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旅行 5

 朝、目を覚ますと隣りでアルフィーが寝ていた。

 それが嬉しいなんて、相当重症だと自分でも思う。

 エラはじっと恋人の顔を見つめた。

 いつも優しい顔立ちも寝ていると少し印象が変わる。上手く言えないけれど、優しさは鳴りを潜めて男性らしいシャープさが見える。

 でも私、あんまりアルフィーの事、かっこいいって思った事ないのよね…。

 本人に言ったらショックを受けそうな事をエラは考える。

 どうしてもエラはアルフィーと一緒に過ごしていると、かっこいいと思う前に優しいとか紳士的だなが先にくる。

 それに不満があるわけではなく、ただ恋愛小説を読んでいると、漠然と恋人はかっこいいと思うものだと思っていたからちょっと不思議なだけ。

 でもエラに優しい男性なんて他にもいる。デイヴやアルヴィンだって優しいし親切だ。少ししか話した事はないが、マテウスなんてモデルのようにかっこいいし、親切そうな人だった。

 でもエラが優しくしてもらえて一番嬉しいのはアルフィーなのだ。

 何でこんなに好きなんだろう。

 うーん…哲学。

「アルフィー、起きて」

 とりあえずアルフィーを起こす。

 すぐに目覚めたアルフィーは目を何回か瞬いてエラを見た。

「…おはよう、エラ」

「おはよ」

「今何時…?」

 自分のスマホに手を伸ばして時間を確認したアルフィーは起きようとしたエラの腰を捕まえてベッドに引き摺り込んだ。

「ちょっと!」

「…もう少し……」

「ひゃっ………」

 背後からがっちり腰を両腕で固定され、うなじにキスを落とされる。

 それだけでアルフィーと覚えた自分の内の熱を思い出し、変な気分になってくる。

 普段の休日ならこのまま熱に流されるのも悪くはないが、今日はそういうわけにもいかない。

 だってパークに行きたい!

「もう…!朝ご飯だってば!」

 何とかアルフィーを振り返って睨みつけると、彼はおかしそうにエラの眉間に唇を寄せた。

「そうだね。起きようか」

 その一言でやっと二人はベッドから起き出すと、朝の支度を始める。

 今日も同じホテルに泊まる為、荷物はそのままで二人はパークに向かった。




 パーク二日目は一日目で少し慣れたので、昨日より余裕がある。エラとアルフィーはさくさくとはいかないが、それなりにスムーズにアトラクションに乗っていった。

 昨日乗れなかったSFファンタジーのアトラクションは人気キャラクターの過去話になっていて、エラは帰ったらもう一度映画を観る!と言い張っていたし、アルフィーは昔から愛される長編映画のアトラクションのライドが、映画に出てくる戦闘機そっくりだったので感動していた。

 お昼ご飯は、昨日とは別の、とある映画と全く同じ作りの食堂に行った。

 昨日の昼ご飯はアルフィーが全て出したので、今日は私が出す!と何とかエラは渋るアルフィーに席取りを頼んで自分は列に並んだ。

 二人で昼食を食べた後はまたアトラクションに並んだ。

 海が舞台の映画が元になったウォータースライダーでは、濡れないようにカッパを買うか迷ったが、アルフィーが絶対に要らないと言い張った。

「でも買わないと濡れちゃうわよ?」

「どうせ濡れるよ。それくらいなら魔法で乾かす」

 そんな訳で何の装備もなくウォータースライダーに乗り、二人は見事にずぶ濡れになった。

 全身濡れたせいで気分が高揚して、エラは大笑いして気休めにしかならないが、手を振って水を払った。

「もう!ぐしょ濡れ!」

「こんなに濡れるとはね」

 アルフィーもずぶ濡れがおかしいのか、笑って自分の髪を掻き上げた。その仕草に何故かドキッとした。何でだ。

「風邪引く前に乾かすよ」

 ウォータースライダーを出た所でアルフィーが道脇にあるベンチにエラを連れていき、水の魔法で水分をある程度落としてから昨日も使ってくれた魔法で乾かしてくれた。

「これ好きー。気持ちいい…」

「そう?なら今度から髪乾かしてあげるよ」

「ほんと?ありがとー」

 へにゃりと笑って、温かい空気を堪能する。

 さすがに全身だったので昨日ほど早くはなかったが、ずぶ濡れだった全身が見る間に乾いていく。

 アルフィーはエラを乾かすと自分自身も素早く乾かして、二人はまたアトラクションに繰り出していく。

 最後はど定番に観覧車。

 トレーラーパークの観覧車は内装が凝っていて、色んな映画がモチーフになっている。

 嬉しいことに、昨日アルフィーが買ったストラップの映画がモチーフの内装に当たり、エラは乗っている間、飾りとして置かれていた黒猫のぬいぐるみを抱きしめていた。

「戦略に乗せられてるみたいだけど…後で買おう」

 宣言通り、エラは帰りに黒猫のぬいぐるみを買った。

 いや、正確にはアルフィーに買ってもらった。

「俺、他にも買うからまとめて買ってくるよ」

 そう言われて大人しくぬいぐるみを差し出したところ、普通に買ってくれて代金も受け取ってくれなかった。

「嘘つき!」

「失礼な。まとめて買ってくる、って言ったろ?」

 まんまといっぱい食わされて、エラは膨れた。

 けどどこか嬉しくて、結局笑って受け取ってしまった。

 昨日買うと息巻いていた限定品も買ったし、レーナやルーク、ダスティンにもお土産を買った。

 なのでホテルに帰る頃には手はお土産で一杯だった。

「楽しかったー!疲れたぁ」

 ホテルに戻ってくるとベッドに倒れ込んだ。

「明日は国立公園だよ」

「天気いいかなぁ。アルフィーが教えてくれた絶景楽しみにしてるの」

 明日行く湖群国立公園は雄大な自然のなかに豊かな水が流れて小さな湖をいくつも作っている。ラピス公国で一番の自然風景であり、この国立公園自体はエラも知っている。

 でもアルフィーによれば、国立公園内にある湖の中でも特に奥の方にある湖の一つは、この時期になると魔力を持つ花、ニニューが湖の周りに咲き誇り、水色の湖面とニニューの青紫の花が絶景を生み出しているらしい。

 ニニューは地面に這うように青紫の小さな花を付ける植物で、水辺の近くに育つという特徴的な性質がある。花の香りを嗅ぐと花の魔力によってアルコールを少量摂取した時みたいに少し気分が良くなるのだとか。その花が丁度今が見頃らしい。

「明日は結構歩くから早く寝て明日に備えようか」

「はーい」

 すぐに寝てしまいたい誘惑を何とか振り切って、エラはベッドから起き上がると、お土産喜んでくれるかなとそわそわした気持ちと一緒にお土産を鞄に仕舞っていく。沢山お土産を買ったので片付けに時間がかかり、先に終わったアルフィーがシャワーを浴びに行った。

 何とか荷物を一纏めにした頃にアルフィーがシャワーから出てきたので、入れ違いにエラがシャワーに入り、汗を流す。

 部屋着に着替えて濡れた頭のまま部屋に戻ると、ベッドでニュースを見ていたアルフィーが隣りに座るよう誘い、髪の毛を乾かしてくれた。

 夢見心地で終わるのを待っていると、乾いた髪の毛がふわりと肩に落ちた。

 もう終わっちゃった……と残念に思いつつもお礼を言おうと振り返った所でキスをされた。

 触れ合うだけのキスで終わるかと思って身を任せたところ、終わるどころか貪欲に求められてエラは思わず逃げようと体を引き、距離を取ろうと片足をベッドに乗せた。

 が、片足の頼りない堤防はあまり意味を成さず、すぐに追いかけられて体重をかけられ、バランスを崩されたエラは小さな悲鳴をあげてベッドに押し倒された。

「寝るんじゃないの!?」

 ようやく唇が離された時に上から覗き込む恋人に抗議をこめて喚くと、アルフィーは意地悪そうに笑った。

「もちろん寝るけど?」

「絶対に意味が違う……!」

「何?エラは嫌なの?」

「っ……!もう!!」

 顔を真っ赤にしてぽかりとアルフィーの肩を打つが、彼はくすくす笑ってどこ吹く風だ。

 どれだけ紳士的で優しくても、こういう所は男の人だなと思う。

 結局、これからする事が嫌なわけではないエラはまんまと流されて、明日に響かない程度に夜を過ごす事になった。




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