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特別試験始まる2

───────────王都グレミア・郊外・ギル・ドレ邸───────────


「これは、また……立派でございますねえ。」

 

 小太りなリトマイケは、

 目の前の剥製を見上げながら言った。


「ふっ、それほどでもあるまい……」


 ギル・ドレは、豪華なロングチェアに深く腰かけ、

 自慢のカイゼル髭の先端を指でつまんだ。


挿絵(By みてみん)


 リトマイケと、ギル・ドレの視線の先には、

 大きな鹿が立っていた。


 鹿の額には、大きな角が一本あった。


 この鹿は、この地方にのみ生息する一角鹿(ディアコーン)、

 その剥製だった。


 一角鹿ディアコーンは、

 リトマイケやギル・ドレよりも遥かに大きかった。


「あの日は、突然の豪雨でな、あやうく、

 雷の餌食になるところだったわ。

 はっはっはっは。」


「ドレ卿が、雷の餌食になどと…、

 またまたご冗談を。」


「はっはっはっはっは」


 ギル・ドレは高らかに笑った。


「ところでだ…」


 そう言うと、

 ギル・ドレはゆっくりと立ち上がり、

 リトマイケの背後に回った。 


「ぬかりはないだろうな…。」


「も、もちろんですとも!」


 リトマイケの額に汗が浮かぶ。


「万事、手はずは整いまして、

 …あとはあの者達に任せるだけかと…」


 リトマイケはニタリと笑う。


 部屋の飾られた調度品は、

 見るからに格式高く、

 値の張りそうなものばかりだった。


 それらは、ギル・ドレの高い身分を表していた。


 ギル・ドレは再びロングチェアへ腰を降ろした。

 

「ふんっ、ベルディア公…だと……不愉快な。

 一介の農民ふぜいが、でかい面をしおって……。」


 リトマイケは慌てて返事をする。


「……は、はい…。」


「あやつの悔しがる顔…、

 ふっふっふっ、楽しみではないか…。」


 ギル・ドレは、不敵に笑った。





 ────王都グレミア・中央基地・サンダース<ベルディア>中将執務室────



 窓際に立つ青年准将<炯眼けいがんの>マズロー・シャゴールは、

 上着から懐中時計を取り出し、時刻を確認した。


挿絵(By みてみん)


「将軍、始まりましたか、

 リゼル・ティター二アの試験。」

 

 マズローが望む窓からは、

 次の日より実技試験の会場となる、

 演習場がはっきりと見えた。


 マズローは横に立つサンダースに視線を向け、

 さらに続けた。


「将軍、いったい何をお考えで、

 …このような処置を?」


 サンダースは無言のまま、

 答えなかった。


 マズローはサンダースに遠慮なく話し続けた。


「これだけ派手にやって、

 不合格でした…では、

 将軍のお立場、危ういものになるかと…。」


 それを聞き、

 サンダースは豪快に笑った。


「はっはっは、よもやお前に、

 この身の心配をされるとは、

 わしも年をとったな。」


 マズローは厳しい表情でサンダースを見た。


「笑い事ではありませんよ。」


 サンダースも先ほどまでの様子とは打って変わり、

 真剣な面持ちでマズローへ答えた。


「まぁ、そう言うな。」


「ですが……。」


 マズローは食い下がるが、

 サンダースは軽くあしらった。


「とにかくだ、

 わしはただこの目で、

 真実を見極めたいと思ったのだ。

 少年が本当に帝国機を撃墜したのか、

 そうでないのかをな。」


「……」


 マズローは言い返さなかった。


「マズローよ、お前の気遣い、

 この老兵ありがたく、いただいておく。」


「……」


「お前をここに呼んだのは、

 一つ頼みがあるのだ。

 聞いてくれるか?」


「もちろん、将軍の頼みとあれば、

 このマズロー喜んで!」


「それは、心強いな。」


 サンダースは、

 マズローに一枚の地図を手渡した。


「頼みとはな…。」




─────────同基地・学術試験会場─────────


 辞書のような厚さの問題と格闘すること、599分。


 バカでかい砂時計の砂が、

 すべて落ちきろうとしていた。


(はぁ…はぁ…はぁ、

 や、やっと…、終わった…。)


「それまで!!」


 オレの後ろの席に座っていた女性監督官が、

 鋭い声を上げた。


(…そんなに大きな声出さなくたって…、

 試験受けてんのオレ1人なのに…。)


 オレは机に突っ伏した。


(………。)


「ティターニア、起きろ!!」


 聞きなれた声だった。


 オレが顔を上げると、

 目の前にアーノルド軍曹が立っていた。


「あれ、女性の監督官は?」


「お前の回答用紙を回収して、すでに戻った。」


「そ、そうですか…それは残念…。」


「宿舎に戻るぞ!!」


 講堂を出ると、すでに日は沈み、

 あたりはすっかり暗くなっていた。


 オレは軍曹と一緒に、宿舎へ帰った。




───────王国軍基地内・宿舎───────

 


 オレは、宿舎へ戻ってすぐ、

 リゼルに試験のことを報告した。


<どうだった?>


(……とにかく、疲れた。)


<聞きたいのは、試験の手ごたえ!!

 で、どうだったの??>


(いや、なんていうかさ…、

 時間と問題の量に驚かされたよ…。)


<時間?問題の量?>


(いきなり、600分って言われて、

 しかも辞書みたいな問題渡されたら、

 誰だって驚くだろ!?)


 オレは日記を持ったまま、

 ベッドに倒れこんだ。


<それのどこが驚くの?>


(え―――っ!?

 リ…リゼルは驚かないの…?)


<うん、だって試験って、

 そんなもんじゃないの。>


(…………。)


 オレは返す言葉が見つからなかった。


<もしかして、タツヤ知らなかったの!!>


(………はい。)


 オレは小さく答えた。


<…………。>


 リゼルも言葉を失ったみたいだ。


(…複数の教科をまとめて、

 とんでもない量の問題を、

 長い時間をかけて解くのは…。)


<…普通だと思うけど…。>


「そ、そうだったのか…。」


 オレは頭を抱えた。


 そして、すぐに手を日記に戻した。


<だから、試験は大変だって言ったでしょ!!>


(はい……そうでした。)


 オレはドッと疲れを感じた。


<…もうさ、済んだことはしょうがないから、

 タツヤ!明日の実技試験に向けて、

 気持ちを切り替えてがんばろう!!>


(……………、

 ………リゼルくん、

 …そんなに簡単に言わないでよ…、

 …やるのはオレなんだからさ…。)


 オレは思いっきりテンション低く、

 ダルそうに答えた。


<………知ってるよ。>


 リゼルからの返答も、

 いつもと違う低いローテンションな口調だった。


<…僕にはもう操縦できないんだ…。

 ライデンシャフトに触れることも…、

 …試験問題を解くことだって…、

 もう何も出来ないんだよ!!>


 初めて聞くリゼルの悲痛な叫びだった。



(…………。)



 オレは何て答えればいいのか、

 わからなかった。


 オレは日記から手を離した。


(…オレ…、…大バカだ…。)


 オレはこれまで、リゼルの気持ちを、

 キチンと考えてこなかった。


 転生をして浮かれていた。


 そして、その日はもうリゼルとは話をせず、

 オレは眠りについた。













読んでいただき本当にありがとうございます。


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