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脱走

 ―――アルレオン・街はずれの墓所―――


 夕刻、アルレオンの上空は、

 黒い雲に覆われていた。


 ここは街の中心部から外れた墓所。


 墓所は深々と草木が生い茂り、

 夕日が出ていないことと重なって、

 暗く不気味な雰囲気を漂わせている。


「何か…、嫌ぁな感じだなぁ…。」


 寮から逃げ出したオレは、

 思いつきで人気のない方角へ逃げたことを、

 今更ながらに後悔した。


 そもそもなんでオレが軍学校から、

 逃げ出したかというと…。


 オレは前日に行われた剣術の授業で、

 教官としてやって来た衛兵の、

 ”鬼瓦ザイエル・ククス”に、

 体中アザだらけになるまで散々痛めつけられた。


 たぶん肋骨は折れるかヒビが入ってる、

 息をするだけでもめちゃくちゃ痛む。


 そして、寮の部屋で休んでいたら、

 担任の”鬼教官アリーシャ・レリウス”と、

 決闘することが、勝手に決められた。


 オレとリゼルが普通のコンディションなら、

 パイロット昇格へのチャンスかもしれなかったけど、

 オレがこんなボロボロな状態では、

 まず勝てないだろう。


 てか、まともに操縦出来る気がしない。


 それで負けた場合、オレは軍学校を退学させられる。


 退学ということは、

 次にオレに待ち受けているのは、

 先延ばしになっている…”()()”。


 だからオレは、逃げる決心をした。


 オレは逃げるにあたって、

 目立たないよう、

 ”リンド・ブルム”の制服から、

 軍から支給された普段着(リネンのチュニックとズボン)

 に着替えた。



「いてててて…。」


 何をしても、身体中が痛む。


 歩くのも、座るのも、

 息をするだけでも痛い。


「あーあ…いててて、

 はぁ…やってられないよ。」


 オレは不気味な墓所の中で、

 痛む身体をやけくそ気味に、

 大の字にして草の上に寝そべった。


 計画無き脱走、

 これからどうするか、

 考えなきゃいけないことが山積みだ。


「……!?」


 これからどうしようと考えた矢先、

 仰向けになったオレの顔に

 ポツりポツりと、

 小さなしずくが降ってきた。


「マジかよ…、

 こんな時に雨って…。」


 オレは激痛に顔を歪ませながら、

 急いで起き上がって、大木の下に避難した。


 避難してすぐに、雨は本降りになった。


 あっという間に墓所のあちこちで、

 水たまりができてゆく。


—―—カッ!!!

バリバリバリ!!!!


 一瞬の閃光と轟音、雷が落ちた。


「近くに落ちた!?

 たしか…、雷の時は…、

 木の下にいると…ヤバいんだっけ!?」


 オレは慌てて木の下から出て、

 避難できそうな場所を探した。


「と、とにかく…屋根のあるところ…。」


 探している間も、

 2発3発と近くに雷が落ちる。


「屋根…屋根…屋根!!」 


 オレは激痛に襲われながらも、

 懸命に建物を探す、

 気づけば全身ずぶ濡れになっていた。


「あっ!!」


 ずぶ濡れになったオレは、

 墓所の中に、

 デカい神殿のような墓があったのを思い出した。


「あそこだ!」


 オレは走った。


 そして、きっと立派な人物のお墓であろう、

 ローマ神殿みたいな墓の前までやってきた。


「はぁ…はぁ…、

 ひとまず、ここに入って止むのを待とう…。」


 この瞬間も、雷の閃光と爆音は続いている。


 その時、


グルオオオォォォォン…!!!


「な、何…今の声…!?」


 凄まじい雷雨に混じり、

 聞き覚えのない獣の遠吠えが、

 聞こえた。









―――――墓内部・暗く狭い石室――――



 暗く狭い石室、

 石室の中央には石の棺が置かれている。


 その棺の上で、

 無造作に立てられたロウソクの火が、

 怪しく揺れた。


「雨か…。」


 棺に寄りかかって座る男が、

 外の様子をつぶやいた。


 そこへフードの女が一切の物音を立てず、

 男の側へ戻った。


「何者かが、

 こちらへやってきます。」


 男は険しい表情になった。


「火を消せ、

 アルレオンの追手かもしれん。」


 フードの女は男の指示に従い、

 石室に置かれたロウソクの火を消した。


「始末致しますか?」


「待て、そう焦らんでもよい。」


 マルドックは暗闇の中、

 不気味に笑った。









――――アルレオン墓所内・神殿風墓内部――――



 雨が降り続ける中、

 オレはローマ神殿のような墓の、

 小さな入口を、体をかがめてくぐった。


 その墓の入口は、

 神殿のような大きさに似つかわしくない、

 小さな入口だった。


 入口の先はがらんとしてて、

 何も置かれてなかった。


 部屋の奥に、

 地下へ続く階段が見える。


 オレはとりあえず、

 最初の空間に留まった。


「さ、寒い……。」


 オレは濡れた服を脱いで、

 力いっぱい絞った。


 それから裸の身体を目いっぱいさすり続けた。


「う…う…う…、

 風邪引いちまう。」


 墓の中は身体を温められるモノはなさそうだった。


 とは言っても、

 怖くて奥の階段を降りる勇気が、

 無かっただけなんだけど。


 オレはしょうがなく濡れた服を着なおした。


 そして、横になって、

 身体をさすり続けた。


「寒いし、は…腹減った。」


 冷えるし、痛いし、空きっ腹、

 三重苦だ。


「そもそも…、

 なんでオレばっかり、

 こんな目に遭うんだ…。」


「転生してから今の今まで、

 いいことないし、

 学園生活だって全然うまくいかないし…。」


 今までの不満が一気にあふれる。


「あ”――――――っ、むかつく!」


 オレは大声を出してみたが、


「いててて…。」


 すぐに激痛が襲ってくる。


 オレは体をさすりながら、

 あらためて自分の身体を、

 まじまじと見た。


「……リゼル……。」


 思わず口からその名前が漏れた。


 オレは逃げ出してから、

 出来るだけ考えないようにしていた、

 リゼルを置いてきたことを。

 

 その時、



「!?」


 地下からかすかな物音がしたような気がした。


「…何か…いる!?」


 オレは恐怖で身体が固まった。



 次の瞬間、


「う”ーーーーー!?」


 暗闇から出てきたのは、

 大きなドブネズミだった。


 オレはその場で腰を抜かした。


「ネ…ネズミか…。」


 オレは息を整える間、

 入口から外を眺めた。


 外はまだ強い雨が降り続いている。



―――パンッ!!パンッ!!パンッ!!



 雨音に混じって、

 今度は銃の発砲音のようなものが、

 複数聞こえた。




()()()()()()()。』




 オレの頭に、

 あの時のサラ王女の言葉がよみがえった。
















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