表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

117/123

負けられない戦い

―――アルレオン軍学校・第一演習場―――


 風が吹き始めた春の午後、

 アルレオン軍学校・第一演習場。


 今、この演習場では軍学校教官と生徒による、

 異色の決闘が始まろうとしていた。


 この決闘がおこなわれる演習場の外には、

 観覧席が設けられ、

 多くの住民がこの決闘を見るために集まった。


 開始の号砲を待つのは、

 演習場両端に控える2機のライデンシャフト、

 ”ゼクウ”と”アルゴ”。


 強襲型演習機の”ゼクウ”には、

 機兵パイロット養成特別クラス(リンドブルム)教官、

 アリーシャ・レリウス。


 学習用研修機の”アルゴ”には隻眼の少年、

 リゼル・ティターニア

(中身は異世界転生を果たしたアラサー男性

 ヒビノ・タツヤ)。


ドンッドンッドンッ!


 演習場に開始を告げる号砲が鳴り響いた。


 命運をかけた機兵決闘の火ぶたが、

 ついに切られた。



―――――――――――――――


 ゼクウに乗り込んだ教官レリウスは、


「ティターニア、

 貴様のような軟弱者にパイロットはつとまらん!!

 私が引導を渡してやる!!」

 

 ティターニア機へ向け、

 一直線にホバー前進を始めた。



―――――――――――――――


 一方、アルゴ機では、


「は、速い!!」


 わかりやすく動揺するオレに対し、


<タツヤ落ち着いて!!>


 頭の中の相棒リゼルが声を上げた。


 オレは盾を構え、

 しっかり防御態勢をとりながら、

 時間稼ぎの為、演習場を反時計回りに後退する。


 しかし、今まで操縦してきた機体に比べ、

 今回操縦する”アルゴ”は反応が明らかに鈍い


「くっそー!!

 やっぱ、こんな鈍い機体じゃ、

 勝負にならないって!!!」


 オレは思いっきり不満を叫んだ。


<タツヤ!証明してやろう!!

 僕らなら、こんな機体でも戦えるってこと!!>


 オレの中の相棒が力強く呼びかけてくる。


「そ、そうだな、

 見てろよ、偉そうなおっさんども!!」


 オレは、すぐさま”左目”を覚醒させ、

 持てる能力をすべて解放させた。


 一瞬でルーンリアクターの出力は限界値を超える。


 そして、脚部スラスターを全開、

 機体の移動速度は格段に跳ね上がった。



―――――――――――――――


 レリウスは”アルゴ”の急激なスピードアップを目にし、


「ほう…無駄なあがきを、

 ならばこちらも、

 各部スラスター全開!!」


 機体の移動速度を急激に上げた。


 瞬く間に2機の距離が縮まってゆく。



―――――――――――――――


 オレは猛スピードで迫ってくるゼクウに対し、


「やっぱ…、機体性能の差がありすぎるって!!」


 つい泣き言を漏らす。


<だ・か・ら!

 そんなこと言っててもしょうがないでしょ!!

 相手は武器を持ってないみたいだし、

 戦い方次第ではきっと勝てる!!>


 いつもの強烈なポジティブ返しが飛んできた。



―――――――――――――――


 レリウスはアルゴとの距離を縮めると、

 両拳を上げファイティングポーズの態勢を取った。


 レリウスは、


「覚悟!!」


 コックピット内で叫んだ。



―――――――――――――――


<タツヤ来るよ!!>

「わ、わかってるって!!」


(レリウス教官…、

 丸腰で格闘戦を挑んでくるのか…。)


 オレは覚醒した左目に表示された、

 敵の攻撃ポイントに合わせ盾を構え、

 反撃ポイントを確認する。


「だったら…しっかり読み切って、

 カウンターの斬撃を食らわしてやる!!」


 ゼクウはオレたちに近づくにつれ

 左右に細かくムービングをはじめた。


「くっ…ちょこまか動いて…

 防御予測が…さだまらない。」


 さらに近づいてくると、

 ゼクウはグッと低く沈み込むような姿勢を取った。


 そこから、オレたちの機体腰部に向け、

 渾身のストレートが繰り出された。


 オレは何とかゼクウの動きについていく。


「よし…見切った!!」


 オレが叫んだ瞬間、

 ゼクウの腕から、

 ()()()()()が鋭く伸びた。


「えーっ!!」


 オレは一瞬の判断で、

 カウンター攻撃をあきらめ、

 全エネルギーを右方向への退避行動にあてた。



ガキィィィン!!!

    


 モノ凄い衝撃音が演習場に響く。


 ”アルゴ”の左腕に装着した盾が吹っ飛んだ。


 悲鳴にも似た歓声が演習場を包む。


「あ、あっぶねー!!」


 ギリギリでの退避行動のおかげで、

 盾は失ったが、かろうじて左前腕の損傷で済んだ。


 オレたちは退避行動からそのまま一気に後退を続け、

 ゼクウに対し、めいっぱい距離を取った。


 オレたちはゼクウから距離を取りながら、

 敵の隠された武器を確認する。


<教官の機体、

 腕から刃が出てきたよ!!>


「あ、危なかった…、

 あやうく直撃を食らうところだった。」


<何だったのあれ?>


「あ、あれか…、たぶんあれ、

 ”ヒドゥン・ブレード”、

 仕込み剣ってやつだ。」


<ヒドゥン・ブレード!?>


「ああ、腕に仕込んでいて、

 攻撃の瞬間に飛び出すよう出来てる。」


 そんな会話をしていると、

 再びゼクウとの距離が、

 徐々に縮まってくる。


「ずるい!!丸腰と思わせて、

 しっかり武器使って!!!」


 オレは自分勝手に文句を言った。


 そして、オレたちは後退しながら、

 両手でハイヒート・グラディウスを構え、

 迎撃体制を取る。


 教官のゼクウは、

 再び不規則な左右のムービングを使い、

 オレたちのアルゴに迫る。


「あ”ーっ!またちょこまかと!!」


 オレがそんなことを言ってるそばから、

 あっという間に距離は詰められ、

 今度はアルゴの左足めがけ、

 ゼクウの左腕から伸びたヒドゥン・ブレードが降り下ろされる。


「う”ーっ!!」


 オレは急速に左足を引いて回避を試みながら、

 反撃の袈裟切りを放つ。


「くらえ!!」


ガガンッ!!!


 ゼクウはオレたちの振り下ろしたハイヒート・グラディウスを、

 右腕に仕込まれたヒドゥン・ブレードで払いのけると

 左腕のヒドゥン・ブレードを、

 アルゴの膝上めがけ水平に振る。


「まずい!!」


ギャリィィィ!!


 ブレードが右足の上部をかすめた。


 オレたちは後ろへ飛び下がり、

 しっかりと迎撃の構えを取る。


「くそっ!!

 武器両腕についてるし!!

 あの仕込み剣の分、

 予測ポイントずれてくるし!!」


 その後もオレたちは、

 繰り返し教官からの攻撃を受け続ける。


 少しずつだが、確実にオレたちの機体には、

 傷が増えていった。




―――第一演習場・管制塔―――


 パイロット養成クラス”リンド・ブルム”の

 生徒たちが演習場に併設された管制塔から、

 この決闘の戦況を見守っていた。


 級長のリコ・アフィデリスは、


「ウソでしょ……、

 あの”アルゴ”で、

 ここまでやるなんて…。」


 目の前で繰り広げられる信じがたい光景に、

 唖然とするしかなかった。


 横で見ているクラヴィッツ兄弟、

 兄のデュロイは、


「へぇー、あのチビ、

 思ったよりも、なかなかやるじゃないか。」


 余裕の口ぶりで平静を装っているが、

 その声は明らかに戸惑いを含んでいた。


 それを聞いた弟トロイは、


「兄貴……、なかなかやる、

 どころじゃないぜ、

 ここまでの戦いぶり、

 いったいアイツ…何者なんだ。」


 ひとり呟きながら、

 真剣なまなざしで決闘を見つめた。




―――――――――――――――


 演習場中央では、

 ”アルゴ”が、”ゼクウ”の両腕から放たれる鋭い牙突を、

 ハイヒート・グラディウスを巧みに扱い防いでいる。




―――演習場観覧塔・貴賓席―――



「まだ終わらんのか!!」



 観覧塔最上部にある貴賓席に、

 ギル・ドレの怒鳴り声が響いた。


 ギル・ドレは明らかに苛立っていた。


「一体どうなっておる!

 機体性能に雲泥の差があるのではなかったのか!」


 激怒するギル・ドレの横で、

 取り巻きの一人、少将リトマイケは、

 基地所属のキノム・シモン中佐へ、


「なぜいまだ決着がつかぬのじゃ!!」

 

 わかりやすく責任をなすりつけた。


「は、はぁ…、

 どうやらあの隻眼の少年、

 かなりの腕前のようでして…。」


 解説を求められたキノム・シモンは、

 額から吹き出す汗を、

 ハンカチで押さえながら、

 見たままを答えるしかなかった。


 それを聞いたギル・ドレは、


「そんなことわかっておったわ、

 だから、あのガラクタのような機体を使わせたのだ!」


 さらに怒りのボルテージを上げた。


 隣にいるリトマイケは、


「そうだ、話が違うではないか、

 もしや、あの女教官の腕に問題があるのではないか?」


 ギル・ドレの顔色をうかがいつつ、

 キノム・シモンを責めた。


「レリウス君ですか…、

 機兵の操縦技術に関しましては、

 このアルレオンで一番かと…。」


 ギル・ドレは間髪入れず、


「ではやはり、視力の問題か…。」


 吐き捨てるようにかぶせてきた。


 キノム・シモンはあわてて、


「た、確かに、過去の戦闘で、

 視力の大半を失っておるようですが、

 接近戦に限れば問題ないと、

 医務官がその点は保証しております…。」


「では…、なぜここまで手こずっておるのだ。」


 ギル・ドレは演習場に目を向けたまま、

 静かにキレた。


 リトマイケは、


「もしや、あの女教官、

 ()()()しておるのではないか?」


 キノム・シモンを睨みつけた。

 

 キノム・シモンは、


「………」


 何も答えることができなかった。


 それに対しギル・ドレは、


「どうなのだ。」


 さらにキノム・シモンを追い詰める。


「そのことを…、

 私におっしゃられましても…。」


 キノム・シモンはそう言うと、

 黙り込んでしまった。



―――――――――――――――


 ギル・ドレたちと同じ貴賓席のフロアでは、

 アルレオンの若き女領主ミルファ・ダリオンと、

 軍学校新校長サンダース・ヒルも、

 リゼルたちの決闘を見守っていた。


 ミルファは決闘が始まると、

 みるみる不機嫌になっていった。


「サンダース、これ…どういうこと?」


 ミルファの言葉に怒りがにじむ。


 サンダースは、


「ど、どういうこととは?」


 ミルファの質問の意味も、

 何故不機嫌なのかも、

 サンダースはまったく見当がつかなかった。


 互角に戦っているこの状況を考えると、

 むしろ喜ぶべきではないのかと、

 サンダースは思わざるを得なかった。


 なので、サンダースがどう返答しようか決めかねていると、

 ミルファが一人で話し始めた。


「あのポンコツな”アルゴ”で、

 強襲型の”ゼクウ”とまともに戦えるはずがない、

 ゼクウによっぽど下手くそなパイロットでも乗らない限りは。」


「…………。」


 サンダースは何も答えなかった。


「あの教官、かなりの腕前だよね。」


 沈黙するサンダースに、

 ミルファは質問をぶつけてくる。


「そ、そうですな、急旋回やスムーズな連続攻撃、

 操縦技術は王国トップクラスの腕前でしょう。」


 サンダースはレリウスについて、

 誇張なく答えた。


「だったら、なおさらありえない…。」


 ミルファはゆっくり首を横に振り、

 ここで言葉を止めた。


 そして、目の前の決闘に見入った。


 サンダースはただただ困惑し、


「一体、何がお気に召さないのでしょうか?」


 単刀直入に聞くしかなかった。


 ミルファは、顔を演習場に向けたまま、


「これはボクの推測だけど…。」


 大きくため息をつき、

 そして続けた。


「ティターニア………、

 あいつルーンリアクターを、

 瞬間的に()()()()()()()()させてる、

 それも()()()に。」



「ルーンリアクター…をですか?」


「そう、ルーンリアクターを!」


 ミルファの言葉に力が入る。


 サンダースは、


「そんなことが…可能なのですか?」


 さらに説明を求めた。


 ミルファは演習場のアルゴから視線を外すことなく、


「理論上はね………、

 だけど、あのアルゴにそんな凄いシステムが、

 搭載されているはずがない。」


 説明を続ける。


「しかし、万が一搭載されていたら…。」


 サンダースの返しに、


「そもそも、そんなシステムが実用化されたなんて話、

 ボクは聞いたことない!!!」


 ミルファは急に声を荒げた。


「ティターニア!!

 決闘が終わったら、

 絶対ルーンリアクターの謎を、

 問い詰めてやる!!」


 ミルファの興奮は収まらなかった。



―――――――――――――――


 度重なるレリウス教官からの攻撃を、

 オレはハイヒート・グラディウスと、

 回避行動を組み合わせ何とか防いでいた。


ガゴゴッ!!ガガンッ!!


 ゼクウが突き出す、

 ヒドゥン・ブレードの牙突、薙ぎ払いを、

 オレたちは懸命にハイヒート・グラディウスで払いのける。


「はぁはぁはぁ、

 レリウス教官、

 しつこすぎるんですけど…。」


<タツヤ何言ってるの!

 集中してよ!!>


 オレが愚痴をこぼす間も、

 教官は攻撃の手を緩めてくれない。


「わ、わかってるけど、

 さすがにこうも守ってばっかりだと、

 いいかげん気力が…。」


<次の攻撃が来るよ!!>


「はいはい!!」


 ヒドゥン・ブレードによる攻撃を、

 何度も防ぎ続けた結果。

 オレたちはその間合いを、

 かなり正確につかめるようになっていた。

 

 しかし、その一方で、

 解決されない問題も残っていた。


 どうしてもゼクウの手数が多くなると、

 機体反応の差の影響で、

 すべてを払いのけたり、回避することが、

 出来なかった。


ギャリィィィ!!!


 ゼクウのヒドゥン・ブレードが、

 オレたちの機体の右肩をかすめた。


<タツヤ!!ダメージは!?>

「だ、大丈夫!!まだ問題ない!!」




―――第一演習場・管制塔―――


 目の前で繰り広げられる一方的な戦闘に、

 リンド・ブルム生徒のサーヤ・トロ―ロは、


「ティターニア君の機体…、

 もう、かなりボロボロですよ。」


 大きな不安を抱いた。


 それに対し級長のリコは、


「そうね…、

 あのアルゴでここまでよく戦ってるけど、

 守ってるだけじゃ……。」


 その先の言葉を濁した。


 それを横で聞いていたフルム・カンタルは、


「いずれ確実に()()()であります。」


 リコがあえて口にしなかったことを、

 わざわざ、はっきりと声に出した。




―――第一演習場―――


<タツヤ!いいかげん反撃しなきゃ!!>


 この状況にリゼルが不満を漏らした。


「そ、それが出来るなら、

 とっくにやってますよ!!」


 オレはリゼルからのわかりきったアドバイスに、

 どうしようもなくイラっとした。


(そりゃ確かに…、

 リゼルの言う通りなんだけど…。

 でも、反撃する隙が…。)


<つべこべ言わない!!>


 リゼルの上から目線は、

 こんな日でも相変わらず健在だ。


<来るよ!!>


 オレたちの前に、

 もうこの決闘何度目だかわからない、

 ゼクウの突進が迫る。

 

(このままじゃ、どうせ負ける…

 だったらもう……やるしかないか!)


 オレはリゼルから言われた通り、

 反撃を決意。


 すぐに教官のゼクウが射程距離に入ってくる。


 オレはしっかりと両手で、

 ハイヒート・グラディウスを構えなおす。

 

(狙うは、カウンター!)


 オレは心の中でつぶやいた。


 射程距離に入ったゼクウは、

 いつも通り前後左右、

 不規則に機体をムービングさせる。


 そしてそこから、

 まず鋭い右の牙突が繰り出された。


ズザンッ!!


 オレは構えたハイヒート・グラディウスを振り下ろし、

 ヒドゥン・ブレードを叩き落す。


 ゼクウは続けざま、

 左の牙突を繰り出すと見せかけ、

 反時計回りに急旋回し、

 左手で薙ぎ払いを繰り出した。


ガガンッ!!


 オレはゼクウの左腕ヒドゥン・ブレードを、

 ハイヒート・グラディウスで跳ね上げた。


<いまだ!!>「いまだ!!」


 オレは振り上げたハイヒート・グラディウスを、

 ゼクウめがけ振り下ろす。


ガギィィィン!!!


 観客席から今日一番の歓声が上がった。


 オレたちが繰り出したカウンターの斬撃は、

 ゼクウの右下脚部にヒットした。


 しかし、オレたちの機体も無傷では済まなかった。

 

 ”アルゴ”の左腕は吹っ飛んでいた。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
nicobearさん、お世話になっております。 柳アトムです♪ 続きを拝読に参りました〜。 宜しくお願い致します♪ この二人の対決は注目の的ですね。 アルゴでゼクウを倒せたらグウの音もでない証明にな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ