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スペース飯テロ輸送艦 最強宇宙船で本物の食材を狩り尽くし、最高のグルメで銀河をわからせる  作者: 空向井くもり


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第97話 自家製片栗粉と『あんかけモヤシ炒め』

 料理以外にやることだって勿論ある。……今からすることは料理に近いが、少なくとも料理人の分野じゃない。

 まな板の上にあるのは、フリーポート・ノヴァで買い付けたあのじゃがいもモドキだ。

 そして目の前には、頼れるクルーたちの協力を得て構築された、完璧な生産ラインが整っている。


「マスター。環境設定、完了しました。気温、湿度ともにデンプンの変質を防ぐ最適値に固定。工程管理モニター、リンク良好です」


 傍らに控えるルシアが、淡々とした口調で告げる。

 彼女には事前に相談し、最も品質を高めるための抽出理論を構築してもらっていた。


「装置の方もバッチリ。 名付けて『水冷式低速グラインダー』だよ。 船長のリクエスト通り、熱を出さないように優しくすり潰す仕様になってる」


 ミナが誇らしげに、キッチンカウンターに設置された透明な円筒状の装置をポンと叩く。

 俺が「手作業ですりおろす」と言い出した時は呆れられたが、ハムスターの如く隙を見てはため込まれたジャンクパーツを組み合わせ、この傑作機を作り上げてくれたのだ。


「ああ、完璧だ。二人とも助かったぞ。本来ならこんな作業は製粉工場の領分だが、お前たちのおかげでまとまった量が作れそうだ」


 俺はじゃがいもモドキを投入口に入れ、スイッチを入れた。

 静かな駆動音と共に、白い液体がパイプを通ってバケツへと注がれていく。


「稼働状況良好。この低速磨砕プロセスであれば、細胞壁の破壊を最小限に抑えつつ、デンプン粒子を無傷で取り出せます」


「その通りだ。時間や手間は余分にかかるが、別に商売でやるわけじゃ無いからな。さて、ここからが一番の肝だぞ」


 俺は抽出された白い液体――たっぷりのデンプンが入った円筒型容器を、静かな場所に並べた。


「マスター、ここでも遠心分離機を使用せず、自然沈殿を選択するのですね?」


「ああ、待つんだ。自然に沈むのをな」


 俺は容器の中を指差した。

 時間が経つにつれ、比重の重い良質なデンプンだけが底に沈み、軽い不純物や小さな粒子は上澄みに残る。

 この上澄みを捨て、新しい水を注ぎ、再び沈殿を待つ。

 これを何度も繰り返す「水晒し」は伝統的な片栗粉の生産で使われていた手法、のはずだ。

 俺にはニュースかなんかで見た断片的な記憶しか無い。

 これがどういう意味の手順で、どう正しく再現すればいいのかは全部ルシアが考察してくれた。


 静寂の中で、雪のように白い層が厚くなっていく。

 最新鋭の宇宙船の中で、俺たちはただ静かに「粉が沈む」のを待った。


 数日かけて精製された真っ白な塊を、今度は乾燥させる。

 ここでもミナの作った装置が活躍した。


「ここが、廃熱利用の『低温乾燥ブース』。 温度は常に摂氏四十度に保ってるから、焦げたり固まったりしないよ。必要なときは温度も変えられるからね」


「完璧だ。七十度を超えると糊化しちまうからな。じっくり時間をかけて乾かすのがいいらしい」


 丸一日かけて乾燥させた塊を指先で揉み解すと、キュッキュッという独特の音と共に、あの片栗粉の、しかし市販の粉とは明らかに違う、少し粗めの、しかし白く輝く粒子が完成した。


「……これが、岩根の正体か」


 俺が感嘆の息を漏らした瞬間、キッチンに舞い上がった微細な粉末に、ルシアの瞳が警告の赤色を灯した。


「警告。マスター、空気中の粉塵濃度が上昇しています。換気システムの出力を増加させます」


「わかった、わかった。そんな物騒な扱いはしないでくれ。これは料理の革命、片栗粉だ」


 俺はさっそく、手間暇かけて作ったこの粉を試すことにした。

 用意したのは、船内農園で育っている『耐熱ツタ』の新芽だ。見た目も食感もモヤシにそっくりなこいつを、強火で一気に炒める。

 シャキシャキ感を残したまま皿に上げ、空いたフライパンにスープと調味料、そして水で溶いた『片栗粉』を回し入れた。


 熱を加えた瞬間、スープが透明感を増し、強い粘り気を帯びていく。

 普通の片栗粉よりも粘度が強く、それでいて切れが良いような感触がある。


「……おおっ! すごい粘りだ!」


 俺は熱々の餡を、炒めた耐熱ツタの上にたっぷりと回しかけた。

 ジュワァァ……ッ! という音と共に、香ばしい湯気が立ち上る。

 『あんかけモヤシ(耐熱ツタ)炒め』の完成だ。


「……いただきますっ!」


 ミナとエマルガンドが口へ運ぶ。


「――っ! あつつっ! でも……おいしぃぃ!」


 エマルガンドが涙目になりながらも頬を緩ませる。


「すごい……いつもの炒めただけのと全然違う。このトロンとしたスープがしっかりまとわりついて、味がずっと濃いまま!」


 ミナもハフハフと息を吐きながら、箸を止まらせない。


「……質感の変化による味の向上を確認しています。高粘度で口内に滞留することで、味蕾への接触時間が増加。淡白な耐熱ツタの味わいを補完しています。ここまで変化するのですね。」


 ルシアもまた、とろみのついた餡を分析するように、しかし満足げに味わっていた。


 クルーたちの技術と伝統的な製法が生み出した白い粉は、俺たちの単調になりがちな船内料理に、確かな彩りを与えてくれた。

 この時代、いろんなものの作り方が動画や企業公式ページで上がっているのですごく助かります。


 面白かった、続きが楽しみ、と思っていただけたら「★」をポチッと!

 アキトの明日の夕飯が少しグレードアップするかもしれません。よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
片栗粉の作り方を始めて知りました。 まさかSF小説から知ることになるとは(笑) ミナ、船長のドラえもんになってる(笑)
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