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暴走

―――アルレオン軍学校・第一機兵演習場―――


 決闘会場に突如現れた、

 謎の赤いライデンシャフト。


 終わったかに思われた機兵決闘は、

 この謎の赤い機体の登場により、

 思わぬ形で再開された。


 しかし、この再開を快く思わぬ者がいた。


 侯爵将軍ギル・ドレである。


 ギル・ドレの要請により、

 演習場外周に配備された、

 第一守備隊のライデンシャフト・

 ”ブルージュ・ZWEI(ツヴァイ)”6機に、

 出動命令が下された。



 元学校長のキノム・シモン中佐は、

 通信兵が持つ機材に向かい、


「待機中の第一守備隊に告ぐ、

 たった今、軍上層部より、

 ”進行中の機兵決闘をただちに終了させよ!”

 との命令が下された。

 

 第一守備隊機はただちに演習場内へ進入し、

 アルゴと思しき赤い機体を確保のうえ、

 搭乗パイロット”リゼル・ティターニア”の身柄を拘束せよ!!」


 命令を発した。



 これを聞いた第一守備隊・隊長は、

 隊員たちへさらなる指示を出す。

 

「これより、我が守備隊は、

 軍上層部の命を受け、

 ”赤い機体の確保”を実行する。


 自分は赤い機体の正面進路を塞ぐ

 壱班、他両名は側面より赤い機体に接近、

 実力行使により機体を停止させたうえで、

 パイロットを確保だ。


 弐班2機は赤い機体の背後へ回り、

 そこから、それぞれ側面、壱班のバックアップ、

 残る1機は正面壱班の支援に回れ。


 では、これより作戦を開始する!!


 全機、出力を上げ、私に続け!!」


 隊長機が先陣を切って飛び立ち、

 演習場内へ進入、

 残りの機体も次々と演習場内へ入った。





―――ゼクウ・コックピット内―――



 レリウスは守備隊の動きに気づくと、

 すぐに魔導無線へ手を伸ばした。


「こちら、ゼクウ

 アリーシャ・レリウス中尉であります、

 本部応答願います。」


『…こちら本部キノム・シモン中佐。』


「守備隊が動いています、

 …この決闘はどうなるのですか?」


『…速やかに事態を収拾せよと、

 上層部から指示があった、

 決闘は()()()()した。』


 キノム・シモンは淡々と答えた。


「しかし中佐、

 まだ目の前には戦うべき機体が…。」


 レリウスは食い下がった。


『中尉、決闘は君の勝ちだ、

 決闘終了は決定事項、

 さらなる発言は慎み、決定に従いなさい。』


「…………。」


 レリウスは納得出来なかったが、

 そこまで言われると、

 言い返す言葉がなかった。


『中尉……、

 ここは…引きなさい。』


 シモンは重い口ぶりで一言付け加えると、

 通信はそこで途切れた。



 レリウスは黙って、

 この状況の推移を見守る。


 6機のライデンシャフトが、

 謎の赤い機体を取り囲み、

 徐々にその包囲網を狭めてゆく。


『アルレオン基地守備隊より、

 識別不明、赤い機体のパイロットへ通告、

 無駄な抵抗はせず投降しなさい!!』


 守備隊・隊長機から

 謎の赤い機体へアナウンスが飛ぶ。


 しかし、謎の赤い機体は、

 その呼びかけに応えるそぶりも見せず、

 前進する。


 守備隊は一切の躊躇なく、

 謎の赤い機体を取り押さえにかかった。





―――第一機兵演習場・臨時観客席―――



 ギル・ドレは観覧席でふんぞり返り、

 この捕り物の様子を眺めた。


 守備隊が謎の赤い機体を取り押さえるのは、

 時間の問題に見えた。


 ギル・ドレはその様子を確認すると、

 満足げに周囲の取り巻きに向かって話を始めた。


「この後の予定だが、王都へ戻り次第、

 最優先でサウールとの狩りの手筈を進めよ。」


「かしこまりました。」


 ギル・ドレの従者が答えた。


「それとな、あの小僧の処刑人の選別、

 ザグレブに相談して決めよ、

 奴なら最善の者を知っておるであろう。」


 ギル・ドレは従者へ告げると、

 嫌らしく笑った。


「か、閣下…。」


 ギル・ドレが気分を良くしている中、

 リトマイケが水を差した。


「何だ!?

 変な声をあげおって。」


「そ、それどころでは…。」

 

 うろたえるリトマイケの視線は、

 演習場へと向けられている。


 ギル・ドレが演習場に視線を戻すと、

 謎の赤い機体が、取り押さえにかかった守備隊機を振り払い、

 壮絶な格闘戦が繰り広げられている。


 その動きには、迷いも、焦りもなかった。

 ただ、淡々と壊すためだけに動いている。

 

 ()()()


 数の理屈は通じなかった。


 赤い機体は、

 アルレオン軍の現主力機・”ブルージュ・ZWEI(ツヴァイ)”を、

 一機、また一機と叩き伏せていく。

 

 6対1にも関わらず、守備隊は苦戦した。


「ど、どうなっておるのだ…!!」


 ギル・ドレは声を荒らげた。





――――――――――――



 レリウスは自身の目を疑った。


 守備隊機6体の包囲網を突破し、

 謎の赤い機体が自分へと迫る。


「そうか…あくまでも狙いは私か…。」


 レリウスは再び操舵管を強く握りしめた。





―――第一機兵演習場・臨時観客席―――



 ミルファは謎の赤い機体の戦いぶりに、

 興味と不安が入り混じる。


「サンダース……、

 あの赤い機体…ヤバい…よね。」


「まぁ、動きからして、

 明らかに普通の機体では…ありませんな。」


 サンダースはミルファの動揺を抑えようと、

 極力冷静を装った。


 そんな中、

 守備隊を蹴散らした謎の赤い機体と、

 レリウス機による戦闘が、再び始まる。

 

 赤い機体は、

 またも直線的にレリウス機に、

 攻撃を仕掛けた。


ギャリギャリィィィ!!!!


 何の変哲もない、

 肩からの体当たりだったが、

 レリウス機はかわすだけで限界だった。

 

 レリウス機・ゼクウは、

 最初の攻撃こそかわしたものの、

 赤い機体が繰り出す拳撃の連打を、

 徐々に浴びはじめ、

 防戦一方となっていく。


 謎の赤い機体の動きは、

 確実に鋭さを増し、

 レリウス機を凌駕する。


 レリウス機の劣勢は、

 誰の目にも明らかだった。


 そこへ、

 守備隊機が続々と追いつき

 赤い機体とゼクウを引きはがしにかかる。


 しかし、ここでも

 赤い機体は、猛烈な打撃を守備隊に浴びせ、

 いとも簡単に6機の守備隊を振り払う。


 守備隊を振り払った赤い機体は、

 ゼクウの胸元へ飛び込み、

 胴体へ強力な拳撃を加える。


 そして、その勢いのまま、

 ゼクウの脇腹部分へ回し蹴りを叩き込み、

 続けて肘を振り下ろし、

 ゼクウを地面に叩きつけた。


 赤い機体は寝転ぶゼクウの胴体を踏みつけ、

 次にゼクウの頭へ手を伸ばす。


 次の瞬間、ミルファやサンダース、

 軍の関係者は言葉を失う。


 赤い機体は、

 ゼクウの頭部を乱暴に()()()()()()のだ。



 軍関係者が集まった観客席は静まり返った。


 サンダースは立ち上がり、


「これは………、

 流石に…一線を超えてしまいましたな。」


 深く息を吐いた。


 ミルファはこの光景を前にして、


「これ…、ホントに()()()()()()なの…。」


 恐怖すら感じた。


 演習場内では、

 再び守備隊が、赤い機体を取り囲み、

 確保の機会をうかがっている。


 しかし、2度の確保失敗により、

 守備隊の対応は慎重にならざるを得なかった。


 これを見た

 ギル・ドレは叫んだ。


「た、たかが()()に、

 何をやっておるのだ!!


 かくなる上は…、

 あらゆる武器の使用を…許可する!!

 ()()()()()()()()は問わん!!」


 この発言に、関係者全員緊張が走った。


 ミルファはすぐ、


「な、何言ってんの…、

 そんなの領主として許可できるわけないじゃん!!」


 猛烈に反発する。

 

「閣下…さすがに、

 この場での()()()使()()は…。」


 キノム・シモンも指示にためらいを見せる。


 ギル・ドレはそれでも一歩も引かず、


「やかましい!!

 こんな下品で、野蛮な決闘、

 王国軍の恥だ!!」


 たたみみかける。


 ミルファも領主として、


「どれだけの損害がでると思ってんの!!」


 食い下がった。


 ギル・ドレは、無言で二人を睨んだ。 


 そして、


「………やれ。」


 一言だけ発した。


 リトマイケは、

 立ち尽くすキノム・シモンを無視して、

 通信兵に働きかけギル・ドレの指示を伝える。


「えー、守備隊に告ぐ、

 ()()()使()()を許可する、

 何としても、あの赤い機体を止めろ、

 ()()()()()()()()は問わない、

 これは、中央軍ギル・ドレ将軍からの命令である。」


 この決定を聞き、

 サンダースは口を真一文字に結び、

 天を仰いだ。



 リトマイケは指示を出し終えると、


「では閣下、万が一に備えまして、

 我々はこの場から避難を。」


「…うむ。」


 ギル・ドレたちはその場を去った。


ドンッ!! ドドフッ!! ドンッ!!!


 演習場内で魔導砲による実射砲撃が始まった。


 第一守備隊は、謎の赤い機体に、

 次々と砲撃を浴びせる。


 この状況に、

 キノム・シモンも動く。


「ご領主様、ベルディア公、

 お二人も、すぐにこの場より避難を!」


ドゴオオオオオオオ!!


 轟音とともに、外れた魔導砲の弾が、

 アルレオンの外壁を吹っ飛ばす。


 ミルファはその様子を無言で見つめる。


 それを見たサンダースは、


「ミルファ様……。」


 かける言葉が見つからなかった。


 ミルファは険しい顔つきのまま、

 シモンやサンダースの後に続いた。


 サンダースは避難しながら、


「通信機を使わせてもらえませんか。

 レリウス教官と連絡を取りたい、

 至急繋いでくれ。」


 無線の使用をシモンに頼んだ。


 シモンはすぐに、

 通信兵へ使用許可を出した。


「レリウス君、聞こえるか?」


 レリウス機・ゼクウは演習場内で、

 横たわったままだ。


 サンダースは無線機越しに、


「この通信を聞き次第、

 すぐに機体から脱出したまえ。」


 レリウスへ要件を伝えた。


『…………。』


 一瞬の間があり、


『……ベルディア公、申し訳ありません、

 脱出は…出来そうにありません。』

 

 レリウスから返答があった。


「中尉!ここでつまらぬ意地は張らぬことだ!!」


 サンダースは語気を荒げた。


『……ハッチが……

 …………開きません。』


 そこで通信が途切れた。





―――第一機兵演習場内―――



ドンッ!! ドドフッ!! ドンッ!!!!


 魔導砲の轟音が、

 演習場内に響き渡る。


「各機、射線に注意し、

 砲撃を続けろ!!」


ドドンッ!! ドンッ!!! 


「撃て撃て撃て!!」


 第一守備隊は、謎の赤い機体へ、

 容赦なく魔導砲を浴びせ続けた。


ドンッ!! ドドフッ!! ドドンッ!!!!


 耳をつんざく爆音と震える大地。


 次々と放たれる砲撃が、

 謎の赤い機体に向かって降り注ぐ。


 演習場は、白煙に包まれた。


「撃ち方止め!!」


 砲撃が止まった。


「やったか…!?」


「さすがに…これだけ食らわせれば、

 十分すぎるだろ。」


「少年…悪く思うなよ、

 これも任務だ…。」


 隊員たちは、各々に思いをつぶやく。


 

 そして、砲撃により立ち込めた白煙が、

 次第に消えてゆくと、その中心には、

 はっきりと謎の機体の機影が確認された。


 あれだけの砲撃を浴びてなお、

 謎の赤い機体は姿勢を崩さず、直立していた。

 

 そして、そのまま、

 ゆっくりと前進を再開させた。


「ウ、ウソだろ…!?」


「どうなってんだ…。」


 隊員たちは動揺を隠せなかった。


 ()()()()()()()を示した謎の機体。


 再びその照準を、

 倒れたレリウス機へ向けるのだった。










暴走を続ける赤い機体、

アルレオン軍第一守備隊は、

この混乱を収束させることができるのか…!?


機兵決闘の結末は…!?

タツヤとリゼルはどうなってしまうのか…!?


機導大戰ライデンシャフト

次回もお楽しみに!

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― 新着の感想 ―
ギル・ドレの不快な言動に、思わず謎の赤い機体を応援しましたが、レリウスには無事でいて欲しいしミルファの立場が悪くならないか不安ですし…。主人公を取り巻く人々の行く末が心配でどんどん物語への没入感が高ま…
レリウス中尉がひとまず無事でよかったと思ったらハッチが(笑 一難去ってまた一難ですね(汗 うわー。まさに「うそだろ?どうなってんの?れんぽーのもびるすーつはばけものかー」状態ですね。 nicobe…
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