第96話 『フライドポテト』とブリーフィング
フリーポート・ノヴァを出港し、マッコウクジラが亜光速航行に移ると、船内にはようやく落ち着いた時間が流れた。
勿論、広大な貨物倉庫には、フリーポートで安く仕入れた嗜好品や、帝都へ向かうほど需要が高まるであろう消耗品が詰め込まれている。
俺たちはメインブリッジのホログラムテーブルを囲み、これからの長い旅路について話し合うことにした。
テーブルの真ん中には、さっそく試作した『岩根』のフライドポテトが山盛りになっている。
合成油を熱し、スライスした芋を放り込んだだけのシンプルなものだ。
ラードの重厚なコクや複雑なシーズニングこそ無いが、高温で一気に揚げられた芋は、表面はカリッと中はホクホクに仕上がっており、そこにこれでもかと塩を振ればそれだけで十分だ。
「……はふ、はふっ。……熱いですぅ、けど、これ止まりませんよぅ」
エマルガンドが指先を油まみれにしながら、黄金色のポテトを次々と口に放り込む。
知らなければ食べ物とは思えない『岩根』が、加熱によってここまでホクホクとした食感と甘みを放つようになるとは思わなかったのだろう。
「……マスター。ポテトが無くなってしまう前に航路の確認を行います」
ルシアが指先でホログラムを操作すると、ブリッジの中央に広大な銀河の立体地図が投影された。
現在地を示す光の点から、遥か彼方、光の粒子が密集する銀河中心部――帝都『アルカディア・ノヴァ』まで、細い線が伸びる。
「帝都までの距離を確認。最短ルートで、星系間ゲートウェイを二つ経由します。通常航行を含め、到着まで約三ヶ月と試算されます」
「三ヶ月か……。結構かかるね」
ミナがポテトを齧りながら、巨大なリング状の構造物であるゲートウェイのホログラムを見上げた。
「ああ。だが、別に急ぐ旅じゃない。折角なんだ、寄り道はどれだけしたっていい」
俺は航路の途中にいくつかのマーカーを打った。
シュタイン教授から譲り受けたデータスレートに記録されていた食材があるかもしれないという座標だ。確かめる価値はある。
「それから、ここだ。海洋惑星『アズライト・プライム』にも寄るぞ」
俺が指差した蒼い惑星に、ルシアの瞳が同調して同じ青に発光した。
「……アズライト・プライム。データベースによれば、水質の安定した海洋惑星です。入手した資料によれば、ここには、水揚げされたばかりの未加工魚介類が取引されているという記録があります」
「ああ。グルメガイドの情報が確かならな」
「でもアキトさん。ここ、「特別な資格」がいるって書いてありますよぅ」
「……現時点では詳細不明です。星系当局のローカルルール、あるいは特定のギルドによる独占権の可能性があります。どのように運用されているかは現地に行ってみなければ判断できません」
「だろうな。捌けるかどうかってんなら対応はできる。まあ、資格がないならないで、別の方法を考えるだけだ」
「了解しました。では、まず最初の中継地点となる商業コロニーの座標を設定します。第一ゲートウェイへ接続するための補給拠点となります」
ルシアの淡々とした言葉と共に、ホログラム上のマッコウクジラの現在地から、小さな光の点が新たに打ち出された。
俺は最後の一片のポテトを口に放り込んだ。
ルシアの視線が痛い。追加で揚げる必要がありそうだ。
三ヶ月――では済まないだろう長旅。
教授に受け渡された座標や、まだ見ぬ蒼き星の食材たち。
楽しみだな。
「よし。進路固定。マッコウクジラ、全速だ」
俺の号令と共に、船体が僅かに振動した。
漆黒の宇宙を裂き、巨大な輸送艦が加速していく。
93話が抜けていたので改めて投稿してあります。そちらもどうぞ
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