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この殺伐とした魔術世界で  作者: 柿の種
第一章 霧の中歩いていこう

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新たな一歩を

もしよかったら感想やご指摘などよろしくおねがいします。


本日は2話更新となります。こちらは2話目になりますのでご注意を


ヴェールズ首都 シスイ - AM


翌日、私はテセウスの店に訪れていた。

腕は欠損したままのため、出来る限り最大出力で【五里霧】を使い、気付かれぬようにだが。


今日訪れた理由は特に消耗品を買いに来た、というわけではない。

この腕の欠損を治すにはどうすればいいのか、そしてコロッセウムがあるという火精族の国【ドミネ】へここから行くにはどうすればいいのか。それを聞きに来たのだ。


今回のリセットボタンとの戦闘でよくわかったのは、まだ私には覚悟が足りていない。

殺す覚悟ではなく、殺される覚悟だ。

これは実は重要なことで、殺される覚悟があるかないかではとれる戦術がかなり変わってくる。


今回もそうだが、私は殺されることに怯えすぎて、逆にそれがつけ入る隙となっている気がするのだ。

それを直すための、コロッセウム。

デメリットがないため、緊張感に欠けてしまう可能性はないとは言えないが、殺される覚悟は決まるだろう。

それに、コロッセウムで戦っているプレイヤー達の動きを見ることで何か学べる事があるかもしれない。


カランコロン、と音を立てながら店の中へと入る。


「やぁ、いらっしゃい」

「どうも、お世話になってます……お邪魔でしたか?」

「いや大丈夫だよ。何が必要かな?」


中に入ると、インベントリの中に店の品々を仕舞っているテセウスがいた。

店仕舞いの途中だったのだろう。少し申し訳ない。


「すいません。今回は物を買いに来たわけじゃなく、ちょっと教えてもらいたいことがありまして」

「ほう?どんな?」

「これを見てください」


私は左肩を出し、欠損した腕について話す。

現在私のステータス欄には、防具によって付与されている【怠惰】や【憤怒】以外に【左腕欠損】というデバフがついている。

これに関しては、特殊な回復魔術を使わないと治すことができないらしいのだ。


「あぁ、そういうことか……部位欠損はHP回復しただけじゃあ元に戻らないものね。いいだろう、それを治すための情報だね?」

「えぇ、それともう一つ。ここからドミネに行こうと思ってるんですけど、どうすればいけますかね?出来るだけ安全な方法のほうがいいんですけど」

「あぁそれなら……ほらこれ」


テセウスはウィンドウを操作し、あるログをみせてくれる。


「次回アップデートのお知らせ…?」

「あぁ。それによると、各国行の列車が実装されるらしい。列車内はPK不可能だそうだよ」


ふむ、列車か。

PK不可能、というのならある程度の安全は確保されるし、国間の移動も容易になるためかなりいいだろう。


「ただ、国によって通る列車が限られているんですね」

「うん、それは国ごとの関係性もあるんだろうね。明らかに仲の悪い国には通らないようになっているようだしね」


そう、幾ら列車が通ろうとも、そもそも国ごとの仲の悪さがある。

火精族の国は、水精族の国と仲が悪い。

人族の国は、森精族の国と仲が悪い。

それ以外にもいろいろあるらしいが、主に仲が悪いといわれているのはそこらへんだ。


「で、腕の欠損についてだけど、水精族の国である【ユディス】に行ったほうがいいだろう。私の知り合いにも何人か回復魔術の使い手は居ることには居るんだけど、物を頼めるくらい信用できる人達かと言われればそうではないからね」

「ふむ…ということは、ユディスに行ってからドミネに行くことになりますかね?」


私がそういうと、テセウスはちょっと考えながら、


「いや、出来ればドミネのほうを先にしたほうがいいと思うな。火精族は普通に付き合うだけなら良い人達だけど、ユディスに立ち寄った後に関所を通ろうとするとスパイ疑惑をかけられて面倒なことになる」

「あぁ、それで一度ドミネに先に入っておいて」

「そうだね、とりあえずドミネから出て帰ってきた、という印象にはなるだろうから一番最初の検閲より厳しくはなるだろうけど、まだ面倒にはならないだろうしね」


面倒なことだ。

しかし疑問もある。


「でもそれってユディス側でも同じことが起きるんじゃ?」

「いやそれは問題ないよ。……彼ら、信仰している宗教の教えのおかげか、来るもの拒まずっていうスタンスだからね」

「ほう…」


とりあえずユディスに入ること自体は楽にできそうだ。

ほしかった情報もあらかた手に入ったことだし、情報料として幾らか適当な材木なんかを買って店を出ようとする。


「あ、そういえばテセウスさんは次どこにいくんです?」

「あぁ、次は土精族の国の【ポッロ】にいこうかなって。色々と気になることもあるからね」

「へぇ……そっちも楽しそうだなぁ。じゃあテセウスさん、また会う日まで」

「うん、またね」


カランコロン、と扉から外へ出る。

さて、次だ。



-----------------------



「どうも、赤ずきんさん」

「やぁ、クロエちゃん。待ってたよ」


私は【赤の十字軍】の本拠点を訪れていた。

赤ずきんとした約束を果たすためだ。


「じゃあこれとこれを【異次元錬成】してね」

「了解です……これは?」

「首輪と宝石だよ」


渡されたのは、首輪と宝石。

だが、【鑑定】をかけようにも弾かれていることから、何か特殊なアイテムであることには間違いないだろう。

【チャック】にそれらを入れ、【異次元錬成】を開始させる。


「クロエちゃんはこの後どうするの?…まだ一応全体的にみるとイベントは終わってないわけだけど」

「私はこの国を出ますよ。イベントが終わってないと言っても、この国のイベントは終わりましたからね」

「そうだよねぇ…だから今日来たんだろうし。じゃあそうさな、お姉さんから一つだけアドバイスをしたげよう」


アドバイス?

彼女から何か助言を受けるべきことは今あっただろうか。


「難しく考えなくてもいいよ、簡単なことさ。……君は難しく考えすぎだと、私は思うよ。これはゲームなんだ。ログアウト不能でもないし、デスゲームでもない。ただの娯楽としてあるものだ。だから、もう少し力を抜いてもいいと、私はそう思う」

「……ガビーロールさんですか」

「あぁ、元はといえば彼は私があの場に呼んだわけだしね。一部始終は教えてもらったよ」


彼にはあの戦闘中の会話もしっかり聞かれていたわけだし、まぁ仕方がないだろう。

しかし赤ずきんからこんなことを言われるとは思わなかった。


「心配せずとも大丈夫です。ありがとうございます」

「やーん、最後までそっけないねえクロエちゃん。もう少し私に頼ってくれてもよかったんだぜ?」

「何を言ってるんですか。これまで頼りっぱなしでしたよ。……と、【異次元錬成】終わったんで送りますね」


ちょうど【異次元錬成】も終わり、私は出来上がった宝石をあしらった首輪を赤ずきんへ送る。

やはり【鑑定】は弾かれる。


「はい、ありがとう。じゃあそのままサバトからは脱退させるから。じゃ、いってらっしゃいクロエちゃん」

「お世話になりました、赤ずきんさん。さようなら」


そう言って、私は【赤の十字軍】の拠点から外に出る。

直後、サバトの脱退通知が届いた。これで彼女たちとの繋がりが一つ消えたことになる。

これでよかったのだろうか。それはわからない。

だけど、私が信じて選んだ道だ。進んでいこう。



始めたときから、ある程度上位のプレイヤーが近くに居たおかげで様々なことに甘えてしまっていた。


それのツケが回ってきたのが今回のイベントだったように、私はそう思う。

これからは少し、自力で頑張っていかねばならない。……少し、人脈的なところは頼らないと面倒だが。


「ここから、改めて私のWOAを始めよう」


まずは、腕を治すところから。

私は今更にスタートラインを踏み出した。


第一章 おわり

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