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スペース飯テロ輸送艦 最強宇宙船で本物の食材を狩り尽くし、最高のグルメで銀河をわからせる  作者: 空向井くもり


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第114話 星々の網からこぼれる小魚

 アキトが包丁を置くと同時に、張り詰めていた空気を切り裂くように、周囲の職人たちからどよめきが割って入った。


「……おい、今の見たか。あのスナッパーの魚体を、まるで抵抗を感じさせずに……」

「動力刃もアシストもなしで、あの断面か。……ありゃあ、一朝一夕の真似事じゃねぇ。相当な場数を踏んだ熟練の仕事だ。本物の職人の手捌きだぜ」


 市場の機械音をかき消すほどの熱気が、一気にアキトを包み込む。カイは無言のまま、三枚に下ろされたスナッパーの、真珠のように輝く断面を見つめていた。やがて彼は、アキトの技量を称えるように肩を叩いた。


「……わかった。認めねぇわけにはいかねぇな。あんたがそれだけ捌けるなら、単に高いだけの『高級品』なんて案内するのは失礼だ。もっと別の、面白いもんを見せてやるよ」


 カイはドローンを急かして操作し、さらに奥の、一般のバイヤーは立ち入り禁止の低温隔離エリアへと俺たちを誘った。そこには、巨大なスナッパーとは対照的に、手のひらで跳ねるような小さな銀色の魚たちが、氷の中に無数に詰め込まれていた。


「こいつらは『アズライト・シャイナー』。それに、そっちの青光りしてるのは『サファイア・アジ』だ。小ぶりな上に、鮮度を維持したまま店まで運ぶコストが見合わねぇ。だから、大抵はここでミンチにされちまって、合成食品の素材に回されるのが主だ。外には滅多に出回らねぇ代物だよ」


 俺は一匹を手に取り、その艶を確かめる。  

 指先に伝わるのは、地球のイワシやアジのそれを彷彿とさせる、瑞々しい生命の感触。

 俺から見ればただの大衆魚だが、星の間を運ぶような巨大な物流に乗せるには向かないのだろう。人の手で、一匹ずつ丁寧に下ろしてこそ活きる素材だ。


「……いい。こういうのが欲しかった。これこそ、俺の腕の見せ所だ」


 俺は思わず口元が緩むのを抑えられなかった。

 スナッパーのような大物もいいが、和食の奥行きを支えるのは、こうした小魚たちの存在だ。

 煮焼きだけじゃない。酢で締めてもいい、つみれだっていい、あるいは骨ごと揚げるとか。この繊細な銀色の魚たちがあれば、料理のバリエーションは無限に広がる。


「これも全部積めるだけ頼む。それから、あの海草醤油もだ。タンクごと積んでくれ」


「ハッ、いいぜ。……それから、あのアズライト・スナッパーも、もっと小ぶりで身の締まったやつを選んで詰め込んでやるよ。捌けるなら色々食いたいだろう? あんたはそういう顔をしている」


 カイの言葉に、俺は短く笑って応えた。職人というのは、言葉を重ねずとも相手が何を求めているかを見抜くものらしい。


 次々と搬送用ドローンが動き出し、俺たちのコンテナに「海の宝石」たちが詰め込まれていく。

 ミナは新しく設置された冷凍コンテナのチェックに余念がなく、ルシアはエマルガンドの資格を盾に、醤油の輸送に関する複雑な書類を淡々と片付けていった。エマルガンドは……資格を提示した時点で十分仕事はしている。一応、鮮度維持フリーザーの方へ運ばれる魚たちの鮮度チェックをしていた。


 全ての積み込みが終わる頃、カイが端末を操作して俺に最終的な請求書を提示した。


「コンテナ二基、職人仕様の特選鮮魚一式、最高級海草醤油の樽詰め、それに諸々の設置費用。……締めて、500万クレジットだ」


「500万か……」


 当初の予定より100万ほど上乗せされたが、コンテナの中身を考えれば、むしろ破格といってもいいだろう。俺は迷わず、一括で決済の手続きを済ませた。


「まいど。……ずいぶんな羽振りだと思ったが、単艦の輸送船乗りとはな。作業員から驚きの報告が上がってたぜ」


 カイは満足げに決済完了のログを眺めると、ふと思いついたように俺の顔を覗き込んだ。


「あんた、この先はどの方向へ向かうんだ?」


「……当面は、帝都の方面へ向かうつもりだ」


 俺の言葉に、カイは意味深げに口角を上げた。


「それなら好都合だ。通り道にある商業コロニー『オービット』までの依頼がいくつか浮いてるんだが、受けてくか? 500万も使ったんだ、少しは補充していけるぜ。さっきの包丁捌きを見てりゃ、あんたなら生鮮食品の扱いも信用できそうだし、受け取り先ともキッチリ交渉できそうだ」


「依頼?」


「ああ。鮮度管理がうるさい高級商材を運びたがってるバイヤーがいてな。あんたの船なら設備も腕も申し分ねぇ」


 カイが提示した依頼リストには、次の目的地への航路と、それなりの報酬額が記されていた。


「……助かる、カイ。受けておこう。傭兵管理機構ギルドから依頼を回しておいてくれ」


「ハッ、決まりだ。アキト、あんたの包丁捌き、いつかまた見せてくれよな。この海を忘れないような、最高の料理を作ってやってくれ」


 最後に力強い握手を交わし、俺たちはマッコウクジラへと戻る。

 船内には、わずかに潮の香りのする新たな風が吹いている気がした。

 いろんな魚を無限に買い込みたいけど、(筆者の)管理が……。

 一つの星の上のファンタジーと違って気軽に買いに戻れないのが難しいところ。


 面白かった、続きが楽しみ、と思っていただけたら「★」をポチッと!

 アキトの明日の夕飯が少しグレードアップするかもしれません。よろしくお願いします!

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