143 討伐は後始末が終わるまでが討伐です
アリサさんが雄たけびを上げているものの、室内からは熱気が流れ出てきている。
流石にリリーさんの全力ファイアボールだけあって、相当な熱量だったようで室内との気圧差もかなりのもののようだ。
このままでは室内に入っての諸々の確認も侭ならないのでリリーさんに頼んで全員に風魔法を付与して貰ってから入室する事になった。
室内に入るとアリサさんがこんがりと焼きあがったゴブリン達の首を刎ねている最中だった。虫の息とはいえジェネラルやホブはまだ生きていたらしく、確実に息の根を止める事にしたらしい。流石である。
さて、これにてゴブリン皆殺し完了につき、『軍団』攻略も終了、だったらいいんだけど、実際には細々とした後始末に向けての下準備とかが沢山あったりする。
それはこのロードの部屋の探索と、更に奥に隠された隠し部屋の確認だ。
ロード以外の死体を回収した後、ロードの死体の確認をする。近くには焼け焦げた大剣が一振り。今までに倒された冒険者から奪ったものだろうか? それなりの良い物だったように見える……まあ、焦げ焦げだけど。
「俺の剣……こんなになって……」
涙目になって呟くラッドさん。おおう、ラッドさんの剣だったのか。南無三。まあ回収しちゃうんだけどね。
私が目の前で回収する光景を目の当たりにし、更に落ち込むラッドさん。うん、まあ……あとで返してあげるから、ちょっと我慢してて。
次いでロードの死体も回収。うんうん、老齢のウォーロードだけあってかなり高品質の魔石ゲットだね。これでまた色々作れそう? あ、ちなみにだけど、魔石や他の素材諸々は私が色々使うので、それらを私が総取りする代わりに各種報酬金はリリーさんとアリサさんにかなり多目に分配する事になってたりする。この辺りの事もパーティーを組んだ時、最初に決めておいた。
「あとはあっちに隠し部屋ですね」
恐らくロードが使っていたであろう玉座っぽいものの残骸の方を指差す。
「あれは玉座、でしょうか? その後ろ?」
「はい。結構色々貯めこんでるみたいです」
私がそういうと同時にノルンが前脚で玉座の残骸を殴り飛ばし、隠し部屋の入り口を暴いた。奥へと続く道はそれなりに広かったのでリリーさんとアリサさんと共にその奥へと進んでいき、隠し部屋へと辿り着く。
「かなり広いねー」
「そうですね」
んー、本当に結構広い。そして中々の量のお宝の山。……お宝? いや、大分薄汚れてる感じなので、なんとも言いがたい微妙な感じではある。
とはいえ、それなりの武器や防具があって、お金の類もかなりの金額があるっぽい。うん、しいて言うなら遺留品?
「ひとまず全部回収しますね」
「そうですね、レンさんお願いします」
うん、全員で一々見て回ったら幾ら時間があってもキリが無いのでまずは私の【ストレージ】に回収するのだ。それから後で紙に一覧を書く。
でも重要なものとか高価なものがある場合もあるので、そういうものがあった場合は収納後に報告する事になっている。まあ今まではそんなものは無かったんだけどね。
でも今回はちょっと気になるものが1つだけあった。
「ちょっと気になるものが1つあったんですが……」
「なんですか?」
「これなんですけど」
取り出したのは1枚の木の板。木札と言うにはかなり大きいそれには、幾つかの印が刻まれていた。
大きい丸の様な印が1つ、そして小さい印が幾つもあって、そのうちの幾つかはバツ印の様なもので潰されている。他にも特徴的な印が幾つか。
「……なんでしょう、これ?」
「多分なんですけど、巣分けされた他の巣の場所が書いてあるんじゃないかな、と」
「え!?」
「ちょっと待ってください、ゴブリンですよ?」
「ええ、ゴブリンです。でもそれを率いていたのは歳を重ねたロードです。多分ここの大きな印がこの巣の場所で、こっちのこの特徴的な印が私達が拠点にしてる町。この辺りのバツがついてるのは私達が潰した巣だと思うんです。そうなると、この辺りの印は全部巣分けされた巣で、他の印は村とかじゃないかなと……」
この廃坑と町の位置があってる場合、うろ覚えだけどバツ印がついてる所は私達が潰した巣の位置に概ねあってると思うんだよね。
でもそうなると他の印は村だったり他の巣だったりと、そういう事になると思う。
そういった予想を説明する。
「それは……でも、確かにこの位置……」
「ちょっとネルさん達にも聞いたほうがいいんじゃないー?」
「……そうだね。レンさん、いいですか?」
「はい、私は構いません」
私の予想が当たっているとなると、残った巣はまだまだ沢山あるという事になる。外れていればいいけど、まず間違いはないだろう。でも念の為先達の意見も聞いておいたほうがいい。
隠し部屋から出てネルさん達にも意見を聞く事になった。
「マジか……でもそれが事実だとすると、この辺の村とかは早く対処しないとかなり不味い事になるな……」
「でも幸いなのはこれだけの巣を統率していたロードはもう居ないって事よね? なら急いで町まで戻って緊急要請するとかすれば間に合うんじゃない?」
「それはそうかもしれんが……だが、捕まっていた子供達もいるんだぞ? 弱ってるあの子らを連れて急いで町に戻るといっても移動速度には限度がある」
「それはそうだけど……」
んー、このままこの臭い部屋で話し合ってても埒が明かないし、一旦外に出たほうが良くない? そう提案して外に出て話し合うことになった。
そして一応子供達の意見も聞いてみると、やはり村などの集落を示しているであろう印はそれでおそらく間違いないようだ。印の内の1つが彼らの住んでいる村の1つとほぼ重なるらしい。
「不味いな……どうする?」
「どうって言われても、わかんないわよ!」
意見は纏まらずネルさん達のパーティーは全員が軽い混乱状態。私の悪い予想が当たっていた事で、軽い恐慌状態になってしまった。不味いな、これ。
「レンさん、どうしますか?」
あー……。
「私がノルンに乗って大急ぎで町までもどって報告するというのは? 私ならパーティーでのゴブリン退治の実績もありますし、ロードや他の沢山の死体も持って行けます。それなら説得力はあると思いますので、ギルドも動かせるのではないかと……」
「やっぱりそれしか無いですか……レンさんを1人行かせるのは悩ましいんですけど……」
「この状況ですし、仕方ないですよ」
「あんたら、何かいい案があるのか?」
「一先ず私が従魔に乗って先に町に戻って、大急ぎで救援要請する、と言う事でどうでしょう? ギルドに状況を説明して周辺から救援を呼んでもらいつつ、何人か先行してこっちに向かって貰うように頼んでみます。皆さんはリリーさん達と一緒にこの子達を連れて無理しない速度で町の方に戻ってくるようにすれば、途中で合流も出来るでしょうし」
「……なるほど、それなら時間短縮にはなる、か?」
「むしろそれが最善じゃない? 問題は私達は装備がないって事だけど」
「装備に関しては奪われていた皆さんの持ち物はお返しします。私達は別に装備には困っていないので」
「……いいのか?」
「はい。その代わり色々と口を噤んで貰いますけど」
「まだ信用して貰えていないのか……。いや、信用して貰うほど俺達を知ってるわけでもないから仕方ないが……それで装備を返して恩を売る、と言う事か?」
「そうですね」
「正直に言ってくれるものだな……だがわかった。アンタの能力については絶対に口外しない。だから装備を返してくれ」
これで取引成立か。後は野となれ山となれ、なるようにしかならない。先ほど回収した戦利品の中から彼らの装備を返却する。因みに貸し出していた魔剣や魔槍、マジックバッグ等は既に回収済みだ。廃坑内に設置した結界塔と魔法のランタンも然り。
ラッドさんの焦げた剣は直してあげようかと思ったけどそのままにしておいた。これ以上余計な能力を見せる必要は無い。落ち着いてから自分で研ぎに出すなり打ち直してもらうなりしてくださいな。
そうして私はノルンに飛び乗って超特急で町へと戻ったのだった。
……漏らしてないよ!
その後、私が町に戻って報告した所、小一時間もしないうちにレギオンの巣になっていた廃坑目指して先行隊が出発していった。それ以外にもギルドに着いてすぐに緊急連絡用の魔道具を使って近隣のギルドへ救援要請をだしたり、その魔道具を使う為に必要な魔力を補う為の大量のゴブリンの魔石を私が売却したりと色々と大変だった。騎士団へも要請をしたりとギルド職員は大忙しだ。
あ、他にも身元不明だった犠牲者はどうやら冒険者だったらしく、回収した遺留品の中にギルドカードがあったのでそれも提出したり? 後は犠牲者達の遺体に関しては『軍団』の巣の前に作った簡易拠点の中に置きっ放しなので、その回収もお願いしたり、思いつく限りでやる事はやっておいたよ?
私? 私は借りてる家に戻って待機してたよ。
木の板も提出したし、廃坑の場所はギルドでも把握していたので特に案内なんかは必要ないという事だったから。
2日ほど借家で待機しているとリリーさん達も戻ってきたんだけど、その後もギルドはずっと忙しそうだったので私達は特に依頼も受けずに暫く仕事は休む事にした。色々聴取とかで呼び出されたりもしたので、依頼を受ける時間的余裕が無かったというのもある。それに『軍団』討伐に加えてロードやジェネラルの報酬も支払われたので懐も温かいし、金銭的には暫くは休んでいても問題ないのだ。
それから更に3日もすると町は冒険者達で溢れかえっていた。ゴブリンの巣の駆除の特別依頼が出されたらしい。
私達も特別依頼を受けないかとギルドの人に声を掛けられたけど、それは遠慮しておいた。これ以上ゴブリンスレイヤーズの悪名を定着させるつもりは無いのである。
そう、私達の喫緊の問題。それはパーティー名なのである!
え? みんなお前らの後始末に奔走してるのになに言ってるんだ? いや、後始末じゃなくて事後処理でしょ? それはギルドの仕事だよ?
いや、最初はちょっとお手伝いしようとは思っていたんだよ? でも流石に『軍団』の攻略は疲れたし、残りの巣までは面倒見切れないよ……そもそもこれ以上無駄に悪目立ちたしたくないし、なによりリーダーのリリーさんにも止められたし。この状況で他の依頼受けるのも、ちょっと別の意味で目立ちそうだし……。
うん、だから他にやる事も無いし、暫くお休みしつつパーティー名でも決めようって話になったんだよ。あ、でも正確にはパーティー名じゃなくてクラン名か。
という訳で第1回クラン名決定会議ー!
「それで、クラン名はどうします?」
「うーん、どうしましょう?」
「私はなんでもいいよー」
うん、アリサさんは変わらないね。でも流石になにか考えようよ。
「はい! はい! 私達は女の子しかいませんし、『戦乙女』とかそういうのが入ってるといいかなーと思います!」
リリーさん、思ったより乙女チックだね。
「ワルキューレとかヴァルキュリアとか?」
「あ、いいですね! 格好良いです!」
「……でも本当に良いんですか?」
「なにがです?」
「私達、今はまだ若いですけど……このまま活動を続けていって、20代ならまだ良いと思うんですけど、もし仮に30代に突入してしまったらどうしますか?」
「……え?」
「その、ちょっと……つらくないですか?」
「戦乙女とかはやめましょう! 何か別の案! なにかありませんか!? はい、レンさん!」
私かよ!?
「……私、ネーミングセンスありませんけど、いいんですか?」
「聞いてみないと分かりません!」
「じゃあ……『アズライール』とか?」
「……? どういう意味ですか?」
「死を告げる天使……『告死天使』です」
「……」
「いや、わりとゴブリンとか虐殺しまくりましたし、大量に死を振りまいてるなーと……」
「いいねー! カッコイーと思うー!」
お、ノリが良いねアリサさん! 私の中二センスが分かるとか、ある意味駄目駄目だけど!
「駄目だよアリサ!? そんな血生臭いのは絶対駄目!」
「えー、じゃあどうするのー?」
「なにか、なにか別の……」
……その後もどうにも血生臭いものや妙に乙女チックなのものばかりで中々良い案は出てこなくて、リリーさんは涙目になってしまった。
「なにか……なにか……」
「もうなんでもいいんじゃないー?」
「駄目だよ! これからずっと名乗るんだよ!?」
「でもさー」
「妥協はしない! 絶対に!」
むう……頑なになってしまってる……。
んー、なにか真面目に考えないと駄目かー。むーん、うーん……。
……レン、リリー、アリサ……レン、蓮十郎、蓮? リリー、は、百合……アリサ、アリサ……たしか、チューリップにそんな品種あったような……?
「『庭園』とか?」
「え?」
「いや、全員花に由来する名前ですし……」
「そうなのー?」
「ええ。リリーさんは百合ですし、私は蓮の別の読み方ですね」
「わたしはー?」
「チューリップの品種にアリサっていうのがあったと思います」
「へー」
「……『庭園』。……いいですね、『庭園』! それにしましょう!」
何となくで言ってみただけなのに、本当に良いの!? が、私が止める間もなくリリーさんは飛び出して行きそのままクラン名登録をしてしまったのでしたとさ。
え、マジで!?







































