シャペル村では1
再び、タツヤとリゼルの場面です。
───王国領・レイクロッサ近郊・シャペル村・リゼルの家・午後13時25分───
オレ(ヒビノ・タツヤ)が、
異世界の少年リゼル・ティターニアになって、
約3時間が経過した。
「…ってわけなんだ。」
<ふーん、最後は車にはねられちゃったんだ…。>
「うん、それで目覚めたら、この世界にきてた。」
<…僕の怪我と、何か関係あるのかな?>
「そういえば、この怪我だけど、
何があったの?」
<…実は、僕もハッキリと覚えてないんだ。>
「覚えてない?」
<うん。>
「けっこう大きな怪我みたいだけど、
特に左目とか…。」
<うーん……、
………ダメ、
やっぱり、思い出せないや。>
「そっか…、
まぁ時間がたてば、
思い出すかもしれないよ。」
<…だけどさ、タツヤの転生先、
なんで僕なんだろ?>
「な、なんで、って急に言われてもな…。」
<ぼくはどうなっちゃうのかな?>
「………」
オレは返答に困った。
<あ、ごめん、
タツヤだって、どうしたらいいか、
わかんないよね…。>
「ま…まぁ、
普通に考えりゃ…、
リゼルの身体なんだし、
返してほしいよな。」
ぐぅぅぅぅ~~
その時、オレたちの腹が鳴った。
「あは…はは…はは、
体は正直だ。」
<そろそろ、
ご飯できるんじゃないかな。>
「そういやさ、さっきから、
何かうまそうな匂いがする。」
オレは、匂いに引き寄せられるまま、
部屋を出た。
一階へ降りると、
大人たちが、せっせと食事の準備をしている。
(うぉ!!異世界ごはんかー!)
<わぁ、タツヤごちそうだよ!!>
大きなテーブルには、
大小さまざまな料理が並べられている。
大皿に、ローストされた肉のかたまり、
その脇に色とりどりのソーセージと、
カラフルな野菜のマリネ、
鳥の丸焼きは美味しそうな焦げ目がついてて、
巨大なパイからは湯気が立っている。
オレがテーブルの料理に見入っていると、
ドン!!!
いきなり、小さな女の子がオレに飛びついてきた。
「ええっ!?」
(金髪に青い瞳!?
すげー!!異世界ファンタジー度アップ!!)
オレはあらためて興奮する。
(って、感心してる場合じゃないや、
リゼル、だ、誰だ!この子!!)
<へへへ、誰だと思う!?>
(えっ!!!誰だと思う!?
ちょっ、ちょっと、勘弁してよ、
こっちが聞いてんのに!!)
<…もう、ノリが悪いなぁ。>
(うっ…、確かにノリは、
よくありませんよ…。
だから、前の世界ではボッチだったし…。)
<あ、そんなに落ち込まないでよ、
ちょっとふざけてみただけなんだから。>
(ううっ…、子どもにもて遊ばれるオレ…。)
<この子は、姪っ子のミレーネ。>
(め、姪っ子…。
そ、そんなのさ、いきなりわかんないって。
ふつうだったら妹とかじゃんそこは…。)
「リゼルお兄ちゃ────ん!」
小さな女の子は、オレに抱きついたまま、
泣きじゃくっている。
(ちょ、ちょ、ちょっと…!?
こういう場合、
どうすればいいんでしょうか?)
オレは初めての状況に、
てんぱってしまう。
<ねぇ、何でそんなにオロオロしちゃうの。>
(───え、あ、オロオロなんて、
して…ないよ。)
オレは一応強がってみる。
すると、さっきまで泣いていたミレーネが、
今度は満面の笑みでオレを見ている。
「リゼルお兄ちゃん!!」
<もう、しょうがないなー。
僕のまねして言ってみて。
いくよ。
「ミレーネ! 元気にしてたかー!」>
「え、あ、ミレーネ、元気にしてたかー!」
オレは、あわててリゼルに合せる。
「もう…大丈夫なの。」
ミレーネは嬉しそうに聞く。
<うん。>
「う、うん」
「よかったね!ほら、ボボも喜んでるよ!!」
ミレーネは、手に持ったヨレヨレのロバのぬいぐるみを、
オレに見せつける。
「ボボもね、すっごい心配したんだから。」
「え、ボボ?心配…?。」
(おいリゼル、あれ、どこからどう見ても、
ボロボロの小汚いぬいぐるみじゃん。)
<そんなこと言わないで、
ボボはミレーネの大切な友達なんだから、
話合わせてあげてよ。>
「お兄ちゃん、
ボボにもお礼言わなくちゃね。」
「え、あ、その…、ボボ、あ、ありがとう。」
オレは小汚いぬいぐるみにお礼をする。
「ダメ!もっと心込めて!!」
「え!?ダメなの…?」
<あははははは。>。
オレの中でリゼルが笑う。
(くっそー…)
「ちょっと、ミレーネ!
あんまりリゼルを困らせちゃいけないよ。」
ふくよかな女の人が、
料理を運びながらオレたちの話に入ってきた。
ミレーネは、
むーっと不満げな顔で、
ゆっくりと、オレから離れる。
「…リゼル…ほんとよかったわ。」
女の人はオレを見て涙ぐむ。
<…メリーおばさん!>
リゼルも感極まる。
(あのぉ…、またまた、
オレ、どうすればいいんでしょうか…。)
<え…、あ、そうだね、とにかく笑って!!>
オレはとにかくリゼルに言われるがまま、ニッコリ笑った。
「ああ…リゼル…、
よく頑張ったね。
今日はごちそうだよ!!」
メリーおばさんは、
料理を持ったままオレを抱きしめた。
<僕は、オムルじいちゃん、
メリーおばさん、ミレーネの3人と暮らしてるんだ。>
(く、苦しい───おばさん強く抱きしめすぎだって…。)
「おお、リゼルそろそろ準備できるぞ。
メリーさん…、ホントによかったのぉ。」
オムルじいちゃんに声をかけられ、
メリーおばさんのハグが弱まる。
(はっ、はぁ…、た、助かった…。)
「ええ、ちゃちゃっと運んじゃいましょう。」
メリーおばさんは料理の配膳に戻った。
オムルじいちゃんは笑顔でオレを迎え、
席に座らせる
「そういえば、リゼル、
眼鏡はどうしたんじゃ…?」
「眼鏡…?」
<あ、そうだった!!>
(ど、どうかしたのか?)
<僕、視力が悪くって、
普段メガネかけてたんだ。>
(え!?そうなの…、
悪いってどれぐらい?)
<んーと、視力は0、01ぐらいで、
乱視もあったんだ。>
(あ、あの…、今はふつーに見えてますけど…?)
<そういえば、そうだね……、
さっきは眼鏡なしで、本読んでたもんね。>
(じゃ、じゃあ、なんて答えればいいんだろ…?)
<うーん、もういらなくなっちゃた。>
(え、ええ!!
そんなんでいいの。)
<じゃあ、なんて説明すればいいのさ。>
(そ、そう言われても…)
<いいよ、いらなくなったんだからそれで。>
(は、…はい。)
「もういらなくなっちゃった。」
オレは、リゼルに言われた通りに答えた。
「いらなくなった!?なんと…不思議な事が…」
オムルじいちゃんは、目を丸くして驚いた。
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