終わらない恋 side Bacchus
アルフィーが変わったのはいつからか、と言われたらバッカスはすぐに答えられる。
雰囲気が柔らかくなったのは彼女ができてから。
逆に雰囲気が以前と同じように頑なになったのは彼女と別れてから。
カレッジで初めて会った時のアルフィーは人当たりはいいが、いつもどこか感情が冷めていた。
それは彼の出自に関係する事で、今はそれを知っているから仕方ないと思うし、難しい立場だからこその態度だと分かっている。
仲が良くなると友人想いで真面目な好青年だと知った。恐らく自分の懐に入れた人には親身になるタイプなのだろう。性格だって少しマイペースなきらいがあるが、温和な人柄で、真面目に勉強に取り組む。
でも馬鹿馬鹿しい事やみっともない事はしない。
例えば吐くまで飲んで道端で寝るとか、アルフィーは言語道断だと思う。それにあいつの中に無礼講という単語は恐らく無い。他にも女子を揶揄うとかナンパするとか、男同士の下卑た下ネタにも絶対に参加しないし、飯を一緒に食べに行けば、場所の雰囲気には合わせて砕けた態度も取るが行儀の良さは滲み出ている。
なんというか、隙がない。
その隙のなさがあまり人間らしくなかった。本当にロボットみたいで、価値観の違いと自分に言い聞かせながらも、こいつは楽しいとかそういう感情が人並みにあるんだろうかと思った事もある。
でも彼女ができてからアルフィーは変わった。
今まで理性で手綱を握っていた行動が、彼女に関係する事だけはそうはいかないらしく、普通の大学生らしくなった。
例えば花の日近くにプレゼントに悩み過ぎて教授の言葉を聞き流すとか、彼女とのメッセージのやり取りに人前で頬を緩めたりとか、珍しくピアスなんか着けてるなと思ったら彼女から貰った魔石のお守りだと言って滅多に外さなくなったりとか、彼女と喧嘩したと落ち込んでいるせいで勉強に身が入らなかったりとか。
隙のない友人より、人間らしい感情を見せる友人の方が、本来の彼の良さを引き出している気がした。
彼女の事なんてバッカスは顔とエラという名前くらいしか知らないが、彼女の存在がアルフィーを変えた事は分かる。
でも彼女との付き合い方に悩んでいた時にあの事件だ。
あれからすっかり隙のないロボットのような人間にアルフィーは戻ってしまった。
彼女の事を話題にも出さなくなった。別れたと気がついたのは事件からしばらく経ってから。
ああ、こいつは彼女の安全の為に自分を殺したのだとすぐに察した。
あまり深くは聞かなかった。でも絶対に外さない黒水晶のピアスを見ていれば、大事そうにそのピアスに触れていれば大体察せる。
「触るな!」
飲み会で先輩達の悪ふざけに巻き込まれた時も、よく知りもしない女に手を出されそうになった時も本気で怒っていた。普段大人しいアルフィーが怒ると少し怖い。周りの先輩達も驚いていて、アルフィーが帰ってからどうしたんだ?と不思議顔でバッカスに尋ねてきたので、仕方なく俺もよく知りません、とお茶を濁した。勝手に喋ると怒りそうだ。
冬にたまたま休憩室の情報番組を見上げていたら、前にアルフィーが彼女と出てきた魔石工房がテレビに映し出された。
驚いたものの、ヨルクドンで少しだけ話した黒髪の彼女が出てきた時はもうデールの研究室まで走っていて、驚いているアルフィーを引っ捕まえていた。
無理矢理引っ張ってきたアルフィーは音声だけで誰かに気がついたらしく、ほんの少し体を強張らせた。
でもすぐに俺を振り払おうとしたもんだから、させるもんかと腕に力を入れた。
「すっげー美人だろ?コブランフィールドにいるんだってさ。こんな美人がいるならカレッジにいた頃にもっと遊んでおくべきだったなー」
「………」
頭のいいアルフィーはすぐに理解したらしい。
「………バッカスって案外惚れっぽいな」
うるせえ。誰のせいで道化を演じてると思ってるんだ。
「黙れ。別にいいだろ。俺だって彼女欲しいんだよ。そういえばこの前の貸し、返せよな。今度奢れ」
「いいよ。ありがとな」
素直に礼を言うアルフィーは少しだけ人間らしい。
やっぱりあの彼女がいないとこいつは面白くない。
早く踏ん切りつけて、彼女を迎えに行って平身低頭で謝まればいいのに。
それで彼女に拒否されたらされたで諦めもつくだろうし、よほど優しい彼女で寄りを戻せそうならさっさと戻せばいいとバッカスは本気で思っている。
だってこいつは彼女がいないと面白くないのだから。
次は20時!次の視点は誰でしょうか?




