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我ら進み行くべし

―――アルレオン・ミルファ邸―――



 決闘翌日の朝、

 執事セバスチャンのバリトンボイスが、

 ミルファ邸に響く。


「おはようございます、ミルファ様、

 まずは、朝食をお取りいただきながら、

 本日のスケジュールをご案内します。」


 セバスチャンの横には、

 朝食の乗った配膳トレイを持つ、

 若い女給仕が待機している。

 

 しかし、セバスチャンの呼びかけに対し、

 館の主から返答はなかった。


 代わりに、


「にゃ~♪」


 部屋の中から、

 猫の鳴き声と、

 扉を引っかく音が返ってきた。


「ミルファ様、

 入室させていただきます。」


 セバスチャンがゆっくりドアを開けると、

 セバスチャンの足元に、

 翼猫(ラムケット)のライがちょこんと座っている。


 翼猫(ラムケット)のライは、

 給仕の持つ朝食のトレイへ、

 熱い視線を送っている。


 セバスチャンが女給仕に、


「食事は机の上へ置いて、下がってよいですぞ。」


 食事のトレイが机に置かれるやいなや、

 ライは、机に飛び乗り、

 特注の皿に置かれた自分のエサを食べ始めた。


 セバスチャンは、

 夢中でエサを食べるライの頭を軽く撫でると、

 ミルファの部屋を後にした。


 そして、そのまま足早に屋敷の書庫へ向かった。


 セバスチャンが古書物庫へ入ると、

 床に山積みにされた本に囲まれたミルファがいた。


 ミルファは一心不乱に集めた文献を読み漁っている。


「ん~、ライデンシャフトが()()()()()()()()()

 あれば絶対記録に残ってるはずだけど…、

 聞いたことないもんなぁ…、

 ルーンリアクター関連の本にも、

 ヒントになるようなことは載ってないし…。」


「やはり…、こちらでしたか。」


 セバスチャンは少し呆れながら、

 ミルファへ声をかけた。


「あっ…セバスチャン…、

 てことは…もう朝か…。」


 ミルファは本に目を落としたまま返事をした。


「はい、朝でございます、

 その様子ですと、

 睡眠は取っていらっしゃらないようですな。」


 ミルファは手に取っていた本を閉じ、

 セバスチャンへ顔を向けた。


「はいはい、お説教はなら間に合ってます。」


「……さようでございますか。」


 セバスチャンは淡々と答えた。


「では、本日の予定をお伝えします。」


 セバスチャンは懐からメモ帳を取り出し、

 読み上げ始めた。


「午前中は昨日の決闘の件で、

 アルレオン・ギルド評議会

(町の有力商人や職人で構成された)が、

 臨時招集されますので、

 ミルファ様にもご出席していただきます。」


「やっぱ…、行かなきゃダメ?」


「ことがことでありますから、

 出席していただきます。」


「だって、まだ調べたいことが…。」


「実際、あの場にいらしたわけですから、

 直接説明をされるのが筋ではないかと…。」


「そこを何とか、ここは代理を立てて…。」


「ミルファ様!

 ここで重要になりますのは、

 領主自ら、この問題の対応に当たっている、

 その姿勢をしっかり示すことでありますぞ。」


「う”~。」


「主な議題は、決闘における火器使用の経緯説明、

 及び、被害施設、負傷者への補償、

 迅速な被害施設の復旧計画の策定、

 この点が強く求められるかと思われます。」


「午後は、

(貴族や騎士、魔導士で構成された)元老院にて、

 こちらでも経緯説明をしていただき、

 次に、見込まれる費用の捻出方法、

 復興業務への議員の割り当てについて、

 しっかりと話し合っていただきます。」


「あー、どっちも気が重い…。

 セバスチャン…、

 やっぱ代わりに行って説明してきてよ。」


「ミルファ様…、わたくしの話を聞いておられましたか?」


 ミルファはわざとらしくセバスチャンから目をそらす。


 見かねたセバスチャンは、


「わたくしは、ミルファ様のおじいさまより

 ミルファ様が領主の勤めをしっかりと果たすよう、

 それはそれは厳しく仰せつかっておりますゆえ、

 ここはどうしてもミルファ様が直接出向かれまして…云々かんぬん。」


 ここぞとばかりお説教を始めた。


「はいはいはい…。」


 ミルファは話の途中で心無い相槌を打つと、

 床に大の字になり、


「あー、領主なんてめんどくさーい!!」


 大声で叫んだ。


 セバスチャンはそんなミルファに対し、

 すぐに反応することはせず、黙って見守った。


「はぁ…。」


 しばらくして、

 ミルファは息を大きく掃き出し、

 起き上がった。


「…少しは気が晴れましたかな。」


 セバスチャンは少し間を置いて声をかけた。


「まぁ…、ちょっとはね。」


 ミルファはここで初めて笑顔を見せた。


「では、まずは朝食をお召し上がりください。

 それから、あの()()()()()()()につきましても、

 何か手を打つ必要がございます。」


 二人は書庫を出て、

 朝食の用意された寝室へ向かった。





―――アルレオン軍学校・校舎―――



 朝、アルレオン軍学校・校長サンダース・ヒルは、

 校舎の屋上で煙草をくゆらせていた。


「オムル殿…………、

 このサンダースも、手を焼いております、

 なかなか、こちらの思うようにはいきませんな。」


 サンダースは独り言を呟き、屋上から街を見渡す。


 崩れた城壁や、黒く焼け焦げた家屋や樹木、

 大きく陥没した道がサンダースの目に飛び込んでくる。


 昨日の決闘における街への被害は甚大だった。


「校長、こちらでしたか!」


 街を見下ろしていたサンダースへ、

 若い女性の事務官が声をかけてきた。


「ほぉ…よくこの場所がわかったな。」


 サンダースは少しばかり驚いた表情を見せた。


「着任以来、度々屋上にいらっしゃると聞いて、

 今朝もこちらではないかと思いました。」


「そうであったか…、

 高いところが落ち着く、そんな性分なんでな。」


「それはやはり、

 長年機兵のパイロットをされていた事とご関係が?」


「さあな…、ただ高いところが好きなだけかもしれん、

 と、無駄話はこのぐらいにして、

 何か要件があるのでわしを探していたのであろう。」


「はい、こちらにお目通しを、

 お願いいたします。」


 若い女性事務官は、サンダースへ書類を手渡す。


「レイクロッサ基地からか…。」


 サンダースは渡された書類に目を通した。


 女性事務官は続けた。


「校長、それから別件なのですが、

 レリウス教官の代理について、

 他の教官が校長に助言を求めております。」


 サンダースはしばらく思案し、

 もう一度手に持った書類へ目を落とした。

 

「ほぉ……、()()()()…、

 こちらの運もまだ尽きてはおらんようだ。」


 サンダースは声を上げ、頬を緩めた。





―――アルレオン軍学校・リンドブルムの教室―――



 オレとリゼルは医務室から教室までの移動の間、


<タツヤ…、僕たち何か悪いことでもしたのかな…。>


(オレたちは、…出来る限りのことをやった、

 …オレたちなりに。)


<…そうだよね。>


 周囲の反応が劇的に変わったことを、

 意識せざるをえなかった。



「おい!!ティターニア!!」


 そんな状況で、オレが教室へ入るなり、

 いきなりクラヴィッツ兄弟・兄のデュロイに、

 胸ぐらを強くつかまれた。


「痛ててててて、

 な…なにすんだよ…。」


 オレはケガの痛みで思ったように力が出せない。


(マジ勘弁してくれよ…!

 こっちは怪我してんだから…。)


<タツヤ!!

 そんなこと言ってないで、やり返さなきゃ!!>


(リゼルも、いきなりそんな無茶言わないでよ…。)


「お前…一体()()()()を使ったんだ!」


 デュロイはそんなオレにお構いなしで、

 オレの身体を強くゆする。


 デュロイの目は、

 今までオレをおちょくっていた時とは違って、

 ヤバいくらい真剣だ。


「い…痛い、痛いって!」


 オレはデュロイの手を振りほどこうとするが、

 全く相手にならない。


 周りにいる他の男子生徒たちも、

 デュロイと同じく厳しい目をオレたちに向ける。


「ちょっとそこ…何やってんの!

 離しなさい!!」


 オレたちのピンチに、

 級長のリコ・アフィデリスが声を上げ、

 オレたちのそばに駆け寄ってくる。


「そうですよ、暴力はいけません!」


 クラスメイトのフルムや、


「ティターニア君、痛がってるじゃないですか!」


 サーヤも黙っていなかった。


 その時、オレのシャツから、

 デュロイの手が離れた。


「…やめろよ兄貴!」


 デュロイの手をつかんでいたのは、

 双子の弟トロイだった。


 オレがトロイに目をやると、


「別に、お前のためじゃない、

 バカな真似をして、

 兄貴が減点処分されちゃ困るからな。」


 トロイはそのままデュロイの肩を引っ張って、

 オレから離れた。


 デュロイは離れ際、


「こうなったら、摸擬戦だ!

 摸擬戦で教官を倒した腕前が本物かどうか、

 確かめてやる!!

 楽しみにしてるぜ!!!」


 まだオレに悪態をついてくる。


<タツヤ!あんな奴に絶対負けない!!

 僕たちの本当の実力見せてやろう!!!>


 リゼルはリゼルで興奮してる。


「もう、いい加減にしなさい!!」


 リコの声が教室に響く。


 オレはといえば、


「痛っつつつつ…。」


 ケガの痛みでそれどころではなかった。


「ティターニア君、大丈夫ですか?」


 それを見たサーヤがオレを心配してる。


 眼鏡のフルムはオレの背後に近づいて、


「ところで、決闘でありますが、

 一体どういう扱いになっているのでありますか?

 こちらとしては、勝者を知りたいところであります。」


 マイペースに自分の聞きたいことを聞いてくる。


 フルムの質問には、

 周囲の生徒たちもあからさまに興味を示す。


「え、えーと…それについては…。」


 オレは答えに困った。


 正直、そのことについては、

 オレもどうなっているのか知りたかった。



 そんな慌ただしさの中、

 教室のドアが開き、

 サンダースのおっさんが教室へ入ってきた。


「何やら騒がしいが、どうしたのだ?」


 おっさんは教室に入るなり、

 オレたちへ尋ねた。


 オレの周りに集まっていた生徒たちは、

 急いで自分の席に戻った。


 オレたちもそれを見て、

 慌てて自分の席へ移動し、

 起立の姿勢でおっさんを迎えた。


 校長への敬礼が済むと、級長のリコが、


「先ほどの騒動ですが、

 何でもありません。」


 オレたちを代表しておっさんの問いに答えた。


 リコはあえて、

 オレとクラヴィッツ兄弟のことには触れなかった。


「……そうか。」


 サンダースのおっさんもそれ以上追及しなかった。


 おっさんは教壇に立つと、


「レリウス君は昨日の機兵決闘による負傷のため、

 しばらく教官の任から外れる。

 それから、聞かれる前に伝えておくが、

 昨日の決闘は、まだどちらが勝者か決まっておらん、

 なのでこの件については、

 これ以上の質問は受け付けない、よいな。」


 昨日の説明を始めた。


 教室は一気に静まり返った。


 そんな中であっても、

 級長のリコは堂々と手をあげる。


「どうした。」


 サンダースのおっさんは、

 この状況で手を挙げるリコを見て、

 嬉しそうに発言を許す。


「校長、レリウス教官の容態について、

 教えていただいても、よろしいでしょうか?」


「容態か…………、

 安心せよ、大事にはいたっておらん。」


 それを聞いて、一斉にリンドブルムの生徒たちは、

 安堵の表情を見せる。


 リコはそのまま質問を続ける。


「レリウス教官が不在の間、

 どなたがリンド・ブルムの担当をされるのでしょうか?」


 クラス中の意識がおっさんの答えに集まる。


 おっさんはその様子を楽しむように、

 わざとらしくたっぷりと間を取り、


「………()()。」


 静まり返っていた教室が、

 一気にどよめいた。


「さらに、諸君らに知らせがある。」


 どよめく生徒たちを尻目に、

 おっさんは一枚の書類を上着から取り出し、

 オレたちの前に掲げた。


「レイクロッサ基地より、

 ()()()()()()()()()()()()()()()が届いた。」


 その報告に、

 さらに教室内の興奮が高まる。


<タツヤ…!!これって!?>


 リゼルも興奮を隠せないでいる。


「そこで、

 卒業間近に行っていた、

 機兵トーナメント大会を早め、

 優勝した者を今回の推薦者にしようと思う。」


 おっさんの報告に、

 生徒たちの目つきが明らかに変わった。

 

<やったよタツヤ!!

 大会に優勝したらパイロットだ!!>


(た、確かに…そうだけど…、

 優勝は気が早いって…、

 まだ決闘の結果もわかってないし、

 肋骨のケガだって全然治ってないし…。)


<ケガの痛みだったら、

 またミルファさんに、

 魔法を使ってもらえばいいじゃん!>


(いやいやいや、

 あれはケガの痛みを、

 一時的に感じないようにしてるだけで、

 切れた時がとんでもない痛いんだって!)


<そんなの我慢してよ!!>


(簡単に言うなよ…。)


<死刑よりはましでしょ!>


(そりゃ…、もちろんそうなんだけど…。

 おっさん…何でオレたちに、

 ここまでしてくれるんだか…。)


 教室全体がオレたちを含め、

 興奮に包まれる中、

 

「校長、一点確認させてください。」


 リコのいたって冷静な声が教室内に響いた。


「何だ?」


「これまでの機兵トーナメント大会は、

 卒業間近に、あくまでも、

 授業の一部として行われてきました。」


「そのようだな。」


 おっさんも冷静に返す。


「自分がお伝えしたいのは、

 最終的なパイロットへの推薦者は、

 学業や生活態度、実機成績等、

 それらを総合的に判断して決められていたはず、

 ということです。」


「まぁ…それはわかっておる、

 しかし、レイクロッサの置かれた状況を考えると、

 即戦力、でなければならぬと思ってな。」


「即戦力…ですか?」


「ああ、あそこは前線基地だ、

 配属、即実戦となる可能性が大いにある、

 ならばわしとしては、パイロットの操縦技術を、

 最大限に評価したい、というわけだ。」


「承知いたしました。」


 リコはおっさんの説明を聞き、引き下がった。


 サンダースのおっさんは説明を続ける。


「なるべく早く、大会を開催したいのだが、

 使用する機体の準備や、整備班との連携も必要で、

 すぐ明日から、というわけにはいかん。

 昨日の決闘の後始末も済んでおらんしな、

 なのでスケジュールについては、

 すべての準備が整い次第、追って知らせる。

 では、一旦解散。」


 言い終わると、おっさんは教室から出て行った。


 オレはというと。


 喜ぶリゼルとは反対に、

 昨日の決闘の結果とか、

 結果次第では、軍にいられなくなって、

 処刑されちゃう可能性が出てきてしまうこと、

 軍に残れても、このケガで操縦しなきゃいけない、

 気になることが多すぎて、

 この状況を素直に喜べないでいた…。





―――フィレリア王国・王都グレミア―――



 夕刻のフィレリア王国王都グレミア・北門


 大勢の軍関係者や王国の執政官、有力者が、

 新たな王国軍・最高司令官を出迎えるため、

 王都北門に集結した。


 王家からは宰相サラリンドが参列している。


 そこに、和やかな歓迎の雰囲気は無く、

 張り詰めた空気が漂う。


 それは王国と北部の関係そのものであった。



 王国軍・准将マズロー・シャゴールは、

 新司令官出迎えの集団の中から、

 この状況を見守った。


 マズローの表情は険しかった。


 重苦しい沈黙が続く。


 誰一人として口を開く者はいない。

 

 しばらくすると、

 紅く染まった夕空に、

 クロスした両刃斧(ラブリュス)の紋章旗が現れた。

 

 紋章旗が近づくにつれ、

 マズローたちの緊張が高まる。


 そして、紋章旗を掲げた集団は、

 サラやマズローたちの前で止まった。


 北の領主サウール・ポウジーが、

 大勢の臣下と共に、

 中央軍参謀本部・新司令官として、

 王都グレミアへ到着した。












リゼル・ティターニアの軍での立場が定まらぬまま、

サンダースは強引に軍学校で事を進めようとしていた。


彼の協力のもと、再び訪れた試練を前に

タツヤたちは活路を見出せるのか…?


機導大戰ライデンシャフト


次回もお楽しみに!




◇◇◇◇◇◇◇




ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
タツヤたちがどうなるか心配でしたが、事態が好転したようでひとまず安心しました。それにしても、リゼルの無茶ぶりには思わず笑ってしまい、読んでいてどんどん楽しくなります。作品を読む前はクラヴィッツ兄弟が気…
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