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邂逅

 機兵決闘の舞台となった軍学校演習場に、

 突如現れた謎の赤い機体。


 その正体不明の機体は、

 レリウス搭乗機ゼクウを、

 圧倒的な力で戦闘不能へと追い込んだ。

 

 この事態にギル・ドレは、

 謎の赤い機体を止めるため、

 アルレオン基地所属・第一守備隊を投入した。


 しかし、謎の赤い機体は、

 第一守備隊をはねのけると、

 再び攻撃の狙いを、

 倒れたレリウス機へ向けるのだった。



 一方、

 アルゴ内部のコックピットに、

 取り残されたタツヤたちには、

 ある異変が起こっていた。




――――――アルゴ内部――――――



「うっ…うう……。」


 オレが意識を取り戻すと、

 コックピットの中は、

 すべての計器類がダウンし、

 真っ暗になっていた。


 オレは真っ暗なコックピットの中で

 決闘のラストを思い返した。


「えーと…オレたちの攻撃はかわされて…、

 レリウス教官に機体の胴体をぶっ刺され…、

 オレたちは……負けた。」


 最悪の結末に、

 オレは大きなため息をついた。


 いつもならここでくるはずの、

 リゼルからの容赦ないツッコミが無かった。


「はぁ…この後…どうなるんだろ。」


 オレはとりあえず、

 コックピットの中を明かるくしようと、

 手探りでやみくもに計器類へ手を伸ばした。


「………ダメか。」


 計器類は何の反応も示さない。


 コックピットは完全に沈黙してるみたいだ。


「あのさぁリゼル、

 こういう時の非常用動力とかどうなってんの、

 どうすればいいか教えてくれよ。」


 オレはいつもの感じでリゼルに聞いた。


 しかし、ここでもリゼルからの応答がない。


「あっ…?」


 そこでようやく、

 オレはパイロットスーツの内側に忍ばせておいた、

 リゼルの日記が無くなっていることに気づいた。


 それと同時に、オレは自分の体のあちこちを触った。


「…どうなってんだよ。」


 オレはパイロットスーツの代わりに、

 制服のようなものを着ている。

 

 そして、体の感触は()()()()()()()()ではなかった。


「ど…どうなってんだ…。」


 オレは違和感だらけの現状を、

 まったく理解できなかった。


 オレは一旦そのことを考えるのを止め、

 

「おーい誰かー!!」


 コックピット内部を叩きながら叫んだ。


「!?」


 ここでも明らかな違和感が生まれた。


 叫んだ声が、

 いつものリゼルの声と明らかに違った。


「何か…変だ…。」


 オレは今すぐここから出ようと、

 正面のコックピットハッチを力いっぱい押した。


 そもそもコックピットハッチが、

 人力で開くのかどうか、

 オレは細かいことは考えなかった。


「うぐぐぐっ…。」


 オレが全力で押すと、

 ハッチは僅かに開いた。


 かすかな光がコックピット内に入ってくる。


「よし!!」


 オレは力の限り懸命にハッチを押した。


 ハッチはくそ重いが確実に動く。


「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」


 オレは力をふり絞った。


 すると、


「うええ―――っ!!!!?」


 重さが消えた瞬間、

 オレはハッチと一緒に垂直落下していた。


「まじかよっ!!?」


 オレの視界に突然、

 一面の青空が広がる。


 いきなりの命綱無しバンジージャンプに、

 頭が真っ白になる。


ザッパアアアアン!!!


 次の瞬間、オレは水中に沈んでいた。


 水中に落ちたオレは、


「………やばい!!

 今度は溺れる!!!」


 ゴボッと泡を吐きながら必死にもがき、


「と、とにかく…明るい方へ進まなきゃ!!」


 手足を必死に動かす。


 オレはカナヅチでは無かったけど、

 服を着たままの体はメチャクチャ重く、

 思うように上昇しない。


 オレは死に物狂いで明るい方へ泳いだ。


「ぶはぁっ!!

 はぁはぁはぁはぁ……。」


 なんとか水面に顔を出すと、

 激しく息を吸う。


「はぁはぁはぁ…。」


 そして、オレはそのまま、

 すぐ近くの岸まで泳いだ。


 泳いでる最中、

 オレは()()()()()()に気づいた。


 それを確かめるため、

 オレは水面に映った自分の姿を、

 まじまじと見つめた。


「……やっぱり。」


 水面に映っていたのは、

 隻眼の少年リゼル・ティターニアではなく、

 長く見慣れた冴えないおっさん、

 ()()()()()()()の顔だった。


 着ている服も軍学校の制服ではなく、

 着慣れた安いビジネススーツだ。


「……どう…なってんだよ。」


 オレは地面に大の字で倒れこんだ。


「はぁ……この状況…、

 誰か…説明してくんねえかな…、

 ……って…あれ…?」


 寝転んだオレの視界に、

 見覚えのある風景が広がる。


「この…景色って……最初の……

 えーと……確か…シャペル村!?」


 オレが落ちたのは、

 村の中にあるため池のようだ。


「何なんだ…これ…、

 なんでオレ…、こんな所に……。」


 その時、強烈な光の柱が空へ上がった


 オレは寝転んだまま、

 光の発生源へ目をやる。


「あそこは…、リゼルの家?」


 その瞬間、オレの頭の中に、


<──僕は…勝つんだ…。>


 声が響いた。


<…負けちゃダメなんだ!!>

 

 聞き取りにくいが、

 リゼルの声だ。


「あー…もう動きたくない…。」


 オレはリゼルの声が聞こえても、

 しばらく寝転んでいた。


 その間ずーっと、

 オレの頭の中でリゼルの声が響き続ける。


「あ”ーっ…ダメだ!

 うるさくて寝てらんないよ。」


 オレは渋々起き上がり、

 びしょ濡れのまま、

 リゼルの家へ向かった。


 向かっていると、


―――ゴォオオオオオ!!!!


 今度はもの凄い轟音が耳をつんざく。


 だけど周囲には音の発生源になるものは

 見当たらない。


 そして、頭の中では、


<絶対に…勝つんだ!!>


 リゼルの声が響く。


 

 オレは足を速め、

 リゼルの家までやって来た。


 すぐに家の中へ入ろうとするが、

 玄関のドアは開かなかった。


「すいませーん、リゼル!

 開けてくれよ!!」


 オレは何度もドアを叩きながら叫ぶ。


「オムルさーん、ミレーネちゃん

 誰でもいいから開けてください!!」


 しかし、ドアが開くことはなかった。


 その間もオレの頭の中では、


<絶対に勝つんだ!絶対に勝つんだ!

 僕は絶対に勝つんだ!>


 リゼルの叫び声がさっきよりも大きく響く。


 オレは玄関のドアをあきらめ、

 中へ入るため、他の方法を探す。


 オレは玄関から、家の側面へ移動し、

 木製の窓に手をかけた。


「ふぅ…やっぱり開かないか…。」


 オレはここで、窓から離れた。


 やりたくなかったが、

 他にいい方法が思い浮かばなかったので、

 オレは助走に十分なだけの距離を取った。


「ふぅ……。」


 深呼吸をして、窓に向かって走りだす。


バキィィィィィ!!!


「痛って――――!!」


 オレが文句を言っていると、


「!!!!!?」


 いきなり椅子やテーブルが、

 オレをめがけて飛んでくる。


「マジかよ!!!」


 オレは必死で、

 飛んでくる家具や食器を避けながら、

 2階へ向かった。


 リゼルがいるとしたら、

 きっと屋根裏部屋だ。


 何の根拠もないけど、

 最初からそんな気がしていた。


 リゼルの部屋へ入ると、

 物は飛んでこなかったけど、

 頭の中のリゼルの声がより一層大きくなった。


「間違いない…、

 リゼルは…屋根裏部屋にいる。」


 オレは、こっちの世界へやって来た日のことを思い出して、

 あの時と同じタンスの引き出しを引いた。


 すると、天井の板が開き、

 そこから縄梯子が落ちてきた。


 オレはそれをなんとかよじ登っていく、

 小柄なリゼルの体にくらべて、

 アラサーのオレの体は想像以上に重かった。


 登りきって屋根裏部屋へ到達すると、


「………!?」


 オレは言葉を失った。



 屋根裏部屋に驚きの光景が広がっていた。


 部屋全体が巨大な360度スクリーンになっていて、

 軍学校の演習場が映し出されている。


 リゼルは、コックピットを模した、

 シュミレーターの座席に座っていた。


 リゼルからは異様な光が放たれ続け、

 シュミレーターを動かしながら、

 何かぶつぶつ言っている。


 リゼルはオレに気づいていないようだ。


「おいリゼル!!」


 オレがリゼルに近づく、その瞬間、


「痛ッ―――――!!!」


オレの全身に電流のようなものが流れた。


 続いて、強烈に頭が締め付けられ、

 耳鳴りも始まった。


「痛ッ痛ッ痛ッ!!!!」


 オレはその場に倒れ転げまわった。


「や、やめてくれよ―――!!」


 オレはリゼルに懇願するが、

 リゼルはオレを無視し続ける。


 スクリーンに映る演習場の中では、

 ()()()()()()()()が、

 ()()()()()()()()()()()()()()()()を、

 乱暴に引きちぎっている。


「お、おい…リゼル!!

 お前…何やってんだよ!!」


 オレが声を荒らげると、


「痛ッ痛ッ痛ッ!!!」


 再び電流がオレの身体を襲う。


「おい!!リゼル!!!

 オレの声が聞こえてないのか!?」


 オレは必死に近づこうとするが、

 頭の締め付けや、

 頭が割れるかと思うぐらいの、

 激しい耳鳴りは一層強くなっていく。


 オレはその場で倒れたまま悶絶。


 その時、家全体が大きく揺れる。


<くっそー!!

 邪魔をするな―――!!!>


 リゼルが叫び声を上げた。


―――ドシュウウウ!!!!


 複数の守備隊機がリゼルに向かって、

 魔導砲の一斉集中砲火を始める。


「うわわわわっ。」


 家全体がさらに大きく揺れた。


<ぐぐぐぐぐっ…。>


 リゼルは砲撃を浴び続け、

 後退を余儀なくされる。


<何で…何で…、

 みんな僕の邪魔をするんだ…。>


 リゼルの声は怒りに満ちていた。



 いったん砲撃が止むと、

 360度スクリーンが映し出す演習場の中で、

 複数の人影がレリウス教官の機体へ向かっている。


 オレは何とか痛みに堪えながら、

 その人影を目で追った。


 その人影は、ミルファやサンダースのおっさん、

 リンドブルムの面々だ。


 リゼルもミルファ達に気づいた。


<なんで…なんで……、

 なんで、みんな僕の邪魔をするんだ!!

 僕は絶対に勝たなきゃいけないんだ!!>


 リゼルは機体をレリウス機へ向ける。


<そんなに邪魔をするんなら、

 ()()()()()()()()()()()()!!>


「お、おいっ!!!殺す!?

 それはさすがにまずいって!!!」


 オレは激痛に堪え、

 必死に立ち上がった。


「ど、どうにかして、リゼルを止めなきゃ…。」


 スクリーンには、ミルファたちの姿が映っている。



「うおおおおお――――――!!!!!」



 オレは叫びながらリゼルめがけて突っ込んだ。



<うわああああああああ!!!!!>



 リゼルもまた機体を発進させる。



「うおおおおお――――――!!!!!」



 オレの伸ばした両手がリゼルに触れる。



 その瞬間、オレを襲っていた激痛が消え、

 オレは、またそこで意識を失った――






■■■■■



 その後、アルレオン軍学校・第一機兵演習場。



 暴走する謎の赤い機体は、

 レリウス機の寸前まで迫ったところで、

 突然、動きを止めた。


 その間にミルファやリンド・ブルムの生徒たちは、

 ゼクウの破損したコックピットハッチを懸命にこじ開け、

 レリウスの救助に当たった。


 レリウスがゼクウコックピット内から、

 無事救助されると、

 謎の赤い機体は再び強烈な光に包まれ、

 元のアルゴへと姿を戻し、完全に動きを停止。


 停止したアルゴのコックピットから、

 リゼル・ティターニアが救出された。


 こうして、リゼルティターニア対レリウス教官による機兵決闘は終結した――





 決闘が終わった演習場では、

 軍整備兵たちが破損したアルゴ、ゼクウの回収、

 軍学校教官や学生達は、

 様々な後片付けに追われている。


 ミルファとサンダースは、

 その様子を見つめながら、

 いくつかの会話を交わす。


「ミルファ殿……、今後についてですが、

 いかがなさるおつもりで…。」


「ふぅ………わかんない、

 正直、何から手をつければいいか…。」


「私に出来ることであれば、

 何なりとお申し付けください。」


「サンダース…ありがと。

 じゃあ、まずは二人のお見舞いに行ってきて、

 ボクは早急に、この件の報告書を取りまとめて、

 中央に報告を入れるから。」



 こうして二人は険しい表情のまま、

 演習場を後にした。







□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□



 ■機兵決闘レポート


 アリーシャ・レリウス中尉 重傷

 搭乗機ゼクウ 頭部損壊 両腕部損壊 右脚部損壊 左下脚部損壊 胸部損傷

 

 リゼル・ティターニア候補生 軽傷

 搭乗機アルゴ 左腕部損壊 右肩部損傷 胸部損傷 頭部損傷 魔導融合炉損傷


 第一守備隊機

 複数機 一部損壊、損傷

 隊員数名 軽傷


 ※()()()()()()()()()()()()()()()()()

  ()()()()()()()()()()()()



                  フィレリア王国軍・アルレオン基地所属

                  魔導少佐ミルファ・ダリオン


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□









リゼル・ティターニアとヒビノ・タツヤの身に、

いったい何が起きていたのか…?

彼らはこのままだと処刑台へと送られてしまう。

ミルファやサンダースはこの事態にどう立ち向かう…!?


機導大戰ライデンシャフト

次回もお楽しみに!

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― 新着の感想 ―
リゼルの豹変ぶりに「えええっ」とハラハラさせられました!あんなに素直で真っ直ぐな少年に何が起きたのでしょうか。現実でも、主人公がさらに厳しい立場に追い詰められていてミルファでも庇い切れるのか心配です。…
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