149 アイエエエエエエエ!?
おはようございます。約一ヵ月ぶりの日課明けです、レンです。
そんな私は今日も早起きです。うん、まあ、久しぶりの日課ではあったけれど、ほどほどで切り上げまして。いや、翌日も仕事あるのに何時間も励んでられないしね。
あとは、時間さえ確保できれば遠出しなくてもいつでもどこでも自宅の自室に戻れるようになった事で、なんというか切羽詰まった感がなくなったといいますか、消化できなかった分をまとめて頑張らなくても良くなったといいますか……今日はこのくらいでいいかなー、みたいな? 引き篭もり時代の頃のように、文字通りに日課として行えるようになった安心感というか?
……そんな私の日課事情とかはどうでもいいんだよ!
気を取り直して朝ご飯の準備……は、ダメなのか。一昨日の罰としてしばらくは2人が担当する事になってるから。
そんな朝ご飯とか諸々の準備だとかが終わったらギルドへ行って適当なクエストを受けてお仕事だ!
そう、またしても方針転換があった事で、あれほど嫌がっていたゴブリン退治をとうとう受けるのである! ……なんて事はなく。
いや……うん、なんていうかさ……今日、めっちゃ雨降ってるんだよね。つまり今日の仕事はもう既に終わり。いや、2人にも確認しないといけないけどね? ……なにこのもの凄い出鼻挫かれた感。
微妙な気分で窓の外を眺めていると2人も起きてきて、朝ご飯の準備をして食事。そのあとはちょっと話し合って、結局今日というか今日から4日ほどお仕事はお休みという事に決定した。
なんでそんなに長く休みにしたのかというと、どうもこの雨、2~3日は降るっぽいんだよね。どうしてそんな事が分かるのかというと、実はノルンからの情報。なんでかは知らないけど、どうやらノルンはそういうのがなんとなくわかるらしいのだ。野生の勘なのか、フェンリルの種族特性なのか、その理由は謎だけど。
実は森に引き篭もっていた頃にも、雨が降ってきそうな時とか長雨が続きそうな時には、こうして教えてもらってたんだよ。
そしてそういう時は外に出られないので何もやる事がなくて、結局自室に籠ってたりしたのだけどね。ハハハ。
ちなみにリリーさんが言うには、こんな天気でも討伐クエストを受けて出かけていく冒険者はそれなりにいるそうな。食い詰めてる人達とか、魔物に見つからないように敢えて、とか。
あとは水魔法・氷魔法が得意な魔導師の中でも好んで雨の日に討伐に出る変人に分類される人も少数ながらいるらしい。とはいえ実際、雨の時の彼ら・彼女らは本当に強いらしいので、そういう戦い方もありなんだろう。
それはさておき。
さて、それでは急遽お仕事が無くなったので部屋に引き篭もってモノ作りに集中します! という建前で日課に励もうと思います。
折角昨夜は軽く済ませたのに結局こうなったよ! 我ながら度し難い! でも色々作った新しい装備(意味深)を試してみたいじゃん? 鍛冶修行からの【魔剣作製】スキルを色々試したお陰で、【創造魔法】と【技能付与】の併用で色々な装備(意味深)が作れるようになったから色々作ったんだよ! 一ヵ月前……いや、既に一ヵ月以上前か、約一ヵ月ちょい前は魔導甲冑とか2人の装備とか色々作ったりもしてたから、実はあんまり試せなかったんだよ! それに私の知的探求心が色々調べてみろと囁いてるから仕方ないネ! というわけで改めて行ってきます!
そんな私は前回の開発お籠りで実績を作ってあるから、リリーさん達は私の建前を疑う事もなく騙されてるわけですが。
あ、ちなみに私の分のご飯は大丈夫です、私は自分で何とか出来るので。でも2人はちゃんと食べてくださいね?
なんでそんな事を言うのかって? ……私がモノ作りするからお籠りする、という話を聞いた2人が微妙な表情でそそくさと自室に戻っていったからに決まってるでしょ! 2人ともまだ頑張るのか! 凄いな!
と、そんなこんなで4日後の朝になりました。そして私は安定のいつもの早起きです。
ちなみに雨は3日目の夜には止んでたりする。さらに1日空けたのは雨に濡れた森に入りたくなかったから、せめて1日空けておこう、という配慮。1日くらいじゃあんまり意味ないかもだけど。まあ元々休みは4日の予定だったしね。
さて、今日もご飯の準備は2人の担当だし、やる事もないし先にノルン達にご飯食べさせてこよう。と思って2匹の所に行ったら既にご飯は食べ終わってるそうで、ベルを相手にじゃれまわって時間を潰してみたり。
……ごめん、嘘。実はこれ、ノルンによる私の訓練。アリサさんとのトレーニングのタイミングが合わなかった時とかに時々こうして運動してるのだ。飛び掛かってくるベルを避けるっていうだけの単純なものだけど、これが地味にきつい。遊びってレベルじゃなくて本気で訓練ってレベルの動きなんだよ、これ。
ただし、このあとお仕事もあるのでその辺りの加減はちゃんとしてあるというか、してくるというか。
そんな事をやって時間を潰してから居間に戻ると、2人は既に起きていて食事の準備も丁度終わるところだった。
そのまま朝ご飯を食べながら今日の打ち合わせ的なものもする。
「2人とも、今日からゴブリン退治ですね」
「ゴブリン退治ですね……」
「ゴブリン退治だねー……」
開口一番でゴブリンの話題! 私の先制攻撃で2人のテンションはだだ下がり! 効果は覿面だ!
でもいくら何でも気にしすぎじゃない? 流石にもう話題としてはそれなりに落ち着いてる頃だと思うよ? と、そんな感じに適当に言いくるめて、ご飯も食べ終わった後に諸々の準備もして家の鍵もかけて、ギルドへしゅっぱーつ!
でまあ予想通りというかなんというか、ゴブリン退治以外は碌な依頼がなく、順当にゴブリン退治の依頼を受ける事となりました。
ついでにこれまた私の予想通り、私達がギルドに入っていっても特に注目される事もなく普通に依頼を受けて出て来られました。人の噂も~なんていうけど、実際みんな自分のご飯の種の方が大事だって事だよ。
依頼を受けた後は一路、森の奥へ。とはいっても帰ってくるのに日を跨ぐような距離ではなく、日帰りできる距離。
「はー、久しぶりに森に入った気がしますね」
「リリー、気がするもなにも、実際久しぶりじゃないー?」
「それはそうなんだけど……ともあれ、やるからにはしっかりやらないとだよね!」
「だねー、いっぱい首を刎ねるよー」
おおう、いきなり殺意が高いな、アリサさん……。
そんな久しぶりのゴブリン退治だったけど、結果は不作。行きに2匹、帰りはゼロ!
「ようやくゴブリン退治を受ける気になったのに、がっかりだよー」
「んー、レギオンを討伐して、その数日後に特殊依頼が出て、それからもう10日以上経ってますし、流石に日帰りできるこの辺りはほぼ駆除し終わった、って事じゃないですかね?」
「あー、そんな感じかもしれませんね……どうしよう、アリサ。この分だと遠出しないとちょっと微妙かも」
「遠出かー。確かにそれはちょっと微妙な感じかもねー」
「レンさんはどう思います?」
「そうですね……このまま数日同じ依頼を受けて様子を見てみて、それでも同じような調子であれば、そろそろ別の街に移動するのもありかもしれませんね」
「ああ、なるほど……移動を視野に入れるのは確かにありですね……」
そんな話をしながらギルドへ戻って窓口へ行くと、またしてもギルマスが対応してくれた。え、ここのギルマスって暇なの?
「暇では無いですよ?」
……暇ではないらしい。私の目線で何を考えてるのか察しが付いたのかな? 別に聞いてもいないんだから黙ってればいいのに。
ちなみに換金中、世間話がてらに少し教えてもらったところによると、やっぱり私の予想通りで日帰りできる範囲ではゴブリンはあまり見かけないようになったとの事。今は移動に2~3日か、あるいはそれ以上かかる距離にいくつかある大規模な巣の攻略準備をしているところらしい。その為の中継拠点も作ってる最中だそうな。っていうか、レギオン以外にも大規模な巣がいくつもあったのか……みんな大変だなあ。
ギルマスは巣の攻略に参加してもらいたさそうにこっちを見ていたけど、華麗にスルーしてギルドから脱出。
「レンさん……まさか、受けようとか言いませんよね?」
「え、やりませんよ?」
面倒くさいもの。
「私もはんたーい! 移動が面倒くさーい!」
流石アリサさん、私の同志であったか! ……と思ってたら、本当の反対理由は私を人目に晒したくないからだそうです。仮に大人しくしててって言っても絶対やらかすから、と。
いやいや、流石に大勢いるところでは大人しくしてますよ? と反論したけど、土魔法で1人で簡易拠点を構築するのは普通ではない、との事でした。……ああいう土魔法で作る簡易拠点は、普通は複数人で作るらしい。1人で作るような人もいるけどそれはかなり少数派との事。
いやー、少数派だとしてもやれる人が居るのであればそんなに気にしないでもいいのでは? なんて考えてたら、何を考えてるのか気づいたのか2人にジト目で見られたので黙っている事にした。
そんな話をしながら家路を進んでいると、町の中心から少し外れた方角から何やら喧騒が聞こえてくる。
「……なんでしょうね?」
「ちょっと行ってみます?」
「いってみよー!」
3人で顔を合わせて少し考えてみるもののよくわからないので、とりあえず喧騒の聞こえてくる方へ行ってみる事にした。
んー……なにやら『いいぞー!』とか『惜しい!』とか『もっとやれー!』とか言ってるっぽい?
ちょっと進んだ先の倉庫っぽい建物の陰に曲がるとそこには人だかりが。喧騒の内容的に誰かが喧嘩でもしてて、みんなでそれを見物でもしてるのかな?
見物人ぽい人達の隙間から向こう側を覗き込んでみると、なにやら武器を持った人達が激しく打ち合っていた。
え、町の中で殺し合いの喧嘩!?
と思ったらそんな訳はないみたいで、よくよく見れば武器は鞘に入れたままの剣だったり、木製の棒だったりで、多少は致命傷にならないように配慮はしているっぽかった。あと、遣り合ってるのは2人だけという事はなく、一対一で遣り合ってる組み合わせがいくつかあるみたいだった。
ふと周囲を軽く見回してみると、見物人達はどうやら全員冒険者っぽい?
んー? これは一体何をしてるのかな?
なんて考えてたら、リリーさんがそんな見物人の1人に声を掛けて聞いていた。
「あの、これって何をやってるんですか?」
「あん? あー、これはなんていうか……決闘の真似事と、それを利用した賭けだな。元々は仲の悪かった馬鹿野郎共が喧嘩を始めたのが切っ掛けなんだが、それ見てた連中が面白がって賭けをしたのが始まりだなー」
えええ……こんなに大勢でダメな荒くれ冒険者の悪い典型例みたいな事やってるの? と思っていたら、どうやらリリーさんが声を掛けたおっさんは人がいいのか、聞いてもいないのに色々説明してくれた。
始まりこそはそんなダメ人間の集まりみたいな感じだったけど、今では若手への訓練がてらとか、あとは腕自慢同士の手合わせとかを対象にしてるらしく、殺し合いとかは御法度なんだとか。ついでに賭けの内容も今晩の飲みの時に酒を一杯奢るとか、みんなでつつく酒の肴の大皿を一品負担するとか、その程度らしい。思ったよりも全然健全だった。
というか、実際はギルドが介入してある程度整えたらしい。急に大勢の冒険者が集まった事で変にトラブルが起きないように、というガス抜き目的もあるみたいだ、とはおっさんの弁。
それでもやらかしそうになる連中もそこそこいるみたいなんだけど、そういう手合いは面倒見がいい一部の冒険者連中が丸く収めてしまうとの事。物理的に。
なんていうか大半の人は荒くれっぽい格好してるのに、思ったよりも全然ちゃんとしてるのね……。
ともあれ、そういう事なら見物するのは吝かではないね。賭けの方は……別にやらなくていいかな?
そんな事を考えながらふと隣を見ると、アリサさんは既に熱心に観察中。そしてそんなアリサさんの視線の先を追っていくと、そこで遣り合ってるうちの片方はなんとラッドさんだった。
おお……ラッドさんかなり強いっぽいね。動きも結構速くて、力もかなりありそうな感じで、そのうえ立ち回りがなんというか、妙に巧い。【加速】を使ってない状態のアリサさん相手にも、結構いい勝負になりそう……。
「アリサさん、どうです?」
「……【加速】を使わなかったら、上手くいけば多分互角……ううん、普通に負けると思うー」
え!? ラッドさんってそんなに強いの!?
「フェザー無しなら、私はまだまだ全然だよー」
ええー……? アリサさん、【加速】なしでも結構見失うんだけど……。
「私、普通の時でもアリサの動きって全然目で追えないんだけど……」
「リリーは魔導師だからそこまで気にしないでいいと思うよー。レンさんが持ってる【鷹の目】はいいスキルだけど、あれは本来視力諸々を総合的に上げる初級スキルだから、それだけだとちょっと物足りないと思うー。動体視力とかを強化するなら【見切り】がないと厳しいよー? あとは戦士としての戦闘勘とかもないと目で追うのは難しいんじゃないかなー? あー、私も【鷹の目】欲しいー」
……アリサさん、めっちゃしゃべるね。話しながらも目はずっとラッドさんの動きを追ってるけど。
それにしても前々から思ってたけど、アリサさんってこういう事に関しての知識は凄いし、普通に頭良くない? もしかしてボケキャラって地じゃなくて作ってない?
まあいいや、別に地でもそうじゃなくても付き合い方を変えるつもりもないし。取り敢えず私がラッドさんの動きを見ててもあんまり得る事はなさそうなので、他の立ち合いでも見ようかな? と、他の戦ってる人達を見ていくと、どうにも見覚えのある人が……。
って、あれってリュー!? なんでリューがここにいるの!?
ドガッ!
そしてリューが居る事に驚いたその時、後ろから体当たりされてそのまま押し倒された。
ぐはっ! 敵襲!? ノルンはどうしたの!?
逃げようともがくものの、腕ごと拘束されて抜け出せない。
ちょ、なに!? なんなの!? リリーさんとアリサさんは何してるの!? 早く助けて!
そうしてジタバタしていると、聞き覚えのある声が。
「レンちゃ、見つけた」
……え、これってクロ!?







































