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070 鍛冶修行開始


 翌日、昼前にリリーさん達と一緒に家をでて、まずは二人の見送りついでに乗合馬車乗り場まで行くことにした、んだけど……


「私達がレンさんを送って行きますよ」


「馬車乗り場まで来てもらうとその後第二区画まで戻ることになるからねー?」


「いえ、お世話になったのは私のほうですし」


「ダメです! レンさん一人で歩かせるとか、絶対にダメです!」


「ノルン達も居るんですが」


「それでもダメです!」


 いやん、凄い過保護。お断りはできそうにも無い感じなので諦めて二人に連行されて鍛冶工房へ。


「それじゃ、私達もう行きますけど、大丈夫ですか?」


「変なことしちゃだめだよー? 自重してねー?」


「大丈夫ですからもう行ってください!」


 などと言うやり取りの後、漸く工房に入ることができた。流石に二人に一緒に来てもらうとかは遠慮しました! 子供じゃないんだから! いや、肉体的にはまだ11歳だけどね!


「こんにちはー」


「おう、やっときたか! いつ来るのかと心配したぞ!」


 えええ、そんな子供じゃないんだから……と言うか、工房主が来るの待ってるとか勘弁してください。


「あの、もしかして朝から待ってたなんてことは」


「朝から待ってた! と言うわけで奥に行くぞ!」


 到着早々にまたしても連行された。もしかして今日はこんなのばっかり?

 奥に向って通路をどんどん進んでいく。途中にいくつも部屋があって、それぞれ何の部屋なのか教えてもらった。鞘や剣帯を作る為の革細工用の部屋、刃物研ぎ用の部屋、親方がメインで使ってる鍛冶場、他の職人達が使う鍛冶場が幾つか、大量に仕事が入った場合に使う予備の鍛冶場も幾つか。私が借りる事になってるのはこの予備の鍛冶場のうちの一つらしい。しかももう火が入れてあるとか。気が早すぎ! 燃料勿体無い……

 他にも材料となる鋼材保管庫、出来上がったものを保管する倉庫、燃料となるコークスの保管庫等々……まあ、色々な部屋があった。

 そんな通路を抜けた先は中庭で、向かいにある建物が母屋らしい。併設された建物が従業員用の宿舎で中で繋がってるそうだ。ちなみにお風呂は母屋のほうにあるとのこと。

 母屋の一階は食堂になってるらしく、そこまで連れて行かれると、そこには数人の人達が。皆さんここで働いてる人達で、紹介はされたけどここでは一先ず割愛させていただく。ちなみに流石にフードは下ろしていたので、紹介された人達は皆、まあ、いつもどおりの反応だった。


 紹介が終わると私が使う予定の部屋に連れて行かれた。宿舎の二階の通路の中ほどの部屋だった。

 鍵を渡され中に入ってみると、広さは六畳くらい? ベッドとクローゼットが備え付けられてたけど、ベッドは後で取り替えよう。マットレスが硬いと寝れないし。クローゼットは、【ストレージ】あるし多分使わないかなー? ノルン達は中庭で寝るそうな。何気に一緒に寝てくれない。いけずぅ。

 与えられた自室でさっとズボンと動きやすい上着に着替え、中庭を通って再び店舗の建物へ移動。私が借りることになる鍛冶場へと案内された。


「ここがお嬢ちゃんに貸す鍛冶場だ。燃料のコークスはそこに積んである。足りなくなったら手が空いてるウチの連中に声をかければいい。材料の鋼材に関しても代金をもらえれば都合しよう」


「……あの、なんでそこまで?」


 ちなみにここまで親方さん直々に連れまわされてきた。立場のある人間にそこまでされると正直肩身が狭い。相当に気に入られたのだとしてもちょっと行き過ぎじゃないかなーって思うわけで。


「がははは! 実はな、昨日貰ったインゴット、アレを軽く調べてみたんだが、どうやって鍛えたのかさっぱり分からん! 世の中は広いと思い知ったぞ!」


 なんでも、そんな自分でもわからないような鉄の精錬法を知ってる私を丁重に扱うのは当然、と言うことらしい。うん、職人の世界は良くわからん。


「これがここの鍵だ。鍛造なり何なりするときには鍵を閉めておけ。うちの馬鹿共が盗み見するかもしれんからな」


 いたれりつくせりだー。

 ちなみに鍵を閉めても通気はちゃんとされてるらしく、窒息したり酸欠になったりはしないので安心していいらしい。うん、安心した。

 他にも細かいことを色々教えてくれた後、親方さんは部屋から出て行った。



 さて、それでは早速何か作ってみようか。

 【ストレージ】から鍛冶道具一式を取り出し、準備。これらは王都滞在中に時間を見て自作したもの。

 ちなみに何が必要かわからなかったので困ったときの【創造魔法】頼みで『鍛冶道具一式』と言うふわっとした条件で作ってみた。余りにもふわっとした指定だったのでMP物凄く消費したのは言うまでもない。多分リリーさんに色々教えてもらって魔力運用系のスキル増えてなかったら作れなかったと思う。リリーさんマジ愛してる!

 とは言えこの鍛冶道具、当然重い。私の素のステータスだと持ち上げることは不可能だったりする。

 でもそこは【身体強化】の出番ですよ。【魔力循環】を覚えて消費が激減した今なら常時使用してもなんとかなるわけですね。こんな感じでくっそ重い槌をぶんぶん振り回せちゃう。

 さてさて、鍛冶の手順なんてよく分からないけど取り敢えずインゴットを炉に放り込んでみると、あら不思議。その後の手順がなんとなく分かってくる。これがスキル補正と言うものだろうか? 異世界ファンタジーマジ凄い。現代の職人さん達に謝れ!

 とはいえ、今の自分にとっては非常に都合がいいので、そのまま何となく剣を打ってみることにした。

 

 で、三時間後。


「んー、こんな感じでいいのかな?」


 取り敢えず剣はできた。要所要所で【創造魔法】を併用し、時間短縮した事で、普通に考えると明らかにおかしい速度で。

 三時間で剣一本できるとか、普通におかしいんだけど……【創造魔法】使うと徐冷時間とか全部すっ飛ばせるんだよね。経験稼ぎの為には数打たないといけないから助かるんだけど、ちょっと釈然としないものがある。

 でも実は今打ったのは様子見しながらだったので、頑張ればもっと早く打ちあがりそうではあるかなあ?

 何となくだけど【鍛冶】スキルの経験値も増えたような気がするし、どんどん打っていったほうがいいとは思うんだけど……

 なんて考えながら出来上がった刀身を眺めてみる。刀身は砥いでないし、鍔や握りの部分まで仕上げてはいないけど、【鑑定】で見た感じは出来は最高品質になってるみたい? まあ、鋳潰して打ち直すんだけど。

 とは言え材料の鋼材はまだまだあるのでいきなりこれを鋳潰して打ち直すなんてことはせず、新たに鋼材を取り出して次の剣を打つ。


 カンカンカンカン。


 カンカンカンカンカンカンカンカン。


 カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカン。


 うーん、我ながら中々いい出来だわ。

 あれからさらに数本の剣を打ってみた。どれも出来は最高品質。

 私の鍛冶スキルはレベル3だから、本来は最高品質の剣は作れないはずなんだけど、【創造魔法】を併用すると普通に作れちゃったりする。

 出来がいいものが作れるとスキル経験値も多く入るようなので、レベル上げには持って来いで助かるわー。ステータスを確認してみると早くも【鍛冶】のレベルが一つ上がって4になってた。天人マジチート。

 でも今までの他のスキルのレベルの上がり方を考えると、ここから必要経験が一気に増えていくんだよね……もっと沢山練習しないとなあ……がんばろ。


 とは言え、今日はもう遅いのでここまでにしておこう。体感的に夜の7時位かな? そう言えばお昼食べてないや。水分はちゃんと補給してたけど。

 それに汗でべたべた……上着が透けて下着が丸見え。我ながらエロイ。

 一先ず作業場の後片付けをし、作った剣は全部【ストレージ】に収納。かわりにバスタオルを一枚取り出して肩にかけ、胸元を隠しつつ鍵をかけて鍛冶場を後にする。


 母屋に着くと女将さんに風呂場に連行された。他の若い男性職人や見習いの目に毒だそうです。毒! 私、毒!

 へこんでても仕方ないのでひとっ風呂浴び、着替えて食堂に戻ると他の人達は既に食事を終えてそれぞれの部屋や残りの仕事に戻ったらしく、女将さんと女性の革細工職人、見習いの少年だけしか居なかった。

 女性の職人さんに話しかけられながら夕食を摂ってる間中、見習いの少年に睨まれてたんだけど、何? そんなに睨まれる覚えがないんだけど?

 見つめ返して首をかしげると今度は顔を赤くして顔を逸らすし、なんなの?


「あの子ね、まだ剣を打たせてもらえないの。そこに自分より若い貴方が来て鍛冶場を一つ占領してるでしょ?

 親方が貴方は客で、対価を払って鍛冶場を借りてるんだから変な勘違いするなって怒ったんだけど、まだ子供だから割り切れないのよ」


 はあ、なるほど。変な逆恨みみたいなものですか。とは言え変に絡まれても困るなあ。


「大丈夫、見つめ返されれば照れてあの反応でしょ? 気にしないでいいわよ」


「そういうものですか」


「そうよ? それよりも、貴方胸おっきいわね? 何すればその歳でそんなにおおきくなるの?」


 そんなの、私が知りたいくらいですよ。寧ろ背が欲しいです。切実に。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] コークス、どうやって手に入れているのでしょう。 製法が気になりました。
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