その12 君の名は営農組合
その10で、田んぼを所有している農家さんが高齢になり稲作を続けていけなくなったときどうするか? そういう時は、営農組合さんに預ける、と紹介しました。
時代の流れとして仕方のないことではありますが、近年は、こうしたお宅がほんとうに増えてきました。
営農組合さんとは、地区で田んぼを所有している近隣農家さんたちが一定の金額を出資しあってつくった、稲作農家の集まりです。
収入や組合費、出資金などで購入した大型農機機械をつかい、依頼のあった農家さんの田んぼで作業を肩代わりするのが主な仕事になります。
体も若い頃とくらべて思うように動かない、年金生活で高額な農機具の購入なんてとんでもない、でも頼りたい子供たちは農作業をきらって、他県でサラリーマンとして働いている……。
こんなとき、一人じゃどうしようもないかもしれないけれど、みんなでやれば何とかなるんじゃないか、というまさに『一人はみんなのためにみんなは一人のために』を地で行くかたちで、稲作組合が各地で出来上がりつつあるのです。
年齢的なものと金銭的なもの、その両方の負担を個人ですべてをせおって兼業稲作農家をつづけるのは、もう限界にきているということもあるのでしょう。
営農組合さんは法人化しているのですが、個人でも法人化して農作業を請け負う方も増えてきました。
大規模農業にたいする優遇政策の影響もありますが、この先はますます『大規模な土地を所有している専業農家さん』と『大規模組合型農家さん』、このふたつに二極化していくのではないか、とわたし個人はみています。
営農組合さんが働いている田んぼは、見ればすぐにわかります。
なにしろ、作業している機械の大きさのケタがちがいます。
農機具の巨大化のスピードは目を見張るばかりですが、営農組合さんが所有している農機具は、個人所有のそれとはアリと象とまではいいませんが、豆柴とゴールデンレトリバーくらいの大きさの違いがあるのです。
みなさんは農業用機械ってダサいというイメージがあるかもしれませんが、そんなことはないですよ?
なかなかカッコいいのです。
農業機械って基本的に、グオーン! とか、ゴイーン! とか、ドルドルドルドルとか、ゴゴゴゴゴとか、なんか某漫画の擬音みたいなエンジン音で迫力がありますが、大型機械となると爆音です。
マフラーを外したバイクなんて、メじゃないくらいです。
エンジン音が大好きな人にはたまらないでしょう。
そんな大型農機機械の真骨頂というか双璧といえば、なんといってもトラクターとコンバインですね。
トラクターで田んぼを起こしている場面はですね、丸っこい歯で地面がこうですね、ガンガンめくりあげられ、耕かされていくわけです。
カッチカチになった土も、逆にどろどろで高低差のある土もなんのその、力強く耕耘していきます。
そこだけ切り取れば、ハリウッド映画もまっさおの大迫力ですよ。
しかも、ギミック変更をすれば稲だけじゃなくて、各種耕作物に対応しますし、あぜ作りから溝きりまでこなしてくれる、スペックの高さなのです。
コンバインも、大型化されているものは長くてでかい煙突みたいなものがくっついていてるのですね。
実りすぎて倒れた稲も、むりやり起こして段違いになった歯でバルバルと巻き込み、あっという間に1反分を刈り取りっていきます。
後方からはクズになった穂や茎の部分がゴンゴンうなりながら排出され、刈り入れがおわると、煙突みたいなところから、ドドーン! と収穫し終えたお米がトラックに据え付けられた巨大な米袋に落とされます。
大型トラックは荷台に積まれた巨大米袋を、そのままライスセンターにさっそうと運びいれます。
小型機械も負けていません。
農薬散布の時は、小型のラジコンヘリコプターの登場です。弧を描くようにして、真っ白い霧状の農薬を均一にまいていくには、長年つちかった技が必要となります。
なんというのか、もうなんかの戦隊ヒーローものに出しちゃってもおかしくないような、機械好きならゾクゾクくる造形とどデカさ、そして仕事っぷりなんですよ。
ユンボだのトラックだの、働く巨大機械系の戦隊もあったように思うので、農業機械戦隊ヒーロー、これ、絶対に各種方面にイケると思います。
日アサヒ〇ロ〇タイムさま、ぜひ!
(主演の5人はもちろん、某アイドルグリープでお願いいたします!)
営農組合さんと書きましたが、このあたりだけの呼称かもしれないのは先にも書きました。
他の地域では、協同組合さんとでもいわれているのでしょうか?
組合さんのお仕事は主に、農作業ができなくなったお宅から田んぼを借り受けて作業を行います。
元は、俗に『道なおし』と呼ばれていますが、共同の財産である農業用水路の整備や、共同農薬散布の手配などを担っていた共同組合が大きくなった感じです。
なので昔は農協さんに頼みに行くばかりでなくて、逆に頼まれて、玉ねぎやらサツマイモやらの苗やジャガイモやらの種芋なんかの注文を組合さんで一括していた時期もありますし、その他には休耕田のおしらせなんかもありました。
ともかく、一軒だけでの交渉だとちょっと、頼みに行く方もう頼まれる方もなんとなくめんどくさいよね、という案件を一緒にやっちゃいましょうか、というのが組織化し法人化したのが営農組合さん、みたいな感じでこのあたりでは捉えられています。
人生何が起きるか分かりません。
急な転勤や、怪我や入院などで急に作業ができなくなる場合も出てきます。
そういう時に、飛び入りで一部作業を営農組合さんに依頼することも可能です。
実際に我が家も、旦那さんの手術や怪我などでどうしてもむずかしい、という局面がむかえたことがありまして、営農組合さんに田んぼを預けたことがあります。
今までですと、近所に住む親戚の人たちに頼っていたところです。
が、旦那さん自身ももうアラフィフで、頼りにしていた親戚の方も当然年を召されておりますし、親戚の方のお子さんである若い人たちは、どんどんと都心部に流出してしまっています。
作業ができる人は減り続ける一方ですので、せめて今やっているみんなだけでも頑張ろうまい! とスクラムを組んでいるのがこの組合になるのですね。
時代のニーズにうまくマッチして、大きくなったような気がします。
しかし、この組合さんで大型機械をぶいぶい言わせて作業してる方も、やっぱりオーバー60代だったりするのです。
会社は定年退職したけど、まだまだ身体は動くからのんびりしていたくない、人のためになる仕事だし、やってたことだし、ということで組合さんは気合入れて作業をしてくださっています。
なんだかんだ、ほんと、日本人は働き者なのですねえ。




