オレ、巨大ロボットに乗ります2
<タツヤ降ろして、横にしよう。>
「え───!?
こういうのって、
動かさない方がいいんじゃ…。」
<違うよ!!
降ろして、横にした方がいいよ!!>
「いや、動かしちゃいけないんだって!」
<もう!
ここで、言い争ってもしょうがないでしょ!!
さっさと、降ろして横にするよ!!>
「…は…はい。」
オレはリゼルの勢いに負ける。
「オレ…いちおう…元は大人…。」
<はいはいはい。>
またもリゼルにあしらわれ、
「……はぁ……。」
オレはブツブツ不満をもらしながら、
細い体を精一杯使って、
パイロットのおっさんを慎重に座席から離し、
コックピットを出る。
「…うっ……。」
おっさんは、
相変わらず、意識がなかったけど、
時おり、うめき声を出した。
「お…、重いっ。」
<タツヤ、ガンバって!>
オレたちは、どうにかパイロットを、
地面へ降ろす。
そして、大木の木陰まで運び、
木の根っ子にパイロットの頭を乗せ、横にする。
<ねぇタツヤ!
額の傷口から血が出てきちゃってるよ。>
「ホントだ…。」
動かした衝撃なのか、
傷口が開いたみたいだった。
<血をとめなきゃ。>
「えーと止血か…。」
オレは、自分の身につけているもので、
使えそうなものを探す。
ズボン、シャツに、
頭には…、
「これだ!」
オレは左目に巻かれている包帯と、
その下のあて布を外し、
あて布をパイロットの傷口に、
押し当てる。
「ふぅ、これで少しは
止まってくれればいいんだけど。」
<タツヤ、近くに小川があるから、
水をくんで飲ませてあげようよ。>
「えーっ!
まだやるの。」
オレは想像とかけ離れた、
地味な作業に、
つい不満を言わずにはいられない。
<もう、文句ばっかり言わないでよ。>
「……はい……。」
オレはリゼルに言われて、
しぶしぶ水を汲みに行く。
「あのさぁ、これっぽっちしか、
くめないんだけど。」
オレはイヤミを込めて、
小さな手の中の水を、
まじまじと見る。
<少しだっていいよ!>
またもリゼルに怒られる。
オレはおっさんの元に戻り、
水を口にふくませた。
ゴクリ… ゴホッゴホッゴホッ
おっさんは、
オレの飲ませた水を、
口にふくんでむせた。
「…うっ…うぅ…、
……いっ……つっ…。」
おっさんがうめいた。
「す、すみません、
水、変なとこ入っちゃいました?」
<そうじゃないでしょタツヤ!!
気が付いたみたいだよ!!>
「あっ……。
───ど、どうも。」
オレは条件反射で、
テキトーなあいさつををしてしまった。
<”ど、どうも”!?
ちゃんとあいさつしてよ!!>
(ごめんごめん。)
オレがあらためて、
あいさつをしようとすると、
「こ、ここは…?」
パイロットのおっさんが口を開いた。
「ここですか。」
(リゼル、ここってどこだっけ?)
<シャペル村のはずれだよ。>
「シャペル村のはずれです。」
「私は…、
何故、このような場所に…。」
「それはですね…、
オレがライデンシャフトから、
降ろしたんです。」
オレはいたって普通に答えた。
「!?」
パイロットの表情がこわばった。
「…君は、いったい…何者だね!?」
おっさんは、オレたちに対し、
あからさまに警戒感を出し、
起き上がろうとする。
しかし、パイロットのおっさんは、
「ううっ…ぐぅ…」
苦痛に顔をゆがめる。
「あっ!!
まだじっとしておいたほうが…。
包帯だって巻いてないですし…。」
オレは恐る恐る、
おっさんの頭に、
包帯を巻こうとする。
「これを頭に巻こうかと…、
へ、変な事はしませんので。」
オレは包帯をおっさんに見せる。
おっさんは警戒しながらも、
おとなしく手当てを受けてくれた。
「これでよし…、と。」
「……かたじけない…、
…礼を言わせてもらおう。
しかし、こんな所で、
横になっている場合ではない…のだ、
早く…機体に…、戻らなければ…。」
おっさんは、もう一度、
起き上がろうとするが、
オレが止める。
「ダメですダメです。
まだ安静にしてたほうが…。」
「うぅっ…うっ。」
おっさんの顔色は明らかに悪い。
見えない箇所にも、
相当な怪我をしているようだ。
「…そういえば…、
自己…紹介が…、
まだだった…な…。
…私は、王国軍…少佐…、
グレン・グレアム…。
…君は?」
「え、あ、えーと…。」
<タツヤ!
ちゃんと答えてよ。>
(わかってる、わかってるよ。)
「オレは…。」
<さっきから気になってるんだけど、
僕は、自分のことを、
オレなんて言わないからね!!>
「もー、うるさいな。」
オレはリゼルとの会話を、
つい口走ってしまう。
「うるさい…!?
私は…、
うるさ…かったか?」
「あー、いや、
そういうわけじゃないんです、
すいません、気にしないで下さい。
えー、”オレ”じゃなかった。
僕は、リゼル・………。」
(なんだっけ!)
<ティターニア!!>
「えー、僕は、
リゼル・ティターニアであります。」
「…そうか……、
ティターニア君…か。
その目は…?」
「ああ、これですか、
見た目痛々しいですけど、
まぁ…大丈夫です。」
オレは無理やり笑顔を作る。
「…そ、そうか…。
ならば、これを包帯の代わりに…。」
グレアム少佐は胸元のポケットから、
大きなハンカチを取り出し、
オレへ手渡す。
「少年、…ここは、…危険だ、
今すぐ、離れな…うっ…」
グレアム少佐は、
怪我が痛むのか、
再び顔を大きくゆがめる。
<タツヤ、全然大丈夫じゃないよ。
ケガは僕たちの想像以上にひどいみたい。>
(そ、そうだな。
この様子だと、
村に戻って、
助けを呼んだほうがいいんじゃないか。
<……うん、
タツヤのいう通りかも…。>
(だろ!!)
「あのグレアム少佐!
オレ、あ!…いや僕、
急いで村へ戻って、
助けを呼んできます。
ここで待ってて下さい。」
オレは村へ駆けだそうとして、
少佐に腕をつかまれる。
その手には、
想像以上の力がこもっていた。
「…ティター…ニア君…。
私のことは……いい……。
…助けも、無用…だ。
もう…戻らなくていい、
帝国軍が……やってくる…。
…村の人と…逃げ…なさい。」
グレアム少佐は、
懸命に声を絞り出した。
(帝国軍!?やってくる!?
リゼル!!!
ど、ど、ど、ど、どうしよう!?)
<………。
このまま、グレアム少佐を見捨てるなんて…。>
(だったら、少佐も一緒に連れて逃げよう!!)
オレは、
「グレアム少佐も、
一緒に、急いで逃げましょう!」
グレアム少佐に呼びかける。
<……………>
リゼルは何も言わなかった。
「…私は…逃げるわけには、
…いかん。」
グレアム少佐は小さく首を横にふった。
(リゼル!!
オレたちだけでも逃げよう、なっ!!)
<………………>
リゼルは、また何も言わなかった。
(もういいだろ!
やれるだけのことはやったじゃん!!)
オレはリゼルに言い聞かす。
逃げないオレを見て、
「…何を……して…いる?
はやく…行き…なさい!」
グレアム少佐の声にいらだちがまじる。
「はい、すぐにでも行きたいんですが…、
なかなか話がまとまらなくて…。」
「………??」
グレアム少佐はオレの返答に、
困惑する。
(ほら!少佐困ってるし、
もういいだろ、行くからな!!)
オレは村へ走ろうとする、
しかし、体が動かなかった。
(もー!!なんでこうなるんだよ!!
リゼル、いい加減にしろよ!!)
<…逃げたって…ダメ…だよ>
(えっ!?)
<そんなのダメ!>
(ど、どうしたリゼル?)
<そんなの絶対ダメなんだ!!>
(い、いきなりダメって…。)
<村が…、シャペル村が…、
帝国軍に、
やられちゃうかもしれないんだよ!
そんなの、僕絶対許さない。>
(ちょ、ちょっと落ち着けって。
まだやられると決まったわけじゃ…。)
<僕、決めたよ!!>
(決めたって何を!?
あ、あと補足しとくけど、
もうすでに、村には被害出てるし…。
少佐の言う通り、みんなで逃げたほうが…。)
オレは、なんとかリゼルをなだめようとする。
<逃げる逃げるって、
どこに逃げるのさ!!
村を捨てろって言うの!!>
(そうは言ってないけど、
死んじゃったらお終いだろ!!
それよりは生き延びて…。)
<タツヤ、グレアム少佐に、
あの機体の状態を聞いて!>
リゼルはオレの話をさえぎって、
自分の話を進める。
(えっ…機体の状態!?
オレの話は?)
<いいから!!>
リゼルの興奮は収まらない。
<早くっ!!!>
「あ、あの、グレアム少佐、
機体の状態は、いかが…ですか?」
「…機体の…状態……!?」
グレアム少佐は、
戸惑った表情でオレたちを見る。
「なぜ…君が…そんなことを…。」
「聞けと言われたもんですから…」
「…!?」
グレアム少佐は、
オレの言葉にさらに戸惑う。
<もうタツヤ!!!
真面目にやってよ!!!>
「ああ、すいません、
お願いします!教えて下さい!」
「……」
グレアム少佐は黙りこんだままだ。
<もう時間がないんだよ!>
「あのぉ、時間が……」
グレアム少佐の目つきが険しくなる。
「…民間人…、
ましてや…、君の…ような…、
子供に…、
軍事情報を…教えるわけ…、
…にはいかん。」
<機体コード、
MLV-207・ブルージュ・ZWEI”>
(ちょ、ちょっと、いきなり何だよ!?)
<少佐に伝えて。>
「えー…機体コード、
MLV-207・ブルージュ・ZWEI”」
「………」
グレアム少佐は、突然のオレの発言を、
驚きの表情で見つめる。
<制御システムには、
魔導演算機統制機構を
採用、
装甲材質は
シルフィ二ウム+。
機体のフレーム機構は、
モータルフレーム。>
(そ、そいつも伝えるの?)
<うん。>
「制御システムは…、
……を採用で、
装甲……、
…………、
モータルフレーム。」
(はぁ、何とか言えた。)
「…少年…、どこで…その情報を…。」
<僕はただの民間人じゃありません。>
「ぼ、僕は、ただの民間人じゃありません。」
オレの言葉を聞き、
グレアム少佐は目を閉じて考え込む。
(…………)
<…………>
オレとリゼルは、グレアム少佐の様子を見守る。
すぐに、少佐は目を開き、
オレを真っ直ぐ見て話し始めた。
「………、
…わかった。
そこまで…、
言うのならば……。」
グレアム少佐は言葉をしぼりだす。
「墜落の…衝撃による、
損傷は…わからんが…。
大きな損傷は、
背部サブスタビライザー……、
それぐらいだ。
それ以外は……、
どうにか…動くはずだ……。
…あぁ、あと…、
魔導砲のチャージ…機構が……
おかしく…なってしまったか…。」
少佐は話し終えると、
ゆっくり息を吐いた。
(背部サブスタビライザー、魔導砲??)
<ライデンシャフトの姿勢を、
制御をする為のパーツの一つだよ。
コントロールは難しくなるけど、まだ戦える!
魔導砲だって、チャージできなくても、
何発か撃てるはずだし!!>
<タツヤ、少佐にお礼を伝えて。>
「グレアム少佐、ありがとうございます」
少佐は小さくうなずいた。
(戦える…って。
おいリゼル!!
お前まさか…!!)
<大丈夫、ボクにまかせて…!>
(ま、まかせてって…。)
オレはライデンシャフトを見上げる。
(オレが…、
この巨大なライデンシャフトを…。)
<いくよ、リゼル・ティターニア。
村は、僕が守るんだ!!>
リゼルの決意は本物だった。
(マ、マジで…、
この巨大ロボットを、動かそうってのか…。)
今日何度目だろうか、
体が勝手に動き出し、
オレは、ライデンシャフトへ向かう。
「ち、ちっくしょー!!!
なんでこうなるんだよー!!!」
オレは大声で叫ぶ。
走り出す少年を見送るグレアム、
「…無茶だ…。
…少年よ………、
……戻って………。」
グレアム少佐の声はそこで途切れた。
少年はライデンシャフトへ乗り込んだ。
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