131 次の拠点でぶらぶらだらだら
さて野営地から出発し、3日ほど進んだ所の村にちょっと滞在してみたりした訳ですが、ぶっちゃけ色々ありえなさ過ぎてさっさと次の集落を目指して移動する事にしました。
いや、なんていうか……こういう大都市から少し離れたあたりの村落とかだと偶に良くあるらしいんだけど、冒険者への軽視と言うか蔑視と言うか、そういうのがありまして……。
そういう農村だと、冒険者と言うのは自分の家の三男以下が追い出された後になる底辺職業と言う見方が強いらしくて、偶々立ち寄った冒険者なんかは何故か理不尽に見下されるらしいんだよね。
自分の村が出したゴブリン駆除の依頼を受けた冒険者に対してもそういう態度を取るっていうんだから、正直有り得ない。
その冒険者がゴブリン駆除してくれなかったらお前等死ぬんやで? そんな事も分からんの? とは思うんだけど、どうやら彼らには分からないらしい。
結果、依頼を受けた冒険者が不快な思いをしながらも依頼を達成して、元々の拠点であるギルド支部がある街に帰った後にそういう扱いを受けた旨を報告し、やがてその事が広まってその村の依頼は誰も受けなくなる、という事が稀に良くあるらしいんだよね。今回私達が立ち寄った村はどうやらそういう村だったみたい?
何せ、依頼達成後に報酬を値切ったりとか普通にするらしいからね、こういう村って。
で、私達が今回不愉快になったのは、偶々立ち寄っただけなのに何故か依頼を受けた冒険者だと思われて、『さっさとゴブリンを倒して来い、役立たず共が!』とか頭ごなしに言われたり、違うと分かった後も『何で依頼を受けないんだ! お前らなんて俺達が依頼を出さなけりゃ金も稼げない底辺だろうが! 身の程を知れ!』って言われたのが原因でして。
流れ次第では討伐依頼とか受けるのもいいかもね、なんて話し合ってた所でそれなので、ホント、落胆が酷くて……まあ、半日どころか1時間も滞在せずに移動する事にしましたよ。
なんでもこの村、ゴブリン被害が凄い酷いらしくて……このままだと村そのものが立ち行かなくなり、離散しないといけないかもしれない、とか何とか言ってたけど、そんな事知ったこっちゃねえわ。勝手に離散でも何でもしてろってーの。
とは言え冒険者蔑視は、こういった排他的な村落ばかりではなく大都市でも稀に有るんだけど、ここまでと言うのはそうそうなかったりするらしい。
でもこういう連中に限って、サーガとか吟遊詩人の歌とかで語られる勇者とか英雄的な冒険者は認めてたりするんだよね、何故か。だと言うのにそれらが目の前にいると何故考えないのか。いや、別に私は勇者でも英雄でもないけど。
「酷い村でしたね……」
「ああいうところばかりじゃないんですけどね」
「あそこまで酷い所はそうそう無いよー」
「んー……」
「次はもう少し大きいところにしましょうか」
「そうですね」
という訳でそこから更に数日、ダラダラと東に進んで大きな川を越え、少し進んでから南下して幾つかの村を通り過ぎ、村と言うよりは町、と言う感じの集落に滞在する事になった。規模的に街と言うよりは町。街のように街壁は無いけど、村よりも柵や塀がしっかりしてるし空堀もあったりして、集落内にも宿屋や鍛冶屋もあって、更に冒険者ギルドの支部も在ったりする。
ちなみにギルド支部とか出張所は村落規模だと無い方が普通。偶に在る所もあるけど、そういう所は少数派だったりする。
尚、東に進んでから南下というルートは、王都に来るときとは違うルートを進んでみよう、という行き当たりばったりな方針によるものだったりする。いや、同じをまたみても仕方ないと言うか、意味がないとは言わないけど折角の旅だし? とまあ、そんな適当な理由だったりするんだけどね。
町に到着して先ずは宿探し。この町には宿が3軒あって、そのうちの一つは食堂兼酒場が併設されていて2階が宿なので夜は騒がしそうな所。残り2軒のうち1軒は安宿風、最後の1軒が一番しっかりした造りだったので、当然最後の1軒に決定した。ちなみに宿代はそこが一番お高い模様。まあ、馬車ごと預けられる厩付の宿が最後の所と酒場併設の所しかなかったので、実質選択肢は無いに等しかったんだけど。
宿を取った後は早速散策。ちなみにノルンはお留守番。ごめん。
この町はこの辺りの街道沿いでは人の行き来が多い町らしく、旅人や商人、冒険者風の人を結構見かけた。
ふむー、大分栄えてるみたいだし、暫くここを拠点に冒険者稼業に精を出すのもいいかも?
町の中でご飯が食べられる所は宿屋併設の酒場兼食堂か、他に食堂と言うか軽食屋の様な店がぼちぼち。後は露天で野菜やジャンクフードっぽいものを販売してるおじさん・おばさん、少年・青年がちらほら。
野菜売りの露天のおばさんから買い物しつつ、美味しい食事処について尋ねた所、案の定と言うか予想通りと言うか、宿屋併設の所は味は悪くないが柄が悪い、とか何とか。
長期滞在の冒険者は安宿の方か、酒場併設の宿に泊まるのが常らしく、騒がしかったりトラブルがあったりと割と問題があるらしい……残念だけどあそこに食べに行くのは無しだね。
一応この町で一番美味しい食事処は別の食堂だという話だったので、基本的にご飯はそちらで摂る方向になりそう? 宿で厨房でも借りられたら自炊もありなんだけど、また何か揉めるのも嫌だし……悩ましい。
話に聞いた美味しい食堂とやらで遅めの昼食を摂った後は早速冒険者ギルドを覗く事にし、ぶらぶらと徒歩で移動。
「結構美味しい店でしたね」
「そうですか? 私的にはレンさんのご飯に慣れてしまってるので、それなりかなあ、と思いましたけど?」
「同じくー」
「いや、スープとか野菜沢山入ってて食べ応えもありましたし、美味しかったとおもいますけど? あれだけ色々入ってると栄養的にも身体にいいでしょうし」
「あー、それは確かにー」
「む、アリサの裏切り者!」
他にも、メインの角兎肉のソテーは素朴な味わいだったけど美味しかったし、なによりパンが驚きの白パンだったりしたのだ! 堅い黒パンと違って柔らかくて食べやすかったので女の子には嬉しいポイント。まあ、私自作の酵母使ったものには劣るんだけどね。
でも冒険者向けかと言うと、微妙なところかなあ……黒パンはしっかり噛むことで満足感が得られるし、日頃から食べなれてないと遠征の時とか大変そう? どちらかと言うと偶のお祝いとかちょっと豪華な外食と言った時用のお店っぽい気がする。ちゃんと需要あるのかな? 採算取れるんだろうか……?
と、ぐだぐだと駄弁りながら歩いているうちに冒険者ギルドに到着。尚、こちらも酒場併設だった。うーん、兼用酒場多くない……? でもこの町って専門の酒場が無いみたいだし、需要はあるのかな? でもそれでギルドで依頼受けづらくなったら微妙な気もする。需要があるなら新たに酒場を開いた方がいいような気も……ああ、もしかして騒ぎになった時の対応に問題が出るのかな。他の冒険者を抑止力として見込んで、とか? ギルドなら職員も戦闘力ありそうだし? まあどうでもいいや。別にここで商売始める訳でも無し。
ベルも連れてギルドの建屋に入ると昼間から酒を飲んでる人や早めに切り上げて帰ってきたと思しきパーティー、報酬の分配をしてる様子のパーティーなどがちらほら。そしてそんな人達からの視線が一瞬私達に集まり、直ぐ霧散する。見慣れない冒険者が来たなら在り来たりの反応とも言えるのかな? 緊張? 別にしないよ、不躾な視線にはもう慣れた。
気を取り直して依頼票の貼ってある掲示板を見る事にする。
「……微妙ですね」
「昼も大分過ぎてますからね」
残ってるのは『ゴブリンの討伐』が数件、『コボルトの討伐』が1件、『特定の薬草採取』が若干数……うーん、地味だ。強いて言うなら『森の奥の泉の魔物の討伐』というのが気になるところだけど、そもそもの話として討伐系はどうなんだろう? 私達はパーティーじゃなくてクランだから、適当に薬草採取もしつつ一緒に行動してれば、討伐系も特に問題はないと言う話らしいけど。
「どうします?」
「明日の朝一に再確認でいいんじゃないー? 今からだと時間も微妙だしー」
「うーん、今の時間とは言えこのラインナップだと、明日の朝来ても似たような感じか、あっても狼系とかオークとか熊とか、その辺りじゃない? オークは行けるけど、熊の毛皮は難しいって、アリサ前に言ってなかったっけ? 実際前に受けて、私の魔法も効き目薄くて本当にギリギリだったでしょ?」
「あー、そこは多分平気ー、この剣ならよゆーよゆー」
「ああ、そう言えばアリサはレンさんの剣が……それに私も指輪あるから、あの時とは全然違うのか……うーん」
あ、そっか。私が贈った装備で底上げされてるから、受けられる討伐系依頼も範囲が広がるのか……でもそうなると私も魔導甲冑を実際に実戦運用してみたいし、私の年齢制限も問題ないのであれば普通に討伐系受ける方向でいいのか。ふむー……
「なら、明日朝一で、という事で?」
「そうですね、それでいいと思います」
「でもそうなると、今から自由時間では、かなり時間があまるんですが……」
「……どうしましょう?」
「私はなんでもいいよー」
アリサさん、最近考える事放棄してるよね……いや、別にいいけど。
「なら、依頼とは別に町の周辺の散策でもしませんか? ついでによさそうなものがあれば採取もする感じで」
「ああ、いいんじゃないですか?」
「よーし、じゃあ早速出発しよー!」
アリサさん……いや、いいんだけど! いいんだけどさあ! もうちょっと、こう……!
なんだかんだと町の入り口まで移動。明日以降の依頼の為に周辺地形の確認だと伝えた所、入り口の門番の人は快く送り出してくれた。町の外に出ると外周を反時計回りでぐるりと移動。時計回りに進むと畑が広がってるので、探索するのは消去法でこっち側になるのだ。
この空堀、水を入れた方がいいのでは……うーん、でも塀とあわせると結構な高さになるし、防衛力は高い? むむむう。
んー、こっち側は特に森を切り開いてる訳でも無し、普通に深そうな森が広がってるなあ……そりゃ魔物も住み着いて駆除に依頼出さないと駄目な訳だ。
そこから更に暫く進んでいると、森の奥の方になんだか見覚えのある懐かしげな木、と言うか……竹じゃん、あれ! 要確認! ダッシュだ!
急に走り出した私を追いかけてリリーさん達もあわてて付いてくる。が、そんなことよりも竹だよ! 竹! 筍!
「……間違いない、竹だ」
【鑑定】した所、これは孟宗竹か。筍美味しいヤツだ。シホウチクも嫌いじゃないけど、一緒に生えたりはしてないか……残念。別途探さねば。
しかしこんな所で竹を見つけられるとは……! これだけでもこの町に来た意味があったと言うものだよ! ひゃっほう!
という訳で早速回収である。地下茎ごと纏めて地面丸ごとストレージに収納である。それなりの面積を回収し、ホクホク。でも筍は朝早くに取りに来ないといけないので今は回収しない。とは言え今は4月だし、正に筍の旬。絶対採りに来る! 絶対だ!
「やっと追いついた……って、何してるんですか?」
「いえ、ちょっと探していたものが見つかったので」
「……この抉られた地面、何したんです?」
「ちょっと地面ごと回収しました」
ついでに筍が生えそうなところもめぼし付けておこうか。あんまり意味無いけど。
「……まだなにか探してるんですか?」
「ええ、まあ。美味しいものが生えるので、明日の早朝に採りに来ようかと」
「早朝? 今じゃ駄目なんですか?」
「朝じゃないと味が落ちるんですよ」
「……なるほど。じゃあその時は私も頑張らないとですね」
「美味しいご飯……私も頑張るよー」
お? 手伝ってくれるの? まあ美味しいご飯目当てなんだろうけど、労働力ゲットだぜ!
その後、晩ご飯を済ませて宿に戻った後、宿の人に竹について聞いてみた所、幾つかのことが判明した。
まず、あの竹はどうやら昔々に蓬莱人らしい剣士がやって来た事があって、その時に植林したものらしい。そして、この町では特に竹を使った工芸品や実用品等も無く、更に筍も食べたりはしていないとの事だった。勿体無い……
とは言え、また変に目をつけられても嫌なので特に何か情報を開示したり料理したりはしない。でも料理に関しては少々思いついた事があるので、明日にでもちょっと確認してみる事にしようかな。
さて、ちょっと早いけどもう寝ましょうかね。明日は早起きして筍採りに行って、その後は依頼受けに行かないといけないから、忙しいしね!







































