134 ぐだぐだな朝。つまりいつも通りの朝。
とまあ、そんな訳でとりあえずざっくりと改装したのがこちらとなります。
外観はボロ家のまま、内装のみを改装してみた。ちょっと色々と思う所がありまして? って言うか、半日も経たずにいきなりボロ家が綺麗な家に生まれ変わっていたらそれはそれで問題になるというか、そもそも悪目立ちするといいますか。理由の大半はそれ。
後はまあ、ちょっと思いついた事がね?
滅茶苦茶値切ったお陰でこの辺りとしてもかなり安い家賃で借りる事が出来たのは幸いだったね。なにせ、一応とはいえ庭付きだし。お陰で馬車も馬も置ける。馬車は簡易テントの様なものを作って庭に設置し、そちらの中に。馬は邪魔なので【ストレージ】行き。庭を区切る柵は一応作り直した。
母屋の方は外観はそのままとは言え、隙間風が吹き込んでも困るので壁の中はしっかりと改造。食事をしたりする為の居間、奥に台所、物置、トイレ、風呂。トイレは汲み取りだったけど、ここにずっと長く住む訳ではないので、そこは妥協した。魔法でなんとかしてる私は別に使わないし。
幸い寝室は3人それぞれ個室に出来た。とはいってもここで日課に及ぶつもりは無い。といいつつ各部屋普通に防音で鍵付。私はともかく、2人にもプライベートの時間を作れるように、と思いましてね。
ベッドは私の自宅の客間に備え付けていたものを再利用。これを使えばぐっすり快眠である。
と、ここまで小一時間ほどで終わらせた頃にはもう午後5時を過ぎた位になっていたので、そのまま早めに食事の準備に取り掛かった。
とは言っても私は筍の灰汁抜きに付きっ切りで、今日の食事はリリーさん達にお任せだったり。毎回私が作るのもねえ?
晩ご飯も終わってお風呂にも入り、一息ついた所でニコニコ笑顔のリリーさんが近づいてきた。
「レンさん、お話があります。ちょっとそこに座ってください」
「リリーさん?」
「座ってください」
「えーと」
「正座」
「……はい」
有無を言わせない圧力。というかそこって床なんですけど。いや、私の自宅と同じ仕様だから家の中では靴を脱ぐので問題ないといえば問題ないんだけど、なんだか怒ってる? ちょっと怖いよ?
ここは大人しく従っておくのが無難だろうと、言われるままに正座した。
「あの……?」
「レンさん、朝は時間がありませんでしたので黙っていましたが……私達でパーティーを組んだ時に色々と決めましたよね? その時にレンさん言いましたよね? 危ない事はしない、単独行動は控える、と。なのに、何で1人で採取に行ったんですか? 起きなかった私達にも問題はあると思いますけど、それとこれとは話が別ですよね?」
「……はい、すみません」
「そもそも、レンさんは危機意識が薄すぎます。いいですか? 大体にして……」
「……」
あれ、滅茶苦茶怒ってる? ちょっとのつもりだったし、何もそこまで怒る必要は……あ、ごめんなさい。なんでもないです。
……やばい、リリーさん激おこじゃん。
そこから1時間以上懇々とお説教される事に。いや、確かに私が悪いんだけど、正座でこの長時間は……!
「もう、ちゃんと聞いてるんですか!」
「ごめんなさい」
流石に耳にたこ状態で聞き飽き始めた頃に、私の頭の上になにやら重いものがのしっと乗せられた。なにこれ?
ちょっと振り返ってみると、そこにはノルンが。っていう事はこれ、ノルンの前脚?
そしてそのまま体重を乗せ始め徐々に上体が前方に押し付けられていく。ちょ、重い重い! 何事!? え? なんで!?
……え? 私の事を心配して怒ってくれてるんだから、ちゃんと聞けって? いや、ちゃんと聞いて……って、重い重い重い! 潰れる! 中身でちゃう!
ばたばたと手を振って抵抗を試みてみるものの、効果は無し。うぐぐ、潰れるー!
そしてなにやらノルンが合図したのか、再開される説教! やめて! 私のHPはまだ残ってるけどそろそろ瀕死です!
結局、説教が終わった後にノルンは私の上に前脚を乗せたままその場で丸くなって眠ってしまい、私は一晩中強制土下座ポーズで過ごす羽目になったのだった。
翌朝、リリーさん達が起きて来るよりも早い位の時間になってやっとノルンが退いてくれ、やっと強制土下座から解放された。でも脚の感覚が……た、立てない。
こういう時はお約束のポーションで回復。うん、これで立てる。
しかし昨日のリリーさんは怖かった……後日アリサさんに聞いた所によれば、一定のラインを超えて怒らせてはいけない、との事だった。もっと早く教えてよ……
とは言えノルンも言っていた通り、私を心配してくれての事なので若干嬉しくもあったりする辺り、我ながらチョロい。
それでまあ一晩色々考えたんだけど、私の警戒心が一層薄くなったのはパーティー組んだお陰で安心感が増した所為じゃないかなーと言う結論に。森でゴブリン狩りしてた時のアレも、やっぱり鎧の安心感の所為だと思われる訳だし。
とどのつまり、結局は私の気の持ちようと言うか、まあ気の緩みと言うか……
対策は一応考えた。分割思考と言うか【マルチタスク】にぶん投げて、【危険察知】【危険回避】【気配察知】を常時使用する事。
【警戒】とかの下位スキルは使いっぱなしだったんだけど、ずっと気を張ってるのもどうなのかなーと思って、上位スキルは使ってなかったんだよね。でも今回の件でそれは不味いと分かったのでガンガン使っていく方向に変更した。
え? 分割思考の領域は空いてるのか? いや、実は超余裕なんだよね。
分割思考がスキル化する前の自前の技能だった頃は100の領域を分割して使ってたんだけど、スキル化して【マルチタスク】になった後はなんと、100の領域がプラス、スキルレベル分に一気に増えたんだよ。今LV6なので、元の100に加えて100が更に6個追加。つまり合計700。ぶっちゃけ常時使用し放題。意味が分からない。ちなみに、あくまで100が七つであって700ではないので注意。似てるようで微妙に違うのである。
で、更にそれらを元の様に分割して使う事もできるので、普通に暮らしながら色々思索に耽る事も可能。
……その割にはずっと隙が多い辺り、我ながら……いや、ここからだよ、私は!
ん? なんで色々なスキルを常時使用にしなかったのかって? いや、なんかさ……頭がおかしくなって死にそうな気がしない?
ともあれ、私はここから! ここからだよ!
と、色々新たにしながら気合いを入れてご飯の準備や諸々をしていると2人が起きて来た。おはよーん!
さて、朝食の前に新たな日課となったアリサさんとのトレーニングである!
そう、パーティーを組んで旅立った翌日から、毎朝起きて直ぐに身体を動かすトレーニングをするようになっていたんだよ! まあ毎日とは言うものの、実際は不寝番とかあるから本当に毎日は出来なかったりするんだけどね。いつもノルン任せだと色々鈍るとの事で、アリサさん達も有る程度持ち回りで頑張るようにしてるんだよね。私? 私は気が向いた時に、一応。
とまあそんなわけで訓練開始! 先ずは柔軟! ポーションで誤魔化したとは言え、一晩中強制土下座させられたお陰で固まった身体をバキバキ言わせながら解していく。入念な柔軟を済ませた後はアリサさん相手に実戦形式で模擬戦だ! そしてあっさり負けまくる私!
クソ……アリサさんは素手だというのに、木剣使ってても全然勝てない……勝てるか、こんなの!
「うーん、大分動きはマシになってきたと思うけど、まだまだ全然駄目駄目だねー」
「申し訳ない……」
「多少はマシになってきてるからそこまで気にする事は無いと思うよー。でもこの調子だと肉体強化系のスキルを覚えるのはまだまだ遥か先だねー」
「寧ろ覚えられる気がしません」
「それは否定しないよー、でも身体の動かし方を知ってるのと知らないのとでは全然違うからねー」
それはごもっとも。
うん、そもそもこのトレーニングを始めた一番の理由は私のポンコツ過ぎる身体能力をナントカするのが目的なのだ。
今まで自主的に筋トレとかしてきたんだけど、一向に筋力も体力も付く気配がなかったんだよね。まあ最大限無理して、なんとか腕立て5回が限界だったけど。腹筋? ……聞くな!
で、そんな感じだったので、幾らポーションのお陰で疲れ知らずとはいえあまりに雑魚過ぎて実は結構悩んでたんだよ。
そこで本職の剣士であるアリサさんにご教授願おう、と思った訳でして! アリサさんなら色々と知ってそうだしね。運良く肉体強化系スキルが覚えられたら御の字という事で、早朝訓練をお願いする事になったのだ。
ちなみに肉体強化系スキルって言うのは【剛力】や【忍耐】と言ったステータスを強化する系統のスキル。アリサさんも【俊足】と言うAGIを強化するスキルを覚えてたりする。
私も【身体強化】は覚えてるけど、あれ、全然レベル上がらなくて困ってたんだよね。鍛冶の時しか使ってなかったんだけど。
その事も聞いてみた所、【身体強化】はとにかくレベルが上がりづらい、と言う事だった。寧ろそれを使って格上の敵をばんばん倒さないといけないらしい。なんだか良く分からないけど、そう言う特殊な経験を積まないといけないとか何とか? そりゃ私には無理だわ。
更に聞いて驚きだったのが【身体強化】に頼りすぎてもいけないという話。【身体強化】は頻繁に使いすぎると素のステータスの成長を妨げてしまうのだとか。それが原因かー!
肉体強化系と違って使いすぎても駄目とか、そんなの分かる訳無いじゃん……
そういった特性がある為、身体の成長期に覚えても使う事はあまり推奨されないとか何とか……なんだそれー? 地味に地雷スキルじゃないの、これ? やってられるかー!
「それにしてもレンさんはなんというか、身体の使い方が急におかしくなる時があるのはなんだろうねー?」
おっと、考え事に没頭しすぎた。
「焦ると重心がコロコロ変わるというか、なんだろ、これー?」
それ、多分前世の記憶の影響です。男女で重心位置が違うのが原因で、それらが合わさっておかしい事になってるんじゃないかなーと思います。うん、この考えに至ったのもアリサさんとトレーニングするようになって、その事を指摘されたからだったりする。
焦ったりした時に無意識に前世の記憶の影響を受けて重心位置がずれて、それで動きがおかしくなってるっぽいんだよね。平常時でも割とそういう時があるらしいので、かなり重症。
とは言えアリサさんとのトレーニングを開始してから改善の兆しは見えてきたようなので、このままリハビリを続ける所存であります!
トレーニングが終わったらお風呂で軽く汗を流して朝ご飯。今日はガレットにしてみた。具材はベーコン、卵。チーズに茸。これは後は焼くだけの状態にしておいたので、お風呂を出て直ぐに仕上げて出来たてほやほや。スープはコンソメベースの野菜スープ。あとはサラダ。これはマヨネーズで頂く。
「今日も朝から幸せ……」
「美味しい! この……何? 美味しいー!」
「ガレットですよ」
「ガレット!? こんな豪華なのがガレット!?」
聞くと、この辺りで食べられてるガレットは蕎麦粉を煉って薄焼きにした生地にハムを乗せて、それをくるくると巻いて食べるものらしい。孤児院ではそんなものすら食べた事なかったからなあ……あの頃の私にとってはハムとか普通に高級品だよ。寧ろ肉なんて月に一回あるかないかだったしなあ。しみじみ。
さて、ご飯もしっかり食べたし、今日はお弁当も用意したし、お仕事に行くとしますか!
「レンさん、今日はどうしますか?」
「慣れるまでは2~3日ゴブリンでいいのでは?」
「慣れたらどうします?」
「うーん」
と言うか、何で私に聞くの? そもそもこのパーティーのリーダーって誰? 代表者として登録してるのってリリーさんだし、実際に冒険者ギルドの窓口での対応してるのもリリーさんがやってるし、リリーさん? 私はどちらかと言うとバックアップとか雑用メインだしなあ。って、それはさておき。
「アリサさんは何か有りますか?」
「私? うーん……ゴブリンに慣れたら、巣の攻略でもやってみるー? 依頼報酬も入るから結構な収入になると思うよー?」
ゴブリンの巣か……ふむ。
「では、もう数日ゴブリン狩りをしてなれたら、巣に挑戦してみましょうか」
「わかりました、ではそれで」
「おっけー! れっつごー!」
アリサさん、ノリが軽いね……いや、いいんだけど。
それにしてもゴブリンの巣か……面倒そうだなあ。でもまあ、正直に真正面から攻略する必要は無いよね?







































