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164 回る回るよ 〇〇は回る


 翌日である。

 私が起きると既に爺さんとアリサさんが戦っていた。と言ってもアリサさんが攻め手で、ジョージ爺さんは受け手。後で聞いた話によると実力差がありすぎてアリサさんはあっという間に負けてしまうので稽古にならなかったらしい。

 アリサさんが間合いを詰めて切り込んで、一歩引きながら跳ね上げて、フェイントを入れて横に回り更に横薙ぎ、切り返して足元を薙ぎ払い、バックステップから突進して横を走り抜けながら流し切り、からの、身体を反転させての突き。猛攻という言葉がふさわしいアリサさんの連続攻撃。

 だけどその全てがあっさりと受けられ、流され、躱される。

 私が見ていた感じでは、完全に初動を見切られてるっぽい……アリサさんが動くのとほぼ同時に防御行動に移ってるように見えた。

 ……ちなみに私がこの激しい動きを目で追えるようになったのは、ジャンさんとアリサさんの稽古をずっと見続けたお陰で【見切り】を習得したからだったりする。といってもまだLV1だけどね……あ、今レベル上がって2になった。


「おお、起きて来たか」


「おはようございます」


「ふむ、代わるか?」


 動きを止める事なく摸擬戦を続けながらアリサさんを指さして聞いてくるけど、私は寝起きで激しく身体を動かせるほど元気じゃない。というか起き抜けは低血圧であんまり動けない。まあそれでも日課の軽い運動はするんだけどね。……夜の日課とは関係ないよ。


「いえ、朝は軽い運動だけにしておきます」


「そうか、まあこっちも良い所だから半端にするよりはいいかもしれんな」


 そっすね。ついでに朝ご飯の後には茸狩りの予定だから、私が見てもらうのは午後になってからかな?

 柔軟をして軽く身体を動かして温めた後はベルといつもの追いかけっこ。これがなかなか……ぜー、はー!

 ちなみにノルンはアリサさんと交代しながら爺さんとやり合ってたらしい。その間、爺さんは休憩も無しでずっと動いてたのに息切れ一つしてないというね……化け物か。クロは私が起きてくるまではベルと追いかけっこしてた模様。その後はどこかに行ってしまった。実力格差が酷い……。

 そんな事をしているといつの間にか起きていたリリーさんが朝食の準備を終わらせて声をかけてきたので、朝食。爺さんとアリサさんはひとっ風呂浴びてから食べるらしい。ノルンとベルは狩りに出掛けて行った。みんな元気すぎない?

 一足先にご飯を終わらせた私は1人茸狩りへ出発である。


「あれ、どこか出かけるんですか?」


「茸を採ってこようかなーと」


「ああ、なるほど……うーん」


 なんか悩みだした。あーあれか、私と一緒に行くか、このまま残って後片付けとかするか迷ってる感じか。


「1人で大丈夫ですよ」


「……それもそうですね、それじゃあ気を付けて行って来てください」


 過保護はいらぬ!

 そんなこんなで家を出て水路沿いに移動し、適当なところで森に入って行く。茸の群生地の場所? そんなの水路を作ってる時に【探知】を使ってリサーチ済さ! という訳でそう時間もかからずに群生地に到着。おー、生えてる生えてる。面倒だから【ストレージ】でサクッと回収。次の群生地に移動して同じように回収、以下繰り返し。途中で角兎も数羽狩って大豊作である。今夜は茸鍋だ!

 あ、ついでに川の方も見て来るかな? 水路工事の時はあんまり確認してなかったし。よし、行ってみるか。

 てなわけで川に到着。水路の入り口に枯れ葉が詰まったりはしてないっぽい。うーん、鉄網でも追加しておくか……。という訳で一発改装、ドン!

 そして次は滝壺を覗いてみる……魚影がちらほら、でも結構深そうだな。危ないから入るのは止めておこう。少し川沿いに下りながら川の様子を見てみる。おー、結構魚がちらほら……。河原には沢蟹もいるし、コレ、川海老とかも居そう。砂抜きして丸ごと唐揚げ……いいかもしれない。靴とストッキングを脱いで川に入り、【探知】。……おー、かなり沢山いる。ちまちま獲るのは面倒だし、ここも【ストレージ】で回収。……しまった、これも酒が欲しくなる奴では!?

 うーん、色々採ったけど、昼まではまだまだ時間があるな……どうしよう? ……ああ、そうだ。アレを採るか。

 という訳で勝手口から調整槽の部屋に入り、えっちらおっちらと螺旋階段を登って源泉へと向かう。……うーん、暑い。ぐつぐつと煮え滾っておる。

 で、ここで何をするのかというと【創造魔法】で硫黄を抽出しようかなと。硫黄、色々と使い道があるしね。という訳で【創造魔法】でホホイのホイ。おー……一回で結構採れるな。ヨシ、この調子でガンガン行こう。

 ……一時間程抽出作業を続けていると、あまり採れなくなってきた。今日はこのくらいにしておくか。硫黄……取り敢えずお約束の火薬でも作っておくかな? 丁度ゴブリンの死体から作った硝石も余る程あるし。そうなると火器も作りたくなるな……火器、魔導甲冑用にも作る? ああでも臭いでわかる人にはわかるし、魔導甲冑用の火器は魔法式の方がいいかも。というか火薬使ってなかったら火器ですらないか……銃器? でも銃は浪漫武器なので自分用にいくつか作ろう、そうしよう。

 んー、作りたいものリストが長くなっていく……。

 そんな感じに色々やって家に戻ると、昼というには少し早い時間だった。アリサさんと爺さんはまだ戦ってた。でもってよく見るとクロも交じってる。そしてリリーさんは……あー、なんか魔法の訓練してるっぽい。魔法って言うか魔力制御? 幾つもの水球を周囲に浮かせて動かしてる最中だった。ふむー、邪魔しても仕方ないし、暇だから昼ご飯でも作るかな。

 折角茸を沢山採ってきたのでしめじと舞茸で炊き込みご飯でも作るかな。汁物は……無しでいいか、代わりに麦茶でも出しておけば大丈夫でしょ。でもって主菜は……オークカツでも揚げるかな? よし、そうと決まれば早速。

 ご飯を仕込んでカツをジュージュー揚げているとぞろぞろとみんな家に入ってきた。なんならノルン達も戻ってきたので、ノルン達の分も追加で揚げる……なんか凄い量になってしまったぞ。

 テーブルに出来上がった料理を並べて、外のノルン達にも持って行って、私が戻ってくると一斉にいただきますしてお昼ご飯となった。

 揚げたてのカツ、ザクザクで美味しいね。ちゃんと下味を付けたのでそのままでも美味しく食べられる。でもここで秘密兵器の投入、中濃ソースである。


「うわ、なにこれうまーっ!」


「なんですかこれ、美味しすぎる……」


「うまー!」


 そうだろうそうだろう!

 でも作るの結構面倒だからね、ソース類は。兎に角時間がかかるのがね……初回はまだしも、二回目以降は【創造魔法】でいいかなと思ってる。というか今出したこれは実際に魔法で作った奴だったりするし。


「うむ、これは酒が欲しくなる……」


 そんなにちらちらこっちを見てもビールは出さないよ。これはお昼ご飯だよ。という訳で炊き込みご飯もパクリ。あああああ、こっちも美味い……茸にしっかり味が染みてる……。

 炊き込みご飯もオークカツも皆には好評であっという間に皿は空になった。爺さんはお酒欲しそうだったけどスルーである。

 洗い物はリリーさんとアリサさんがやってくれた。クロ? クロは食べ終わった後はスヤスヤ昼寝してるよ。

 

「すごく美味しかったですけど、味が複雑すぎて一体何が入ってるのかさっぱりわかりませんでした……」


「あー……まあ、色々です」


「色々」


「はい、色々」


 実際そうとしか言いようがない。具体的に全部羅列してもいいんだけど、そうすると多分そのままレシピを教えて実際に一緒に作る流れになりそうだったので、敢えて詳細は告げなかった。


 そして午後、私の特訓タイムである。

 ちなみにアリサさんとリリーさんはクロを連れて狩りに出掛けて行った。大物はノルン達が駆除した後なので、そうそう遭遇しないんじゃないかなーとは思うけど、やる事が無いリリーさんのストレス発散の意味でもアリサさんはリリーさんを連れて行ったっぽい。うん、爺さんどう見ても前衛戦士だし、魔法は専門外って言ってたからリリーさんに教える事は何もないって言ってたんだよね……リリーさん、仲間外れにされてちょっと凹んでたんだよ……。なお、ノルンとベルは私の特訓を眺めてる事にしたらしく、少し離れたところで丸くなってこっちを見ていた。

 特訓と言ってもまずは今の戦闘スタイルを見せないと話にならないので、最初は適当に的を幾つか出して石礫を当て、次に剣を飛ばして当てていく。剣の投射は曲射、直角射も見せる。


「……なるほど。質問なんだが、その鎖や紐はなんなんだ?」


「これは、一番の理由は撃った後に回収する為です。あとは拘束とか、牽引したりとか、そういう使い方も出来ます」


「回収? ……ふむ、一つ見せてくれるか? ……あー、なるほど。こりゃ確かに放置は出来んな」


 でしょ? って言うか鑑定かそれっぽいスキルも持ってるのか、爺さん。


「その様子だと他にも応用方法はわかってそうだな」


「そうですね、電撃を流して麻痺させたりでしょうか? あとは遠隔で冷気を出すとかもありですね」


「密集しているところの地面に撃ち込んで、いきなり火柱を出すのもいいぞ」


「なるほど、それもいいですね。……でも、火系は素材回収できなくなるので悩ましいですね」


「それを言ったら電撃も威力を上げすぎれば同じ事だろう? 結局は使いどころだな」


「そうですね」


「ただ、物珍しいから目立つだろうな」


「……普段は石礫を飛ばしてますよ、こういう形にして」


「それがいいだろう」


 うーん、助言出来るって言う割には私がそのうち思いつきそうなのばっかりだな。


「さて、それじゃあ真面目にアドバイスするか。その剣、周囲に浮かせた状態で待機させられるよな?」


 言われるままに周囲に剣を浮かべる。


「……うん、そうそう。でな、その状態で撃ち出すんじゃなく、剣を振るように振り回せないか?」


 え? ……振り回す、この状態で? ええと……こんな感じか。

 周囲に浮かぶ剣を手を使わずに振り回す……結構適当なイメージでもいけるっぽいな、これ。


「ふむ、やはり出来たか。……昔の知り合いに1人、似たような魔法を使う奴がいてな、そいつが飛ばすだけじゃなく、こうして近接戦闘も熟していたんだ」


 おお、同じような魔法の使い手がいたのか。


「その周囲に浮かべて滞空させるのはな、無属性魔法の『念動』と同系統の作用だろう。今はもう忘れられた原初の魔法の一つだな。嬢ちゃんは自分が非力だから近接戦闘には向いていないと思っているのだろうが、『念動』は魔力の込め方やイメージ一つで幾らでも力強い動きに出来る。嬢ちゃんの魔力量と想像力なら、そこいらの力自慢の膂力何ぞ比べ物にならないほどに重い斬撃を繰り出せるだろう」


 ええ、嘘、マジで? ……うわ、マジだ。ぶんぶん勢い良く剣をぶん回す。


「近接で振り回す用なら鎖はない方がいいかもしれんな。後は複数の剣を同時に振り回したり、普通の剣技では不可能な動きをさせたりするのも効果的だぞ」


 おおお……なんだこれ、ファン〇ルっぽい! ちょっと楽しくなってきた!

 ……そのまま名付けると著作権とかが怖いので、この能力の名前は『ソードビット』にでもしておこう。これはこれで安易ではあるけど。

 結局、その後はリリーさん達が戻ってくるまで剣を躍らせるようにくるくると回し続けていた。

 そして興味を持ったアリサさんと手合わせをした結果、私が圧勝してしまったのだった。


「無理ー! 剣が多すぎて避けきれない! 二十本も三十本も剣が襲い掛かってくるところに更に飛んで来るし、無理ー!」


 斬撃も重すぎてまともに受けきれずに辛うじて受け流すのがやっとで、しかもそれが文字通りに十重二十重(とえはたえ)に襲い掛かってくるのだ、いくら何でも対応しきれない。回避に専念して距離を取ると今度は雨霰と剣が飛んでくる。アリサさんは十分も持たずに音を上げた。


「アリサにはまだ厳しいだろうな」


「ならジョージさんがなんとかして見せてよー」


 という訳で次はジョージ爺さんを相手にする事になったんだけど……。はい、あっさり負けました、私。

 開始直後からなんかもう意味不明な速さで槍を振り回して全ての剣戟を受け、いなしたと思ったらあっという間に間合いを詰めて私の首元に槍を突き付けたのだ。

 えええ……ちょっとマジで強すぎなんですけど!?


「まあざっとこんなもんだな」


「自信無くします……」


 うう、折角新しい戦闘技能を習得してアリサさんにも勝てたのに、直後に敗北するとか……。


「よし、何日か練習したら狩りに出るぞ! ワイバーン狩りだ!」


「ワイバーン!?」


 いやいや待って、ワイバーンって亜竜じゃん! 討伐の推奨ランクAの魔獣ですよ!?


「なぁに、嬢ちゃんが剣を飛ばせばあっという間だ! 俺が本気でやると消し飛んでしまってな!」


 ほら、リリーさんもアリサさんも遠い目になってるから! って言うか飛んでる魔獣相手ってあんまりした事ないんですけど! しかもワイバーンとか!


「久しぶりにワイバーンの肉で焼肉が食いたい! よろしくな!」


 マジでー!?


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― 新着の感想 ―
わしはどちらかというと、「タイラントソード」の遠隔随伴機で「ソード・ビット」を思い出したかな(笑)。 操剣術はオノコの夢よのう(笑)。
上には上がいるなぁ。 だからこそ上達しようという気概が生まれるんだろうね。
ソードビットもガンダムとダンボール戦機で使われてるからファン◯ルと大差ない気ガガガ(笑)
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