無慈悲
一番下にキャラクターのイラスト載せています。
人物多めですみません(;^ω^)
───王都グレミア・王国軍中央基地・参謀本部───
”リゼル・ティターニア裁判”
開廷の前日・午後、
中央基地参謀本部では、
とある会合が予定されていた。
参謀本部・将校専用会議室。
会議室には、
ひときわ威厳ある王国旗が、
部屋の隅に掲げられた。
これは、この部屋が、
位の高い者たち専用の部屋であることの象徴だった。
部屋の中央には、豪奢な円卓が置かれ、
そこに、5人の将校が座っている。
「卿、先日はお見事でした。」
最初に、細い目の男が口を開いた。
「なに、たまたまだ。」
答えたのは、立派な口髭の男だ。
細い目の男が続ける。
「いえいえ、御謙遜を、さすがの腕前でございます。」
その会話に、
「そうですとも、私どもとの格の違いは歴然でございます。
やはり育ちの違いでしょうな。」
小太りの男が加わった
「次回の狩り場は、私、リトマイケがご用意いたしますので、
何卒よしなにお願いします。」
「ほう、それは楽しみだ。
シャゴール君。貴殿もどうかな?」
立派な口髭の男は、
この場にいる最も若い男を狩りに誘った。
「お誘いありがたいのですが、
狩りはたしなみませんので、
遠慮いたします。」
若い男は、
丁寧に答えた。
「ふん…そうか、それは残念だ。」
立派な口髭の男は、余裕の口ぶりだった。
将校たちが雑談している所に、
立派な白いあご髭の老人が入ってきた。
5人は席を立ち、敬礼をした。
老人は着席し、改めて将校達の顔をゆっくり見回すと、
話を始めた。
「本日、貴公らには、陪審官として集まってもらった。
裁判は…先日の一件じゃ、公表はしとらんが、
詳しく説明せんでも、貴公らの耳にも入っておろう。」
「もちろん、大変ゆゆしき事案ですな、
アーツライト将軍。」
立派な口髭の男が即座に返答した。
この立派なカイゼル髭を持つ男は”侯爵将軍”ギル・ドレ。
名門貴族、公爵の称号を持つドレ家の当主であり、
軍制改革以前の”貴族将軍”として、
その地位を保ち続けている男である。
「将軍、このような合議などしなくても、
結論は出ているのではないですかな、
私の考えは、もちろん最も重いモノを望みます。」
ギル・ドレは落ち着き払って言った。
「まぁ、おおむね結論は決まっておるが、
一応他の者の意見も聞かねばならんのでな。
ふむ。マズロー、おぬしはどうじゃ?」
今回の軍事法廷で裁判官を務める老将軍は、
この密室で、ひときわ若い将校に話を促した。
若い男は、軽く咳ばらいをして話始めた。
「事案の特異性を考慮して、
真相究明に力を入れる必要があるかと考えます。
その為にも、
刑の執行は急ぐべきではないかと、
出来ましたら、さらなる調査を求めます。」
”慧眼のマズロー”の異名を持つ、
マズロー・シャゴール准将は平然と答えた。
彼は王国の歴史上、最年少の将軍であった。
「ふむ………、
お主の考えはよくわかった。
それでだ、量刑については、
”極刑”で異論はないか?」
アーツライト将軍は手短に言った。
「…ありません。」
マズローは、やや間をおいて答えた。
そして、声にならない声で、
「12歳の少年に…死刑か…。」
呟いた。
「では、ザグレブ大佐はいかがか?」
次に促されたのは、細い目の男、
カーク・”狐”・ザグレブ大佐”
彼は、抜け目のない狡猾さで、
何代にも渡り、高級将校を輩出し続けている、
ザグレブ家の現当主だ。
ザグレブ家の者は、その家紋章から、
代々”フォックス”の別名で呼ばれている。
カーク・ザグレブも、この呼び名を、
大変気に入っていた。
「特に…ありません。明白な軍法違反。
弁解の余地なし、ですなドレ卿。」
と、フォックスは”公爵将軍”に同意を求めた。
ギル・ドレは満足気にうなずく。
フォックスは続けた。
「この件、関わった者もそれなりの数です。
いずれ多くの軍関係者の知るところとなりましょう。
ですれば、この件が国民へと広まらぬうちに、
速やかなる刑の執行を求めます。
生ぬるい処置は王国の権威に関わります故。」
「そうですとも。そうですとも。」
と、大声で、相槌を打ったのは、
コール・”古狸”・リトマイケ少将。
この小太りで凡ような将校は、
代々続く商家の財力にものをいわせて、
ギル・ドレや他の貴族に取り入り、
ここまで出世した男だった。
「まだ意見を聞いていないのは、
貴公だけじゃ。
貴公はどう考えとる。」
アーツライト将軍は、
残された最後の男に話をふった。
ここまで一言もしゃべらず、
この場のやり取りを、
ただ黙って聞いていた、
サンダース・ヒル中将が、
ゆっくりと口を開いた。
「求刑は、………極刑ですか。」
サンダース・ヒルは、
しっかりと整えられた、
あご髭をなでながら、
「この罪状ならば、
致し方なし、…ですな。」
ゆっくりと答えた。
サンダースの発言を聞き、
アーツライトは、
この場にいる全員の顔を見渡した。
ギル・ドレ、フォックス、リトマイケは、
満足気な表情でうなずき、
マズロー1人が浮かない表情であった。
この結果に、ギル・ドレは上機嫌で、
「まぁ、妥当な結論でしょう。
しかし、集まってすぐ散会というのも、
いささか面白味にかけますな。」
この場にいる者たちへ話しかけた。
「わしは散会で構わんが…。」
アーツライトが答えきらぬうちに、
リトマイケが割り込んだ。
「まぁ、そうおっしゃらず、
せっかくですから、お茶を用意させましょう」
「では。」
フォックスはすぐに立ち上がり、
外で待つ秘書官へその事を伝え、
一式を手配させた。
会議室に給仕たちが入り、
手際よくお茶の準備が始まった。
部屋には華やかな紅茶の香りが漂った。
「少し外の空気を吸ってきます。」
サンダースは立ち上がり、部屋を出た
「私も。」
追いかけるようにマズローも部屋を出た。
その様子に、フォックスは、
「まったく、付き合いの悪い者たちですな。」
陰口を叩く。
リトマイケも一緒に、
「そうですとも、将校たるもののたしなみ、
わきまえておりませぬな。
あのような者たちが、
将軍の座につくなど、
軍制改革の悪しき一例といえましょう。」
陰口を叩いた。
「ふん、放っておけ。」
ギルドレは余裕の表情で、
運ばれてきたティーカップに、
手を伸ばした。
「…………。」
アーツライトは、
このやりとりに関心を示すことなく、
静かに出されたお茶を飲んだ。
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左 シュルツ・アーツライト将軍
真ん中 ”アン・べルディアの奇跡”サンダース・ヒル中将
右 ”慧眼のマズロー”マズロー・シャゴール准将
左 カーク・”狐”・ザグレブ大佐
真ん中 ”侯爵将軍”ギル・ドレ
右 コール・”古狸”・リトマイケ少将
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