160 一部の装備の使用制限が解除されました
おはようございます。
そんな訳で朝も早くから出発の準備中であります。といってもやる事あんまりないけどね。マットレスを回収して色々元に戻して、後は手荷物を纏めるくらい? 基本的に私の荷物はほぼ全て【ストレージ】に収納してあるから、手荷物と言ってもリリーさん達の着替えくらいだからね。その着替えすら2人には貸し出したマジックバッグに仕舞うだけなので、ほいほいと放り込んでいけばあっという間だ。
荷物をまとめ終わったら村長さんの家の母屋へ行き、出立の挨拶をする。村長さんはもう起きていて帳簿っぽいものに記帳してたり、奥さんとアンナさんは朝食の準備中。ミーナちゃんはまだ寝てるらしい。
「おや、おはようございます。アンナから聞いていましたが、もう出立してしまうとか……もっとゆっくりしていってくださっても構わないのですが……」
「いえいえ、あまり長くお世話になるのも気が引けますし、それにやはり冒険者は旅をしてこそですから」
「なるほど、確かにそうですな……では、お気をつけください、皆様の旅の無事を祈っております」
「ありがとうございます、それではこれで……」
という感じにリリーさんが挨拶もそこそこに会話を切り上げてお暇する。
ちなみに朝食も遠慮させていただいた。何故なら大量にお弁当を頂いたのでね! 黒パンと、昨夜の残りのステーキをサイコロ状に切ったものと、あと葉野菜。しかもそれらを私達4人の今日の三食分くらいの量を。いやいや、多い多い。でもまあタダ飯は有り難いので遠慮せずに頂戴させて頂きました。
厩舎へ行って馬ゴーレムを回収、離れ脇に留めてあった馬車に繋いで準備完了。あ、ちなみに馬ゴーレムはものを食べる振りが出来るように改良済みだったりする。馬車移動多いし、街とかで宿に泊まる時に急に馬も馬車も消えるのは不審すぎるから、擬態できるようにね。
そして全員が馬車に乗ると移動開始。村の中を走らせ、外を目指す。
村の広場ではまだお祭り騒ぎの真っ最中だった。とはいえ村のあちこちで酔っ払いが寝てたりして中々微妙な光景ではある。
そんな村人達を見てアリサさんも微妙な表情を浮かべていた。お酒はほどほどにね……。
途中でミーナちゃんが追いかけてきてお別れの挨拶をしたりしつつ、村を出て街道に。しばらく走らせた辺りでなんとなく、窓を開けて顔を出し、後ろの方に顔を向けて村を眺める。
あの村にもなんだかんだで十日近く滞在してた事になるのかー……感慨深いようなそうでもないような?
「そこそこ長く滞在しましたね、あの村」
「そうですね……」
「まさか騎士団の討伐作戦に参加する事になるとは思いませんでしたけどね」
「そうですね」
「まあ実際のところ戦闘要員じゃなくて後方支援で怪我人の治療ばっかりでしたけど……私、あんなに沢山回復魔法を使い続けたのは流石に初めてですよ」
「そうなんですね」
「でもレンさんに貰った指輪のお陰で魔力の消耗も軽減されてるので何とかなりました」
「そうだったんですか」
「はい」
「そうですね」
「レンさん? ちゃんと話聞いてます?」
「聞いてません」
「レンさああああああん!?」
いやもう何なの? 半分くらいは聞き流してるけどちゃんと聞いてるって! というか私はノルン達を呼ぶのに集中してるんだから少し静かにしてくれないかなあ!?
いやほら、ノルン達って私達が村を出る頃には合流するって話だったのにまだ帰ってこないから、【従魔同調】を応用して今どこにいるのかちょっと探してる最中なのだ。
それでしばらくの間ビビビーっと念を飛ばしてみたところ、もう数日ベルに訓練をしてから合流するとの事だった。一応、こちらの位置は把握してるらしい。なるほど?
まあ二匹とも子供じゃないんだから、やる事が終わったらそのうちちゃんと帰ってくるでしょ。
ノルン達の事をリリーさん達に伝えたところ、私と同じ意見だった。アリサさんが言うには二匹だけでの連携訓練とかもあるんだろう、との事。
とは言えノルン達が居ないと私達の持ち回りで不寝番をする事になるんだけど、そこは一応問題ない。というかリリーさんとアリサさんはノルン達が居る時も時折不寝番に起きている時もあって、そういう訓練というか経験はちゃんとしてるのだ。私は自作の眠気覚ましポーションがあるのでうっかり眠ってしまう事もない。ただしコレ、凄い体に悪そうだけどね……。問題があるとすればクロで、取り敢えず慣れるまでは私と組んで起きている事になった。
そんな感じに夜のローテーションも組んだ後は再び温泉目指して移動&移動。そして私は予定通り武器の改良である。
ちなみにリリーさんには最初に『作業に集中したいから』と釘を刺したので、がっかりしながら御者席の方へ移動して行った。代わりに客室内に居るのはクロだけど、ずっと寝てる。夜に備えて寝溜めするらしい……。まあ静かにしてるならなんでもいいよ。
まず最初に作製するのは鋼糸。本命をいきなり作るよりは普段使い出来るものから先に作りつつ、経験稼ぎだ。
うーん、あんまり細いと自分の指をスパっと切り落としそうで怖いな……ちょっと太めにしておこう。でもって耐久性を上げる為の付与を、アレとコレとソレをこんな感じで……付けて……。
よし、いい感じ。引っ張ってみたり曲げてみたりと試してみるけど、ワイヤーって感じじゃなくて紐って感じの柔らかさ。なんとも不思議だなあ。ちなみにだけど一応細めのモノも用意してあったりする。鋼糸でスパッと切り刻んだり、周辺に張り巡らせて結界を構築したりするのは浪漫だよね。
でもって完成したそれを短剣サイズの剣に繋ぐ。繋ぐといってもそのまま直接剣に縛って繋ぐのではなく、金属の輪を目釘穴に通してからその金属の輪に鋼糸を繋ぐ感じ。……よしよし、いい感じ。
で、完成したそれを【ストレージ】に収納してから【操剣魔法】を発動、ストレージから剣を取り出し滞空させる。すると何もない中空からにょきっと刀身部分が半分ほど生えてきて、そのまま静止した。
……これ、見た目は完全にゲートオブバビ……ゲフンゲフン。
うん、これはこれで有り! 何も問題無し!
そこまで作業したところで昼休憩。今日もリリーさんは料理当番をするとの事だったので私は馬車から少し離れ、街道脇の適当な木に目掛けて先ほどの短剣を撃ってみる。拳銃弾並みの速度で打ち出されたそれは、カァアン! と高い音を立てて木に命中した。
……ふむ、ワイヤーが付いた事で弾速が落ちるかとも思ったけど、そんな事はないみたいだな……。むしろまだまだ速度は上げられそうな余裕さも感じる。
ちなみに射出元の中空からはワイヤーが伸びているので、見た目は本当にそのまんま金ぴか王のアレだ。
えーと、後はこの状態でこれを【ストレージ】に収納……あ、一瞬で消えた。これは便利だな。今まで散々悩んでた問題がこれで解決か……なんかあっさり解決したなあ。
うーん、そうなると後は……ああ、これで牽引できないか試してみよう。【ストレージ】内の適当な木材を取り出し、それ目掛けて短剣を射出、命中。で、この状態から『鋼糸ワイヤーを【ストレージ】内に巻き取る様に収納する』。
……おー、出来た。木材がずるずるとこちらに引き寄せられてくる。……うん、いいなこれ! これを応用すれば遠くのものを引き寄せたり出来るし、色々便利なのでは? よし、あとで返しの付いた大きい鏃みたいな弾頭も作っておこう。
んー、あと他に何か試す事はあるかな……? 取り敢えず曲射できるか試してみよう、元々弾道はある程度干渉して命中させる事は出来てたし、これは普通に出来る筈。では早速。
シュバッ! カァン!
うん。弧を描く軌道で命中、普通に出来るね。
次は……鋭角に曲げたり出来れば攻撃に多様性が出せるけど、どうかな? 避けられた後に反転して後ろから命中、とか……という訳でとりゃあ!
シュッ! カッ! カァン!
おー、出来た出来た。これは色々応用が利くようになるなあ。例えば複数の剣をあらぬ方向に撃ち出して、目標に対して多方向から同時・時間差で襲い掛かる……防御も回避もとても難しくなる、これは強い。
うんうん、いいねいいね! って大分集中しちゃったけど、もうご飯が出来てる頃では……? と思って振り返ったらリリーさんもアリサさんもポカーンって感じの顔でこっちを見ながら固まっていた。どしたん?
「あれ? どうかしましたか?」
「あー……いえ、なんか凄い事やってたなあ、と……」
「あー、新しい攻撃手段の練習というか実験というか……まあ、そんな感じです」
「な、なるほど……?」
「リリー、あれヤバイ、私じゃ避けるのも防ぐのも難しいかもー」
「え、アリサでも?」
「うん、多分あの速さ、本気じゃないー」
「えええ……」
2人ともドン引きしておられる。
「魔導甲冑は使用できる状況が限られますからね……それはそうと、ご飯まだですか?」
「あ! すみません、手が止まってました! ……すぐ作ります!」
もー、リリーさんは駄目だなあ。
「もー、リリーは駄目だなあー」
「アリサだって固まってたでしょ! ほら、突っ立ってないで手伝って!」
「はーい」
そして相変わらずの夫婦漫才……もしかして煽ってるのかな?
……ちなみにクロは馬車で寝たままでしたとさ。
移動再開初日はそんな感じで、その後も同じように移動中は装備作製、休憩中に試射を繰り返しながら旅は進み、途中でノルン達も合流。ようやく目的地付近に辿り着いた。
ちなみにあれからは鎖も大量に作って普通の片手剣や大剣の弾も作製。そこから更には目的別にいくつかの付与を変更した専用弾も用意した。
基本的な機能として、先ずは目標に命中しなかった場合は即座に【ストレージ】に回収させるように設定。
次に目標に命中した場合、剣が目標に突き刺さって完全に動きが止まった時に即回収される。ただしこの設定は任意にオフに出来る。
更に自動回収がオフの時、刺さったまま残った状態で目標が反撃というか鎖や鋼糸を断ち切ろうとした場合、攻撃の脅威度を自動判定して破損の恐れがある場合は即時回収されるようになっている。
これは剣が鎖を通じて【ストレージ】に半収納状態になっている事により、【ストレージ】を介して私と疑似的に接触している状態になっている事を利用した簡易的な【鑑定】の効果を応用したものだ。間に色々挟みすぎている為に詳細な鑑定は出来ないものの、どうやら目標の強さのようなものは漠然とわかるようなのだ。
そうして感じた感覚を参照して、相手からの攻撃の脅威度を自動的に割り出して勝手に回収される、という機能になっている。色々とご都合的すぎて正直コメントに困る。
そしてここからは各種専用弾についての解説になる。
まずは炸裂弾改め、『バーストバレット』。
これは爆砕させた時にそのまま爆発を拡散させるのではなく、【ファイナルストライク】のスキル効果を調整する事で任意の範囲内に収束させ、影響範囲を狭くしつつも破壊力を高めた最大火力の専用弾になる。一応爆発力自体はいくつかの段階で作り分けもしてあるけど、最大火力を誇る全属性魔剣を使用した際は目標は恐らく完全に焼き尽くされてしまって素材回収は不可能となるので、おいそれと使用はできない最終手段となる。
次に弾速と貫通力を強化した遠距離狙撃用の専用弾『ペネトレイター』。
こちらは防御を貫通させる投射・刺突攻撃用のウェポンスキル【貫通】を付与した弾になる。【貫通】は無反動ハンマーの原理を魔法的に再現・強化したもので、武器の切っ先に魔力で疑似的な刃先を重ねるように形成し、本来の武器の刃先とその疑似的な刃先の間に空間を作る事で命中の際の運動エネルギーを余す事なく貫通に使える、というものだ。ついでにその運動エネルギーを増幅させる効果もあるので貫通力は更に強化されている。後は弾速を速める為に【属性強化:風】が追加で付与してあり、基本的には狙撃で使う為の専用弾となる。
最後に自動追尾型の『ティンダロス』。
多分名前でわかる人はわかるのではないかと思うけど、目標を捕捉した後は命中するまでどこまでも自動追捕するウェポンスキル【猟犬】が付与された弾になる。【猟犬】は名前の由来通りの効果という訳である。ただしウェポンスキルの付与に武器一つ辺りの付与可能な容量からかなりの割合が取られる為、その分他の付与のレベルを下げざるを得なかった。その為単純な殺傷力という点では通常弾よりも劣るという欠点がある。
他にもいくつか思いついた効果があったりなかったりするけど、一旦はここで時間切れ。ここからは徒歩移動で最終目的地の温泉を目指す事になるらしい。……というか。
「そういえばちゃんと聞いてませんでしたけど、温泉ってどんなところなんですか? どこかの村とか温泉街とかではないんですか?」
「あ、詳しく説明してませんでしたね。目的地の温泉は山奥に湧いてる源泉ですよ。この、目印の岩の横の山道を進んでいった先にあるそうです」
そういってリリーさんが指さしたのは、街道と並んで流れるやや小さな川の川岸にある、大きな岩。よく見るとその岩の横には森に分け入るように多少踏み慣らしたような山道と、山道と並走するように流れ、川に合流している細い細い小川があった。
「なるほど、源泉ですか……」
となると快適に過ごしやすいように色々と手を加えないと駄目だな……よーし、おじさん好き勝手に色々作っちゃうぞー!
と、勝手にやる気を出した所で馬車を収納して徒歩移動で森歩きの山登りとなったのだった。
うーん、これは源泉に着いた時はもうヘロヘロでなにも出来ない予感……!







































