163 すごいへべれけにははなしがつうじない
少し遅くなりました。やや短め。
家の内装を見に行ったジョージ爺さんを見送ると、そう間も置かずにリリーさん達も帰ってきた。
見た感じ手ぶらだけど……とは言ってもリリーさんもアリサさんも私が貸し出したマジックバッグを肩に下げていたので、成果は全てあの中だろう。ああ、そういえばクロにもマジックバッグ持たせた方がいいかな? でも大きいのはかさばるだろうし、腰につけるポーチタイプとかがいいかも? 容量も2人のモノよりは少な目な感じで……よし、後で作ろう。
「ただいま帰りましたー」
「おかえりなさい」
「色々採れましたよー」
「リリーは魚はボウズだったけどねー」
「アリサ煩い! あ、お風呂場だけじゃなくて家も出来たんですね」
「わたしも一杯獲った!」
「クロちゃん凄かったんだよー」
なるほど、リリーさんは釣りはボウズ……。ちなみにクロは手掴みで獲りまくってたらしい。いやいや、ちょっと凄すぎない?
で、そんな収穫物はなかなか豊作だった模様。時期を外してる割りには山菜の類も結構色々採れてるし、魚も30匹くらいあった。ちなみに茸は怖くて手を付けなかったとの事。私なら【鑑定】で毒の有無もわかるし、明日にでも取りに行くかな? そしてそれら収穫物は全て私の【ストレージ】へ移動させる。
3人がテーブルでお茶を飲んで一休みしてる間に私は晩ご飯の調理。飾り塩を塗って川魚を丸焼きにして、あとは定番の野菜スープと具無しのおにぎり。なんとなくスープは和風っぽい味付けにしてみた。
出来上がった料理をテーブルに並べて食事の準備ができたところでジョージ爺さんを呼びに行く。
家に入るとリビングのソファーに横になって寛ぐ爺さんの姿があった。
「おー、このソファーはいいな! 座り心地も最高だ! 今日から俺はここで寝る事にした!」
「いえいえ、ちゃんとした寝室もあるんですからそっちで寝てくださいよ」
「気が向いたらな! ……そろそろ飯か?」
「はい、もう出来てるので外に来てください」
「家も出来たしこっちで食ってもいいんじゃないか?」
「んー、運ぶの面倒ですし、これからはいつでも屋内で食べられますし、今日のところはこのまま外でいいかなーと?」
「わかった、そうしよう」
まあどっちで食べてもいいんだけどさ、運ぶの面倒だからね。
そしてみんなで揃ってテーブルについて晩ご飯タイムである。いの一番に焼き魚を頬張った爺さんが一瞬止まったあと、こちらに物欲しそうな視線を寄こしてくるが無言で躱す。今日はお酒は無しです。
私も焼き魚をもしゃもしゃ……うん、美味い。おにぎりにも合うし、食が進む。なるほど、これはお酒って言うか日本酒が欲しくなる奴。出さないけど。
食後はテントや調理台、テーブルセット等を仕舞って新築の家の中へぞろぞろ移動。客室の部屋割りは私とクロで一部屋、リリーさんとアリサさんで一部屋。客室のベッドは2つずつあるので問題ない。ちなみに爺さんは自分の主寝室も使っていいと言ってきたけどそこは遠慮した。そんなにソファーが気に入ったのか……。まあコイルスプリング式だからなあ、座り心地は抜群なんだよね。
仕方ないのでソファーで寝る時用に、座面に敷く毛皮のシーツと薄手の毛布を用意してあげたところ、とても喜ばれた。
「ふむ、ついでに床に敷くラグでも用意するか。明日にでも何か狩りに……」
なんかぶつぶつ言いだしたので、適当に熊の毛皮を出して敷いてあげたらこれまた喜ばれた。ちなみにこの熊の毛皮はフロストジャイアント戦の前哨戦の時に倒した熊のモノだったりする。
「催促したみたいで悪いな」
「余ってますから、大丈夫です」
へーきへーき、在庫はまだまだ沢山あるから。というかね、ここまで色々やったけど、それでも前に貰った竜素材と比べると全然こっちの方が貰ってる状態なんだよね。
その後は全員連れ立ってお風呂へ。折角完成したんだし、堪能せねば!
湯船に浸かってからふと思い立って、岩壁側の脱衣所の出口辺りから湯船の1/3にかかるくらいの範囲に屋根を取り付けた。いやほら、このままの状態だと天気が悪い時とかお風呂に入れないじゃない? まあこの爺さんは気にしないで入りそうではあるけど。
「やっぱり突貫工事だと色々と抜けがありますね……」
「それは仕方ないだろう、本職という訳でもないだろうしな。それにまあ、すぐに気付いて即座に対応したんだからいいんじゃないか? だがこれで雨の日でも雪の日でも気兼ねなく風呂に入れる、ありがたい事だ」
冬の時期にここに来たら雪の所為で何ヵ月も移動できなくなりそうだなあ……しっかり準備しないと普通の人なら餓死してしまいそうだ。
つらつらとそんな事を考えながらジョージ爺さんの方にふと視線をやれば、ゆるゆると表情を緩めて楽し気に湯に浸かってる……ふむ。
【ストレージ】から木のお盆を取り出しお湯に浮かべると、そこに徳利2本とお猪口を一つ載せる。徳利に指を当て、中に清酒を入れた後はお盆を押して爺さんの方へと送った。
「……まさか、日ほ……いや、清酒か?」
「ええ、温泉と言えばこれかな、と思いまして」
「……いいのか?」
「折角出したので、飲んでもらった方がありがたいですね」
「……感謝する」
「はい」
「……ああ、美味い……これはいいなあ……」
酒を一口口にすると、しみじみと呟きながら星空を見上げるジョージ爺さん。温泉に浸かりながら星見酒、いいと思います。
ちなみにこの日本酒というか清酒、米は兎も角、水は拘って造ったのだ。というか水魔法で何種類も水を出して、『ここの米で清酒を作る場合に最も合う水質の水』を頑張って調べたのだ。お陰で米の質はイマイチだったけど、かなり出来の良いお酒が出来上がったと自画自賛してたりする。
なんてやってたらアリサさんが寄って来た。
「ねえねえレンさん、あれってお酒ー? 昨日の苦いのとは違う感じー?」
「あれはお米から作ったお酒ですね」
「お米からお酒が造れるのー?」
「お酒は色々な物から作れますよ、甘いお酒とかもありますし」
「甘いお酒……」
……ああ、アリサさんが飲んでみたそうな顔になってしまった。
「……お風呂に入りながら飲むと酔いが回るのが早いので、上がったらにしましょう」
「そうなんだー? ……あっちはいいのー?」
ジョージ爺さんの方を見ながら聞いてくるアリサさん。いい質問だね?
「ああいうダメな飲んだくれはどこにでもいます、気にしたら負けです」
「なるほどー……?」
いい子は真似しちゃいけないよ、下手したら死ぬからね。でも水分補給は大事なので、代わりに麦茶を出してみんなに配った。
麦茶を飲んだ後もしばらく湯に浸かり、十分に温まった後はまだちびちびやってる爺さんは放っておいて私達は先にお風呂から上がる事にする。
身体を拭いて生活魔法の『乾燥』や風魔法を駆使して髪を乾かした後、約束通りにアリサさんにお酒を出してあげた。レモンサワーである。
「なにこれー!? 甘い! 美味しい! しゅわしゅわしてるー!」
ふっふっふ、美味しいだろう!? 渾身の一作だからね! ちなみに甘さは少し強めにしてある。まだアルコールに慣れてないだろうから、飲みやすさ重視で。
……え? 炭酸水なんでどこで手に入れたのかって? そんなの【創造魔法】で炭酸ガスを封入しただけだよ、碌に消耗もしないで簡単に作れました! ……ああ、ハイボールが飲みたい。
「美味しいー! これ美味しいー! これもお酒なのー!?」
アリサさん大喜びである。
大騒ぎのアリサさんを生暖かい目で見守りながら、私は腰に手を当ててフルーツ牛乳を飲んでる所だったり。うん、さっきお風呂に入る前に作っておいたんだよ。やっぱり風呂上りと言ったらこれでしょ! クロも飲む? よしよし、たんとおあがり? ……あ、リリーさんも欲しい感じ? よいぞよいぞ、みんなも飲むがよいぞ。
「はー……これ、美味しいですねぇ……」
「レンちゃ、これ美味しい! 好き!」
「ある地方ではお風呂上りには腰に手を当ててこれを飲むのが作法なんですよ」
「そ、そうなんですね……?」
すまん、嘘だ。
そんな感じにリビングで騒いでいると爺さんも風呂から上がって来た。
「いやあ、堪能した……嬢ちゃん、ありがとうな! ……む、フルーツ牛乳か? 風呂上りに飲むのは格別だよなあ!」
リリーさんが私の嘘を信じ込んでしまった瞬間である。……多分実害はないと思うけど、後で折を見て訂正しておこう。
「ああ、そうだ。嬢ちゃん、すまんのだが余裕があるならさっきの清酒を少し分けてくれんか? 手に入れようと思うと蓬莱から流れて来た希少品を探さないといけなくて面倒でな……それに苦労して手に入れても運んでくる時の長い船旅の所為か管理も良くないようで、高いばかりであまり美味くないのだ」
なるほど、蓬莱では清酒作ってるのね。まあ日本っぽい国って話だしなあ。同じお酒スキーとしてはその苦悩も理解できるのでどどーんと提供しようではないか! という訳で一升瓶5本程出してあげた。
「こんなに、いいのか?」
「まだまだ在庫は有りますから、大丈夫ですよ」
「そうなのか……すまん、感謝する。ありがとう……本当に助かる……」
なんだかしみじみお礼を言われてしまった。よほど飲みたかったのか、それとも飲めない時期が長かったのか、或いは手に入れた蓬莱のお酒の味が良くなかったのか……。うん、味わって飲んでおくれ。
「……しかしなんというか、風呂に家に飯に酒にと、世話になりっぱなしだな。これは何か礼をせんとな」
「あー、それは大丈夫です。前に頂いたあれで既にこっちが貰いすぎですよ」
「そうか? ……ふむ、そうか。それなら……そうだな、お前さん達に稽古をつけてやろう。俺はこう見えても腕には覚えがあってな、多少は足しになるだろう」
えええ、私、身体を動かすのはあんまり得意じゃないんだけど……いや、歴戦の勇士っぽいドラゴンスレイヤーが直々に教えてくれるっていうのがとんでもなく凄い事だっていうのはわかるんだけど、そもそも私は近接戦闘担当じゃないからね?
「えーと、ご提案はありがたいんですが、私は荒事はあまり得意ではなかったりしまして……」
「うん? ああ、それはわかってる。前にデカイのとやり合ってる所も見ていたからな。だが俺はこれでもそれなりに長く生きてる、専門ではないが嬢ちゃんの戦い方への助言くらいは出来るぞ。それにアリサは剣士だろう? 後はノルンとベルだったか? そっちに実戦形式で稽古をつけてやろう」
あー、なるほどなるほど、それは確かにありがたいかも。
「えーと、そういう事でしたらお願いします……?」
「うむ、任せておけ」
こうして明日からの訓練が確定したのであった。
……どうしてこうなった!







































