表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/123

超絶無理ゲーの始まり

─────港町・城のとある一室─────


 雪が残る港町


 高台に建てられた、

 城の一室。


 整った身なりの男の元に、

 一通の手紙が届けられた。


 差出人の名は、

 王国軍中尉デア・リオン


 手紙の内容は、

 彼女自身が関わった、

 裁判についてのものであった。


 そこには、

 弁護人から聞いた情報や、

 彼女自身が集めた情報が、

 細かく記されていた。


 特に丁寧に書かれていたのは、

 グレン・グレアム少佐失踪についてであった。


 男は読み終わると、

 手紙を暖炉の火にくべた。


 そして、別室にいる秘書官を呼び、

 こう告げた、


「鷲鼻を呼べ」


 と。






────フィレリア王国・王都グレミア・王国軍・中央基地本部・外辺────


 オレ(リゼル・ティターニア)の裁判

 (死刑判決)は、

 ”王室預かり”っていう制度のおかげで、

 いったん凍結された。


 その代わり、オレには、

 自分の死刑を回避するため、

 ムチャクチャな課題が与えられた。


 その夜。


 オレは、軍事小法廷のあった、

 中央本部の建物から、

 基地のはずれ、さびれた兵舎が立ち並ぶ区画に、

 人目につかない形で連行された。


 オレを連行したのは、かなりデカい

 男の軍人だった。


 リゼルの体が小さいから、

 顔を見ようと思ったら、

 うんと見上げなきゃならなかった。


 この軍人、軍服のピチピチ具合から、

 相当なムキムキが予想された。


 このマッチョな軍人がオレの保護観察官、

 アーノルド・ロンド軍曹。


挿絵(By みてみん)


 軍曹とそのお仲間が、

 これから試験当日までのお目付け役なんだそうだ。


 軍曹は、道中ずーっと険しい顔つきで、

 まったく口を開かなかった。


 オレは軍曹に何度か話しかけてみたけど、

 全部見事にスルーされる。


(はいはい、仲良くなる気はゼロってことですね…。)

 

 オレは、しばらく基地内を歩かされ、

 さびれた古いレンガ造りの建物へ案内された。


 建物全体が薄暗く、

 ひと気は全くなかった。


 建物へ入ると、内部は板張りで、

 階段は昇るたびに、

 ギシギシ音をたてる。


(あ、あの…、

 気味悪いんですけど…。)


 3階奥の部屋の前に来て、

 アーノルド軍曹は、

 ようやく口を開いた。


「試験は一週間後、

 3日間実施する。

 これから試験終了まで、

 君にはここで過ごしてもらう。

 その間、君は我々の管理下におかれる。

 試験が終わるまで、

 勝手な外出は認められない。

 以上だ。」


(い、いきなりの説明!!


 しかもけっこう大事なことじゃん、

 急すぎて、覚えられないし、

 もうちょっとゆっくり言ってよ。)


 オレはきちんと覚えられるよう、

 もう一度言ってと、

 頼もうとするが、

 アーノルド軍曹は、

 オレの話を遮るように話す。


「何かあったら、言いたまえ。

 私たちはここで君を、

 監視することになっている。」


 アーノルド軍曹は伝達事項を話し終えると、

 部屋を出てすぐ横にある椅子に、どかっと座った。


(何かあったら言いたまえ、って!!

 オレちょうど話そうとしてたのに!!

 一方的にさえぎってさ、

 オレの話聞く気ないだろ!!)


 と、オレは心の中で叫んだ。

 強そうな軍曹に、オレはビビッて何も言えなかった。


(はぁ…、つまんない大男が見張りか…。)


 オレはデア中尉を思い出し、

 軍曹と比べた。


(愛想が悪くても、

 かわいい女子の護衛官が良かった…。)


 オレは、がっくり肩を落としながら、

 あらためて部屋を見渡した。


 そこそこ清潔そうなベッドに机、椅子、

 奥に洗面所、それからシャワーとトイレ、

 シンプルな作りの部屋だった。  


 天井近くにある窓には鉄格子がはめられていた。


(ん~、ここから逃げるのは難しそうだ。

 あーあ…また軟禁生活か…。) 


 オレは、ベッドに体を投げ出し、

 横になった。


「はぁ…せっかく転生できたのに、

 全然うまくいかないなぁ…。」


 オレは天井に向かって嘆いた。


(死刑は、一時的に免れた。

 そこまでは良かった。

 だけど、そっから先がなー、

 ほぼほぼ達成不可能な試練ミッションだろ。

 そんなのってないよ…。)

 

 オレに課された試練ミッションは、

 ”王国軍パイロットとして、

 1年以内に帝国軍機を100機撃墜すること。”

 

 これがもう、いかに無茶苦茶な試練ミッションか、

 あのごっつい髭のおっさん

 ───サンダース・ヒル中将から聞かされたとおり。


 与えられた条件達成には、

 必ず軍の学校を飛び級して、

 訓練期間を短くしなければならない。


 訓練期間を決める特別試験が、

 一週間後、ここ中央基地で行われる。


 その試験にオレの生死がかかっていた。


 試験の中身は、体力試験、学科試験、

 ライデンシャフト操作技術試験。


(うーん、とにかく、

 早く訓練を終えて、

 正規パイロットにならなきゃだ…。

 それとも───、

 どこかで隙を見つけて

 ”逃げるか”……。)


(”逃げる”

 そうだ、刑の執行まで、

 少なくとも一年間の猶予があるみたいだし。

 その間に、隙を見つけて逃げる。

 今は、無理でも、

 少しでも監視の目が緩めば、

 チャンスはあるかもしれない。

 そうだよ、

 こんな無理ゲー、

 つきあわなくたっていいじゃん。)


 オレは脱走に希望を見出そうとした。


(でもなー、…脱走が見つかったら…、

 確実に死刑だろ…。

 はぁ…、もう考えるのも疲れてきた。)


オレは何もする気が起きず、

 ただベッドでゴロゴロした。


(あ~、ゴロゴロしてるだけで、

 セレブに再転生出来ねーかなー。)



ゴンゴン────


「ん…」


 突然、鉄のドアをノックする音がした。


「ティターニア、荷物だ。」


「…」


 オレは飛び起きて、ドアを開けた。


 軍曹がボロボロの木箱を持って立っている。


(荷物?)


 オレはボロボロの木箱に、

 心当たりがなかった。


「い、いりません。」


 きっと、軍のオッサンたちの嫌がらせに違いない。


 いい差し入れだったら、

 ボロボロの木箱になんか入れない。


 オレの返答に、

 アーノルド軍曹は驚いた表情を見せた。


「う…受け取りたまえ。

 これは、きみの家族からだ、

 一応中の物はあらためておいた。」

 

 軍曹は木箱を部屋の入り口に置いて、

 ドアを閉めた。


「………。」


(そうだった…、

 今のオレは、

 リゼル・ティターニアだ。)


(何だろ?)


 オレは木箱を開けた。


(そういや、プレゼントなんて、

 いつ以来だろうな…。)


 オレはすぐに思い出せなかったが、

 なんか嬉しかった。


(ん…、一番上に紙切れが入ってる。

 手紙か…?

 読んでみるか。)


”親愛なるリゼルへ、


 お前がこの手紙を手にすることを、

 わしらは切に願っておる。


 もう一度その顔をわしらに見せておくれ。


 それまでわしらは待っておるぞ。


 いいな、必ず帰ってくるのじゃぞ。”


 紙はぐしゃぐしゃだし、

 字は汚いし、所々にじんでるし。

 汚い手紙だった。


 だけど、じいちゃんたちの、

 リゼルに対する愛情が十分すぎるほど伝わった。


(リゼル、愛されてんだなぁ…。)


 オレはそのまま、

 放心状態でベッドの上で横になった。


(はぁ…困った…、

 中身が別人だって知ったら、

 じいちゃんたち何て思うかな。)


 じいちゃんたちのリゼルへの愛情が、

 オレに重くのしかかる。

 

(中身は別人だけど、

 一応は命拾いしたわけだから、

 その事だけでも伝えてあげなきゃいけないか、

 すごく心配してるみたいだし。


 そうなりゃ、連絡手段だ…、

 この世界…、電話なんてあんのかな?

 あっても、この状況じゃ、

 貸してくれないか…。

 ああ!!じゃあオレも手紙書くか。

 ってことは、書くものと、紙だ!!)


 オレはあらためて部屋を見渡した。


(えーと、机に、

 何やらいろいろとおいてある。)


 オレは立ち上がり、

 机の上の物を手に取った。


(ここでの規則や、注意事項が書かれたメモに、

 難しそうな本が数冊。

 それから、大きな羽と、インク。

 マジか!

 この羽をペンにして書けってのか。

 すげー、やっぱファンタジーだ…。)


 オレは羽ペンを握りしめた。


(あとは、紙だな…。

 規則とか書いてあるメモの裏に書くか…、

 いや、これが送られてきたら、

 じいちゃんたちきっとビビっちゃうな。

 そもそも、裁判のことを口外するな!!

 って書いてある紙、送っちゃまずいよな。

 本を破いたら、怒られるだろうし。)


 オレはいろいろ考えていると、

 ボロボロの木箱が目に入った。


(この中に、何か使えそうなものが入ってるかも。)


 オレは、木箱の中のものを出してみた。


(毛糸の靴下に綿のパンツだろ、

 それから、着古された上着。

 何だこれ?)


 オレは葉っぱでくるまれた包を、

 手に取った。


(ちょっと匂う…。)


 あけてみると固いチーズが入っていた。


(それから、キレイな石のついたひも。

 これはお守りかな。)


 小さな皮の袋はずっしりと重かった。


 ひもをほどくと、


(わっ、銀貨だ!!

 やったー、地獄の沙汰も金しだい、

 だっけか、こいつは助かる。

 あ…、でもここに閉じ込められている間は、

 使いみちがないか…。)


 木箱の一番下には、

 いかにも古そうな本が入っていた。


(あれ…この本………、

 確か…屋根裏部屋で見た気が…。)


 オレが本をつかんだ、

 その瞬間。

 

<タツヤ!!>


「!!?」


 いきなり、聞き覚えのある声がした。


 オレは、あまりの驚きに、

 あわてて本を放り投げた、。


(い…今の声…って…?)


 床に落ちた本から、

 一枚の写真がはみ出している。


 写真にはケガをする前の

 元気な姿のオレが写っている。


 オレは、床に落ちた本を拾いあげた。


<タツヤ!!、僕だよ。リゼルだよ!!!>

 

(!!!!!!?)


「うああああああ!!」


 オレは、再び、本を手放した。


(思い出した!

 あれ、リゼルの日記だ!!

 だけど何で日記がしゃべんだよ、

 ど、どうなってんだ……?

 リゼルは消えたんじゃ……。)


 オレはあの日、

 リゼルと一緒に帝国軍と戦った。


 そして、ライデンシャフトから降りた後、

 リゼルはオレの中に現れなくなった。


 もうリゼルは、

 いなくなってしまったんだと思っていた。


 オレはそれから、

 すぐに毛布の中に隠れるようにくるまった。

 

(これはもしかして…、

 リゼルの怨念的な…!?

 体を返せ~って!!)

 

 オレは、しばらく毛布の中で怯えていたが、

 何も起こらなかった。

 

(ど…どうするオレ…、

 ど…ど…どうすりゃいい…!?)


 オレは、怯えながらも、

 リゼルとのやりとりを思い出した。


 リゼルとの時間は、

 短い間だったけど、楽しかった。


 オレは、勇気を振り絞って、

 リゼルの日記をもう一度、手に取った。


<タツヤ!もう、放り投げないでよね!!>


(リ……リゼルなの…か?)


<そうだよ。>


(!?――)


(ホ、ホントにホントに、

 リゼルなのか……?)


挿絵(By みてみん)


<そうだよ!!>


(ホントに…リゼル??)


<そうだって!!>


(ホントにホント?)


(だから、そうだって!!

 何度言わせりゃ気が済むのさ!!!」


(あははははは、ホントなんだ…)


 オレは興奮した。


(この本の中に、

 リゼルがいるんだ!!)


 オレはとにかく嬉しかった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
RT企画から、ようやく感想感想書きにきました!挿絵が適度に入っているので常に絵を想像しながら読み進められるので良かったと思いました!これからもお互いに頑張っていきましょう!
[良い点] リゼル消えてなかった! 意識が日記の中では不自由そうですが、無事だったことは素直に嬉しい。 頼りにしてます。
[一言] もう一人のボクが居る系の小説は面白い可能性が高い (個人的な感想) こいつぁ期待できる
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ