165 死なない為に死ぬ気で鍛えるンだよォー!
まあ、決まった事は仕方ない。
そうと決まれば対策と準備をするしかない。という訳で翌日の朝から準備開始、まずは装備の追加と武器のブラッシュアップ。
まず最初に用意したのは防御面を考えて、盾。
と言っても盾1枚程度での対応力は高が知れるので、私の身長より大きい2mの大盾を3枚用意。これらは主に私の後方に展開させる。私の真後ろ3歩ほどの位置に1枚、両肩の後方5歩ほどの位置にそれぞれ1枚ずつで計2枚、襖のように並べて配置。とは言えこれは基本配置に過ぎないので、状況によって臨機応変に変える予定だ。
次に小盾を6枚。サイズはラウンドシールドサイズ。形状はカイトシールドに近いけど。これは4枚は主に前面に展開し、残り2枚は全範囲を自由にカバーさせる。
そしてこれら全てに【迎撃】のスキルが付与してある。このスキルは本来はダンジョン産のソードブレイカーやマインゴーシュに付与されている事が多い防御向けの常時発動型固有能力で、自動的に敵の攻撃に反応するスキルだ。迎撃の名前の通りに攻撃を攻撃で受けに行くので、本来は専守防衛向けのスキルではなく、攻勢防御スキルになる。その辺りも浮遊する盾であれば完全な受け身よりはむしろ多少前に出て攻撃をいなすくらいの方が私も動きやすいので、このスキルを付与した。そもそも防御に関しても私が一々指示を出さないといけないのでは攻撃どころではなくなるので、自動防御という点で見てもこれは正解じゃないかなと思う。不意打ちにも勝手に反応してくれるからね。ついでに強烈な攻撃に対しては複数枚を重ねたりする事で防御力を上げる事も可能。便利である。ちなみに小盾6枚を合わせる事で花弁型の簡易的な大盾としても使えたりする。
次に攻撃用にいくつかの形状の剣。
まずはグレートソードに分類される大剣、全長は2.5mの両手剣でも特に大きいサイズのモノを2本。次に刀身80cmほどの片手剣サイズのモノを4本、最後に刀身40cmほどの短剣サイズを8本。計14本だ。ちなみに鍔や拵え等は誂えていない。
大剣2本は強力な攻撃や止めを刺す時などを想定している。格闘ゲームで言えば大攻撃、ただし一撃が必殺技並みの高威力。
片手剣は主戦力となる通常攻撃。格闘ゲームなら中攻撃。でもそもそもの攻撃力が高い為、通常攻撃なのに通常のコマンド技並みの威力である。
最後の短剣は牽制や追撃、連続攻撃などに用いる。多分一番出番が多くなると思う、数も多いし。あとは片手剣に対応してる相手の足を狙ったり背後から攻撃したりと、非常にいやらしい使い方も考えている。
ちなみにこれらの剣も全て【迎撃】が付与してある。基本的には『いのちだいじに』の方針なので。
後で必殺技じみた攻撃用の固有能力も付与するつもりだけど、あまり広範囲な攻撃だと自分にも影響が出るし、何か良い感じのものが思いつくまでは当面このままで運用予定だ。
大体半日ほどでここまで終わらせ、昼食後、小一時間の食休みを挟んで【操剣魔法】の練度向上の為にひたすら剣を振り回す。
複数の剣や盾を同時に操作するのは【マルチタスク】の分割・並列思考の効果によるところが非常に大きい。これがない場合、精々剣を2本か剣と盾を一つずつ扱うのが関の山だと思う。そのくらい複雑な動きをさせている。ちなみに昨日のアリサさん達との摸擬戦では何十本もの剣を振り回してたけど、あの時は複雑な動きをさせたわけではなくて単純に物量で押しただけだったりする。そんな私の訓練を見ていたアリサさんは青い顔をしていた。
そんな感じで3日ほど短期集中で訓練したお陰か、停滞していた【操剣魔法】のレベルが一つ上がったのでちゃんと効果はあったと思う。
後は色々試してみて分かった事として、自在に剣を操作できる範囲は自分を中心とした約5~6mという事。これは恐らくスキルレベル+1mという事だと思う。5mと言えば結構広いようで狭いので、そう考えるとやっぱり近接戦闘は最後の手段だよな、と思いを新たにした。……いや、だって怖いじゃん?
とまあそんな感じに私が珍しく真面目に戦闘訓練をしている横で、相も変わらずアリサさんはジョージ爺さんにボコボコに凹まされていた。ここまでマジで一勝もしてないとか、手加減する気ないな? ……いや、完全に手加減されてるんだけどね。というか手加減されてこれというのがもうね……。
自分の訓練をしながら横目で2人の様子を見てると爺さんが動きを止めて何やら考えこんでいた。
「……いや、恐らく……」
「どうしたのー?」
「……アリサ、お前の剣を少し見せてくれ」
しばらく考え込んでいたと思ったら、アリサさんに剣を見せてくれと言い出した。素直に渡すアリサさん。アリサさんの剣っていうか、それって私が造った『フェザー』だよね? なにかあったのかな?
「……なるほどな」
「その剣がどうかしたー?」
「いや、剣自体は問題ない。付与もバランス良くまとまっていて、固有能力もシンプルで使いやすいが上手く使えば強力、とてもいい剣だ」
「でしょー?」
「これを打ったのは嬢ちゃんか? まあそれはいいんだが、問題はアリサ、お前さんの方だ」
「え……私……?」
「ああ。まあ問題というか、自覚が無いというか……」
「どういう事ー?」
「ここ数日お前さんと手合わせをしていたが、途中からこの剣を使い始めただろう? そしてそれからお前さんの動きが変わった。それはこの剣の固有能力……今はウェポンスキルというんだったか? それの効果だろう?」
「そうだねー」
「見事に飛んで撥ねてくるくると動き回って、このまま伸びれば相当な使い手になるだろうと思ったんだが……」
「やー、それは照れるねー」
「ただな、その動きに少し違和感を感じたというかな……それでこの剣を見せてもらったわけだが」
「うんー?」
「この剣の【加速】か、これの効果では普通はお前さんのような動きは出来ない筈なんだ」
「えっ」
「この【加速】は本当なら『一つの動作を一定の割合で加速させる』能力だ。この剣だと大体1.1倍から1.2倍といったところか。ついでに連続して使うには意識を切り替え、次に加速する動作を意識しないといけない。つまり、本当なら一度使うと次に使うまで少し間が空くはずだ。だがお前にはそれがない。更にそれぞれの動きの加速度合が違うし、一瞬ではあるが最も速い時だと二倍近い速さの時もある」
「えーと?」
「簡単に言えば、俺がこの剣を使ってもお前さんみたいな動きは出来ないという事だ」
「ええ? でも私は普通に使ってるだけなんだけど……」
「問題はそこだ。俺が思うに、というかまあまず間違いないんだが……アリサ、お前さんは『魔剣使い』だ」
「『魔剣使い』? 私、魔剣使ってるから魔剣士だよねー?」
「ああ、それも間違ってない。魔剣を使う剣士は魔剣士だ。だが『魔剣使い』は魔剣士とは別のものだ」
「具体的にはどう違うのー?」
「簡単に説明すると『魔剣使い』は魔剣に秘められた魔力を引き出す事に特化した才能だな。本来の秘められた魔力の効果を、それ以上の性能で引き出す事が出来る。……ああ、ステータスを見てもわからないぞ。自覚しなければスキルや職業、称号と言った部分には出てこない才能だからな。……自覚すればだが、たしかスキル欄の一番上の辺りに出て来る筈だ」
「うーん……ないなー」
「まだ自覚がないだけだろう。誇っていいぞ、かなり珍しい才能だからな。それに俺が今までに見てきた『魔剣使い』の中でも間違いなく上位の資質だ。ほとんどの奴は本来の力よりも多少毛が生えた程度にしか効果を引き出せないからな」
「ほへー」
「自覚すればもっと伸びるだろう……さて、続きをやるか」
「わかったー! 教えてくれてありがとうー! がんばるよー!」
「ああ、そっちも合わせて伸ばしていけば『剣聖』になるのもそう難しい事ではないと思うぞ」
「おー!」
……なんか凄い話を聞いたような気がする。というかアリサさんってそんな凄い才能がある人だったのかー、びっくりだよ!
……ちなみに後でジョージ爺さんに聞いた話によると『魔剣使い』については割と失伝気味の情報だったりするらしい。なんかそういう忘れられた知識に関する話、色々と知りすぎてない? もしかして私が思ってるよりも長生き? それともそういう極秘情報を得やすい立場だったりとか……? ……あー、そっちの可能性もあったかー……。
とまあ、そんな事があった翌日。遂にワイバーン狩りに行く事になったのであった。
「という訳で行くぞ! 準備はいいか?」
「はい……」
「おー……」
「うぇーい……」
「うー……」
爺さん以外全員お通夜ムードである。ちなみに私、リリーさん、アリサさん、クロの順だ。
あのね、この人数で亜竜に挑むのがそもそもおかしいからね? 私達の冒険者ランクがいくつか知ってる? リリーさんとアリサさんがD、私とクロに至ってはEだよ! まだ下から二番目なんだよ! それなのに推奨ランクA以上のワイバーン狩りに行くって……。
しかも爺さんの作戦ではメイン火力は私。というかむしろ戦うのは私だけ。そもそも相手は空を飛んでいるのでアリサさんとクロはやれる事がない。リリーさんは火力不足なのでむしろ邪魔とまで言われて落ち込んでいた。二つ以上の属性魔法のレベルを最低でも7か8にして来いって言われてたからね……。ノルンもベルも空飛べないしね……マジでどうしてこうなった。
源泉へ通じる螺旋階段をぞろぞろと連れ立って登って行き、源泉が湧いている岩棚までくるとそこから暫くは左手の方へと歩いていく。ある程度進むと滝が見えてきたのでその滝に近づくと、滝の裏側が通れるように通路が隠れていた。うっかり滑り落ちない様にその通路を慎重に進む……おー、滝のカーテンの裏側、凄いな……。
一番奥まで進むとそこには岩壁側に洞穴が開いていて、ここからはその洞穴を進むらしい。かなり背の高い爺さんがかがむ事も無く通れるこの洞穴、爺さんが若い頃に掘ったものとの事だった。必要に駆られて掘ったとかなんとか……? 洞穴は斜め上に傾斜していて、このまま進んでいくとこの山の上の方に近い所に出るとの事。洞穴を30~40分ほど進むと明かりが見えてきた。
「そろそろ外だな、一応気を付けろ」
それはまあ、気を付けるけど……。
とは言え洞穴を出たところで魔物が待っていた、なんて事も無く普通に外に出る事が出来た。洞穴が途中で蛇行していた事もあって、出口は岩壁側だ。
そこから岩壁沿いに岩棚を右手側に登っていく。洞穴を出た状態から右側なので、源泉から滝の方向に向かって進む事になる。この岩棚はかなりの急傾斜で、足元に気を付けないとあっさり踏み外して真っ逆さま、なんて事になりかねない。
急傾斜を登り切った先には次の岩棚が……と思ったら、そこには森が広がっていた。かなり遠くの方、森の向こう側に別の岩壁が見えるので、この森がある辺りは結構広いようだ。
「この奥の岩壁にワイバーンが巣を作ってる。そのワイバーン共の糞が落ちてくるからこの森は非常に栄養豊富でな、珍しい薬草なんかの類が山ほど生えてるんだ。そっちも後で採りに来るといいだろう」
へー、それは良い事を聞いた。ただ、ワイバーンの糞に生えてるって言われるとちょっと微妙な気もするけど……。
森の中に入って少し移動すると、大きな岩がいくつか集まってるところに出た。この辺りは木も生えていなくて少し開けているので、ここに拠点を設営してワイバーン狩りをするとの事だった。
そして特に問題もなく野営準備も終わり、狩りに向けて作戦会議。
ワイバーンは飛竜に近い種で竜と違って前肢が無く、前肢の位置に代わりに翼が生えている。そして尻尾の先に毒針を持っている。老成して魔力が増えた一部の個体か、生まれつき高い魔力を備えた個体でもない限りブレスは吐かない。【魔力感知】があればその辺りの判断は簡単にできるとの事だった。
「連中は賢いが馬鹿でもあるからな、魔力を隠すなんて器用な真似は出来ないのさ」
これが竜の場合、そもそもの絶対的強者であるが故に姑息にも魔力を隠すなんて真似はしないらしい。理由は逆でもやってる事は同じとは……。
ちなみにこの世界において竜というのは人が戦う相手ではなく、戦うなんて選択肢はそもそも出てこない相手だ。まだ幼い竜や成体に育った直後ならまだしも、成体になってから時を経た竜を倒すのは人類の上澄みとされるAランク冒険者でも上位の連中が大勢集まり、しっかり作戦を立ててなお大勢の犠牲を出してやっと、と言うほどらしい。それがましてやエルダークラスのドラゴンともなれば文字通りに人が太刀打ちできる相手ではなく、そんな相手と真っ向から戦って倒すなんていうのは超人と呼ばれる領域に足を踏み入れた極一部の人間か、それこそ『勇者』でもない限りは不可能なのだ。
つまり、そこにいる爺さんはその一握りの化け物なんだよ。
「ワイバーンと戦う場合、狙うなら脳天を打ち抜くか首を刎ねるかの一撃で決めるのが手っ取り早い。次点で翼を狙って地面に落として止めを刺すくらいか。翼を狙う場合も翼膜に穴を開けると素材としての価値が下がる、やるなら翼の根本を狙うべきだな。連中の攻撃方法は高速で滑空してきて一撃離脱が基本になる。地面に降りて足を止めてくれれば接近戦も出来るが、その場合は尾の先の毒針が厄介だ。1~2回ならいいが、何度も刺されると死ぬから気を付けろ」
その高速滑空からの一撃離脱って言うのがそもそも普通は対応できないんじゃないですかね……。一応私が考えた対応策としてはぎりぎりまでひきつけてから目の前に土魔法で石の壁で出して衝突させて、脳震盪を起こした所をタコ殴りにするとか、すれ違いざまに首か翼を落とすとか……。
「そうだな、昔からその辺りが基本的な戦い方だな。後は大勢の弓兵を用意して地道に弓を射掛けるか、バリスタを持ってくるか……どの方法にしてもなかなか上手くはいかんがな」
ですよねー。
「さて、早速明日は狩りに行くぞ。その為にも力を付けんとな、美味い飯を頼む」
もうマジで帰りたい……。







































