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遭遇

―――――アルレオン外れにある墓地・巨大な墓・内部―――――



 真っ暗な墓地の地下室で、

 オレは一人空しく自分の選択を後悔する。


 前の人生でも、たくさん選択を誤り、

 数えきれない後悔をしてきた。


 こっちの世界に来てからも、

 全然ご都合展開にならないし、

 このリゼルの体だと、

 ロボットの操縦以外何にもできないし…。


 オレ、再び大ピンチです。







――――アルレオン外れにある墓地・巨大な墓・入口――――――



 夕刻どしゃ降りの雨が降る、

 街はずれの墓地。


 急きょタッグを組むこととなった、

 若きアルレオン領主ミルファ・ダリオンと、

 日記に宿る少年リゼル・ティターニア。


 二人は学生寮から逃げ出した、

 ヒビノ・タツヤの居所を突き止め、

 これから彼のいる建物の中へ、

 足を踏み入れようとしていた。


 しかし、その直前、

 日記の中の少年リゼルから、

 ミルファへ頼み事が伝えられた。


(ねぇ…、ホントにやるの?)


 ミルファは改めてリゼルへ確認を取った。


<…お願いします。>


 逃げたタツヤに何かペナルティを与える、

 リゼルの静かな決意は変わらなかった。

 

(銃声を作って驚かせてほしい…か、

 わざわざ魔法で銃声を作ったことないけど、

 んー、よーするに空気を破裂させればいっか。)


 ミルファはごにょごにょと独り言を呟き始めた。


(こんなお願いされるんなら、

 ウチから”魔導銃”持ってくればよかった。)


<ミルファさん、貴重な”魔導銃”持ってるんですか?>


(まぁ、ボク…これでも一応領主だから。)


<今度見せて下さい!>


(いいよ。)



 現在、フィレリア王国を含む大陸全体で、

 魔力の減退が進み、ライデンシャフトに、

 貴重な魔力資源を集中させるため、

 王国では魔導銃の生産は禁止されている。


(限定的な圧縮と解放をほぼ同時にやれば…、

 ま、そんなに難しくないか。)


 ミルファは独り言を終えると、

 大きく息を吐き出した。


(じゃあ、いくよ!)


 ミルファは指先で小さな魔法陣を作り出し、

 合わせるように口を開く。


破裂空気(バンク)








―――――巨大な墓・内部――――――



 激しい雷雨に混じって、

 外から乾いた破裂音が何発も聞こえた。


「じゅ…銃声!?」


 その瞬間、オレは王都で会った王女の言葉を思い出した。


「脱走は…銃殺…。」


 最悪の展開がオレの頭をよぎる。


「お、落ち着け…オレ、

 偶然、猟師がこの近くで発砲しただけかもしれないし。」


 オレは何とか自分に都合のいいように、

 銃声を解釈しようと務めた。


「そ、そうだ、王国軍じゃない可能性だって…。」


 しかし、そう考えようとしても、

 最悪の可能性が頭から離れなかった。



 オレは3つの可能性について考えた。


1,逃げるのをあきらめ、思い切って外に出る


 オレとは無関係の猟師の発砲なら問題ないが、

 もし外に王国軍の兵士がいたら、

 オレは撃たれる可能性がある。

 

 これはかなり自殺行為だ。


2,このままここに留まる

 

 王国軍がオレを探していたら、

 やがて見つかって銃殺の可能性。


 これもダメだ。


3,さらに奥へ逃げる

 

 逃げ切れる保証はないが、

 とにかく時間は稼げる。


 ただし、地下がどうなっているか、

 安全であるという保証はない。


(どれも選びたくないけど…、

 選ばなきゃいけない…。)


 オレは仕方なく3番目の僅かな可能性に、

 懸けてみることにした。


 オレは痛む体を引きずりながら、

 地下へ続く真っ暗な階段を降りていった。







――――巨大な墓・入口――――



連・破裂空気(バンクス)!!!」


パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!………


 ミルファが魔法を唱えると、

 あたりに破裂音が何発も鳴り響いた。


(ふぅ、こんなもんでいい?)


<はい!ありがとうございます。

 タツヤかなりビビってると思います。>


(ビビるぐらいですんでればいいけど、

 きみもなかなか性格悪いね。)


 ミルファは笑いながら頭の中で語りかけた。


<ち、違いますよ!

 今回はタツヤが悪いんです!!>


 性格が悪いと言われ、

 リゼルはわかりやすく動揺した。


(まぁまぁ、そんなに熱くならないで、

 とにかく中へ入ろう。)


<は…はい。>


 ミルファはリゼルのリアクションを楽しみながら

 大きな墓の狭い入口をくぐり、墓の内部へ入った。








――――巨大な墓・地下室――――



(…終わった。)


 オレは絶望するしかなかった。


 現在、オレは真っ暗闇の墓地の地下室で、

 両手両足を縛られ、口には声を出せないよう、

 布を猿ぐつわのようにしてきつく巻かれている。


 誰が何の目的で、

 オレをこんな目に合わせるのか、

 まさか、こんな場所で、

 王国軍がオレを待ち伏せをするのか…、

 まったく想像が出来なかった。


 今のオレにわかることといえば、

 この状況が、絶対にマズい状況である、

 ということぐらいだ。







 

―――――巨大な墓・内部―――――



 立派な墓の内部へ入ったミルファとリゼル。


 墓の内部は暗かった。


光集中オプティカル・コレクト


 ミルファはすぐに魔法を唱えた。


 小さな光の玉がミルファの前に現れた。


 明かりに照らされた室内に、

 人の姿は無かった。


<…いない。>


 ミルファはカバンの中からガラス盤を

 取り出しチェックする。


(んー、信号はこの墓を指してるから、

 ここで間違いないはず。)


 二人は墓の内部をあらためて見た。


 墓の奥に地下へ続く階段がある。


<きっとこの先です。>


(そうだね。)


 ミルファとリゼルは階段へ向かった。







――――巨大な墓・地下室――――



 足音と一緒にぼんやりとした明かりが近づいてくる。


(もう…だれでもいいから、

 とにかく助けて!!)


 オレは必死に声を出そうと試みた。


 その時だった。


 のど元に刃物の冷たい感触があった。


(…………。)


 オレは抵抗を止めた。

 

 オレはただただ明かりが降りてくるのを待った。


 明かりは階段を降り、

 徐々にこっちへ近づいてくる。


 そして、顔が判別出来るぐらいまでの距離になった。


 「……!?」






―――――巨大な墓・階段―――――



 地下へ続く階段を降りるミルファとリゼル。


<…あのミルファさん。>


(何?)


<ごめんさい、あんなことさせて…。>


(どしたの急に?)


<タツヤが地下にいたら、さっきの銃声、

 聞こえてなかったかもしれないと思って…。>


(ああ、そういうこと、

 別に謝らなくてもいいよ、

 私も面白かったから。)


<ホントですか!?>


(…ちょっと静かに!)


<えっ…?>


(何だか様子がおかしい。)


 階段を降り二人が目にしたのは、

 縛り上げられた隻眼の少年と、

 その少年の首元にナイフをあてる

 フードを被った人物だった。






―――――巨大な墓・地下室―――――



 明かりに照らしだされたその人物は、

 若き領主ミルファ・ダリオンだった。



(よ、良かったー!!

 助けに来てくれた!!)


 オレは自分が軍学校から、

 逃げ出したことを棚に上げて、

 心の中で叫んだ。



「これ以上進むな!」

 

 オレの後ろから声がした。


 女の声だった。


 オレの首にナイフを当てている人物が、

 ミルファに向かって声を荒げた。


 それに対しミルファは、


「何……、この展開?」


 この状況を見てあっけにとられている。


「お前は…。」


 女もまた驚いた。


チュウチュウ…!


 階段の上からネズミの鳴き声がした。 


 一匹のドブネズミが階段から降りてくる。


 そして、階段の途中で止まった。

 

 すると、そのドブネズミは、

 たちまち壮年の男に姿を変えた。


「「!?」」


 オレとミルファは驚きを隠せなかった。


 鷲鼻が特徴的な壮年の男はいきなり話を始めた。


「まさかこのような所で、 

 ご領主様にお会いできるとは、

 驚くばかりだ。」


 オレの後ろにいる女が、


「こいつはどういたしましょう。」


 鷲鼻の男に話しかけ、

 オレの首元に当てたナイフを、

 さらに強く押し込む。


(…ううっ…。)


 オレは生きた心地がしない。


 それを見た鷲鼻は、


「近所のガキが行方不明人になったと、

 無用な騒ぎを起こされては、

 ()()()()()()の支障になる。

 そう考えたので、必ず生きて返せ、

 と、お前には命じたが…。」


 ここで話を区切ると、

 ミルファの顔を凝視した。


()()()()()()()()()()()()()は、

 ()()()()()()。」


 鷲鼻の鋭い視線がオレに向いた。


「殺せ。」


ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!


 その瞬間、いきなり地下空間に銃声が響いた。


連・高速大気弾(エア・ブレッズ)!!!」


 ミルファは鷲鼻を指さし、

 詠唱、さらに銃声が響く。


ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!


 鷲鼻の男は一瞬で()()()()になり、

 オレの首元に当たっていた、

 冷たい金属の感触が消えた。


(…!?)


 オレは痛みをこらえ懸命にミルファの側へ這っていった。


(ミルファの魔法って、

 ここまですごかったんだ…、

 絶対に怒らせないようにしよう…。)


 オレは心の中で自分に誓い、

 もう一度倒れた男に目をやった。


「………!?」


 階段で倒れていたはずの鷲鼻の男は、

 穴だらけの上着とブロック石に、

 後ろの女は、

 穴だらけのフードとブロック石に変わっていた。


 オレはすぐ横にいるミルファを見た。


 ミルファの視線の先、

 地下室の少し離れたところに

 鷲鼻の男と、顔面にタトゥーの入った女が、

 膝をついてこちらを見ていた。


 二人の腕には、

 びっしりと深い緑のタトゥーが入っている。


 女の腕や足からは出血が見られた。


「むめももも(いつの間に)…!?」


 オレは布越しに声を出して驚いた。


 鷲鼻はゆっくり立ち上がると、

 いきなり拍手を始めた。


「さすが特級(クラス・ワン)の魔法使い、

 印を刻まずにあれだけの魔法を詠唱するとは。」


 余裕の表情でミルファを褒めた。


 それに対し、顔面タトゥーの女は、


「…すみません。」


 鷲鼻に謝罪の言葉を告げている。


 ミルファは二人組を睨みつけたまま、

 縛られていたオレの縄をほどき、

 口の布を外してくれた。


「た…助かった。

 ミルファさん、ありがとうございます。

 ただ危うくオレにも当たるとこで…」


「あんたはちょっと黙ってて!」


「は、はいっ!!」


 愚痴るオレはミルファに一喝された。


「その”刺青(タトゥー)”…、

 あんたたちか、ここんところボクの領内で、

 問題を起こしてる賊は。」


 ミルファは明らかに怒っている。


「………。」


 不敵な笑みを浮かべた鷲鼻は、

 ミルファの問いかけに答えなかった。


連・高速大気弾(エア・ブレッズ)!!!」


ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!


 ミルファは怒りの魔法弾を放つ。


 しかし、今度は一発も当たらなかった。


「はっはっはっはっ。」


 鷲鼻は声をあげ不敵に笑った。


 ミルファは、


「外れた…!?」


 信じられないという顔で鷲鼻を見つめる。


「確保しろ。」


 鷲鼻は女に告げた。


「は、…はい。」


 女は出血する手足をひきづり、

 ミルファの前へ出る。


「あんなものも避けられんとは、

 まったく使えん奴だ。」


 鷲鼻は吐き捨てるようにつぶやく。

 

 その間もミルファは、

 連・高速大気弾(エア・ブレッズ)を、

 詠唱し続けるが一発も当たらない。


(何で…!?)

 

 オレがそう疑問に思っていると、


「あ、頭が…ううっ…。」


 ミルファは、

 苦悶の表情で頭を抱え、


「ど、どうなってる…、

 身体が…う、動かない。」


 しゃがみこんでしまった。


 鷲鼻は身もだえるミルファを眺めながら、


「まずはそのガキからだ。」


 指示を受けた女は、

 床に落ちたナイフを拾いあげ

 オレに近づく。


「安心しろ、ガキにもその女と()()()をかけた、

 ガキを始末したら、次は女を縛れ。」


 鷲鼻はもう勝った気でいる。


()…?)


 動かなくなったミルファの隣で、

 オレはというと、

 相変わらずあちこちが痛むものの、

 何の変化も感じなかった。


(オ、オレには…()()()()()が効いてない!?

 …あいつ、()()()()()()()()できるのか?)


 オレはギリギリまで動けないふりをした。


(これ…チャンスかも!)


 オレに近づいた女は、

 警戒することなく、

 オレの首元へナイフを運ぶ。


(こ、ここで死んでたまるか!!)


 オレは勢いよくナイフを持つ女の手に嚙みついた。


「くっ……!!」


 女はナイフを落とした。


 オレはそのナイフを拾い上げ、

 鷲鼻めがけつっこんだ。


「うおおおおおお!!!」


 あばらがめっちゃ痛いけど、

 今はそんなこと言ってられない。


()()()()()()…!?」


 鷲鼻は慌てて腰の短刀に手を伸ばすが、

 オレのほうが早い。


「くらえーっ!!」


 オレの手に鈍い感触が伝わった。


(さ…刺しちゃった…。)


「クッソ――――――!!」


 鷲鼻が叫んだ。


 鷲鼻は短刀を鞘から抜くと、

 オレめがけ振り下ろす。


(えっ…普通この展開だと、

 オレの一撃で倒せるんじゃ…。)


 オレはもう、どうすることもできなかった。



 その時だ。


爆裂大気(ヴェント)!!!」


 ミルファの大声が地下室に響いた。





◇◇◇





 気が付くとオレは瓦礫の山の中にいた。


 しかし、特殊な狭い空間に守られ無事だった。


 しばらくすると、

 ミルファが瓦礫の中からオレを出してくれた。


 さっきまでのどしゃ降りの雨はあがり、

 空には月が出ていた。


 ミルファは、


「あーあ、もう最悪、

 それと忘れ物。」


 そう言うと、オレに近づいてきた。


「す、すいません。

 いててててて……。」


 オレは痛みで顔をゆがませながら、

 頭を下げた。


 ミルファは、


「さっさと顔上げて、

 さぁ、”機兵決闘”の準備しなきゃ。」


 リゼルの日記をオレに渡した。


<タツヤのバ―――カ!!>


 オレの頭の中にリゼルの声が響きわたった。





◇◇◇





 リゼル・ティターニアとミルファ・ダリオンが、

 その場を去って数分後。


 巨大な陸亀が、

 瓦礫の山から這い出てきたのだった。














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― 新着の感想 ―
[良い点] うわー。そうですよ。ここは一撃でうまくいって助かるパターンなのにー(悲鳴 ……と思ったらミルファさんに花をもたせるヒキでしたか♪ さすがです♪
[良い点] 展開が面白い。現実にはありえない設定でもそれに違和感をもたさないような工夫がされてていいと思います。 [気になる点] 主人公が馬鹿すぎてイライラする!たしかに一般人がこの状況に陥れば気持ち…
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