139 私のLUK値が1なのは関係ねえ!
なんとか再開です。
周囲の様子を窺いながら慎重に進んでいく。【探知】【気配探知】【危険察知】スキルは常に使いっぱなしだ。だがそれでも視認による警戒は怠らない。
「……この辺りは何もなさそうですね」
「そうですね……でも油断無く行きましょう」
「ですね」
「おー」
今、私達は森の奥を歩いていた。
今の町を拠点に活動を続け、かれこれ約2週間ほど過ぎた。その最初の10日程の間に町周辺の近場にあるゴブリンの巣を潰しまくった結果、町の安全は確保されたものの私達の稼ぎのタネが無くなってしまったのだ。
そしてその状況でどうするか3人で話し合った結果、数日掛けて往復する距離までちょっと遠出してみよう、という結論になったのであった。
……決して、荒稼ぎした所為で他の冒険者の目が痛くなってきたのが理由ではない。ないったらない。
いや、今回ばかりは私1人が調子に乗った訳じゃないから! ゴブリンの巣を潰した時の収入が多い事に、リリーさんとアリサさんも調子に乗った結果だからね!
ともあれそんな感じの理由で、借家の家賃を一週間分先に払って寝床確保を維持しつつ、森の奥に入る事にしたのだ。ちなみに私の自宅は使わない。土魔法で作る簡易小屋とテントの併用で野営する予定だ。
いや、一応森の中とかでの野営の経験も積んでおこう、って言う意味もあってね……そもそも土魔法で作る簡易小屋もこのメンバーだと私しか使えないから、いざという時の為にテントでの野営も経験しておかないと色々困る事があるかもしれないじゃない? 私達も色々考えてはいるんだよ、一応ね。
そんなこんなで現在、森を進む事2日ほどのところまでやってきたのだった。
そんな事を思い返しながら改めて周囲を見回すと、ノルンとベルはやや先で周辺の警戒をしていた。上を見上げると木々の合間にまだまだ青い空が広がってはいたが、太陽は大分西の方に傾いている……んー、あんまり無理はしないほうが良いかな。ちょっとは離れた所に小さな小川もあったし、ここで野営する?
「どうします? 今日はここで野営します?」
「そうですね……アリサはどうしたい?」
「私はどっちでもいいよー」
そう言うと思ったよ!
結局、暗くなってからの行動は無駄に危険も増えるという事で無理はせずにここで野営する事になった。
2人がテントを建ててる横で私は土魔法でざくっと簡易小屋建造。入り口には布を垂らして中が見えないようにする。ついでに料理兼焚き火用の竈も作る。配置としては簡易小屋の入り口から向かって左右にリリーさん、アリサさんのテントが向かい合ってる状態になる。焚き火はそれらの中心の位置。『コ』の字配置……いや、焚き火を含めると『区』の字配置かな。
それが終ると簡易小屋の中に自分の寝床を出す。はい、ベッドです。
野営とは何なのか? いや、2人は私とはぐれた時の為に色々自分で出来ないと困るけど、私は自分の能力だし。
そこまで終わったら最後にちょっと離れた位置に個室トイレ建造。土魔法で穴を掘ってその穴の周囲を囲う感じで四方に壁を作って、上は空いてる。こちらも入り口に布を垂らす。離れてるといっても設営場所からすぐ見えるところね。臭いがしない程度の距離? 用を足した後にかける砂も土魔法で作って穴の横に盛っておく。便器までは作ってないよ、ちょっと面倒だし。
そんなこんなやってる内にテントを立て終わった2人は薪拾い。私はノルン達と留守番である。いや、王都に居た時の事件があるので、2人が私の単独行動を許してくれなくて……。ノルン達がいても駄目だそうです。
……筍採りの一件も理由らしいよ。いいじゃん、ちょっと位。
なんて考えてるとノルンから冷たい目で見られていたので軽く咳き込んだ振りをして誤魔化してみる。ちなみにベルは周辺を軽く回って警戒中。
一応の言い訳もさせてもらえると、今日は偶々私が留守番ってだけで、担当作業は持ち回りだったりする。……まああくまで一応という事でしかなくて、私を薪拾いに行かせてはくれないんだけどね。私が担当の時はノルンが【アイテムボックス】に収納して薪拾いしてきてくれるんだよね……みんな過保護過ぎだよ。
さて、2人が薪拾いに行ってる間に晩ご飯の準備でもしますか。
今日は移動中に角兎が2羽獲れたのでその肉を使ってスープと串焼き肉。あと堅焼きパン。肉は【創造魔法】で熟成肉に変化させておく。堅い肉は食べたくないしね。ってな訳で魔導コンロを取り出して調理開始。
鍋を火にかけて料理の準備が大体終わりという頃に2人が帰還。
2人が持って来た薪で火起こしして焚き火をつける。焚き火の火が強くなって安定する頃には鍋も温まってるので、各々串肉を焚き火で焼きながら晩ご飯開始。鍋のスープも各人好きなだけお代わりしていい。まあ大半はアリサさんが消費してくれるんだけどね。リリーさんは意外とほどほどで済ませる。食べ過ぎると眠くなっちゃうので不寝番の時に影響がでちゃうかららしい。アリサさんはその辺りは訓練してあるとかなんとか?
私? いや、私はノルン達がいるので普通に寝てるというか……。……うん、なんだかちょっと申し訳なくなる。
まあそれがテイマーの利点といえばそうなんだけどね。それはそれ、これはこれ、って事で。
まあ一応『結界塔』も出してあるから、安全って言えば安全なんだけどね。
翌朝、身だしなみを整えて朝ご飯の準備もしているとノルンが勢いよく顔を上げた。敵襲? 【探知】【気配探知】【危険察知】の範囲内に侵入者確認、人が追われてる? 襲われてる? 追跡者は……ゴブリン15体!
「敵!? どっち!?」
そこまで確認した所でアリサさんがテントから飛び出してきた。既に帯剣しており、片手には小手を持っていて装着しながらノルンが見ていた方向に向かって走り出す。それを追い越す形でノルンが駆け、追い抜いた後はそのまま先導していく。
「ノルンについていってください! ノルン! 行って!」
声を掛け終わった頃にはアリサさんはもう見えなくなっていた。アリサさんがテントから飛び出したすぐ後からリリーさんのテントでもガサガサ音がしていたんだけど、ここでようやくリリーさんも出て来る。
「敵襲ですか!? どっちですか!?」
「もうアリサさんが走っていきました。ノルンも一緒です」
「私も行った方が良いでしょうか? それともベルちゃんが行きますか?」
「ベルに行って貰いましょう。私達はここで待機で。ベル、お願い」
「わふっ!」
「了解です。でも私は一応周りを見てきますね。レンさんは探知系スキルで警戒しながらご飯の準備進めてて下さい」
え、私ご飯作ってていいの? いや、やる事無いからありがたいといえばありがたいけど、緊張感ある様でないなあ……。なんか締まらないと言うか……。
あ、もうベル居なくなってる。こういうノルンが私から離れた時はベルが黙って残っててくれるんだよね、王都の森の一件以降。でも指示を出すとそれからの行動はとても早い。
その辺りはまだ落ち着きが無いとでもいうのか、でもちゃんと待てが出来てる所をみるにノルンに色々と言い含められてるのか……。何にしてもありがたいやら過保護やら、でもそれが嬉しかったりでちょっと複雑。
それから小一時間程過ぎた頃にアリサさん達が戻ってきた。リリーさんも一緒で、女性を連れて。リリーさんとは戻ってくる途中で合流したらしい。
連れてきた女性がゴブリンに追われていた人らしく、戻ってくる道中で少し話をしたみたいだけど、拠点に仲間が居るので詳しくは合流してから、となっていたらしい。
でも、その前に……。
「あっちの方に小川があるので、そこで汚れを落としてきてください。怪我の治療もありますし」
うん、ちょっと臭いがね……?
戻ってくる途中でアリサさんが掻い摘んで聞いたところによると、ゴブリンの巣に囚われていたらしい。仲間も捕まっているとかで、ちょっと焦ってるようでもあったとか?
でも変に慌てて移動するよりもしっかり準備とかしたほうがいい。それには腹ごしらえも含まれる。でも捕まっていただけあって、汚れと臭いとか……その状態でご飯は、ちょっと……。
捕まってたし怪我もしてるので体を洗うのはちょっと不安が無くもなかったけど、戻ってくる道中、リリーさんが【回復魔法】を掛けてたらしいので、体力的には多分何とかなるだろう。
身を清めて戻ってきたので私が『乾燥』を使ってサクッと乾かし、怪我の治療。まあ中級ポーションぶっかけつつもう1本飲ませれば完了ってなものである。
「なにこの効果……。これで、中級? 上級じゃないの……? お金、払えるかな……」
うーん、この状況で吹っかけたりするつもりはないから、安心していいと思うよ? 私、性格悪い自覚はあるけど、外道に落ちるつもりはないし。
この女性、名前はネルというらしい。本職は魔導師だけど一応近接戦闘もそこそこ出来る、準魔法戦士っぽい感じだとかなんとか。見た感じ17~18くらい? もっと上? 下? 相変わらず女性の年齢は良く分からない……。
彼女たちのパーティーは男性1名女性3名の全部で4人のハーレムパーティーで、ここへはゴブリンの調査にやってきたらしい。なんでもここ最近、私達が拠点にしている町でのゴブリンの巣の討伐数が異様に多いという事で、調査依頼が出ていたとか?
……え、私達の所為? いや、たまたま巣があったから潰してただけなんだけど……。
そこに巣があったから潰してただけだけど、別に狙って潰してたわけでは……いや、途中から狙って潰してたかもしれない。それに言われてみれば確かにゴブリンの巣、多すぎた気がする?
「それで調査をしてる時に、かなりの数のゴブリンの集団に襲われて、捕まっちゃったのよ……」
ご飯を食べつつ話を進める。因みに綺麗な服に着替えてもらってある。リリーさんの服を貸したらしい。
話を戻そう。
それで彼女達、調査中にいきなり奇襲を受けたとかで、何とか態勢を立て直して迎撃はしたものの徐々に押されて捕まってしまったのだとか。ただ、妙に統率が執れていたという事で、多分統率者が居る群れではないかと、戦いながら考えたのだとか。
それで実際に捕まって巣に運ばれてみれば、その規模の大きさに愕然としたらしい。そして予想通りに統率者が居た。ゴブリンロード、しかもかなり歳を経たと思われる、体格も大きめの個体。これは実際に会って確認したとの事。状況的には会ったというか拘束された状態で無理矢理会わされたというか……。
その後は部屋の1つに全員押し込められて、時折食事というか餌というか、そういうのを与えられつつ、見張りのゴブリンに気紛れに殴られたりしながら脱出する隙を窺いつつ過ごしていたみたい。
そして、昨日の昼過ぎくらいの時間に何とか逃げ出す事に成功した、と。
装備は取り上げられたものの、彼女は予備の杖を隠し持っていたのでそれを使って【幻術】スキルを駆使して脱出したとかなんとか。
【幻術】とはまたレアな……。いや、私も光・水・風魔法辺りを併用すれば似たようなことできると思うけどね。……うん、今度練習して可能なら【幻術】スキル習得目指してみようか。っと、話が逸れた。
脱出後も【幻術】を駆使しつつ何とか逃亡を続けていたんだけど、今朝方というかさっきと言うか、とうとう追っ手に見つかって絶体絶命、と言う所で私達が気付いてアリサさんとノルン、ベルに助けられた、と。
……相変わらずアリサさんは凄かったらしいですよ? ノルンとベルはフォロー程度の動きだったっぽい。
「連中の巣はここから半日か、そこまで掛からないか位の場所よ。廃坑を利用したものだと思う、かなり複雑に入り組んでて……でも問題は何よりもその規模。老齢のロードの群れだけあって、最低でも300以上は居ると思う」
「ロード付きで、300以上……」
「って事はー」
「『軍団』ですね」
『軍団』と言うのは、ロードなどの君主系の統率者に率いられた同系統種族の魔物・魔獣の大規模な群れの事だ。魔物の種類にもよるけど、概ね100体を超えるとレギオン認定される。
大抵の場合、歳を重ねたロードやその上位種のウォーロードなどに率いられている。歳を経た統率者だけあって群れの連携練度も高く、配下への能力補正値も高い。
「……と言う事は、今まで私達が潰していた巣は全部、巣分けされた群れだった、と言う事でしょうね」
「でもそうなると、この規模の群れだしどこかの町とかを攻め落とそうとしてたって事になるよー?」
「この近くの町となると……」
「……私達が拠点にしてる町、ですね」
魔物の群れも『軍団』ほどの大規模になると人の集落に攻め込んでくる事が多々ある。それは村だったり町だったり、場合によっては城壁のある街や城塞都市であったりもする。そこまでの大事件が起きると『軍団』討伐の為に騎士団が出てくる事になるんだけど、そこまでの事態になった状況と言うのは既に大勢が犠牲になった後、という事で……。
……今なら、私達だけでも奇襲で何とかならないかな?
何より時間が無い。急がないとあの町が滅ぼされるかもしれない。その『軍団』の侵攻計画がどうなっているのかはわからないけど、ここには脱走した捕虜が居るのだ。そしてその捕虜への追っ手達は私達で皆殺し済みで、そいつらが帰ってこないとなれば予定を繰り上げて即座に侵攻を開始するかもしれない。ここからあの町まで知らせに戻って、更に救援を呼ぶような時間的猶予は恐らく、無い。
「ちょっと待って、貴女達が潰してた巣って……もしかして貴女達がゴブリン共の巣を潰して回ってたって言う凄腕の女性冒険者パーティー? ゴブリンスレイヤーズって貴女達なの?」
ちょっとまった、ゴブリンスレイヤーズってなに!? ゴブリンの巣を潰してたのはその通りだけど、初耳だよ!?
「……巣を潰して回ってたのはその通りですが、その、ゴブリンスレイヤーズっていうのは、一体……?」
「え? 貴女達の事じゃないの? あそこの町を拠点にして、ここ最近ゴブリンの巣を潰して回ってる、狼を2匹従えた若い女性3人組の冒険者達って」
「……」
「……」
「……」
「……勝手に渾名されたのね。早目にパーティー名つけたほうが良いわよ」
そんな可哀想なものを見るような目で見ないで下さい、泣いてしまいます。







































