(7)恋と罪の味
*性的表現があります。苦手な方は飛ばして下さい。R15でお願いします。
美月の甘い部分を味わったあと、昨夜踏み荒らした新雪に、再び彼は踏み入った。最低なことをしているのかもしれない。
そう思いながらも、罪悪感は回を重ねるごとに悠の中から消えていった――。
「家に……帰らないとな。那智さんにも電話しておかないと、心配するだろうし」
ベージュ色のカーテンがオレンジ色に染まっている。夢中で抱き合ううちに、陽はだいぶ傾いてしまったようだ。
悠は自分の腕の中でうとうとしている美月に声をかけた。
「美月、眠るなら家に戻ってからにしたほうがいい。タクシーで十分程度だから……。それとも、まだ気分が悪い?」
美月はハッとした様子で、恥ずかしそうに乱れた髪をかき上げた。
「あんなことまでしておいて……今さら、体調を心配されても」
可愛い声が聞きたくて、かなり執拗に攻めてしまった。
憮然とした美月の表情に、後ろめたさを感じつつ、
「ごめんごめん、つい、夢中になった」
言い訳にもならない返事だ。だが、美月にとっては違ったらしい。
「本当に? 夢中になるほど、悠さんも気持ちよかった? 私はどこも変じゃない?」
「変? 君は最高だよ。そう――色も、形も、感度も」
悠が笑いながら答えると、美月は眠気が一気に吹き飛んだ表情をする。
「な、なんてことを言うの? そんな……そんな、いやらしい言い方をするなんて……」
それは予想どおりの反応だった。
美月は怒ったように悠に背中を向けて、身体を起こそうとする。
「おいおい。君の象牙色の肌も、艶やかなボディラインも、肌に触れるだけで頬を染める可愛らしい反応も……最高だよって言いたかっただけなんだけどね。……あれ? ドコのことだと思ったのかな?」
クスクス笑いながら悠は起き上がり、美月の身体を背後から抱きしめた。手は自然と彼女の胸元に伸び、柔らかな胸を包み込む。
「悠さんのイジワル!」
「もっとイジワルしてもいいかな?」
肩口に頬を寄せ、悠は甘えるようにささやく。
「家に帰るんじゃなかったの? それに、那智さんに電話は?」
本当なら美月から『もっと』と言わせたいのに……。ピシリと手を払われ睨まれては、おとなしく引き下がるよりほかない。
「はいはい。じゃあ、続きは帰ってからってことで」
「その前に、ちゃんと夕飯くらい食べさせてくださいね」
そういえば、ちゃんとしたランチはあとで取る予定で、喫茶店ではケーキを食べただけだった。そのあと花見に誘われ……。
美月はわざとらしく、つんと澄ました表情だ。
掛け布団で身体を隠しながら、悠に脱がされた下着を手探りで見つけようとする辺りがたまらなく可愛らしい。
「そう言えば腹が減ったな。誰かさんが酔って騒がなきゃ、十六夜の料理が食べられたのに……。そう思わないかい、美月ちゃん」
彼女はポッと赤面して、
「だ、だから、謝ったじゃないの……。責任取れって、あんな恥ずかしいことまでしておきながら……」
小さな声でブツブツとつぶやいている。
よほど、悠が脚の間に顔を埋めたことが恥ずかしかったらしい。それとも、その行為に感じすぎて部屋中に響くような声を上げたことのほうか。
悠は顔を覗き込むようにしてもう一度口づけ……。
「でも、君の甘い蜜を味わえたから、僕は満足だけどね」
「悠さんのエッチ!」
美月は掛け布団を身体に巻いたままバスルームに消える。そんな彼女を苦笑して見送る悠だった。
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「あっ! ダメ。それはダメよ」
「どうして? 大丈夫だって」
悠は笑いながら手を伸ばした。
「そんなにイジワルばっかりしないで。私はこっちのほうが好きなんだもの」
無意識かどうかわからないが、美月は手を悠の太ももに置き、身を乗り出した。ごく自然に美月の豊かなバストが腕に押し当てられる。
悠は言いなりになってしまいそうな気持ちを振り払おうと必死になり、
「好き嫌いはダメだよ、美月ちゃん。ほら、僕を信じて口を開けて……」
ソレを自分の手で掴み、彼女の口もとまで持っていく。
「少し生臭いかもしれないけど……飲み込むときのとろっとした感触は一度味わうとクセになるんだ」
彼女は仕方なさそうに口を開け……悠に言われるまま口に含んだ。
「あ、美味しいわ。昔は嫌いだったのに……」
「大人になると味覚が変わるからね。いいもんだろう? 生ウニも」
ふたりの前には、ベルトコンベアーに乗って寿司の皿がクルクルと回っていた。
美月にお腹が空いたと言われ、彼女のリクエストに応じて決めたのが、マンションから徒歩の距離にある回転寿司だった。会社関係の付き合いで値札が時価の寿司屋にも行くが、中流階級で育った悠にとって、寿司は回っているほうが落ちつく。
この点、悠は誤解されていることが多い。一条の名前を持ち、後継者として入社したのは事実だ。しかし、大邸宅で暮らし、通勤通学に送迎のリムジンを使うような家庭で育った訳ではない。自宅に執事もメイドもいないし、中学高校と電車通学だった。
そしてそれは美月も同じだと、ボストン時代に何度も聞かされた覚えがある。
「ボストンでも色々お寿司屋さんを回ったわよね?」
悠が昔のことを考えていると、心を読んだように美月もその頃のことを口にした。
「ああ、創作寿司ってのが多かったかな。スパイシーマヨネーズ味とか……アボガドたっぷりってのは勘弁して欲しかった気がする」
寿司とマヨネーズを組み合わせるのが今ひとつ好きじゃない悠には、どうも美味いとは言いがたいものだった。
美月はクスクス笑うと、
「あとお醤油の量がね……。どうしてあんなに浸すようにして食べるのかしら? 生臭くない分、創作寿司は嫌いではなかったけど、あれだけはよくわからなかったわ。第一、そんなに美味しいお醤油じゃなかったでしょう?」
あまりこくのない醤油だったことは覚えている。向こうでは高級と言われる寿司屋に入ったときも、少し深めの皿になみなみと入れて出してくれた。
「そういえば……生クリームが入っているのがあったような」
「ええ、そうね。あと、チョコレートとか」
「寿司はやっぱり生の魚だよ」
悠がそう言いながら生サーモンを口に放り込んだとき、美月が彼の肘をトントンと突いた。
「ね、悠さん……アレ」
美月が指差した方角から流れてきたのは、アボガド入りのカリフォルニアロール。のりとご飯を巻く順番が逆になっているヤツである。
美月はにこっと笑うとカリフォルニアロールの乗った皿を取った。
上手に箸でつまむと、悠の前に差し出す。
「はい、悠さん。召し上がれ」
「いや、だから……」
「アボガドはとっても健康にいいのよ。好き嫌いはダメよ。それとも、私が食べさせてあげるのが気に入らないの?」
そう言われては、イヤ、とは言えない。
どう考えても生ウニの報復にしか思えないが、観念して口を開ける悠だった。




