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第15話 勇気の行進⑥

「火の神よ。我にその偉大なる力を授けよ! フラマリ!!」


 いくら『アクアート』で刃を研いでも『農具』は『農具』。心苦しいが、一度分解しないと『武器』にはならない。

 ミレーヌの力を最大限発揮させ、ゴブリンどもを一掃するには『武器』が必要だ。  

 だから時間がかかるが、妥協はしたくない。


「みんな! ちょっとだけ耐えてくれ!!」


 村の男たちは振り返らずに「おう!」と返事をした。


 激しさを増すゴブリンの攻撃。

 しかし村人たちも引かない。

 バルガスの取り巻きたちも先頭に立って暴れている。

 みんな傷だらけだ。

 クレアの健気な勇気が彼らの背中を押しているようだ。


「負けるもんか!」

「俺たちの手で村を守るんだ!」


 わずかながら押しはじめる。

 ぐわっと熱いものが俺の腹の底から沸き上がってきた。


「よし! 俺もやってやるぞ!」

 

 ありったけの魔力を宙に浮いた農具に注ぐ。

 空気をも溶かしてしまいそうな炎が、木でできた部分を灰にし、鉄でできた刃だけを残した。

 その刃もドロドロに溶け、元の形が分からなくなった。


 文字通り、跡形もなくなったところで、溶けた鉄を一つの塊にする。

 真っ赤に燃える鉄が球体となって、さながら小さな太陽のように頭上に浮かぶ。


 本来ならばこの状態で『金床』に置いて、武器の形に整えていくのだが、今ここに『金床』はない。

 つまり『普通』であれば武器は作れない。


 普通ならば……な!


「氷の女神よ! 凍てつく微笑を! アイスラ!!」


 氷の結晶が無数に輝く。


「うりゃぁぁぁ!!」


 気合いを入れて魔法を操り、結晶を固めて『氷の台』を作り出す。

 その上に鉄の塊を置いた。

 急速に冷やされた鉄は赤から黒に色を変え始めた。


「ここだ!!」


 鉄が完全に固まってしまう寸前、ハンマーで叩いて形を整える。


 ――カンカンカンカン!!


 何千回、いや何万回と繰り返した動作だ。

 氷が完全に溶けてしまう前に、体が勝手に動く。それに応えるように、鉄はリオ・ブレードの形に変わっていった。


「す、すごい……。あんた何者なんだ?」


 少し離れたところバルガスが感嘆の声をあげた。

 俺は振り返らずに答えた。


「ただの鍛冶師だ」

 

 もう鍛冶師を辞めるって心に誓ったのにな……。


 俺は自分の中で生じた小さな変化から気を紛らわそうと、大きな声をあげた。


「アクアート!!」

 

 これが最後の仕上げだ。

 ぶしゅっと音を立て、白い煙が立ち込める。

 その煙が見えなくなり、美しく黒光りした剣が完成した――。


「ミレーヌ!!」


 彼女のもとへ駆け寄りながら、むき出しの剣身の終いに手ぬぐいを巻きつける。

 即席の持ち手だ。

 それをミレーヌに向かって突き出す。

 彼女はちょっとだけ驚いたように目を丸くしたが、すぐに一番星のように目を輝かせた。


「さすがリオ! やっぱりあなたは天才だわ!」


 うるせえ! ……恥ずかしいだろ。


 心の中で文句をつけ、黙ったまま口角を上げる。


「みんなの想いとリオの魂がこもった最高の剣――これならやれるわ! 究極の型が!」


 ミレーヌはニコリと笑顔を見せた後、俺に背を向け、再びゴブリンの大群と向き合った。


「みんなぁ! 下がってちょうだい!!」


 彼女の大声に弾けるようにして村の大人たちが後ろに下がる。

 ミレーヌの前方はゴブリンの群れだけになった。

 彼女は天高く剣を捧げた。


「夢幻流。極乃型! 風神!!」


 剣の周囲を渦巻いていた青白い光が、巨大な竜巻となってゴブリンたちを襲う。


「これが究極の型か」


 凄まじいとしか言いようがない。


 なすすべなくゴブリンたちは空高く舞い、悲鳴を上げる。


「キエエエエ!!」


 このまま地面に叩きつけられればタダじゃすまないはず。

 しかし致命傷にはならないだろう。

 確かに時間稼ぎはできるが……。


 ところがミレーヌは俺の想像の範疇を遥かに超える無双の戦乙女ヴァルキリーだった――。

 

 ――ガツッ!


 剣を地面に突き刺しながら、彼女は叫んだ。


ぜろ!!」

 

 ――ドガアアアアアン!!


 なんと上空でゴブリンたちが爆発しはじめたではないか!

 不謹慎かもしれないが、王都で毎年夏におこなわれる『花火大会』を彷彿とさせる光景だった。


「おお……」


 村人たちが上空を見上げながら感嘆をあげた。

 爆発が終わり、白い煙があたりを覆う。

 焦げ臭さと余韻を残し、塵となったゴブリンの残骸が空から降ってきた。


「やった……のか?」


 煙が薄れてきたところで、俺はかすれた声をあげた。

 だがミレーヌは笑顔をこちらに向けようとしない。


「まさか――」


 嫌な予感が脳裏をよぎった直後、煙を切り裂きながら突進してきたのはボスゴブリンだった。


「ウガァァ!!」


 いかついこん棒を力任せにミレーヌに向かって振り下ろす。

 彼女はすんでのところでそれをかわした。

 

 ――ドゴッ。


 こん棒が地面にめり込む。

 だがゴブリンの動きは止まらない。


「フンッ!」


 今度は下からこん棒を突き上げる。


「えいっ!」


 ミレーヌは持ち手だけになった鉄の剣を投げつけ、こん棒の軌道をそらした。


 ――ブゥン


 こん棒が空を切り、ミレーヌの髪をかすめる。

 彼女の顔に今までない緊張が走った。


「くっ……」


 けた違いの強さと速さだ。


 何とか連続攻撃をしのいだが、次同じことをされたらミレーヌでも回避できるか分からない。

 けど今、俺の手元には武器の素材すらない。


 どうしたらいい?


 ……と、その時だった。

 

「これを使え!!」


 背中から声が聞こえてきたかと思うと、足元にフェザー鉱石製の杖が転がってきたのである。


 ハッとなって振り返るとバルガスがうつぶせになって倒れている。


「頼む! 俺も一緒に戦わせてくれ!!」


 その言葉に彼の胸に秘めていたジレンマがはっきりと見えた。

 

 彼も同じだったのだ。


 ――村を救いたい!


 クレアと……いや、すべての村人たちの思いと……。


「風の精よ。自在に踊り、その羽で切り裂け! ウィント!!」


 地面に転がった杖が風の魔法で宙に舞う。

 フェザー鉱石は軽くて丈夫。だが削りやすいという特徴がある。

 風圧で先端を削って尖らせていく。

 そして風に乗せてミレーヌの元まで飛ばしていった。


「ミレーヌ! そいつを使うんだ!!」


「うん!!」


 ボスゴブリンからの執拗な攻撃をなんとか回避していたミレーヌの手に杖が握られる。

 少しだけ距離を取った彼女は先端をボスゴブリンに向けた。


「夢幻流。二十六乃型。龍突りゅうとつ!!」


 まさに敵に突進するドラゴンのように、光をまとった杖が一直線にボスゴブリンに向かっていく。


 閃光のような速さに避けられないと悟ったのか、ボスゴブリンは仁王立ちのまま咆哮をあげた。


「ウガアアアア!!」


 ――ズンッ!


 鈍い音が空気を震わせる。

 杖が木っ端みじんに砕け散り、ボスゴブリンの喉から緑の血が大量に噴き出した。


 ――ドスンッ!!


 ボスゴブリンが仰向けに倒れた。


 戦いに勝利した瞬間だった――。



「「うわあっ!!」」


 一斉に歓声があがり、村の男たちが抱き合って喜びを爆発させ、クレアの顔にもようやく笑みがこぼれた。

 やっぱり少女には笑顔が似合うな。


「リオ! やったわ!!」


 興奮したミレーヌが俺に抱きついてきた。

 柔らかな感触と鼻をつく香りでドキッと胸が脈打つ。

 正直言って、すごく恥ずかしい。


 けどここで彼女を引き離すのは無粋だよな。


「ああ、俺たちの勝利だ! あははは!!」


 恥ずかしさを吹き飛ばすように、俺は雲一つない青い空に向かって高笑いしたのだった――。


◇◇


 オールダムの隣町に到着した。

 しかし農作物を売ったところで、多少の金は手に入っても、薪や食糧などの必需品の費用で消えてしまうだろう。村人たちの農具を買い揃えるのは無理だ。

 

 そう思われたのだが……。


「あら? オールダムの村から野菜を買っているのって、ハネス商会の支店だったのね」


 なんという偶然。いや、必然か。ハメス商会はもはや王国中のいたるところに商圏を広げているからな。


「も、もしかしてミレーヌお嬢様!?」


 店主とおぼしき小太りのおっさんが目を大きくした。


「ネイトさん。お久しぶりね」


「い、生きておられたのですか! おお! なんと喜ばしいことだ! お父上もたいそう喜ばれるでしょう!」


 ネイトと呼ばれたおっさんが鼻を赤くして目を潤ませている。


 無理もないよな。

 『赤の刑場』に入れられたミレーヌに、まさかこんなところで生きてお目にかかれるなんて、想像すらしていなかっただろうから。


「ふふ。そんなに喜んでもらえるなら光栄だわ。そうそう一つお願いがあるの――」


 感動の再会の直後、それに会長の娘――そうくればどんな願いも聞き入れてしまうのも無理はない。


「彼らの作った野菜や育てた家畜を、うんと高値で買ってほしいの!」


◇◇


 オールダムの村人たちは生活必需品に加え、新品の農具まで買い揃えることができた。


 もちろん全ての農具に『アクアート』をかけてやったさ。

 これでより多くの畑を耕すことができるからな。来年からは収穫量も大きく増えるはずだ。


 それからもう一つ。

 クレアからの頼み事をされた。


「これで村長に杖を作って欲しいのです。お願いします!」


 彼女が差し出してきたのは高級なフェザー鉱石。

 村人たちが全員で少しずつお金を出しあって、買ってきたらしい。


 ……ったく。

 ここまでされたら断れるはずないだろ!


 俺は腰に差したハンマーを手にした。


◇◇


 翌朝。

 俺とミレーヌがオールダムを出立する時を迎えた。


 なお前の晩はクレアの家でお世話になるはずだったのだが、村人全員が彼女の家に押しかけたため、人が入らなくなり、結局は村長の家に移ったのだった。


「一応だな……。村を代表して礼を言う。……ありがとう」


 一歩前に出てきたバルガスがそっぽを向きながら言った。

 最後の「ありがとう」が小声で聞き取りづらかったが、プライドの塊のような彼にしてみれば精一杯だったんだろうな。

 感謝の気持ちはひしひしと伝わってきたよ。


「こちらこそ礼を言う。泊めてくれたうえに、『地図』までくれて、ありがとう」


 地図は一部の貴族しか持っていない貴重な代物。

 それをバルガスが「杖と交換だ」と言ってくれたのである。

 

「地図のおかげで迷わずにノーマにたどり着けそうだわ! 本当にありがとう!」


 ミレーヌが眩しい笑顔を向けると、バルガスは顔を真っ赤にして背を向けてしまった。


「い、いいから早く行けよ! 俺は忙しいんだよ!」


 最後の最後まで素直になれないヤツだな。

 

 俺とミレーヌは顔を合わせて、小さくうなずきあった。そして村の外に向かって一歩足を踏み出す。

 すると俺たちの背中に透き通った声がかけられた。


「待ってください!」


 クレアか。

 彼女はバルガスの横をすり抜け、俺たちの前に出てきた。

 その手にはバスケット。中には焼きたてのパンが顔を覗かせている。


「これっ! 道中で召し上がってください!」


 ミレーヌがバスケットを受け取って「ありがとう」と声をかける。

 顔をぱあっと明るくしたクレアは大きな声で続けた。


「私、いつかミレーヌさんみたいに強くなります! 強くなって村を守りたいんです!」


 ミレーヌは目をぱちくりさせた後、柔らかな微笑みを浮かべて言った。


「クレアはもうじゅうぶんに強いわ」


「えっ……。でも私、ゴブリンとの戦いで何の力にもなれなかったし……」


「ふふ。何を言ってるの? あなたのおかげで、みんなで村を守ることができたじゃない。

あなたの勇気がみんなの心を動かしたの。

『大切な誰かを守るために勇気を奮って困難に立ち向かうことこそ、真の強さだ』って師匠が教えてくれた。

クレアには無限の勇気がある。つまりすごく強いってことよ」


「そう……ですか?」


「うん! だから自信を持って!」


「はい! ありがとうございます!」


 クレアの吹っ切れたような声に、大きくうなずいたミレーヌは再び村の外に向かって歩き出した。俺もその横を行く。


 ちらりとミレーヌの横顔を覗く。

 すっきりと晴れやかな表情だ。


 自然と足が軽くなった気がした。


 さてと。故郷のノーマまではあと3日半といったところか。

 武器も調達したし、ここからは寄り道なしで行きたいところだな!




 


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