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見習い魔石工の妖精乙女  作者: 小雪
番外編
111/114

傷跡 2

アルフィーの妥当な特技発覚。

 会場から十分離れた所で、アルフィーは「もういいかな」と呟き、エラの手を恋人らしい繋ぎ方に変えた。

「大丈夫?」

「うん…」

「肩の傷の事、気にしてる?」

 突然聞かれて、同窓会でのやり取りを思い出して肩に手をやると、何故かアルフィーは笑った。

「な、何で笑うのよ!」

 笑われた理由が分からず、直前の気まずさなど飛んでいって喧嘩腰になると、アルフィーはおかしそうに「だって」と言った。

「修行でエラに傷が残るのをルークさんが心配した時は魔石工の宿命だ、って言ってたくせにと思って」

「そっ……それとこれとは話が別…」

「うん、そうだね。修行で作る傷と、その肩の傷は全く意味が違う。それは分かってるけど、魔法付与に失敗して顔に大きな傷作ったせいでルークさんが大慌てで俺を呼び出した事があっただろ?顔に傷作って女の子なら落ち込んでるかも、って思って急いで行ったのにエラは何も気にしてないみたいでおかしかったの思い出して」

「うっ……」

 当時を思い出してエラは赤面した。確かに魔法付与での失敗による怪我には無頓着だった。

「その肩の傷は、今でも俺のせいだと思ってるよ」

「………え?」

 あまりにも穏やかにアルフィーが切り出すからエラは反応が遅れた。

「何で?アルフィーのせいじゃないじゃない」

「それでも防御魔法使ってればって思うし、狙われたのは俺だったし、エラのそばを離れたからベイリー先輩みたいに傷に魔法もかけなかった。無責任だったって今でも思うよ。…でもね、エラ」

 アルフィーが足を止めてエラと向き合ったので、自然とエラも足を止めた。

「勘違いされる前に言っておく。その傷に責任は感じてるけど、それがエラと結婚したい理由ではないよ。傷があろうが無かろうが関係ない。エラの隣りにずっといさせて欲しいと思ったから俺はプロポーズしたんだ」

「アルフィー…」

「改めて言うと恥ずかしいな、これ」

 照れくさそうにアルフィーが視線を逸らし、こつ、と額を合わせてきた。

「あんな奴の言う事気にしなくていいよ。俺にとってエラ以上の女性はいない」

「……うん。ありがとう…」

 アルフィーの告白に温かい気持ちになり、エラはアルフィーの首に腕を回して抱きついた。アルフィーが抱擁を返してくれて温かい気持ちが溢れてくる。

「大好き、アルフィー」

 心から囁くとアルフィーが耳元で幸せそうに笑ってくれた。

「帰ろうか。お義父さんが心配してたよ」

 体を離してお互いの腕を組む。

 そうすればもういつも通りで、エラはリラックスしてアルフィーに疑問をぶつけた。

「そういえばさっきのエスコート、いつもと何か違ったわね。何が違ったの?」

 尋ねるとアルフィーはやっぱり悪戯げに笑い、今組んだ腕を離してエラの肩を抱いた。

「俺がアルヴィンと学んだのはエスコート術だけだと思ってる?」

「え?そうじゃないの?」

「俺ね、一応アルヴィンに何かあった時のスペアだから。俺自身は王位なんて欲しくないし、アルヴィンが駄目ならダイアナがなればいいって心底思ってるけど、周りはそう思ってないんだよ。つまり」

「つまり?」

「俺もね、一通り帝王学は修めてるってこと」

「………は?」

 耳元で囁かれた言葉にエラは驚いて振り返った。

「……えええぇぇ?嘘でしょ?」

「本当だよ。失礼だな」

「帝王学とかよく分からないけど、あれでしょ?王家とか貴族とかが後継に色々教えるやつでしょ?アルフィーもやったの!?」

「スペア扱いだからね」

 肩を竦めるアルフィーを見てエラは信じられない気持ちで一杯になった。

「テレビとかでアルヴィンは王族らしいっていうの?なんかそういう振る舞いしてるの見てるけど…アルフィーが?」

「エスコートもマナーも全部帝王学に含まれてるよ。だからアルヴィンがやるの嫌がったんだし、アルヴィン説得するのに俺が使えるなら、ついでに俺にも全部学ばせようって魂胆だったんだろ。いいけどね、ああいう場所では役に立つし」

 ああいう場所では役に立つ?

 アルフィーの言い回しがよく分からず、エラは首を捻る。

 そんなエラを見てアルフィーは事も無げに言った。

「人を屈服させる方法は暴力だけじゃないよ」

「……なんか物騒…」

「平和的の間違いでしょ」

 やっぱり意味が分からなくてエラは眉を寄せた。





 翌日、エラはアルフィーと予定通りコルコットに帰ろうとしていた。

 車に荷物を載せて帰る準備をしていると、向こうからオーブリーがやって来るのが見えて、エラは手を止めた。

「オーブリー、おはよう」

「おはよ!帰っちゃうの?」

「うん。明日は仕事だし、やる事あるから」

「ならちょっとこっち来て!」

「え、ええ?」

 ぐいぐいオーブリーに引っ張られて、エラはアルフィーを振り返る。

 しかしアルフィーは肩を竦めて、軽く手を振った。行っておいで、という事だ。

 とりあえずオーブリーに手を引かれるまま付いて行くと、彼女はエラの家から少し離れた場所で、でも荷物を車に載せるアルフィーが見えなくならない位置で止まって、チラチラとアルフィーを見つつ口を開いた。

「エラ、あんた玉の輿にでも乗ったの?」

「はい?」

 エラは予想外の質問に目をぱちぱち瞬いた。

 玉の輿?…まあ身分的には玉の輿だけど……でもお金持ちになるわけじゃないし……。

 なんせエラもアルフィーも自分の稼ぎで細々と暮らしている。

 アルフィーが王族ってバレたとか?それにしては変よね?

 だからエラは率直に尋ねた。

「どういう事?」

「どうもこうも無いわよ!昨日のパーティー!アルフィーさんだっけ?彼、絶対どこかいい所のお坊っちゃんでしょ!?じゃなきゃ、あんな雰囲気出せないわよ!」

「雰囲気?」

「最後にエラ連れ出した時!あの近寄り難い雰囲気何?神聖っていうか、なんていうか…こう政治家とか軍人の偉い人みたいな…有無を言わさない感じ!こう余裕があるというか…」

「余裕」

「エラも慣れてる様子だったし、私思わず見惚れちゃったわ。あのバカでさえ気押されして黙ったわよ?なんか二人の周りだけ高貴な世界みたいな…だからあのバカは完全に負け犬って印象だったわ。あれよあれ、金持ち喧嘩せずって感じ」

「……え?」

「エラも彼氏さんと手を繋いだ瞬間から別人みたいだったわよ?どこかのお嬢様みたいだったわ。…ああそう!上流階級のお嬢様!そんな感じ。みーんな噂してるわよ?エラの婚約者はどこかの御曹司じゃないかって」

「……………」

 思わずエラはぽかんと口を開け、続けてひく、と口端を痙攣させた。

 エラはやっと理解した。

 昨日の普段と何かが違うエスコート。

 何が違うってアルフィーの雰囲気が違ったのだ。

 いつもの優しい雰囲気も勿論あったけれど、昨日のアルフィーは他者を圧倒させるような支配者然とした雰囲気を醸し出していた。誰も彼も、目の前の道を塞ぐ事を許さない、そんな雰囲気。だからパーティー会場で玄関までの道が開けていたのだ。

 つまり国王陛下直々に教えられた王族としての立ち居振る舞いをあの場でして、ついでに虐められていたエラの惨めな雰囲気を立ち居振る舞い一つで高貴なものに塗り替えたという事だ。

 何してくれてるんだ。正体バレてもいいのか。

「…えっと……玉の輿では…ないんだけど……その、都会のお家だし、マナーに厳しいお家みたい」

「そうなの!?」

「う、うん。おかげで私も食事のマナーを覚えれたわ」

 何とか苦しい言い訳をしてオーブリーの追求を逃れ、また帰省した時は連絡すると約束してからエラはオーブリーと別れた。

 そしてずんずんと実家まで戻り、車にもたれて待っていた婚約者に剣呑に言った。

「…何やってんの?」

「何が?」

「正体バレてもいいわけ!?」

「うーん…それは嫌かな」

「じゃあ自重しなさいよ!昨日のアルフィーの様子が噂になってるってオーブリーが…」

「どこかの金持ちのぼんぼんみたいだって?」

 くすくすとおかしそうにアルフィーが笑い、見抜かれていたことにエラは二の句が継げなくなる。

「やっぱりな。この程度でそう簡単にバレないよ。今までもそうだったしさ」

「で、でも…」

「大丈夫だって。それに、これでエラの傷を噂するような事は少なくなると思うよ。皆、(エラの婚約者)が誰なのかを気にするはずだからね。人は新しい噂に気を取られやすいからさ」

「え…?」

「エラを迎えに行っただけだから、あの変な奴が何って言ってたか全部は分からないけど、肩の傷を論われたんだろ?傷なんて好き好んで負うものじゃないのに、それをネタに馬鹿にするとか最低だよ。でもこれで、エラの傷より俺を気にするはずだから、噂もされなくなるよ」

「……そ、そこまで考えてたの?」

「さあどうでしょう?」

 エラの目を覗き込んでアルフィーがおかしそうに言う。

 エラは頭のいい婚約者を見上げ、何だか悔しくて唇を尖らせた。

「…何だか全部アルフィーの掌の上みたい」

「そんなことないよ」

「どうだか。……でも、ありがと」

 結局、素直に礼を言ってしまう。

 あまり気にしていないとはいえ、自分の体に残る傷を噂されるのは嫌だし、あまり噂されると実家に顔を出しにくくなってしまう。

 アルフィーの策がどこまで有効に働くか分からないけど、噂が減るようにしてくれた事が嬉しい。

「…傷、本当に普段は気にして無いのよ」

「うん、知ってる」

「でも…人の噂に上るのは嫌だったの。これからも隠してた方がいいと思う?」

「俺は気にしないけど…何も知らない周りの人は驚くと思う。注目される率は上がるからどうだろうな。…気になるなら、魔法で隠す方法考えるから魔石にしたらどう?化粧とかでも隠せると思うけど、エラなら魔石でしょ」

「本当?嬉しい!」

 思わぬ解決策を提示されて、エラは嬉しさのあまりアルフィーに飛びついた。

 いつだって落ち込んだエラを笑顔にしてくれる。

 この優しい人が大好きだと心から思える。

 そういう人に出会えた自分は幸運だ。

 エラは体を離して、そっと婚約者にキスを送った。珍しく外である事は気にならなかった。



オーブリー「エラの婚約者、やっぱりどこか良い所の人っぽい」

同級生「まじ?エラ何か言ってた?」

オーブリー「マナーに厳しい家とか言ってたけど…マナーに厳しいだけで昨日のあれはないでしょ。あれはマナーとかってレベルじゃない」

同級生「確かに。フルネーム検索したら何か出ないかな。苗字覚えてないの?」

オーブリー「何だったっけなぁ。アルフィー……ホ……いやオ……ダメだ。思い出せない。真面目に聞いておけばよかった……」

同級生「アルフィーなんてよくある名前だけじゃ無理だー」


こうしてアルフィーの目論見通りエラの噂は変わっていきます。

ちなみにエラを虐めた男は、元から魔石工になりたいというエラの事を見下していた人です。馬鹿にしていたエラが順調に夢を叶え、人生が充実しているのを見て許せなかった人。

アルフィーとエラが帰った後でエラの友達(女子男子問わず)にコテンパンにされてます。

もう一つ番外編書いているのですが……まだ書き切ってないので、もうしばらく連載中にしておきます。

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