総合演習試験2
────────────中央基地・第5演習場────────────
二日目の試験会場は中央基地・第5演習場。
演習場は超デカい黒土のグラウンドだ。
その演習場の脇に、何機もライデンシャフトが並んでいる。
演習用の機体は、ブルージュ・EINS演習仕様。
ブルージュ・ZWEIの一モデル前の、
量産型ライデンシャフト。
演習用の機体と、試験官用の機体は、
機体に施されたマーキングの違いで識別されていた。
オレはEINSのコックピットに乗り込み、
試験の開始を待った。
「…………。」
1人で乗るライデンシャフトの、
コックピットは静かだった。
「…はぁ…。」
オレは思わずため息を漏らした。
(…はぁ、じゃないよな…、
し、しっかりしろオレ!!
もうすぐ試験が始まるんだ…。)
「ふ──────。」
(集中しないと…。)
「は────────、ふ───────、は────────。」
オレは深呼吸をして、
操縦桿を握りなおした。
「試験者・シャペル村出身、
リゼル・ティターニア!!」
コックピット内に試験官の声が響いた。
「は、はい!」
オレは慌てて返事をした。
「本日、これよりライデンシャフト実技試験を開始する。
まずは射撃試験だ。
射撃試験は、静体射撃、動体射撃、交戦射撃、
この3項目だ、いいな。」
(ま、まずは射撃関係の試験か……。)
「最初の試験は、静体射撃試験。
ターゲットは、距離別に5つ用意されている。
1つのターゲットにつき、
弾は3発だ。計15発の合計が点数となる。」
(え、えーと、
……あそこに見えるのが、
ターゲット……。)
オレはモニターをしっかりと確認する。
演習場には、大小さまざまな土山が築かれ、
その土山にターゲットが設置されていた。
それぞれ、100メートル先、
200メートル先、300、500、
一番遠くが700メートル先だった。
(えーと、まず出力は…、
ここは無難に、
65パーセントぐらいにしとくか。)
グオオオオン!!
オレは、開始位置に機体を動かした。
試験開始が近づくにつれ、
全身に汗が滲む。
(思い出せ、思い出せよ…、
あの時は、一発も外さず、
全発命中させたんだ……、
今回だって…。)
ドンッ!!! ドンッ!!!
試験開始の号砲が放たれた。
(よ、よし!やるぞ!!!)
オレは機体を操作し、
最初の的へ魔導砲の照準を合わせる。
(…何か…忘れてるような…、
あ、そうだ!!)
オレは、慌てて包帯を外した。
(あ、あぶなかったぁ…、
大事なの忘れてた!)
オレは操縦桿を動かし、
もう一度照準を合わせる。
(………あれ……?)
オレは魔導砲のトリガーに指をかけたまま、
固まった。
(…あの時と………違う……。)
オレはそのままフリーズした。
すぐさまコックピット内へ無線が入る。
「ティターニア!!
何をしている!
早く始めなさい!!!」
試験官の怒鳴り声が、
コックピットに届く。
「何かトラブルがあったのか?
なければ、これ以上の遅延は減点だぞ!!!」
(ど、どうしよう…!!)
オレは、あわてて魔導砲を放った。
ドシュン!!
(……え……!?)
オレは違和感の正体に気が付いた。
(…左目が…反応しない!?)
オレは、モニターをズームアウトさせ、
ターゲットを確認した。
ペイント弾は、的を外れた。
(こ、こんなはずじゃあ…。)
オレは左目を強くこする。
しかし、左目は相変わらず、
何の反応も示さなかった。
オレが左目に気を取られていると、
「ティターニア!!遅延による減点1!!」
試験官からペナルティのアナウンスがあった。
「…く、くっそー!!」
オレは左目の覚醒をあきらめ、
仕方なく魔導砲を放った。
ドシュン!!
「…うっ………!?」
(ま、また、外した!)
(落ち着け……落ち着けオレ、
ちゃんと狙えば、当たるはずだ…。
だけど…何で左目が使えないんだよ。)
オレは心の中でぶつくさ不満を言いながら、
一向に調子の上がらない魔導砲を撃ち続けた。
ドシュン!!ドシュン!!ドシュン!!
「…………。」
「――それまで!!!」
コックピット内に試験官の掛け声が響いた。
オレは、EINSの魔導砲を下ろした。
「5分の休憩後、動体射撃試験を行う。
機体を降りて休憩をしたければ、
降りても構わない。」
しかしオレは、
EINSのコックピットから、
降りることが出来なかった。
(15発中、的に当たったのが、
たったの…3発……。)
オレは現実を受け入れられなかった。
(お、おかしい……!!
…あの時は、完璧に当たったのに…。)
原因はわかっていた。
(えーと…、最初の戦闘では、
隻眼の左目がいきなり熱くなって、
見えるようになったら、
今度は、視界に照準線が浮かび上がった…。
それから、ディスプレイのターゲットラインを消して…。
と、とにかく!!
”左目のスキル”が発動しないと…。
もう…どうすれば…?
そうか!!
順番は逆になるけど、
ターゲットラインの表示を消してみれば、
何か起きるかもしれない!!)
オレは必死になって考えた。
「ティターニア! 試験を再開する!!」
無線から試験官の声が届く。
(つ、次こそは…。)
「次は動体射撃試験だ。
――100、200、300、500、
700m各地点に、ターゲット射出ポッドが配備されている。
一つの距離につき3体ターゲットが射出される。
それを魔導砲で撃ち落してもらう。」
(…今度は、動く的か。)
オレは最初の戦闘を思い出し、
モニターに表示されるターゲットラインを消した。
しかし、左目は無反応だった。
(…ダメだー…!
やっぱ左目は変わんない…、
どうしよう!!
これじゃあ…どこ狙えばいいかわかんないよ!!)
オレは、もう一度ターゲットラインの表示をつけた。
ドン!!ドン!!
開始の号砲が鳴った。
まずは、100m地点からだ。
バヒュッ!!
一つ目のターゲットが射出された。
「うわっ、速い!」
オレは、急いで魔導砲を放つ。
ドシュン!!
ペイント弾は、ターゲットにかすりもせず、
外れた。
(や…やっぱ、ダメだ…。
こうなったら…、
出力を、70…、
いや80パーセントだ!!)
バヒュッ!!
「う…うわ─────!!」
ドドシュン!!
オレは、いきなりの高出力による、
機体反応についていけず、
砲撃は大きく的を外した。
ドシュン!!
次も外した。
ドシュン!!
そして、その次も…。
(ダ、ダメだ、全然制御出来ない!
元に戻そう!!)
オレは出力を元に戻した。
しかし、撃っても撃っても、
オレは的を外した。
その後も試験は続いたが、
いくら経っても、
オレの左目は覚醒することなく、
オレはただただ失敗を積み重ねた。
─────────第五演習場・管制塔─────────
双眼鏡をのぞき込む二人の試験担当官。
「ありゃ……、
………不合格だな。」
「……ああ……。」
「俺たち、この試験のために、
連日明け方まで、
残業する羽目になったんだよな?」
「……ああ……。」
「………。」
「………。」
「俺たちの、過ぎ去りし残業の日々は、
もう帰ってこない……、
そうだよな?」
「……ああ……。」
二人は双眼鏡を下ろした。
「「…はぁぁぁ~…」」
そして、そろって大きなため息をついた。




