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旅行 6

 旅行最終日、エラはアルフィーの案内である程度整備された公園の歩道を歩きながら、美しい自然を堪能した。

 何故アルフィーの案内かというと、道が複雑で行きたい場所までの道のりが分かりにくいからだ。

 国立公園は広大で迷ってしまうと遭難の危険もある為、エラは地図を買おうとしたが、アルフィーが「公園内でも電波が届く場所しか行かないし、スマホがあれば大丈夫だよ」と言い、しかも広い公園内の案内看板をしばらく見て暗記したらしく、エラの手を緩やかに引いて歩き出した。

 アルフィー曰く、広大な国立公園でも今日エラ達が行くのは観光地として整備されているエリアなので、よほど道を外れなければ遭難などまずしないようだ。

 そんな訳でエラはアルフィーに付いて公園を回っている。

「本当に綺麗…」

 目の前に細いが高さのある滝が、たっぷりの水を上から降らせている。大きな音は自分の内側に響くようだ。

 周りには沢山の観光客がいて、美しい自然に目を奪われたり、希少な鳥や動物の観察をしたりと、それぞれの方法で大自然を満喫している。エラ達のすぐ近くにツアー客がいてガイドによる説明がなされていて、ガイドの説明に少し聞き耳をたてた。

 アルフィーと遊歩道に沿って歩いていくと、真っ青な湖や池、透明な川が足元を流れたり、青々と繁った水草や木々、美しい花々が目を楽しませてくれる。

 春の時期は花が至る所で咲いているのでたまに甘い香りも微かに鼻をくすぐった。空気も澄んでいておいしい。

 フォトスポットでは近くにいた別の観光客が気を利かせて写真を撮ってくれ、大自然を背景にツーショットが撮れた。

 お喋りをしながらかなり遊歩道を歩き、いつの間にか遊歩道は階段になって少し山を登っていた。

 登りばかりでそろそろ疲れてきたという頃、やっと階段の終わりが見えて休憩を取ろうとアルフィーに言おうとした。

 でも階段を登って急に開けた視界の先に美しい水色と青紫の丸いグラデーションが現れたので、そんな提案は吹っ飛んだ。

「わっ……すご……」

「噂以上に綺麗だね」

 現れたの美しい水色の湖面を持つ湖が青紫のニニューに囲まれて、幻想的な風景を生み出している。遠目からはどこまでか湖か分からないほどだ。美しい景観に魅入られたように周りには観光客も目立ち、青紫の花畑に迷い込んでいるように見える。

 早く近くで見たくて気持ちが逸り、エラは気持ちアルフィーの腕を引きながら湖の近くへ向かった。

 他の観光客に混じって花畑に近づけば、あまりの美しさに勝手に気分が高揚して、ついアルフィーから手を離して少し駆け足で花畑に突入した。

「きれい……可愛い」

 間近で見ようとしゃがんで花を覗き込む。ニニューは青紫の五枚の丸い花弁が可愛らしい小さな花が咲くのだと初めて知った。

「今度は花の妖精にでもなるつもり?」

「はい?」

 追いついてきたアルフィーがしゃがむエラの隣りに立って変な事を言うので、エラは思わず振り返った。

 夜の妖精もよく分からないが、花の妖精も分からない。

「どういう意味?」

「今日の服が全体的に青っぽいからさ、ニニューの花の妖精か、それとも湖の乙女かと」

 確かに今日のエラの服は花の日にアルフィーにもらった青いストールに、動きやすいように黒のTシャツと仕事にも履いているストレッチ素材の水色の綿のパンツだ。おまけに髪は真っ黒で青く光る。

 全体的に青っぽい印象だから、何となくアルフィーの言わんとしている事は分からないわけではないが、妖精に例えられる気になって欲しい。美人でも可愛いわけでも、ましてや妖艶なわけでもないのに居た堪れない。

「もう…口がいいんだから…」

「本気でそう思ってるんだけど。初めて会った時からエラは妖精みたいだって」

 くすくすと笑う声が上から降ってくる。

 大した事ない容姿を褒めてくれるのは嬉しいけれど、可憐なイメージの妖精に例えられるのはやっぱり落ち着かない。

「もっ…………」

 体中がむずむずして、エラはガバッと勢いよく立ち上がった。

 もう。ほら、行こう。そう言いたかった。

 でも何かに激しく右肩を叩かれ、息が詰まって言葉が出ない。

 目の前のアルフィーの目が大きく見開かれている。

 どうしたの、と尋ねたいのに立ち上がったはずの足が崩れ落ち、目の前のアルフィーに倒れ込む。

 何が起きたか分からない。右肩に灼熱を感じた。

 エラ、とアルフィーが呼んだ。

 それに返事をしたいのに、急速に視界が狭まって、エラは意識を手放した。





 アルフィーにも何が起きたのか分からなかった。

 全体的に青い服を着たエラがニニューの花の中にいると本当に妖精みたいだったから妖精みたいだと言ったら、照れたエラが顔を赤くしながら立ち上がって、同時にドォンと大きな音がした。

 次の瞬間にエラの右肩から血が噴き出し、アルフィーの周りにガラスのような膜が一瞬出来た。

 膜は魔法だとすぐに分かったが、何の魔法が発動したのか分からないまま、エラがアルフィーに倒れ込んできたので思わず受け止めると、エラの右肩からどくどくと血が溢れていた。

「エラ…?」

 周りから観光客の悲鳴が聞こえる。

 撃たれた、と誰かが叫んだ。

 伏せろ、と誰かが忠告している。

「っ………!!」

 撃たれた!?

「エラ!!」

 ざっと血の気が引く。

 倒れ込んだエラの肩を確認し、恐ろしい勢いで血が溢れていくのを見る。自分があげた青いストールが血に染まっていく。

 パニックになりながらもアルフィーはすぐに防御魔法を展開し、自分とエラの安全を確保した。長年、命の危険に晒されてきた反射に近い行動だ。

 次に血が溢れるエラの右肩に手を置いて、水を操る魔法を発動する。少しでもエラの出血を防ぎ、失血させないように微かに感じ取れる拍動に合わせて溢れる血を魔法で一纏めにして体内に戻す。エラが魔法付与で怪我ばかりするから、治癒魔法を復習した時に本で読んだ魔法による止血方法だ。

「エラ!しっかりしろ!エラ!誰か!救急車を呼んで下さい!」

 周りの人に助けを求めると、いつ来るか分からない二発目の銃声に怯えながらも何人かが警察や救急に電話をかけ始め、勇敢な女性が二人、立ち上がってアルフィーの近くにやって来た。

「看護師です!見せて下さい!」

 防御魔法を調整して二人を魔法の中に入れると、二人のうち年上と思しき女性がアルフィーの魔法を見て、厳しい顔でアルフィーを見た。

「そのままその魔法を維持して下さい。脈取って!」

「頸動脈、触れます!」

「エラ…!エラ…!」

 血の気の失せた顔で気を失っている恋人に必死に呼びかける。

「エラ…!!」

 しかしエラが返事をする事はなかった。




湖群国立公園のモデルはクロアチアにあるプロトヴィッツェ国立公園です。行ってみたい。写真だととても綺麗です。


ニニューの花のモデルはネモフィラ。風景のモデルはテカポ湖のルピナスです。でもテカポ湖のルピナスは外来種だそうで、駆除が進んでいるとか……残念。

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