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前進

――アルレオン軍学校・第3演習場――

 

 朝焼けが照らす、

 早朝のアルレオン軍学校、

 第3演習場。


 この広大なグラウンドに、

 ライデンシャフト・ゼクウ(演習仕様)が、

 空より轟音を鳴り響かせ現れた。


 そこへすぐさま、

 演習場に併設された管制塔から、


「あまり無茶するでないぞ!!

 久々の操縦じゃろう!!」


 小柄ながら、

 がっちりとした体躯の老整備官が、

 通信機越しにパイロットへ忠告を飛ばした。


「お気遣いありがとうございます。」


 レリウスも機内通信システムを使い、

 整備官へ感謝の言葉を返すと、

 機体の出力レベルを一気に75へ引き上げた。


 老整備官は、

 手元の魔導データ盤に示された、

 出力レベル値の急上昇を見るや、


「人のアドバイスを聞いておらんのか!!

 いきなりそんな出力にしおって!!」


 顔を真っ赤にして声を荒げた。


 レリウスはその様子を聞き、

 懸命に笑いをこらえながら操縦を続けた。


 この日のレリウスは、

 普段かけているサングラスの代わりに、

 特殊なゴーグルを装着し、

 久々の操縦に臨んだ。


 レリウスが操縦するライデンシャフト・ゼクウは、

 ゆっくりとホバー旋回を開始し、

 徐々に速度をあげた。


 演習場内をホバー旋回するゼクウは、

 一定の速度に到達すると、

 蛇行走行へ移った。


 ゼクウはジグザグに高速蛇行走行をしながら、

 まず最初に基礎的な受けの型を披露した。


 次に腰に装着した剣を構え、

 上段、中段、下段、突きと、

 様々な格闘戦機動を素早く繰り出した。


 それを見た老整備官は、


「なんと見事な機体さばき……!

 久々の操縦でいきなりここまでやるとは…。」


 感嘆の声を漏らした。


「さすがアルレオンが誇る鬼教官、

 口の悪さだけではなく、

 操縦技術も確かでしたね。」



 遅れて管制塔へ上がってきた軍学校医務官は、

 レリウスの操縦に毒づかずにはいられなかった。


 レリウスは基本的な動きを一通り確認すると、

 機体を止めた。


 老整備官は、


「見事な腕前、

 決闘相手が気の毒じゃて。」


 レリウスの操縦技術を素直に褒めた。


「いえ、どんな相手であっても決して油断できません。」


 レリウスは冷静に答えた。



「そうか、細かな調整が必要なら、

 遠慮なく言ってくれ。

 レリウス君のためなら、

 整備の者たちは、

 喜んで引き受けるぞ!」


「ありがとうございます。」


「アリーシャ、

 視界についてなんだが、

 今装着している補正ゴーグル、

 わずかでも操縦の手助けになれば良いのだが。

 違和感はないか?」


 医務官はいつになく真面目な口調で、

 レリウスに尋ねた。


「若干視界は狭まるが、

 モノがいつもよりクリアに見える、

 非常に助かる。」


「それは良かった。」


 レリウスの返答に、

 医務官は安堵の表情を浮かべた。



 レリウスはコックピットの中で、

 同僚達から差し出された好意に対し、

 そのありがたさを噛み締めていた。









――アルレオン・領主邸宅――




 朝、アルレオン領主、

 ミルファ・ダリオンの屋敷正門へ

 勢いよく黒い軍馬が入ってきた。


「止まれ!!」


 衛兵たちは慌てて馬を止めた。


「失礼、領主殿に面会したい。」


 その馬の上に乗っていたのは、

 サンダース・ヒル、

 アルレオン軍学校新校長であった。



 サンダースの急な訪問に、


「これはこれは、

 わざわざ将軍自ら馬にまたがってのご参上、

 何かございましたか。」


 執事のセバスチャンが、

 良く響くバリトンボイスで出迎えた。


「ミルファ殿に話があってな、

 面会を希望する旨、

 昨日手紙で伝えておいたのだが…。」


「そうでございましたか、

 あいにく、ミルファ様は、

 昨日の朝お屋敷を出たっきり、

 お戻りになっていないのです。」


 セバスチャンは主の不在を告げると、


「立ち話もなんですから、

 どうぞ中へ。

 温かいお茶をご用意いたします。」


 サンダースへお茶を勧めた。


「いえ、それには及びませぬ、

 サンダースが直接会って話がしたいと、

 ミルファ殿へお伝えください。」


 サンダースは馬から降りることなく、

 セバスチャンへ告げた。


「かしこまりました。

 ミルファ様へお伝えします。」



「なるべく早く伝えてもらえると助かる、

 あまり時間がなくてな。」


 サンダースは言い終わるや、

 馬の腹を軽く蹴ると、

 馬は勢いよく走り出した。










――アルレオン城壁内・寂れた雑木林――


 アルレオン街外れの雑木林。


 その頃、アルレオンの若き領主は、

 一昨日に起きたミルファ邸不審者侵入事件、

 その不審者捜索の陣頭指揮を執っていた。




 ミルファ率いる捜索隊が訪れている

 雑木林一帯には、

 使われていない作業小屋や、

 廃屋が点在した。


「ただいま小屋や廃屋を、

 念入りに調べております。」 


「うん、何か出たらすぐ教えて。」


 ミルファは馬車の中で、

 アルレオンの地図を念入りに調べていた。


 ミルファは地図を見ながら、


「アルレオンにあるすべての門は封鎖したから、

 簡単に外へは逃げられないはずなんだよなぁ。」


 独り言をつぶやいた。


 そして、ミルファは馬車を降り、

 雑木林を歩きながら、

 あたりを見渡した。


「人気もないし、

 怪しい奴が隠れるには、

 このあたりはうってつけってわけだ。」


 側にいる従者が、



「はい、街の中心部からは遠いですし、

 今はほとんど人の出入りは無いようです。」


 答えた。



「賊を片づけたら、

 ここもどうにかしなきゃいけないなぁ。」


「御取り計らい、

 なにとぞお願い致します。」


 答えたのは捜索に同行した、

 この地区の役人だった



「うー、また仕事が一つ増えた。」


 ミルファは大きくため息をついた。


「ミルファ様!!」


 雑木林の奥から、

 捜索隊の中年の男性の声がした。


「こちらへお越しください!!」


 ミルファたちが声の方角へ行くと、

 そこには今にも朽ちそうな廃屋があった。

 

 廃屋の中には、

 食べかけの果実や様々な木の実、

 動物の毛皮を敷き詰めただけの、

 粗末な寝床など、

 ごく最近まで人がいたであろう痕跡が、

 生々しく残っていた。


「これらの痕跡を分析したところ、

 賊は二人組ではないかと推察されます。」




 捜索隊の若い女性が、

 自分の考えをミルファへ述べた。


 それに対しミルファは、


「うーん、ただ複数の浮浪者がいたって、

 可能性もあるよね。」


 慎重な答えを返した。

 

「た、確かに…その可能性は排除できません。」


 ミルファはあらためて廃屋の中を見渡した。


 動物の毛皮の側に、

 平たい石があるのに気が付いた。


 石をよく見てみると、

 何か植物をすりつぶしたような形跡がある。


 ミルファはそれが気になり、

 平たい石に顔を近づけた。


 その瞬間、


 「うわ―――っ!!」


 体中に電流が流れたような、

 強烈なしびれを感じた。


「ミルファ様!!!」


 捜索隊や従者たちが一斉に、

 大声を出したミルファの周りに集まった。


 「だ、大丈夫…、

  ちょっと驚いただけ。」


 ミルファは周囲を安心させるために、

 平静を装った。


「その石が原因ですか?」


 捜索隊の女性隊員がミルファへ尋ねた。


「はぁ…、説明しなきゃダメ…だよね?」


 ミルファは自分に集まる視線に、

 困った顔を見せた。


「お願いします。」


「原因は石じゃない、

 ほとんど残ってないけど、

 石の上ですりつぶされた植物、

 ”影草”のせい。」


「影草…ですか…?」


 ミルファをのぞいた全員が、

 状況を呑み込めていなかった。


「結論から言うと、

 ここにいたのは、

 私たちが探す犯人で間違いない。」


「………?」


 ミルファ以外の者は、

 あっけにとられた。


「その石の上ですりつぶされた植物は、

 王国内での栽培、所持、使用が禁止されてる、

 強力な魔力増強効果を持った植物”影草”。」  

 

「…なぜそれと犯人が結びつくのでしょうか。」


 同行したこの地区の役人は素直に疑問を口にした。


「今、王国を悩ませてる、

 幻術士って呼ばれてる魔法使い崩れは、

 この植物から抽出されたエキスを体に刷り込むことで、

 強力な魔力を手に入れてるんだ。

 そう簡単に手に入れられるモノじゃないから、

 ここにいた奴らは幻術士と関係があるし、

 犯人の可能性も高いってわけ。」


「なるほど、そういうことでしたか。」


「たぶんみんなは触っても平気だよ、

 こいつ魔力を持つ人にしか干渉しないみたいだから。」


 ミルファに言われて、

 何人かが”影草”の付着した平たい石をさわってみたが、

 実際何も起こらなかった。


「この植物自体、滅多に表に出てこないから、

 ボクも研究施設以外で存在を確認するのは初めて。」


 ミルファは説明を続けた。


「だけどコイツ、副作用がヤバいんだ、

 めちゃくちゃ強力な依存性があって、

 最終的には精神ぶっ壊れちゃうって。」

 

 ミルファの説明に、

 廃屋にいる全員が息をのんだ。


「なんか話がそれちゃった。」


 ミルファは重い空気を振り払うように、


「次は、近くに住む人たちから、

 この周辺の目撃情報を集めて。

 どんなささいなことでもいいから。」


 捜索隊へ指示を出した。


「ミルファ様!!」


 そんな中、

 廃屋の外からバリトンボイスが聞こえた。



「今度は何!?

 って…この声…。」


 ミルファの前に現れたのは、

 もちろん執事のセバスチャンだった。


「こんなとこまで、どうしたの?」


 セバスチャンはミルファからの問いに対し、

 サンダースからの伝言を手短に伝えた。


「ただ会って話があるって言われてもさ、

 もう要件ちゃんと伝えてよ!」


 サンダースからの要望を聞き、

 ミルファは苛立ちを隠さなかった。


「すみません、要件をお話にならなかったので、

 何か機密事項に触れるのではないかと、

 勝手に推測してしまいました。」


「まったく、こっちは手が離せないってのに。」


「至急…とのことでしたので、

 直接私がまいりました。」




 ミルファはチョットだけセバスチャンを睨んだ。


「じゃ、捜索の指揮は一旦セバスチャンに任せて、

 ボクは軍学校に行って来る。」


 そして、勢いよく廃屋を飛び出していった。









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