表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

103/123

突然の休日

――アルレオン・ミルファ邸――



 城塞都市アルレオンに到着して3日目の朝、

 オレことリゼル・ティターニア(ヒビノタツヤ)は、

 領主ミルファ・ダリオンの邸宅にいた。

 

「エレガントに、そうであります!

 すべてをエレガントに、であります!」


 オレの目の前でいかにも執事といった老年紳士が、

 優雅な振る舞いについて、

 身振り手振りを交えて力説してくれている。


「は…はぁ…、エレ…ガント…ですか。」


 オレはそんなことを言われても、

 正直ピンとこなかった。


<今日は執事の勉強なんだ、タツヤ頑張ろうね!>


 異世界に転生してから今日まで、

 激動の日々を送ってきたオレに、

 ようやく訪れた何もしなくていい一日、

 そう!本当なら今日は、

 こっちの世界で初めての休日になるはずだったのに…。


 そんな日の朝、オレはミルファの屋敷へ、

 ほとんど強制的に連行された。

 

 そんな訳で、

 まったくやる気の出ないオレと違って、

 この身体の元々の持ち主、

 リゼル少年はやる気満々だった。


(……”頑張ろう”……、

 って言われてもなぁ…。)


 それに比べ、休日を奪われたオレは、

 朝からグチが止まらなかった。


 そこへ、


「おぉ、ティターニア!!

 なかなか似合ってるじゃん!」


 オレを朝から憂鬱にした張本人、

 若きアルレオン領主ミルファ・ダリオンが執事室に現われた。


 ミルファは、

 執事服テイルスーツを着せられたオレを見て、

 ニヤニヤしている。


「似合って…ますか、

 …それはどうも。」


 オレは、ボソボソ声で、

 一応ほめられた分の礼を言った。


 そんなオレのテキトーな態度を見たセバスチャンは、


「ティターニア殿!いけませんぞ、

 従僕たるもの、

 返答もエレガントにこなしてこそ、

 究極の執事、さらにはその先の高みへと、

 昇ることが出来るのであります。」

 すかさず厳しい注意を入れてきた。


「べ、別に、オレは究極の執事になりたいわけじゃ…。」

「おっほん、何かおっしゃいましたかな。」


 セバスチャンはわざとらしく、

 大きな咳ばらいをしてオレを睨んだ。


(まったく、なんで朝から、

 こんな目に合わなきゃいけないんだよ…。)


 オレのグチは続く。


「まぁまぁセバスチャン、

 今日一日の見習い体験なんだから、

 ほどほどにしといてあげてよ。」


「ミルファ様、たとえ見習いであっても、

 やるからには志を高く持っていただきたい、

 私目はそう考えておりますぞ。」


(はぁあぁ…、

 寮で至高の休日を過ごしたかった…。)


<またそんなこと言って…。

 至高の休日ってさ、

 ただベッドでゴロゴロするだけでしょ。>


(………うん。)


<僕は断然こっちのほうがいいな、

 知らない世界ってさ、

 わくわくするじゃん。>


(ふぅ…超ポジティブ少年には、

 オレのような大人の楽しみは、

 まだ理解できないか…。)


<はいはい。>


 サンダースのおっさんが校長として赴任した次の日、

 オレは朝からいきなりミルファの屋敷に連れてこられ、

 かっちりした執事服を着せられて、現在に至る。


 ミルファはミルファで、

「どうせ、寮にいたってすることなかったんでしょ、

 これも社会勉強だよ、社会勉強。」

 笑ってオレの背中を大きく叩いた。


「じゃ、セバスチャンあとはよろしく。」


 そう言うと、ミルファはそそくさと部屋から出て行った。


 部屋に残されたオレと老執事セバスチャン。


 セバスチャンはオレの目をしっかり見つめ、


「ではティターニア殿、

 式典の準備を始めるとしましょう、

 レッツビギンですぞ!」 


 朗々としたバリトンボイスが部屋中に響いた。






――ミルファ邸・廊下――



<執事とか従僕ってさ、どんなことするんだろ?>


 リゼルがオレにたずねてきた。


(さぁ…、何となくはわかるけど、

 まぁ、とにかく主に仕えればいいんだろ。)


<なにそのテキトーな答え。>


(だって詳しく知らないんだから、

 しょうがないだろ!)


 オレたちはこんなやりとりをしながら、

 セバスチャンの後をついて行った。


「では、まずこちらから始めていただきます。」


 老執事に案内された先には、

 大きな鍋や、フライパン、

 初めて見る調理器具に、

 大きな流し台、

 中央にあるテーブルには、

 大量の食材が並んでいる。 


 オレが案内された場所は、

 この屋敷の厨房だった。


「ティターニア殿には、

 まずこちらでのお手伝いをお願いいたします。」


(て、手伝い…、厨房で…。)


<執事ってこんなこともするんだ。>


(いや、普通しないと思うんだけど…。)


 厨房の中央で作業している、

 ふくよかなおばちゃんがオレたちに気づいた。


「ちょうど良かったよ!

 急なパーティーの準備で、

 こっちは大忙しなんだ。

 人手はあるにこしたことないさね。」


 おばちゃんは豪快に肉をさばきながら、

 手伝いに来たオレを歓迎した。


「あらまぁ、

 よく見たらかわいい坊やじゃないか、

 よろしく頼むよ。」


 おばちゃんは一切手を止めることなく、

 しゃべり続けた。


「それとセバスチャン、

 例の料理の手配はどうなったんだい?」


「その件ですが、

 昨日から何度かこちらから使いの者を、

 店へ送ったのですが、

 店は休業状態、

 店の主とも連絡がつきませんでした。」


「そうかい…、

 休業なんてどうしちまったんだろうね、

 あたしの知る限りじゃ、

 新年や感謝祭の時ぐらいしか、

 休まなかったはずなんだけどね、

 しかも不在なんだろう。」


「いや、その点につきましては、

 気になることがありましてな。」


「どういうことだい?」


「使いの者の話によりますと、

 二階の住居に、

 人の気配がしたというのです。」


「居留守ってことかい…?」


「それは、こちらでは何とも言えませんな。」


「せっかくならベルディア公に、

 この地方の名物、

 若翼竜の料理を召し上がってもらいたかったねぇ。」


(若翼竜…?

 翼竜…ってドラゴンのこと?)


<うん、こっちの地方の名物なんだって。>


(あっ、広場前で食べたアレだ!!)


<いいなー!>


 オレはミルファに会う前に、

 屋台で食べた味を思い出した。


「若い翼竜の新鮮かつ上物ってのは、

 中々手に入らないから、

 今回はあきらめるしかないね。」


「非常に残念でございます。

 ミルファ様も楽しみにされていたのですが。」


「その代わりに、

 とびきりの鹿肉と猪肉を用意させたよ。」


 おばちゃんがさばいているのは、

 きっとその肉なんだろう。


「では、私めはこのあたりで失礼して、

 自分の仕事に戻ります。」


 セバスチャンはバリトンボイスで告げると、

 厨房を出て行った。


 オレが手伝うことになった厨房では、

 おばちゃん以外にも、

 若いスタッフたちがせっせと働いていた。


 オレは若いスタッフに指示されて、

 見上げるほど山積みになった芋の前へやってきた。

 

 芋の前に一本のナイフが置いてある。


(も、もの凄い量の芋なんですけど…。

 それをこの小さなナイフで…?

 ピーラーは…)


「皮むき、それ全部お願いするよ!」 


(芋の皮むき!?

 …っていうかオレ、

 包丁だってろくに使ったことないし…。)


<芋の皮むきなら任せてよ!

 家では僕の担当だったんだ!!>


(マジで!?

 助かった、ありがとうリゼル!!)


 オレは心からリゼルに感謝の念を送った。


 そして、オレはリゼルの記憶をたどり、

 芋の皮むきの経験を体に呼び戻した。

 

 そして、試しに芋を一つ手に取った。

 ナイフを持つ手が自然と動く。


「リゼルすげーよ!

 芋の皮が超高速でむけてる!!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ