152 リリー……! 面倒な子……!
……さて。パーティー名については一先ず置いておいて、これからどうしようか?
「それじゃ、オレそろそろ帰るよ。クロはどうする? あっちに荷物とかもあるだろ? 明日朝一でオレが持ってこようか?」
「今、取りに行く」
「それはダメだ。今、取りに来るって事は、帰り一人になるだろ? オレも正直、クロなら大丈夫だとは思うけど、万が一って事もあるから、ダメ」
「むー!」
「『むー』じゃないよ。ダメなものはダメ」
うーん、リューはクロのお母さんかな?
「それなら、私達全員で荷物を取りに行くというのは? そうすれば女子だけとはいえ帰りは4人ですし。あと、ギムさんにも挨拶しておいた方がいいと思うんですよね。それとさっきの話を聞いていた限りだと、今回一緒に来てるのってトリエラですよね? 私も久しぶりに顔も見たいですし……」
「うーん…………いや、それもちょっと賛成できないかな、オレは。……いや、レンや仲間の人達が弱いって話じゃなくて、そういうのとは別にやっぱり女の子だけで夜道を歩くって言うのはダメかなって思うから。あと、トリエラは会いに行くなら兎も角、こっちに会いには来ないと思う。ほら、トリエラってあの性格だろ? 仕事で来てるんだから偶然会うなら別だけど、わざわざ時間作って会いには行かないって言ってギムさんの事困らせてた。ギムさんもちょっと時間作るくらいはいいって言ってくれてたんだけど、真面目過ぎるのも考えもんだよなー」
「あー……」
なんか顔を合わせるたびにリューの紳士っぷりも加速してるんですが。あれ? イケメンかな? あ、リリーさんもアリサさんも年下の男の子相手とは言え女の子扱いされて照れてる。そしてトリエラは……うん、安定のトリエラって感じ。寂しいけど、これがトリエラだからなあ……。それにあっちから来ないならこっちから会いに行けば問題ないしね。
「あと挨拶も無理にしなくてもいいよ。今回のクロの件はレンが引き抜きをかけてきたって訳じゃないから、無理にこっちに来なくてもいいって伝えるようにってギムさんに言われてるから」
「そうなんですか? なら、うーん?」
「いえ、それはそれとしてきちんと挨拶には行きますよ。私達もギムさんとは顔見知りですし、以前のレンさんの1件でも色々お世話になりましたから……こういうところで変に不義理になる可能性を残すよりも、ここで多少の労力を払う方が後々問題も減りますしね。仮に知り合いじゃなかった場合でも、話を聞くだけでもその人は面倒見が良くてかなり人の好さそうな方ってわかりますし、そういう方ならこういう機会に縁を繋いでおくのも悪くありませんから」
「え、あー……そういうもんなのか、ですか?」
「プッ」
「……なんだよ、笑うなよー」
「いえ、すみません……プフッ」
「……第一印象とか大事だからって、ギムさんに言われてしゃべり方? 口調って言うの? そういうの直そうとしてるんだけど、なかなかうまくできなくて……難しいよな、こういうのって」
なるほど、前々からしゃべり方とか気を付けてる風ではあったけど、ギムさんの助言があったのか。
「そうですね、大変でしょうが身に付けておいて無駄になる事はありませんから、頑張ってください」
「うん。って、本当にそろそろ帰らないとまずいな。外、真っ暗だ」
「そういえば今どこに泊ってるんです?」
そうそう、今まで考えてもいなかったんだけど、この町って宿の数はそんなにないのに、ゴブリン討伐の特殊依頼が出てからかなりの数の冒険者が増えてるのに一体どこに泊まってるのか、さっき気付いてちょっと気になってたんだよね。
「え? あー……この町の宿って最初の方に来た連中とかですぐに全部埋まっちゃったとかで、後から来た連中はみんな町の外で寝泊まりしてるよ」
「え? 町の外にですか?」
「あれ、レンさん知らなかったんですか? ゴブリン退治に来た人達って、この町と街道を挟んだ向かい側の開けた辺りにテントとか張って生活してるんですよ。あの辺り一帯が宿泊地みたいになってます」
「そうだったんですか?」
「……レンさんって直接関係ない他の人の事とかって全く興味持たないよねー……」
「アリサ、どっちかっていうと興味を持たないって言うより無関心って感じじゃない?」
「……ソンナコトナイデスヨ」
うん、そんな事ないよ? ……多分、ない……筈。
よし、この話はやめよう! 話題を変えよう!
「えーっと、でもそんな風に大人数を集めたら縄張り争いとかでも揉めたりしないんですか?」
「あー、それは意外と大丈夫なんだ。一定間隔で杭を打って、その杭と杭をロープで縛って区分けしてあるんだよ。それぞれのスペースは結構広いから、火を起こして煮炊きとかも出来るし。あと、仕切るのが好きな人が何人かいてさ、揉め事起きるとそういう人達が出てきて何とかしちゃうんだ」
「なるほど……お風呂とかはどうしてるんですかね?」
「あ、それはギルドの裏手側に共同浴場作ったみたいですよ。町に戻ってきたらお風呂に入って汚れを落としてから宿泊地に戻るようにギルマスが徹底してるって話です。あと、ちゃんと男女で分かれてるみたいですね」
おー……なんか意外と色々しっかりしてるんだ。あのギルマス、やり手だなぁ。
と、そんな話をグダグダしてたら本当に外が真っ暗になってきたので、リューは慌てて走って帰っていった。クロの荷物は明日の朝一番でリュー達の、というかギムさんの拠点に取りに行くという事になった。
ちなみにさっきリューが言っていた『トリエラは会いに来ない』というのは、その拠点となっている宿泊地のテントとかの維持管理をしてるからなんだとか。勉強会の後からギムさんのパーティーメンバーに女性が1人新しく加わっていて、基本的にその人と一緒に行動してるらしい。ギムさん、なんだか色々気を使ってくれてるっぽい……本当に面倒見が良くていい人だなあ。
ちなみに今晩のクロの寝床は私のベッドで一緒に寝る事になりました。寝付くまでは私のお腹にしがみ付いてきてたけど、朝起きると足の方で丸くなっていた。うーん、猫……。
日課? いや、流石にこの状況ではしないよ?
そして翌朝、クロの案内でギムさん達のテントへと移動。
クロの荷物回収と共に、リリーさんアリサさんの挨拶も兼ねてギムさんと少し雑談。でも残念な事にトリエラとは会えずじまいだった。朝食用と遠出用のパンを買い出しに町の方に行ってるとかで、入れ違いになってしまったらしい。
仕方ないのでリューによろしく伝えてくれるようお願いして、帰る事になったのだった……悲しい。
帰宅後は軽く朝ご飯を食べて諸々の準備をし、町の外へ。クロとの連携訓練も兼ねてゴブリン狩りなのだ。
とは言っても昨日の結果が結果だったから、今日もそんなに遭遇する事はないとも思ってたりはするんだけど。
「さて、当クランに新たにクロちゃんが加入したわけですが、いきなり危険度の高い依頼を受けたりはしません。そういう依頼を受けるのは、まずは実戦寄りの実地訓練を行って、ある程度連携を取れるようになってからです」
「はーい」
「はい」
「ガウッ」
「わふっ」
「うー!」
「……はい、皆いい返事ですね。では早速始めましょうか。……とは言っても私達の中でスカウト系の動きができるのがノルンさんとベルちゃんだけなので、先ずはこの2匹に付いて行ってもらって、動きを見て覚えてもらう感じでしょうか……」
「わかった」
「そして戻ってきたら私達に報告してもらう事になります。クロちゃんは口で説明するのが苦手なようなので、報告に慣れてもらうまではある程度この訓練を続ける予定です」
「うー……わかった」
クロ、本当に苦手なんだね……表情が凄く微妙な感じ。でもやる気がないわけではなく、真面目にやろうとしてる感じはするから、大丈夫かな?
「報告もただ敵がいた、なんていう感じではなく、どういう相手がどのくらいいたのか、武器は何を持っていたのか、どういう様子だったのか、更に後方にも相手の仲間がいそうなのか……そういった色々な情報を正確に伝えてもらわないと、私達も適切な次の行動が取れなくなります。これはとても重要な役割だという事を理解してくださいね?」
「重要! リリ、わかった!」
おお。重要な役割を任せられてるという責任感を刺激して更にやる気を引き出したっぽい。
……それはそれとして、リリーさんの呼び方『リリ』なんだ……ほぼ呼び捨てだけどリリーさん良いの? ……うん、全然気にしてないっぽいね。ちなみにアリサさんの事は普通に『アリサ』って呼んでるっぽい。
……私も2人の事呼び捨てにしようかな? いや、うーん……。まあ、何か良いタイミングがあればという事で……?
というわけでれっつらごー!
……初日の戦果はゴブリン2匹、猪3匹、角兎15羽となかなかの結果。クロの報告の仕方は……まあ、それなりに上達した感じかな? なお、不思議な事にクロはノルン達の伝えたい事がなんとなくわかるみたい。マジカルケモノパワー? 理屈はよくわからないけど便利なのでヨシ!
あとはクロの強化なんだけど、色々悩んでアリサさんとも相談した結果、現状維持という事になった。【技能付与】による促成育成はあまり良くないというのはベルの一件で判明してるし、そもそもアリサさんが言うにはクロの戦闘スタイルはある程度確立してはいるものの、完全にものにしているというにはまだまだという事らしい。装備品に関しても同様で、クロの身体はまだ二次性徴前でこれからもどんどん成長する筈。そんな発展途上で下手に強力な武器を与えても、将来的な成長を考えると良くないって事だそうです。アリサさん曰く。
でも大怪我されても困るので防御面の補強の為に『防護の指輪』なんてものを作って身に付けさせておいた。これは身体の表面に魔力の防護膜を常時展開するマジックアイテムだ。これを装備しておけば不意打ちを受けても即死は防げる筈。
……これの防御効果を過信して無謀に突っ込んだりしない様に、かなりきつく言いつけておいたけどね。というか渡してすぐにやらかしたので滅茶苦茶叱りつけました。クロ、あかん子や……。
その後は町に帰還したけどギルドには寄らずまっすぐ帰宅。いや、ゴブリン2匹程度納品してもね……。猪と角兎は自家消費する方向で。
で、家に着いた後は私はクロの部屋を製作。空き部屋が余ってたので場所の確保には困らなかった。ただ、クロは一人で寝たくないとごねたので、当面は私と一緒に寝るという事で落ち着いた。まあ、そのうち落ち着くでしょ、多分。
私がクロの部屋を作ってる間にリリーさん達は晩ご飯の準備。部屋が出来上がる頃にはご飯も出来上がっていた。
食事の後は順番にお風呂に入り、その後は遂に……!
「と言う訳で第2回クラン名決定会議を開催したいと思います」
「リリーさん、今回はパーティー名です」
「いいんですよ、そんな細かい事は! とにかく名前です、名前!」
えええ……なんでそんな切れてるの……? 理不尽じゃない?
「という訳ではい! レンさん! 何かありますか!」
しかも私からかよ! さては確信犯でやってるな……?
「そうですね、じゃあ私とクロのパーティーは『ブラックロータス』でお願いします」
「『ブラックロータス』ですか……ちなみに由来とかは……?」
「そのまま、私達の名前ですね。クロで黒、私がレンで蓮です」
「……なるほど、いいですね! それじゃあ次は……」
「あ、リリーさん達のパーティー名はそちらでお願いしますね」
「……えっ」
いや、『えっ』じゃないから。何度も言うけど私は自分のネーミングセンスに自信ないから、そういうの期待されても困るよ。
「えー……えーと……あ! アリサ! 何かない!?」
「ないねー」
「ないねー、って! 何かあるでしょ!? 何か!」
「ないねー」
「アリサあああああああ」
「そんな泣きそうな顔されても何も思いつかないよー」
「そこをなんとか!」
「じゃあ前回ボツになった『告死天使』で……」
「それは駄目だよおおおおおお!」
「もー、リリーは我儘だなー」
「我儘じゃないよ! もっと可愛い感じのやつがいいの! 殺伐ダメ! 絶対!」
またしてもリリーさんが泣きそうになってる……うーん、仕方ないにゃあ。
「……リリアレス、リリアケア、リリウム」
「え?」
「リリアレス、リリアケア、リリウム。この辺りから気に入った奴選んでください」
「……いいんですか?」
「キリがないので」
「えーっと、ちなみに一体どんな意味だったり……?」
「リリーさんとアリサさんの名前にちなんでですね。植物の分類の名称というか、そういう感じのやつでユリ目、ユリ科、ユリ。ちなみにアリサさんの場合は最後の部分がチューリップに変わります」
「おお……なんだかすごくいい感じ……! でも、どれがいいかな……? うーん……!」
「私はリリーが気に入った奴でいいよー」
アリサさん、もう面倒になって凄い投げやりな感じになってる……! このままだといつまでたっても決まりそうにないし、またしても仕方ないにゃあ。
「リリーさん任せだとまだまだ時間がかかりそうなので、ここは『リリアレス』にしましょう。語感的にもリリー・アリサとリリアレスでなんとなく似てますし」
「え?」
「はーい、けってー! リリー、私達のパーティー名は『リリアレス』だよー」
「え? え?」
「よし、パーティー名も決まったしもう寝よー! はい、かいさーん!」
「え? え? え?」
凄い強引にアリサさんが場を切り上げたー! でもリリーさんに絡まれても面倒なので私も乗ろう! このビッグウェーブに!
そうと決まれば自室へ脱兎! ほらほらクロも急いでー! おやすみー!







































