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謁見

ここから第3章になります。

─────王国軍中央基地・応接室─────



 オレの裁判は異様な形で幕を閉じた。

(らしい、デア中尉談。)


 法廷を出るとオレはデア中尉と別れた。


 その後、複数の屈強な警護官たちに連れられ、

 同じ建物内の威厳のある部屋の前へ案内された。


(オレどうなっちゃうんだろ…。)


 オレは自分がどうなってしまうのか、

 全く予想がつかなかった。


 ここしばらく死刑のことばかり考えたせいで

 正直、身も心もボロボロだった。


 自然とうつむいた姿勢を取っていた。


「少年、部屋へ入る際は顔を上げたまえ!」


 オレは警護官に促され、

 渋々顔を上げ部屋へ入った。 


 部屋には身なりの整った、

 気品たっぷりの中年女性と、

 裁判の陪審官席にいたあご髭のおっさん、

 二人がオレを待ち構えていた。


「………。」


(うっ…緊張する。)


 部屋の中へ入ると、

 一緒にきた警護官たちはひざまずいて、

 何やらもごもごと言い出した。


 近くにいた警護官は、

 ボーっと突っ立っているオレを見て、


「おい、一緒にやるのだ!」


 力づくで、オレをひざまずかせる。


(チックショー、相手が子供だからって、

 腕力に訴えやがって。

 やればいいんだろやれば!!)


 オレは見よう見まねで、

 ひざまずいてのあいさつをやってみる。


 当然ながら、ぎこちない動きだった。


(だって、やったことないんだから、

 しょうがないでしょ。)


 儀式風のあいさつが終わると、

 身分の高そうな女性がオレに話しかけてきた。


「そなたがリゼル・ティターニアですか?」


「は、はい。」


わたくしのことは知っていますか?」


「……」


(やばい、知らないんですけど。

 どおしよー!!すげえ偉い人みたいだけど、

 正直に知らないとは言えない雰囲気だ、これ。)


 オレは精一杯作り笑いをしながら、


「え、えーと…、

 あ…まぁ、はい…。」


 曖昧に答えてみた。


「ウソが下手ですね。」


 オレは女性に厳しくつっこまれた。


「す、すみません…。」


 裁判の時とは違う緊張感だった。


「まぁいいでしょう、座りなさい。」


 オレはスゲー緊張感のまま、

 椅子へ座らされた。


わたくしは、サラリンドといいます。

 国王陛下の側仕えをしております。」


挿絵(By みてみん)


 警護官が小声でオレに伝える。


「第一王女殿下であらせられるぞ!」


「えっ!!え─────!!」


 オレは思わず声をあげるが、

 王女は表情一つ変えなかった。


(あ、裁判で聞いた”王室預かり”の、

 王室の人!!)


 王女はオレの態度を気にすることなく話始める。


「そなたのことはサンダースより聞いております。」


「は…はぁ…」


(いったい、どう伝えられてんだ?)


 王女に紹介されたヒゲの将軍が口を開く。


「サラ殿下が直接会いたいと申されてな。」


 サラ王女が話す。


「単刀直入に聞きます、

 レイクロッサの件、事実なのですか?」


(ホントいきなり、世間話とかなしか…。)


「は、はい、

 裁判で何度も言いましたが、事実です。」


 オレはっきりと答えた。


 サラ王女は間髪入れず、

 次の質問をする。


「どこで操縦を学んだのです?」


「えっ…そ、それは…」


 オレはすぐに答えられなかった。


(ど、どうしよ……!!

 あの屋根裏のオンボロ装置のことだろ…、

 しゃべったら、リゼルのじいちゃんに、

 迷惑かけるかもしれないし…、

 だけど、言わなきゃ、

 このまま死刑かもしれないし…、

 そしたら転生のことも…、

 ど、どうすりゃいいんだよ!!)


 王女は厳しい視線をオレに向け、

 微動だにしない。


(もう…、こんな展開、

 いい加減、勘弁してくださいよ…。)


 オレはここでも追い詰められた。


(どうしよう………。)


 その時だった。


ス────────ッ


 オレの頬を涙がつたった。


(オ、オレ泣いてる!?)


 あまりのつらさに、

 オレは無意識に泣いていた。


 もう心が限界だったようだ。


「殿下、そろそろ本題に入りませんか。」


 そんなオレを見かねたのか、

 この状況で声をあげたのは、

 ヒゲのオッサンだった。


(あ、ありがとう、ヒゲのオッサン!!)


 オレは余計な詮索を受けずに済んだ。


「そうですね、

 ではこれからの予定を説明をしてあげて下さい。」


 王女は、オレをしっかり見つめたまま答えた。


 オッサンは立ち上がり、


「あらためて、

 私は、王国軍参謀本部所属、

 サンダース・ヒル中将だ。」


 自分からオレの元へ歩み寄って、

 手を差し出してくれた。


 オレは恐る恐る握手する。


「はっはっはっ、

 そんなに怖がらないくてもいいだろう。

 とって食ったりはしないから。」


 将軍は豪快に笑った。


 そして、自分の席に戻り際、

 オレにだけわかるようにウインクをした。


(な、何だよ!?

 気持ち悪い!!)


 オッサンはそのまま話を続けた。


「君の死刑判決なんだが…、

 残念ながら、取り消すことは出来ない。」


 将軍はまっすぐにこちらを見ている。


「…え!?」


(な、なんだよー!!

 期待させておいて!!

 くっそー!!

 やっぱりダメなんじゃん!!)


 今度は怒らずにはいられなかった。


「しかしだ。

 君がもしも、この国に必要な人間だと、

 自らの力で証明することができれば、

 例えばだな、ライデンシャフトを操り、

 帝国軍を駆逐する。」


 サンダース将軍は微笑みながら、

 オレの反応を伺う。

 

「………うっ。」


(こ、今度は謎のスマイル…!?

 かなり不気味なんですけど…。)


「相変わらず回りくどいですね。

 もったいぶらず、

 手短にお願いします。」


 王女がサンダースをせかした。


(だから、結局オレどうなんのよ…?)


「申し訳ございません、

 このところ話が長くなっていけませんな…。

 ティターニア君、今回、特例処置として、

 君を王国軍へ入隊させようと考えている。」


「王国軍!?…入隊…!?」


「つまり、極刑はいったん凍結だ。」


(!!!!!?)


「そ、そ、それって…、

 死刑はなし…ってことですか!!!」


「まぁ、一時的にだが…。」


「やった───────────────!!!!」


「ンンッ!!」


 将軍は大きな咳払いをする。


「落ち着きたまえ、まだ続きがある。」


「は、はい。」


(やった─────!!!

 死刑回避だ──────────!!!

 やったぞ─────リゼル─────!!!)


「これには、条件がある。

 ティターニア君、

 君は今から告げる条件を、

 クリアしなければならない。」


 再び、将軍の話が長くなりそうになると、

 サラ王女は”早くしなさい”

 という視線を将軍へ送る。


 視線を感じた将軍の口調が早くなる。


「君に課せられる条件は、

 王国軍パイロットとして、

 1年以内に帝国軍機を100機撃墜すること。

 残念ながら、先日の7機撃墜はカウントできない。

 君の証言や、状況証拠を信用しない者も少なからずいてな。」


「100機…撃墜」


 オレは思わずつぶやく。


「もし達成すれば、君は間違いなく、

 王国勲章受勲者に推挙される。

 そうなれば、いくら軍とて、

 ”英雄”を処刑するわけにはいかないからな。

 刑は事実上取り消されたも同然だ。

 あとはいかようにでもできるだろう。」


「私からも言わせてもらいましょう」


 次に、サラ王女が話す。


「要するにです。派手に暴れて戦果を出しなさい。

 そうすれば、この国は君の味方となるでしょう。」


「や、やります!!

 派手に暴れて帝国軍を撃墜しまくってやります!!


「はっはっはっ、

 さきほどまでとは別人だな。」


 サンダース中将は、


「ちなみに昨年、

 ()()()()()()()で撃墜した帝国軍機は156機だ。」


 話を付け加えた。


(え…王国軍で…?何とか無双みたいに、

 敵がウジャウジャいるわけじゃないの…。)


「あの…?軍全体で年間、156機、

 そんな中でオレ一人で年間100機撃墜ですか…?」


 オレは、気になった事を、

 そのまま聞いた。


「これって、計算おかしくないですか?

 あ、もしかしてオレの聞き間違いですか?」


 サンダース将軍は、


「聞き間違いではない。

 普通に考えれば、

 不可能な条件だからこそ、

 この案が通ったのだ。」


 はっきりと答えた。


(は、はっきり、言いやがった…。

 不可能だって…、

 ちっくしょ──────!!!)


 今度はサラ王女が話す、


「今でも、軍の一部の者は、

 速やかに君を処刑せよ、

 と考えております。」


 オレは悔しさをこらえ、

 黙って話を聞いた。


「国王陛下のお力添えがあれば、

 君の判決を取り消すことも、

 恩赦を出すことも、

 どちらも不可能ではありません。」


(だったら、そうしてくれればいいのに!)


 オレは心の中でぼやく。


「しかし、そのような処置を取れば、

 当然、こころよく思わない者たちも出るでしょう。

 法をないがしろにするわけですから。

 それは、王室としても避けたいのです。」


(まぁ、そりゃ暴動は嫌だと思うけど…。)


「あなたが不満なのはわかります、

 しかし、これが私たちの取れる

 現状最善の策だと考えております。」


「はい…。」


 オレは渋々、納得したような態度を取った。


「納得いきませんか、

 しかし、あのままなら、

 死刑だったのですよ。」


 王女の物言いがきつくなった。


「サンダースに感謝するのですね。」


 王女はオッサンに視線を送った。


(オッサンに感謝…?) 


「ンンッ!!

 では、これからのスケジュールを伝える」


 オッサンは、またわざとらしい咳ばらいをして、

 説明を始めた。


「そこで君にはまず、

 軍の学校に通ってもらう。」


「軍の学校!?」


「形式的なものだ、

 いきなり軍属にするわけにもいかんのだ。


 君のような少年のいきなりの入隊は、

 現場を混乱させる恐れがある。


 君のレイクロッサでの一件を、

 知る者は軍上層部と、

 一握りの者だけでもあるしな。


 それとだ、きみの年齢だが、

 ちょっと若すぎる。

 なので、詐称してもらう。」

 

(死刑の次は…学校か…。

 まったく忙しいな…。)


「学校って、

 どのくらい通うんですか?」


「ふむ、通常なら3年だ。」


「さ、3年!?

 え!?軍への入隊は…、

 1年以内に100機って…」


「そうだ、普通に通ったのでは、

 条件はクリアできん。

 これから課せられる様々な試験で、

 好成績を残し続けるのだ。

 そうすれば、飛び級制度を使い、

 早々に軍へ入隊することができる。

 言い換えれば、もしそれが出来なければ、

 …わかるね。」


(普通なら、3年かかる軍隊の学校を、

 …飛び級でさっさとクリアして、

 そこから、1年以内に帝国軍機100機撃墜…。)


 オレはオッサンの言葉を繰り返した。

 

(…これ、クリアできるのか…オレ…?

 まったく、一難去ってまた一難だ…。)


 オッサンは話しが終わると、

 オレに向かってさりげなく笑った。


(だから、なんなんだよもう!!

 気持ち悪い!!)


 ようやく長い話が終わり、

 オレは警護官に囲まれ部屋を出た。


 オレは部屋を出たところで、

 王女に呼び止められた。


「付け加えておきます。

 もし今後、脱走するようなことがあれば、

 見つけ次第、処刑とします。」


 そう言うと、王女はオレに向かって微笑んだ。













お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価していただき誠にありがとうございます(*'ω'*)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 可能不可能以前に、敵国に100機も機体があるんだろうか。 それ以前に、そんな頻度で接敵できるんだろうか(敗戦濃厚で敵がイケイケで攻めてきてるとかなら兎も角)
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