158 フラグは回収してナンボ
「弓はもっと射掛けろ! そっちの投槍もだ! 急げ!」
「うおおおお!」
「当たれぇー!」
「いいぞ、そっちのロープ持ってこい! あそこの木に縛るんだ!」
兵士達が黒い大蛇に向けて弓を射掛け、或いはロープのついた投槍やフック付きロープを投げ付けてと、忙しく動き回っている。
ジャンさんは大声を上げて彼らの指揮を執り、時折本人も長槍を持って突いたり切りつけたりと忙しい。 出撃から2日程経った現在、ブラックバイパー討伐の真っ最中だったりする。
代官屋敷を出発してから途中で1日野営をして、その翌日に目撃情報があった辺りへ進軍したところで、やや開けた場所にとぐろを巻いて寝ているブラックバイパーを発見、即座に展開してそのまま戦闘に突入したのだ。
戦闘開始から2時間ほどは大暴れに暴れてのた打ち回っていたブラックバイパーだったけど、雨霰と投げつけられた投槍やらなんやらについたロープを周辺の木へと縛っていき、徐々に行動範囲を封じていってやっと動きを制限できるようになってきた所だったりする。
いやもう本当に最初の頃はマジで大暴れで兵士の人達も尻尾を打ち付けられて吹っ飛んだりと大変だった。このままだと予定よりも被害が出そうという事で当初の作戦から若干変更し、数名の兵士とアリサさんが重傷っぽい人を回収、私とクロとリリーさんで手当てをして、怪我した兵士の人は処置が終わり次第即戦闘に戻るというなかなかハードな戦闘になってしまった。
担当としては軽傷なら私かクロが傷口を洗って薬を塗って包帯を巻くなどの処置、怪我がやや酷い人はリリーさんが回復魔法、重傷者には持ってきた物資の中からポーションを使用、という感じ。
幸いというかなんと言うか、命に係わるレベルの重傷者は出る事も無く、このまま討伐は成功しそうな空気だ。最初の頃に兵士の人が何人も宙を舞った時は『コレ、魔導甲冑出した方が良くね?』と心配になったりもしたんだけど。
「良し! 騎士は長柄武器を持って接近、止めを刺すぞ!」
と、そんな事を考えたりしているうちにブラックバイパーの拘束がかなりがっちり極まった様子。ジャンさんを含めた数名の重装騎士がごつい長槍やポールアクス、ハルバード等を手に接近していった。私達は戦闘参加もないまま、ブラックバイパー討伐作戦も大詰めのようだ。
「なんとか、何事もなく終わりそうな感じですね」
「レンさん、そう言う事言うとトラブルが起きたりするものですよ」
「そうだよー、フラグって言うんだよー」
フラグって……そんな言葉を残したのはやっぱり過去の転生者なんですかね?
「まあその時はリリーさんが魔法をぶちかますという事で……」
「いや、そこはレンさんがどうにかするところでは? ……いえ、やっぱりレンさんは無しで。魔導甲冑を出すのも色々問題になりそうですし、出さなくてもなんだか被害甚大になりそうな嫌な予感がします。魔法の効果を強化する指輪もありますし、これを使えば私でもなんとか……なんとか? ……なんとか、なるかなあ……? うーん……」
なんだか失礼な事を言われてる気がする。
でもうん、魔導甲冑は目立つし、いざそういう事態になった場合は改良して威力を抑えた新型炸裂剣の出番になるかな?
最初に作った奴をフロストジャイアント戦で実戦投入した時は爆発の範囲が想定よりも大分広範囲すぎたので、あれから改良して爆発力を抑えたやつを数種類新造したのだ。元々の爆発力の奴はあれはあれでいざという時に使えるけどね。
……でもあれもあれで結構セーブして作ったはずなんだけどなあ。そんな最初期型の炸裂弾であの威力となると、全属性魔剣を爆発させた日にはどれだけの被害が出る事やら……。
まあそんな感じで使いやすさ重視で破壊力を抑えた新型なら頭部だけを吹っ飛ばす感じで倒せると思う、多分。
と、リリーさん達とそんな事を話しているうちに騎士の皆さんがブラックバイパーの首を落としてしまっていた。早くね? ……私達と駄弁りながらも様子を見ていたアリサさん曰く、遠慮なしにガッツンガッツンと叩きつけるように武器を振り下ろしまくっていたそうな。え、こわ……。
とまあそんなこんなでフラグ回収する事も無く、ブラックバイパー討伐作戦は無事終了したのであった。まだ後始末というか戦後処理とか色々あるけどね。
という訳で戦闘終了後も吹っ飛んでいった武器やあちこちに縛ったロープの回収やらなんやらで忙しそうに動き回る兵士の皆さんなのであった。
そして一部の足が速い人達は先に領主様への報告へと走って行った。ついでに本来ならブラックバイパーの死体の回収に人手を連れてきてー、とか色々大変なんだけど、今回は私が大容量のマジックバッグを持っている(という体でストレージが使える)ので、回収及び運搬の手間が大幅に軽減していたり。この辺りの事はジャンさんと事前に話し合い済みだったりする。
色々作戦の話を聞いていたら凄い大変そうだったので、リリーさんにも確認した上で回収は手伝う事になったのだ。
ちなみにマジックバッグの話を聞いたジャンさんはとても物欲しそうな目をしていた。まあその後も特に譲ってくれとかは言われなかったけどね。大容量のマジックバッグともなれば取引価格はとんでもない金額になるから……。
でもあれば便利だから、そういう表情になるのはよくわかる。……集めた税を運ぶ時とか大変なんだってさ。うーん、兵士の人達も偉い人もみんな大変だなー。
まあ今は私達も怪我人の治療の続きとかしててそれなりに大変なんだけどね……。
ある程度、後片付けが終わった後はテントを張って今日はこのままここで野営。流石に大捕り物の後に長距離移動できるほどの体力は誰も残っていない。
兵士の皆さんもぐったりして食事を作る余裕もない様子だったので、あまり疲れてない私達で全員分の食事を作る事にした。したというか、なったというか……言い出しっぺはクロだったりするんだけど。私達はまだ体力に余裕があるから、皆の分のご飯も作ろう! ってね。
えー、マジでー?
いや、人数が人数だけに大量に作らないといけないから、かなりの重労働になるんだけど?
まあ決まった事は仕方ない。材料は兵士の人達が持ってきた物資に沢山あるし……という事で大量のごった煮スープを作って振舞う事に。
……食事が終わった後、言い出しっぺのクロはぐったりとしてへたり込んでいて、正直あんなこと言わなければ良かったというような顔をしていたのはここだけの話である。
でもって夜、各自自分のテントで就寝。
私も流石に色々自重して自作テントを使用。馬車? 流石に進軍速度に合わせる為に使わなかったよ。そもそもブラックバイパーの生息予測地点って山の中だったし。なお料理番を担当したので私達は不寝番の持ち回りは無しになった。有り難し。
という訳でテントの中でゴロゴロしながら色々考え中。一応これまた自作のキャンプ用のマットレスを使ってるので身体が冷える事も無かったりする。ちゃんと作ったので断熱性能もしっかりしてるからね、これ。ついでにリリーさん達に同じものを貸し出してあったりする。
で、何を考えているのかというと武器の改良案をいくつかあれこれとね。
昼のブラックバイパー討伐の様子を見ていた時にちょっと思いついたんだよ。
今日、必要であれば使用を考えたりもした炸裂弾。あれってそもそもは苦肉の策で作ったものだったりするのだ。
元々は【操剣魔法】用の投射武器を作る目的もあって鍛冶修行をしていたりした訳だけど、そうして出来上がった投射用の剣というか刀身部分なんだけど、諸々の強力な付与がいくつも付いている所為でおいそれと使い捨てに出来なくなってしまったのだ。この剣を雨霰と大量に撃ちまくった後、それを誰かが拾ったら……と考えると、色々恐ろしい想像しかしない。
それなら付与無しならいいのかというとそういう訳でもなく、素材となっている剣の品質は全て、最高位とされる『剛剣』。これまたホイホイと投げる訳にはいかない。
貫通力は折り紙付き。でもそもそも使い捨ての筈の弾丸代わりなのに、下手にばら撒くと後々の影響が色々怖い事になってしまう事請け合い。
そこで発想を逆転させて回収しないで使い捨てる仕様にしたのが炸裂弾という訳である。付与された魔法の魔力解放で爆発を起こして粉々にしてしまう事で、後で誰かに拾われて再利用されないようにした訳だ。
その初期型の炸裂弾にしたって色々と付与のレベルは落としたものの、それでも爆発力が想定よりも上だったりと問題があったので、改良して更に爆発力を落として使いやすくはしたんだけどね。でもまだ改良型は一度も実戦で使ってないからどういう結果になるかはわからないんだけど。
ちなみに【ストレージ】での目視回収範囲は私の場合は基本は約50m、自分の所有物なら頑張れば200mまでは遠距離収納可能だけど、それでも目視出来ないと駄目だし、なんでか妙に疲れる。ついでに言えば本気の【操剣魔法】で撃ち出したらどう短く見積もっても200mどころじゃなくらいの飛距離をかっ飛んでいくので最大範囲でも回収は無理だ。実際の本気の射程はフロストジャイアント戦の時に炸裂弾である程度実証済みだよ。
色々ぐだぐだ語ってみたけど、撃った後の剣の回収がネックで使えなかった訳だから、その回収方法さえ何とか出来れば実戦で使用できるようになる訳で。
そしてそこで思いついたのが『紐で繋いでしまえばいいんじゃないの?』と言う案。
いやほら、今日の討伐で兵士の人達がロープ付きの投槍とか鉤爪とかぶん回してから投げつけてたんだけど、それが当たらなかったり引っ掛からなかったりした時はロープを引っ張って回収して投げ直してたんだよ。だからそれと同じようにロープというか紐というか……なんなら鎖とかでもいいんだけど、そういうのを作って繋いでしまえばいいのではないか、と思いつきまして。
【操剣魔法】の弾代わりに用意した剣って拵えまでは仕上げていない抜身の刀身のままだから、茎のところの目釘穴に魔鋼製の強靱な鎖でも繋げばいいんじゃないかなーと。
普段使い用に短剣サイズの刀身のモノはそれこそ鋼糸でも行けそうな気もする。鎖や鋼糸自体もガチガチに付与を施せば避けられた後に相手の武器で切断とかされにくくなるだろうし、何なら当たらなかった時は即回収すればいい。
それに剣の形に拘らないで色々な先端部分を作るのもありかもしれない。例えば分銅とか? これなら相手に搦めた後に雷魔法で電撃流すとかも行けそう。電撃は別に短剣の時に使うのでもいいけどね。なににしても戦闘で取れる手札が増える。
まあ実際に試してみないとわからないけど、それでもいくつか問題点は浮かぶし、とにかくまずは作って試してみてからかな? そうなると後は作製場所と時間の確保か……場所と時間は、出来ればどこかに腰を据えて落ち着いて作りたいところだけど、なんなら馬車で移動中にでも作ればいいか。リリーさんが絡んで来たら落ち着かないかもだけど、その時は御者席に叩き出せばいい。
うんうん、なかなかいい感じにアイディアが纏まって来たぞ。よしよし。
それじゃあ次に作るものはこれで決定かな? あと他にもちょっと作りたいものの案はいくつか候補があるけど、そっちは素材が足りなかったりするから、追々で。
あとは、ミーナちゃんというかアンナさん向けに思いついたものをちょっと作ってみるかな? 明日も移動で朝が早いし、作るのは明日の野営の時でいいか。こっちは色々と使う素材を考えた感じだと普通に作れそうな気がするから、まあ大丈夫でしょ。
さて、そうと決まればもう寝よう。おやすみぃ~。







































