解しました!!
至急応援部隊を派遣します!!!』
管制との通信が終わると、
シングウェルは、戦闘態勢に入った。
「イアニス援護しろ!!
受験生が退避する時間を稼ぐぞ!!」
「了解!!」
「テオ…仇は討つ…!!」
シングウェルの呟きを無線が拾った。
オレは前にリゼルから教わったように、
できる限り直線的な動きにならないよう、
蛇行しながら全出力で逃げた。
ビービービービー!!!!
コクピット内に区画外接近の警報音が鳴る。
モニターには”警告”が点滅する
区画外に出る直前、オレは機体を止めた。
<タツヤどうしたの!!!>
(あのさ…、もしこのまま逃げたら、
試験はどうなっちゃうんだろ?)
<…………。>
オレは続けた。
(死刑は…?
オレたちの命は…、
どうなっちゃうんだ?)
<それは……。>
リゼルはその先を言わなかった。
「すみませーん!!誰か聞いてませんか?」
オレは唐突に関係者へ呼びかけた。
「試験はどうなっちゃうんですかー?」
『…こちら演習場管制…
ティターニア!!無事か!?
早く脱出しなさい。
その件については、決定が出次第通知する。』
「け…決定って…、オレどうなるんですか?」
『こちらでは返答しかねる!!』
「へ…返答しかねる…、って…、
オレの命が懸かってるんですよ!!」
<タツヤ……。>
『とにかく、早く逃げなさい!!』
(逃げなさいだと…、
合否がどうなるのかわかんないのに、
逃げられるわけないだろー!!)
オレは心の中で叫んだ。
(くっそー!!なんでいっつもこうなんだよー!!
結局戦うしかねーのかよ!!
ちっくしょー!!!!!)
<タツヤ戻ろう!!!>
オレたちは、機体を反転させた。




