兄弟子
「1ヶ月程前、この村をゴブリンの集団が襲ったそうよ。
そのゴブリンの集団は村人と居合わせた冒険者が協力してなんとか討伐したらしいんだけど、村人には数人の死者と多くの重傷者を出してしまったらしいわ。
その時、負傷者を収容していた教会に飾られていた光神像が光を放ち傷ついた人々を癒したそうよ」
マーリンが行商人から聞いたと言う噂話を聞きながら開け放たれた教会の入り口を抜ける。
その教会は田舎の村にしては大きく立派な造りをしていた。
旅人の宿泊施設も兼ねているのか部屋数も多くある様に見える。
礼拝堂の中には木で出来た長椅子と神父が説法をする台が置かれている。
そして、説法台の後ろにある背の高い棚の上に光神像が置かれていた。
「特に精霊の力とかは感じないわね」
「まぁ、取り敢えずエリオに触って貰えば当たりか外れかは直ぐに分かるさ」
「でも、柵がありますよ。
勝手に光神像に触れてはいけないのではないですか?」
「ソフィアは真面目だな。
そんなのこっそり触れて直ぐに元に戻せば良いじゃねぇか。
もし当たりでも光神像は砕けたりなんてしないんだしバレやしないさ」
「ダメよ」
「ダメですよ!」
「勝手に触るのは不味いだろう。
別に悪い事をしようって訳じゃないんだから、少し触らせて貰える様に神父様に頼めば良いだろ」
罰当たりな奴だ。
俺達が光神像の前でぐだぐだしていると、礼拝堂の端にあった扉が開き、奥の部屋から2人の男が出てきた。
1人は服装からこの教会の神父だろう。
もう1人は長く伸ばした銀髪を1つに纏めた線の細い男だ。
眼鏡を掛けたその顔は女だと言われても信じる奴も居るかも知れない。
男は魔法が施された上等なマントを身に纏っていた。
その出で立ちは男が高ランクの冒険者で有ると予想するのには十分な情報だった。
「おや、今日はお客様が多いですね。
当教会に何か御用でしょうか?」
「突然お訪ねして申し訳ありません、神父様。
実はあの光神像に少しだけ触れさせて頂きたいのです」
「それは……申し訳ありません。
あの光神像は当教会の宝、不用意に触れていただく訳には行きません」
「そこをなんとか……」
俺が食い下がろうとした時、銀髪の男が口を挟んできた。
「神父殿」
「は、はい」
「私からもお願い致します。
彼に少しだけ光神像に触れさせてあげて欲しい」
俺は訝しげな視線を男に送った。
何故、たまたま居合わせただけの男が俺達に加勢するのかわからない。
不審に思ったのは神父様も同じだったのか銀髪の男に質問を投げかける。
「なぜでしょうか?」
「彼が…………勇者だからです」
「な、なですと⁉︎」
神父様はビックリ、俺達もビックリ。
なぜ俺が勇者だと知っているのか。
しかし、男はどこ吹く風、如才なく神父様に注意をする。
「この事が魔族に知られると勇者が力をつける前に狙われてしまいます。どうか内密に」
「も、勿論です!」
「彼が光神像に触れたいのは勇者として仲間を集める為、どうかご協力頂きたい」
「は、はい」
神父様は慌てて梯子を取り出し光神像を棚から降ろしてくれた。
銀髪の男には色々と聞きたい事だらけだが、今はこちらが優先だ。
そっと光神像に触れる。
「「「…………」」」
「…………何も起こらないな」
「この光神像ではなかったんだろう」
「神父様、どうもありがとうございました」
「いえいえ、少しでも貴方のお役に立てれば幸いです」
再び梯子を登り光神像を棚に戻す神父様に銀髪の男が声をかける。
「神父殿、部屋を少し借りても良いでしょうか?」
「はい、勿論です」
「付いてきたまえアーサー君、お仲間も一緒に」
銀髪の男に促され、教会の奥にある応接室に通された。
「あの……先程はありがとうございました。
それで、なんで俺達の事を?」
「ふふ、これでも私はそれなりの情報力を持っているんだよ」
そう言うと銀髪の男は軽く笑う。
「取り敢えず自己紹介と行こうか。
私はエレインだ。よろしく」
「え、エレイン!」
「マジかよ、本物か⁉︎」
「まさかこんな場所でお会いするなんて……」
予想外の大物の名前に驚愕する。
しかし、マーリンは俺達とは別の意味で驚いていたようだ。
「……じゃあ貴方が私の兄弟子……Sランク冒険者『千呪の魔導師』エレイン?」
「ああ、初めましてマーリン」
エレインはそう言って優しげに微笑んだ。




