変化を加えていこう
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さて、イベント開始後順調に2チーム撃破し、これから気合の入れどころだと一人いろいろ考えていた私ではあるが、現状を確認してみよう。
「ふぅ……平和、ねぇ」
「そうですねぇ。あ、ハロウさんそのお菓子もらってもいいです?」
「どうぞどうぞおいしいですよ」
思いっきり平和を満喫していた。
というのも、現状【霧海】で周囲の車両を感知、【鑑定】をかけたところ、私達の周囲の車両にはプレイヤーがいないどころか、そもそも同士討ちや潰し合いがあったようで、全滅していたのだ。
残るは、私たちの進んでいた列車の進行方向……前方方向で戦っているプレイヤーたちだけ。
それならば、ということでしばらくはまったりと英気を養うのもありではないか、とハロウが提案したのだ。
……正直、私もこの列車の旅を楽しみにしていたし、まったりのんびりできるのなら、こういうところでしておかないと、今後そういう機会があるのかもわからないため、それを良しとした。
一応、【霧海】を使い常時周囲の車両を感知しているため、他プレイヤーが近寄ってきていてもすぐに気づいて迎撃できる。
ぶっつけ本番ではあるが、少し試したいなと思っていることもあるのだ。
ちょうどいいだろう。
「しかし、こんなイベントが起きるとは思ってませんでしたよ……」
「あぁ、確かにシロさんは初心者さんなのでしたっけ。なら仕方ないわね。よくやるのよ、ここの運営って。こういう形での突発イベント」
「へぇ……例えば前にどんなイベントがあったんです?」
「そうねぇ……例えば、今ある五大国が最初期は実装されていなかったのは知ってる?」
「そうなんですか?てっきりサービス開始からあったものかと」
その言葉に、彼女は少しだけ誇らしげに笑う。
「実はそうじゃないの。今向かっているドミネも、私たちが列車に乗ったヴェールズも始まってから少し経ってから出来たものよ。だから、まぁ正直国としての歴史は浅いわ」
「へぇ……で、その時にもイベントがあったと」
「そうね。まぁ簡単なものだったのだけど、国対国同士の陣地取りゲームみたいなものよ。私達プレイヤーを駒にしたものだけどね」
ふむ、国同士で争って戦争イベントならば他のゲームでも聞いたことがあるし、実際に私も他のVRMMOで参加したこともある。
しかし陣地取りとはなんだろうか?
新手の侵略系のゲームか何かか?
「ルールは簡単。それぞれの国の中に、その国の陣地として5つポイントがセットされるの。それを他の国に攻め落とされないように防衛するのが主なイベント内容よ」
「じゃあプレイヤーが担うのって……」
「そう、基本的に攻め守りどちらも出来るプレイヤーが持ち回りでやっていたわ。イベントにあまり興味のなかったプレイヤーも、それぞれの国から、援助という形でいろいろ貰って仕事をしていたみたい」
前に赤ずきんか誰かが言っていたが、国のNPCから依頼という形で他の国に攻め込むように指示されることもあるという。
それの一番最初の形が、ハロウの語る陣地取りゲームでのやり取りなのだろうか。
「で、その時から運営が何かの実装と一緒に、何かしらの突発イベントをどこかで起こすようになったのよね」
「それで、今回も列車実装と一緒に何かある、と」
「私はそのクチよ。固有魔術使えばすぐ帰れるしね」
ガクリ、と肩を落とす。
知らなかったこととはいえ、イベントがそんな頻繁に起こるとは思わなかった。
というか実装に合わせて突発イベントなんて基本的に予測できない。私はできない。
「まぁまぁ、とりあえず乗りかかった船なのだから、がんばりましょう?」
「えぇ、えぇ……。既に二人ほど殺してますからね。ここで引き下がるとかできませんよ」
「そうね。じゃ、そろそろかしら?」
「えぇ、丁度前のほうから一人移動してきました。その後ろにもう一人、奥からこっちを探ってきてますね」
ここで、【霧海】に前の車両から移動してくる二人組を感知。
ハロウも感知系の魔術か何かを持っているのか、私とほぼ同じようなタイミングで戦闘準備を整える。
「先手仕掛けます。適当にタイミング合わせて攻撃加えちゃってください」
「はーい」
「では……【錬成-範囲変異】」
【霧海】を伝い、進んできている方、奥からこちらを伺っている方両方の足元から即席の槍を出現させ、その身体を貫こうと試みる。
【霧海】伝いに魔術を使えることは【鑑定】で確認しているために考え付いた奇襲法だ。
『ぐっ?!』
『くそ、気づかれたか!!』
ドアの向こうではまだ元気な声が聞こえてくる。
【霧海】によって、即席の槍が彼らの装備や身体を少なくはない数貫いていることは伝わってくる。
では、もう一つ手を加えよう。
ここから先は、始めた頃【武器創造】を習得したときと似たように実験だ。
帽子屋とリセットボタン、戦ってきたプレイヤーからアイディアを貰った変化球。
「【錬成-範囲変異】起爆」
魔力を再び彼らを貫いた槍へと流し、そう宣言する。
イメージとしては、槍そのものが破裂する、周囲に破片をまき散らせる。そんな地雷のようなイメージ。
初めは、私も爆発物がほしかったのだ。それがあるだけで強力な武器には違いないし、それを持っていると相手が感づくだけでも、十分な威圧となる。
しかし、私にはそれを手に入れる機会もなかったし、そもそも手に入れる魔術も魔術で爆発物に関係のないものばかりだった。
ならば、自分でイメージして、持っているものだけで似たような爆発するものを作ってしまえばいいのでは?と考えた。
まず、帽子屋。彼は【液状爆瓶】という固有魔術で瓶でもなんでも爆発することを教えてくれた。それによって、とりあえず爆って付いてれば爆発するんだな、というイメージを彼は植え付けてくれた。
次にリセットボタン。彼女は【過ぎた薬は猛毒に】を使う際、二度起動文を使い私の裏をかいて殺そうとしてきた。それによって、起動文をもう一度つけるなどアクションを起こすことで、一度手から離れた魔術にも再び変化を加えることが可能だと考え付いた。
その結果がこの槍爆発だ。
名前を付けるとしたら何がいいだろうか。無難に【変異-爆発】とかそんな簡単な名前でいいだろうか。
その直撃を食らった二人組はしばらく悲鳴を上げていたが、静かになっていく。
殺傷力はそこまで高くはないはずなので、まだ生きてはいるだろうが……
「【呪術-蠱毒-犬神】射出」
こちらにはハロウがまだ残っている。
彼女は懐から紫色をした小瓶を取り出すと、ガラ…とドアを開けそのまま瓶を投げ入れ、再びドアを閉じる。
おそらくあの瓶が【蠱毒-犬神】に関係する何かなのだろう。
5秒ほど待ったのち、ドアにカツンカツンと何かがぶつかるような音がしたために開いてみると、そこにはハロウが投げ入れたはずの紫色の瓶があるのだった。
少しだけ、その綺麗な紫に赤色が混ざっていたが。




