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スペース飯テロ輸送艦 最強宇宙船で本物の食材を狩り尽くし、最高のグルメで銀河をわからせる  作者: 空向井くもり


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第108話 黒い奇跡の『海草醤油』

 案内されたのは、先程の喧騒が嘘のように静まり返った、食堂のさらに奥にある一室だった。

 そこはVIPルームと呼ぶにはあまりに無骨だが、外の潮風や機械音を完全に遮断する重厚な防音壁に囲まれた、特別な客だけを通すための奥まった空間だった。


 中央に据えられた、長い年月を経て鈍い光を放つ重厚な木材のテーブル。俺たちはコーディネーターに促されるまま、その卓を囲んだ。


「……マスター。このエリア、外部のノイズが極めて少なく、食材の香りを正確に捉えるのに適した環境です」

「リゾートのVIP席とはまた違う……現場の重鎮たちが集まる場所、という感じですねぇ」


 ルシアとエマが静かに周囲を検分する中、俺の意識は卓上の「あるもの」に吸い寄せられた。

 何の変哲もない、俺の知る世界ならどこにでもある、ありふれたガラスの調味料差しだ。


 あまりに身体に馴染みすぎた、習慣的動作だった。

 俺は考えるよりも先に、全くの無意識で、淀みのない動作で人数分の小皿を卓に並べていた。右手が勝手に傍らの容器を手に取り、傾ける。迷うことすらなく、吸い寄せられるように小皿へとその液体を注ぎ――。


「……は?」


 トパトパと、粘り気のある黒い雫が落ちる。

 その瞬間、鼻腔を掠めたのは、これまでこの銀河のどこで嗅いだものよりも、圧倒的に「正解」に近い匂いだった。


 いや、待て。落ち着け。


 俺は目を閉じ、一度深く深呼吸をした。

 だが、落ち着こうと深く息を吸えば吸うほど、記憶に刻まれたその「正解」の香りが運ばれてくる。


 立ち上る香りは、大豆から作られた本物に比べれば、どこか奥ゆかしく、僅かに淡い。だが、人工的な合成香料の尖った刺激は微塵もない。しっかりと年月をかけた発酵が生み出す、あの芳醇で、重厚で、どこか懐かしくなるような香ばしい芳香そのものだ。


「……醤油だ。醤油だこれ!!!」


 俺は思わず、叫ぶように声を上げていた。

 ミナとエマルガンドが驚いて肩を跳ねさせ、コーディネーターの男が感心したように口端を上げた。


「……ほう。あんた、よくその名を知っているな。そいつはこの海に生きる俺たちの先祖が、何代もかけて辿り着いた逸品だ。豆なんてものを手に入れようとすれば莫大な金がかかるからな、深海の海藻と特定の微生物を組み合わせて、気の遠くなるような試行錯誤の末に作り上げた『海草醤油』だよ」


 男の言葉など、もはや耳に入らなかった。

 指が微かに震える。豆を一切使わずに、海藻だけでここまで「正解」に近づけた職人たちの執念が、この一滴に凝縮されている。


 俺は我慢できず、小皿に指をつけ、舐めた。


「――っ!!」


 舌に乗せた瞬間に広がる旨味の奔流。幾重にも折り重なったアミノ酸が、舌の上で複雑に広がっていく。ただ塩辛いだけではない。長い熟成が塩味の角を削り、やわらかくまろやかなコクが、滑らかに喉の奥へと染み渡っていく。

 鼻へ抜ける香ばしい余韻は、紛れもなく、俺が知る『醤油』の味と香りだった。


「……本物だ。海から生まれた、本物の醤油だ……」


 地球の記憶が、一気に脳内を駆け巡る。

 気づけば、頬を涙が伝っていた。悲しみではない。ただ、あまりに遠い場所に置き去りにしてきたはずのものを、この一滴が呼び戻してくれたことへの、深い安堵だ。


「……マスター。あなたが求めていた『正解』のひとつに、ようやく出会えたのですね」


 ルシアが、静かに、そして慈しむような響きを帯びた声で言った。


「ああ……。ごめん。少し、取り乱した」


 俺は袖で顔を拭い、照れ隠しに笑った。ミナが心配そうに、でも嬉しそうに俺の顔を覗き込む。


「アキト、そんなにすごいものなんだね。その……『海草醤油』っていうの。それだけでアキトが泣いちゃうくらい美味しいんだ」


「ああ。これがあれば、どんな魚だって最高のご馳走になる。……準備はいいか、ミナ、エマ」


 俺が居住まいを正すと、コーディネーターの男が奥の調理場へ向かって短く合図した。


「よし、挨拶は終わりだ。……すぐに出すよ。このエリアで今日一番の獲物だ。醤油を知ってるあんたなら、もうわかるだろ。次に来るのが、どんな獲物かってことはな」


 男の言葉と共に、奥から冷気と共に巨大なトレイが運ばれてくる気配がした。


 本物の醤油、そしてこれから現れるであろう本物の魚。

 俺たちは、未知なる「本物の味」への期待に胸を膨らませ、その瞬間を待った。

予約投稿を忘れていて申し訳ない……。


魚を食べるのならやっぱり醤油は必要ですよね。

海草から醤油っぽいものをつくるのはめちゃめちゃ頑張れば多分いけるらしいです。

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― 新着の感想 ―
ネットで調べたら実際に海藻で作っている醤油があった…すげぇ…。
この星、陸地ないのかな?あったら豆栽培する方が楽だろうと思うが。 まあ製造法確立したなら豆を新規導入するより安上がりか。
わ、ワサビは・・・? ワサビまで期待するのは贅沢ですかね・・・?
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