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082 若いうちは取り敢えず肉だ


 そんな訳で4人が角兎狩りをしているのを横で見てたりする訳ですが……うん、まあ、初めてだし……こんなものじゃないかな?


 最初の1匹目はとにかく梃子摺った。というかマリクルがまだ盾を上手く使えないのもあって、女子3名が槍で突くタイミングがなかなか取れなかった。なんとか倒した1匹目は、まあ……穴だらけ。無残な刺殺死体と言った具合だ。これも慣れるまでは仕方ない。


「……すごい穴だらけなんだけど」


「食べてしまえばそんなに変わりませんよ」


「それはそうだけど……」


 1匹目を倒したら、森の外に張った私のテント近くの木に吊り下げて血抜き。真下に穴を掘ってそこに血を落とす。解体したらこの穴に内臓も捨てて穴を埋める。森の中で血抜きとか解体とかやると他の魔物や獣が集まってくるので、面倒でも一々こうしている。さっさと済ませればそれでいいんだろうけど、何にしてもみんなはまだまだ素人だし。

 血抜きと解体が終わったら2匹目を探す為に再び森へ。ちなみに解体が終わった素材の収納に関しては私が皮袋を進呈した。毛皮、肉、角ごとに別の袋に仕舞う。皮袋は一先ず私のテントに保管。ちなみに骨は私が貰う事にした。後で出汁でも取ろうかなー、って。


 2匹目は1匹目よりも慣れたようで、マリクルが受け流しながら地面に叩きつけて隙を作り、そこに3人が槍を突きこんで勝利。慣れるの早いね、君達。

 2匹目の解体も手早く済ませて3匹目、4匹目、5匹目と順調に狩っていく。膨らみを増す肉袋に目を輝かせる面々。うむ。


 ちなみにこんなにバカスカと調子よく沢山狩れてる理由は簡単で、ノルン達が勢子をしてくれてるからだったり。流石のノルンである。え? 私は何してるのかって? そりゃ、皆が頑張ってる横でハーブとか薬草とか集めてるよ。この後、焼いて食べるつもりだから、簡単な調理法を教える為にもこれは必須。決してサボってるわけでは無い。調味料も買うと高いしね。

そもそも私に白兵戦闘能力を期待するほうが間違ってるよ。前世では割と普通に運動神経良かったほうだったんだけどねえ……どうしてこうなった。


 6匹目ともなると、早くも急所を狙い始めた。毛皮も売り物になるし、というか売るにしても売らないにしても穴が開いていないほうが良いに決まってる。

 7匹目でとうとうシールドバッシュが炸裂。木の幹に叩きつけられた兎が地面に落ちる前に槍で突いて、木に縫い付けられてそのまま息の根を止めた。


 ちなみに角兎は割りと普通に大きい。頭から尻尾までで40cm前後はあるので、たった1匹でも結構肉が取れる。というか、こんなに沢山獲っても今はまだ8月だから、常温で置いておいたら直ぐ悪くなっちゃうんだけど……ちょっと考えておこう。


「これで8匹目か?」


「すごい! おにくたくさん!」


「どうする? まだ狩りに行く!?」


 うーん、最近私が餌付けしてるトリエラ以外の3人が凄い活気付いてるんだけど……この辺で止めさせようかな。


「ストップ、今日はもうこの位にしておきましょう」


「え!? まだいけるよ!?」


「沢山取りすぎても腐らせますよ?」


「あああああ、それもそうだー!?」


「売るのも手かとは思いますが、ちょっと考えも有りますので、多分大丈夫です」


「ほんとに!?」


「はい。なので、今日は取り敢えずここまでにして、早速食べちゃいましょう」


 肉は熟成させたほうが美味しいんだけど、そんなことまで一々考えてたら面倒くさいので、獲れたて新鮮なまま食べる。1匹で2人がお腹一杯になる位の量にはなるはずだから……取り敢えず3匹分使うことにしよう。


「トリエラ、アルル、クロ、手伝ってください。マリクルは木を削って串を作ってください」


「わかったー!」


「がんばる」


「まかせろ」


 土魔法で簡単な竈を作り、枯れ木を集めて火起こし。更に土魔法で調理台も作って表面を【洗浄】で綺麗にし、3人に包丁を渡して肉を一口大にカットしてもらう。香草焼きにするつもりなので、集めたハーブも刻む。そしてカットした肉、刻んだハーブと塩を鍋に突っ込んで掻き混ぜてなじませる。


「この草、料理に使えるんだね」


「乾燥させれば日持ちしますから、あとで集めておくといいですよ」


 うーん、今後も自炊するとしたら必要だろうし、塩を2kg位あげたいんだけど、重いし邪魔になるかなあ……渡すなら街に帰ってからかな? 私はトン単位でストレージに入ってるから別に100kg位あげてもいいんだけどね。やっぱり収納系のスキルは便利だよね。マジックバッグとか、なんとか皆に用意できないかなあ……。

 っと、料理の続きをしないと。少し時間を置いて味をなじませた肉を串に刺して竈で焼いていく。焼けたものから順に食べていって貰う。


「なにこれ、うまっ!」


「レンちゃ、うまー」


「美味いな……」


 余り肉を食べ慣れてない3人は美味い美味いとしか言わない。トリエラと2人で苦笑しつつ、私達も食べはじめる。


「うーん、やっぱりレンの料理は美味しいね。でもどうしよう、リコが拗ねる……」


「ここでもう少し作って行って、持って帰りますか?」


「それだと冷めちゃうよね? 折角のお肉だし、出来立てで食べさせたいかなあ」


 リコの事で2人でうんうん唸っているとアルルが思いも寄らない提案をしてきた。


「なら宿で作ればいいんじゃない? 前の宿には無かったけど、今の宿は裏庭に共用の竈があったよ」


「え、そんなのあったの?」


「うん。薪も廃材を安く譲ってもらってるとかで安く使えるらしいから、4人の分の肉持って帰ってそこで作ればいいよ」


「あれ? 宿替えたんですか?」


「あ、レンには言ってなかったっけ? この間ちょっといい宿に替えたんだ」


 前に泊まってた宿では、本来雑魚寝部屋だったところを借りきって使ってたとは聞いていた。これは、他の冒険者が入り込む余地をなくして、持ち物を盗まれないようにする為だったりする。

 ケイン達と大人数で固まってるのも安全や防犯の為。田舎から出てきたばかりの孤児なんて簡単に鴨にされてしまう。そうじゃなきゃケイン達なんかと一緒にいないよ、とはアルルの弁。

 それでも借りてる部屋は鍵も掛からないし、私物を置いて出かけたら宿の人間から盗まれる可能性だってあったらしい。所詮はその程度の宿だったそうな。だからそういった諸々への防犯も兼ねて、もっと外壁よりも中心寄りの宿に移った、との事だった。

 新しく移った宿は、知り合いになった先輩冒険者達や、同じ年頃の駆け出し冒険者達から情報を集めて、信用のあるところを選んだらしい。

 食事は別料金で一階が酒場兼食堂になっており、そちらか部屋で食べられる。アルルが言うには裏庭の共用の竈で自炊も出来るらしい。身体を拭きたい場合は裏庭の井戸から自分で汲む必要があり、お湯は有料。トリエラ達は4人部屋を2つ借りて男女でそれぞれ分かれて使ってるそうだ。


「一気にグレード上げたんですね」


「いや、それが思ったよりもその宿安いんだ。部屋に鍵も掛かるし、前のところと違って物を盗まれる心配も無い」


 それなら安心かな? 正直、今日作ってあげた盾や武器、どうやって保管させるかちょっと悩んでたから。考えなしに思いつきで行動するのは私の悪い癖だよね……一向に直りそうに無いんだけど。


「なににせよ、それなら宿で作ったほうがいいですね。作り方は覚えましたよね?」


「覚えた! これも店始めたら売り物になるかな?」


 そういえばアルルは昔から料理を作るのが好きだったね。


「そうですね、この包丁を1本アルルにあげます。あと、この鍋と、このフライパンも」


「いいの!?」


 包丁と鍋はさっき使ったやつだ。フライパンは鞄から出す振りをして【ストレージ】から取り出した。アルルにはパーティーの料理番になってもらおう。やる気のある子に任せるのが一番だ。


「大事にしてくださいね」


「レン、ありがとー!!」


 力いっぱい抱きつかれた。くくく、とうとうアルルのデレ期が到来したか……! 昔のテンプレツンデレも悪くなかったけど、でれでれなアルルも捨てがたいのう! などと言う私の下心はさておき、鍋とフライパンがあれば料理の幅も多少は広がるはず?


「それでは、切りの良い時間まで薬草採取してから帰りましょうか」


「あ、さっきのハーブ以外にも料理に使えるのってあるの?」


「ありますよ。これとこれと……」


「おおおおおおお」


 テントもしまって後片付けした後、食べられる野草なんかも教えつつほどほどの時間まで薬草採取をしてから街に帰ることにした。あ、ちゃんと竈とかは消しておきました。


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