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運命の判決1

 ────────────シャペル村・オムル宅────────────


 シャペル村、

 オムル、メリー、ミレーネの三人が昼食を取っている。


「ミレーネ!!

 また人参残して、全部食べなさい!!」


 メリーがミレーネを叱る。


「だって、だって…、オムルじいちゃんも、

 お料理いっぱい残してるもん。」


「ま、まぁ…、ミレーネったら…。」


 メリーは言葉に詰まらせた。 


「ミレーネ!

 メリーさんの言う通り、

 残さず食べなさい!」


 オムルは厳しい口調でミレーネを諭した。


「……はーい。」


 ミレーネは、顔をしかめながら人参を口に運ぶ。


 二人はその様子を見て、

 顔をゆるめた。


 そして、メリーはオムルを見つめたまま、


「あの…、オムルさん、

 お願いですから、

 もう少し召し上がって下さい。」


 懇願する。


「………。」


 オムルは無言のまま、

 ただ微笑んだ。



 ────────────王都グレミア────────────


 ”王都グレミア”


 大陸西中央部に位置し、

 霊峰フィレル山のふもとに広がる。 


 都の北西から、大河ブルージ川が市街地へ流れ込み、

 都を斜めに隔てるようにして、

 都南に待ち構える巨大湖、メットシエラ湖へと注ぐ。


 500年以上の繁栄を誇る王国発祥の地であり、

 今なお続く、フィレリア王国の首都である。




 ────────────王宮・展望室────────────


 一人の老齢の男性が王宮・展望室から、

 街を見下ろす。


 老人の視線の先には、

 王国軍中央基地が広がっていた。


 


 ──────────王都・王国軍中央基地・軍事小法廷──────────


 リゼル・ティターニア裁判・判決言い渡し当日


 第1等軍紀裁判・第784号審議・判決────────


 オレの必死の抵抗も虚しく、

 死刑が求刑されたまま、

 とうとう判決の時をむかえてしまった。


(はぁ、いよいよか……。)


 つかの間の休廷時間が終わり、

 オレは、再び、傍聴人のいない

 静かな法廷へ戻された。


 オレは改めて陪審官席を見上げると、

 王国軍の偉いヒゲのおっさん達が、

 オレを見つめている。


(おっさんたちよ、良心痛みませんか、

 こんな可愛い少年を、死刑だなんて…。)


 おっさんたちを見れば見るほど、

 悔しさがあふれてくる。


 オレはおっさんたちから、

 顔をそむけ、下を向いた。


(これで、終わりか…、 

 思えば短い転生生活だった。

 ごめんな…リゼル。

 君がせっかく貸してくれた、

 この体に、スゴい能力、

 もう使う事はなさそうだ…。

 結局、この世界でもオレはさえなかった…。)


バンバン! 

 

 白ひげのアーツライト裁判長が、

 ガベルを打ち鳴らす。


「判決を言い渡す。」


(ついに、きたか…。)


 オレは、顔を上げた。


 今にも吐き出しそうだった。



バタン!!


「!?」


 その瞬間だった、

 裁判官側の奥の扉が開いた。


 扉が開くと、

 赤い制服を着た男の人が、

 慌てた様子で入ってきた。


「”ヴァーミリオン”!?」


 デア中尉のつぶやきをオレは聞き逃さなかった。


 オレ以外の人たちは、

 みんないっせいに、

 緊張した様子だ。


 赤い制服の男は、

 おっさんたちに向かって敬礼をすると、

 アーツライト裁判長の元へ駆け寄った。


 そして、裁判長へ耳打ちをする。


 とたん、裁判長の表情が変わった。


バンバンバン!!


 裁判長はまた、ガベルを打ち鳴らした。


 そして、


「一旦、休廷とする!」


 と宣言した。


 裁判長は、陪審官の席へ近づき、

 何やら小声で説明している。


 説明が終わると、

 裁判長と陪審官は立ち上がり、

 法廷を後にした。


「……」


 オレは、この状況を、

 まったく理解出来なかった。


(一体、何が起こったんだ…。)


 オレは、何が何だかわからないまま、

 隣に座る弁護人、デア中尉を見た。


 中尉も、ただただ驚いた表情で、

 何が起きたのか、

 理解できていないようだった。


 オレはデア中尉にたずねる。


「あのー、偉いオッサンたち、

 出て行っちゃったんですけど…?」


「…そ、そうですね。」


 デア中尉からは、戸惑いの声が返ってきた。


「それと、さっき言ってた”ヴァーミリオン”って、

 何ですか?」


 オレは初めて聞く言葉だったから、

 中尉に聞いてみた。


「わ、私…、そんな事言った?」


「はい…、

『”ヴァーミリオン”』、

 って確かに聞きました。」


「そ、そう。」


「それで、その”ヴァーミリオン”、

 って何なんですか?」


 オレは、あらためて聞いた。


「そっか…、

 君は”ヴァーミリオン”も知らない…。」


「は、はい。」


 オレは苦笑いでその場をごまかした。


 中尉はオレの度重なる無知ぶりに、

 またも呆れながら答えてくれる。


「フィレリア王国親衛隊、

 通称”ヴァーミリオン”。

 主に、国王陛下や、

 王族の方々の警護を担う、

 我が国きってのエリート集団。」


「王様の警護をする、

 エリート集団…。

 それが何でこんなところに?」


「さぁ、それは…私も…。」


 デア中尉は困り顔で答えた。


(あぁ…、困った表情もカワイイ…。)


 オレはついつい自分の死刑の事も忘れて、

 デア中尉に見とれてしまう。


 すると、

 アーツライト裁判長と、

 陪審官の将校たちが戻ってきた。


 裁判長は一層険しい表情になっていた。


 何人かの陪審官は、

 明らかに不機嫌な様子だった。


 席に着くなり、

 裁判長は口を開いた。


「この第784号審議は、本刻をもって………


 ”王室預かり”とする────」


 裁判長は言い終わると、

 陪審官を引き連れ、

 そそくさと法廷を出て行ってしまった。


「王室…預かり…?」


 オレは、思わずその聞きなれない単語を、

 口に出した。


(何だ、王室預かりって…。)


 オレは”王室預かり”が何を意味するのか、

 理解できなかった。


 なので、これもまた、

 隣のデア中尉に教えてもらおうと、

 オレは中尉に顔を向けた。


 しかし、中尉が何かを言う前に、


「ティターニア、移動だ。」


 不意に警護官がオレの腕を取り、

 オレを法廷から連れ出した。


 オレは、いつもの拘置部屋とは違う、

 綺麗な調度品や、

 高そうな家具が揃った部屋へ通された。


「ここは?」


「来賓用の応接室よ。」


 答えてくれたのは、

 デア中尉だった。


 そして、オレを連行した警護官は無言のまま、

 オレの腕と足にはめられた拘束具を外した。


「はぁ…、ようやく自由になった。」


 オレはこれ見よがしに、

 手首や足首をさすった。


 しかし、誰もオレを見てくれていない。


 デア中尉はというと、別の警護官と

 何やら話し込んでいる。


(そうですか…、

 オレはのけ者ですか…。)


 オレは何の説明をされぬまま、

 勝手に近くの椅子に座り、

 ただ黙って時が過ぎるのを待った。


 しばらくして、

 デア中尉がオレの横の椅子に腰かけた。


 オレはさっき聞けなかった

 質問をもう一度してみる。


「あの……、

 王室預かり…って?

 結局、オレどうなるんでしょうか?

 死刑は…?」


「えーとですね…。」


 デア中尉は明らかに話しにくそうだ。


「死刑がどうなったか、

 というよりは…、

 裁判そのものが、やり直しというか…。」


「やり直し…。」


「いや、正確にはやり直しではなくて…。」


「???」


「と、とにかく、

 死刑は一旦、保留……。」


「保留!?」


「に、なると思われます…。」


「お、思われます…って、

 どっちなんですか!?

 ハッキリしてくれませんか、

 命がかかってるんですから!」


 オレはつい熱くなった。


「…ごめんなさい、

 私から言えることは、

 これぐらいしか…。」


「…………。」


(もう、何なんだよ!!

 死刑、保留、わかりません、って!!

 オレのメンタル、

 もうボロボロなんですけど…。)









挿絵(By みてみん)

左 ミレーネ・ティターニア


戦争孤児 オムルの養子となる。


右 メリーおばさん


得意料理はレイクロッサ地方の家庭料理。




お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価していただき誠にありがとうございます(*'ω'*)

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